プーチンそっくりのヒロヒト。いや、ヒロヒトそっくりのプーチン。

(2022年12月8日)
 81年前の本日早朝、当時臣民とされていた日本国民はNHKの放送によって、日本が新たな大戦争に突入したことを知らされた。同時に、パールハーバー奇襲の戦果の報に喝采した。こうして、国民の大半が、侵略者・侵略軍の共犯者となった。実は、本年2月24日のロシア国民も同様ではなかったか。

 1941年12月8日付官報号外に、「米國及英國ニ對スル宣戰ノ詔書」、通称「開戰の詔勅」が掲載されている。何とも大仰で白々しい「美文」に見えるが、実は典型的な「駄文」である。句点も読点もなく難読字の羅列でもある原文の掲載は無意味なので、「訳文」を掲出しておきたい。

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 天の助けるところとして代々受け継がれてきた皇位の継承者である大日本帝国天皇は、忠実で武勇に優れた、我が家来である全国民に告げる。

 私・天皇は、米国と英国とに宣戦を布告する。陸海軍将兵は全力を奮って闘え。官僚はその職務に励め。その他の国民も各々その本分を尽くし、一億の心をひとつにして、国家の総力を挙げてこの戦争の目的達成のために努力せよ。

 そもそもアジアの安定を確保して、世界の平和に寄与する事は、代々の願いであって、私も常に心がけてきた。各国との交流を篤くし、万国の共栄の喜びをともにすることは、帝国の外交の要としているところである。ところが、今や不幸にして、米英両国と争いを開始せざるを得ない事態に至った。誠にやむをえないところであるが、けっして私の本意ではない。

 中華民国は、以前より我が帝国の真意を理解せず、みだりに闘争を起こし、アジアの平和を乱し、ついに帝国に武器をとらせるに至らしめ、以来4年余を経過している。幸いに国民政府は南京政府に変わった。帝国はこの新政府と誼を結び提携するようになったが、重慶に残存する政権は、米英の庇護を当てにし、兄弟である南京政府と、未だ相互にせめぎ合う姿勢を改めない。

 米英両国は残存する蒋介石政権を支援して、アジアの混乱を助長し、平和の美名にかくれて、東洋を征服する非道な野望をたくましくしている。しかも、味方する国々を誘い、帝国の周辺において軍備を増強して我が国に挑戦し、更に帝国の平和的通商にあらゆる妨害を与え、ついには意図的に経済断行をして、帝国の生存に重大なる脅威を加えている。

 私・天皇は政府に事態を平和のうちに解決させようと、長い間忍耐してきたが、米英は少しも互譲の精神がなく、むやみに事態の解決を遅らせようとし、その間にもますます経済上・軍事上の脅威を増大し続け、それによって我が国を屈服させようとしている。
 このような事態が続けば、アジアの安定に関する我が帝国の積年の努力はことごとく水の泡となり、帝国の存立もまさに危機に瀕している。ことここに至っては、帝国は今や自存と自衛のため、決然と立ち上がって一切の障害を破砕する以外にない。

 祖先神のご加護をいただいた天皇は、その家来たる国民の忠誠と武勇を信頼し、祖先の遺業を押し広め、速やかに禍根をとり除いてアジアに永遠の平和を確立し、それによって帝国の栄光を実現しようとするものである。
 裕 仁  印
  1941年12月8日

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 こんな言い回し。最近、どこかで聞いた憶えはないだろうか。そう、プーチンのウクライナ侵攻の日の演説。あれとそっくりなのだ。ただし、プーチンの演説は長い。そして、さすがに裕仁の「詔書」よりは格段の説得力がある。

 どちらも、まずは国民に呼びかける。そして自国の正義と、相手国の非道を延々と訴える。自国は、忍耐に忍耐を重ねてきた。しかし、もうその限界を越えざるを得ない。このままでは、自国の生存が危殆に瀕するからだ。すべての責任は敵側にある。このやむを得ない事情を理解して、国民よともに闘に立ち上がろう。

 この言い回し、裕仁とプーチンだけではない。いま大軍拡を進めようとしている、改憲勢力の想定レトリックであるのだ。権力者がこんな言い回しを始めたら、危機は深刻だと思わねばならない。

 長文のプーチン演説を抜粋してみる。訳文の出典はNHKである。

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 親愛なるロシア国民の皆さん、親愛なる友人の皆さん。

 この30年間、私たちが粘り強く忍耐強く、ヨーロッパにおける対等かつ不可分の安全保障の原則について、NATO主要諸国と合意を形成しようと試みてきたことは、広く知られている。私たちからの提案に対して、私たちが常に直面してきたのは、冷笑的な欺まんと嘘、もしくは圧力や恐喝の試みだった。

その間、NATOは、私たちのあらゆる抗議や懸念にもかかわらず、絶えず拡大している。それはロシアの国境のすぐ近くまで迫っている。
なぜ、このようなことが起きているのか。私たちの国益や至極当然な要求に対する、無配慮かつ軽蔑的な態度はどこから来ているのか。
答えは明白。すべては簡単で明瞭だ。

1980年代末、ソビエト連邦は弱体化し、その後、完全に崩壊した。当時、私たちはしばらく自信を喪失し、あっという間に世界のパワーバランスが崩れたのだ。
これにより、従来の条約や協定には、事実上、効力がないという事態になった。

ソビエト連邦の崩壊後、事実上の世界の再分割が始まり、これまで培われてきた国際法の規範が、第二次世界大戦の結果採択され、その結果を定着させてきたものが、みずからを冷戦の勝者であると宣言した者たちにとって邪魔になるようになってきた。

事態は違う方向へと展開し始めた。NATOが1インチも東に拡大しないと我が国に約束したこともそうだ。
繰り返すが、だまされたのだ。
正義と真実はどこにあるのだ?あるのはうそと偽善だけだ。

色々あったものの、2021年12月、私たちは、改めて、アメリカやその同盟諸国と、ヨーロッパの安全保障の原則とNATO不拡大について合意を成立させようと試みた。
すべては無駄だった。
世界覇権を求める者たちは、公然と、平然と、そしてここを強調したいのだが、何の根拠もなく、私たちロシアを敵国と呼ぶ。
確かに彼らは現在、金融、科学技術、軍事において大きな力を有している。

しかし、軍事分野に関しては、現代のロシアは、ソビエトが崩壊し、その国力の大半を失った後の今でも、世界で最大の核保有国の1つだ。
そしてさらに、最新鋭兵器においても一定の優位性を有している。
この点で、我が国への直接攻撃は、どんな潜在的な侵略者に対しても、壊滅と悲惨な結果をもたらすであろうことに、疑いの余地はない。

NATOによるウクライナ領土の軍事開発は受け入れがたい
すでに今、NATOが東に拡大するにつれ、我が国にとって状況は年を追うごとにどんどん悪化し、危険になってきている。
しかも、ここ数日、NATOの指導部は、みずからの軍備のロシア国境への接近を加速させ促進する必要があると明言している。

問題なのは、私たちと隣接する土地に、言っておくが、それは私たちの歴史的領土だ、そこに、私たちに敵対的な「反ロシア」が作られようとしていることだ。
それは、完全に外からのコントロール下に置かれ、NATO諸国の軍によって強化され、最新の武器が次々と供給されている。
私たちの国益に対してだけでなく、我が国家の存在、主権そのものに対する現実の脅威だ。
それこそ、何度も言ってきた、レッドラインなのだ。彼らはそれを超えた。

さらに強調しておくべきことがある。
NATO主要諸国は、みずからの目的を達成するために、ウクライナの極右民族主義者やネオナチをあらゆる面で支援している。
当然、彼らはクリミアに潜り込むだろう。
それこそドンバスと同じように。
戦争を仕掛け、殺すために。

私たちの政治の根底にあるのは、自由、つまり、誰もが自分と自分の子どもたちの未来を自分で決めることのできる選択の自由だ。
そして、今のウクライナの領土に住むすべての人々、希望するすべての人々が、この権利、つまり、選択の権利を行使できるようにすることが重要であると私たちは考えている。

繰り返すが、そのほかに道はなかった。
目的はウクライナの“占領”ではなく、ロシアを守るため
現在起きていることは、ウクライナ国家やウクライナ人の利益を侵害したいという思いによるものではない。
それは、ウクライナを人質にとり、我が国と我が国民に対し利用しようとしている者たちから、ロシア自身を守るためなのだ。

起こりうる流血のすべての責任は、全面的に、完全に、ウクライナの領土を統治する政権の良心にかかっている。

親愛なるロシア国民の皆さん。
力は常に必要だ。どんな時も。
私たちは皆、真の力とは、私たちの側にある正義と真実にこそあるのだということを知っている。
まさに力および戦う意欲こそが独立と主権の基礎であり、その上にこそ私たちの未来、私たちの家、家族、祖国をしっかりと作り上げていくことができる。

親愛なる同胞の皆さん。
自国に献身的なロシア軍の兵士および士官は、プロフェッショナルに勇敢にみずからの義務を果たすだろうと確信している。
あらゆるレベルの政府、経済や金融システムや社会分野の安定に携わる専門家、企業のトップ、ロシア財界全体が、足並みをそろえ効果的に動くであろうことに疑いの念はない。
すべての議会政党、社会勢力が団結し愛国的な立場をとることを期待する。

歴史上常にそうであったように、ロシアの運命は、多民族からなる我が国民の信頼できる手に委ねられている。

あなたたちからの支持と、祖国愛がもたらす無敵の力を信じている。

初出:「澤藤統一郎の憲法日記」2022.12.8より許可を得て転載
http://article9.jp/wordpress/?p=20415

〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 https://chikyuza.net/
〔opinion12619:221209〕