ポケモン現象ー官邸に棲息するモンスターをゲットしよう

できるだけ、散歩をするよう心がけている。
幸い、近所の散歩コースには恵まれている。定番の行く先は上野公園。東大本郷キャンパスを赤門からはいって鉄門から抜ける。右に元キャノン機関があった旧岩崎邸を見ながら無縁坂を下って不忍池に至る。池は、巨大な蓮の葉におおわれ、華はそろそろ見納め。時間が許せば、清水寺から上野大仏、東照宮、彰義隊墓碑などを散策し、五條神社や湯島天神などを経て帰宅まで1時間余り。結構汗をかく。

上野公園ではすれ違う外国人観光客の嬌声に圧倒される昨今なのだが、今夏に異変が生じた。大人数の若者たちが、スマホを片手に特定地点に蝟集しているのだ。ときに、この集団が黙したまま同方向に走り出す。水鳥がいっせいに飛び立つようなあの雰囲気。みな、手にしたスマホを見つめながらの集団駆け足。やや不気味な光景。ポケモン・ゴー現象とやらだ。

はて、こんな場面をどこかで見たようなと記憶をたどって、ゾンビ映画に思いあたった。あるいはキョンシーだろうか。格別、こちらが襲われるような恐ろしい雰囲気はないのだが、スマホだけを見つめて、ひたすらスマホの指示に操られている印象の集団を目の当たりにするのは気持ちのよいものでない。大勢が、右を向けと言われれば挙って右を向く。左といえば左だ。目の前で繰り広げられる「操られ現象」が不気味なのだ。

もっとも、ポケモンゲットにうごきまわる人びとは象徴的存在に過ぎない。実は、誰もが操作の対象となって右往左往しているのが現代の社会。

経済生活では、大企業の宣伝広告が人びとを操っている。効きもしないサプリメントの宣伝に乗せられて大金をはたく。つくられた流行の衣装を身にまとう。うまくもない店に行列をつくる。株や先物やFXに誘い込まれて財産を失う。

多くの職場で、愚かなワンマン社長が労働者を操っている。ブラック企業の専横を不愉快と思っても、容易に逃げ出せないのがこの世の常。

政治では、圧倒的な保守メデイアが有権者を操作する。自らが主体的に選択したという錯覚のもとに、多くの人が、自らの利益に反する保守政党に投票する。民主主義が有効に機能すれば、多数の利益になる政治が実現するはずなのにそうはならない。多くの人が操られた結果だからだ。普通選挙実現以来の永遠の課題。

さて、ポケモンゴーとは、モンスターを探して捕獲するゲームだという。モンスター狩りをするハンターとして操られることを拒否して、自らの意思でリアルのモンスターを探索し、捕獲してみるというのはどうだろうか。最強にして最凶のモンスターは官邸にいる。政治や経済やメディアを操作する総元締めとして政権があり、そのトップにモンスターが棲息しているのだ。防衛省にも都庁にもこれに次ぐモンスターが巣くっている。

スマホの中の世界から一歩出て、官邸に棲息するモンスターを包囲して、駆逐できないだろうか。その手段は、市民と野党の結集による選挙ということになる。駆逐だけでは面白みに欠けるというのなら、官邸のモンスターを民衆が包囲してゲットし、ゲットしたあとは、民主的に再教育して改心させ、無害化したモンスターを再び世に放つ試みはどうだろうか。

照りつける中、スマホ片手に走り回るのもきっと面白いのだろうが、リアルなモンスター退治の方が、よっぽどロマンに溢れたものと思うのだが。
(2016年8月24日)

初出:「澤藤統一郎の憲法日記」2016.08.24より許可を得て転載

http://article9.jp/wordpress/?p=7377

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