ベルリン国際映画祭開幕 ―60年後の『東京物語』と「3・11」―

 2013年2月7日から17日まで、第63回「ベルリン国際映画祭2013」が開催される。ベネチア(伊)、カンヌ(仏)と並び、世界三大映画祭の一つと呼ばれる。最近の発展はめざましく「ベネチア」を凌いだという論もある。
日本映画との関わりも深い。最高賞の金熊賞を『武士道残酷物語』(今井正・63年)、『千と千尋の神隠し』(宮崎俊・02年)の2本が、主演女優賞を左幸子(『にっぽん昆虫記』・63年)、田中絹代(『サンダカン八番娼館 望郷』・75年)、寺島しのぶ(『キャタピラー』・10年)の3人が獲得している。他にも知る人は少ないが幾多の名誉ある賞を獲得している。

 今年も全部で400本ほどの作品が出品、上映されるという。
映画祭の上映作品は5部門に分かれる。金熊賞などをを争う「コンペティション部門」、コンペ以外の優秀作を見せる「パノラマ部門」、若手監督の登竜門「フォーラム部門」、過去の秀作の回顧「レトロスペクティブ部門」、「子供映画専門部門」。こんな具合である。香港の監督ウォン・カー・ウィが審査委員長を務める今年のコンペ部門の出品作19本には、残念ながら日本映画の名前がない。

 しかし日本映画の注目作が出品される。山田洋次監督の『東京家族』(12年)、その原型である小津安二郎の『東京物語』(53年、ディジタル・リマスター版)、池谷薫監督の新作ドキュメンタリー『先祖になる』(13年)などである。
12年に、映画監督が投票する映画史上ベストワンに選ばれた『東京物語』と、その最新リメイク作品にベルリンはどう反応するか。『延安の娘』や『蟻の兵隊』で知られる池谷作品は、3・11に遭遇した陸前高田の老人による孤独で頑固な戦いの物語である。脱原発を決めたドイツ人に、こんな日本人の原発観はどう映るであろうか。作品たちは、戦後68年の日本を世界に示し、その達成と挫折の意味を問いかけるものとなるだろう。ほかに、震災を背景にした船橋淳の『桜並木の満開の下に』や鶴岡慧子『くじらのまち』も出ている。

さらなる注目作品は、木下恵介の知られざる佳作5本である。
『歓呼の町』(44年)、『女』(48年)、『婚約指輪』(50年)、『夕焼け雲』(56年)、『死闘の伝説』(63年)である。いずれもディジタル処理をしたニュープリントという。私の個人的な心情をいうと、一番の関心は疎開で別れ別れになる東京下町の庶民を描いた『歓呼の町』である。『女の一生』の作家森本薫のシナリオは市井の人々の哀感を切なく描いていた。映画祭の公式パンフレットも、戦時下作品であるのに戦意高揚映画ではないことが記されている。どう見られるか。三船敏郎・田中絹代コンビの『婚約指輪』は、メロドラマを超えた作風の一作である。木下作品への評価を是非知りたい。ともあれ『ベルリン国際映画祭2013』は始まる。知れる限りの結果を後日報告したい。

なお仙台市長やボランティアの提案が契機となり「ベルリン国際映画祭」の協力で、『ベルリン国際映画祭in 仙台』が3月28日から4日間、仙台で開催されることが決まったことも付記しておく。(2013年2月5日記)

初出:「リベラル21」より許可を得て転載http://lib21.blog96.fc2.com/
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 http://www.chikyuza.net/
〔opinion1164:130206〕