11月22日から始まった、11回目を迎えたというポーランド映画祭、パンフの解説を頼りに、26日「ショパン」「EO(イオ)」、27日「赤い闇と「パンと塩」に出かける予定にしていた。26日の朝は雨、寝不足もあって、11時には間に合いそうにもない。13時30分からのポーランドの巨匠とも言えそうなイエジー・スコリモフスキ監督の新作「EO」(2022年)だけでもと出かけたのだが、なんとチケットは午前中に売り切れていた。この監督は、若干24歳でポランスキーの「水の中のナイフ」(1962年)のシナリオを手掛けている。目当ての「EO」は、動物愛護グループにサーカス団から連れ去られたロバのイオが主人公というのである。イオの目を通してみた現代のポーランドの人間模様・・・。残念ではあったが、それではと、気を取り直して、2時間待ちながら15時30分開演の同じ監督の「イレブン・ミニッツ」(2016年)を見ることにした。隣の会場での星野道夫の写真展もにぎわっていたが、恵比寿のガーデンプレイスを巡ってみることにした。週末だけあって、家族連れやカップルの往来をコヒー店の窓から眺めたり、行列ができているパン屋さんで食パンを買ってみたり、真っ白いテントが並んでいるので何かと思えば、「婚活フェア」だったり・・・。
そして「イレブン・ミニッツ」は、夕方5時から11分間の出来事を同時多発、同時進行の形でまとめているという解説だったが、画面のテンポについてゆけず、私には、もう容赦なく目まぐるしいばかりで、最初は理解不能の世界だった。進むにしたがって分かりかけてきたものの、舞台がワルシャワの街中なのに、観光客が巡るような場所はいっさい出てこない。さもありなんという、さまざまな夫婦やカップル、家族が交差しながらの分刻みでの展開である。その核になるのが、ホテルの一室での男女―映画監督と女優という設定で、抜擢を条件に関係を迫るという、いわば映画界の内輪話というのが、私には少し安易すぎると思った。もっとも、日本の映画界でも、パワハラ、セクハラが表ざたになって問題視されるようになっているのだから、ポーランドでも、よくある話なのだろうか。ホテルの部屋を突き止めた女優の夫、出所したばかりの屋台のホットドック屋、息子と分かるバイク便の配達夫、元カレから犬を渡され、ホットドックを買いに来る若い女、強盗に入った店のオーナーが首をつっているのに出くわして、慌てて逃げる若い男・・・、まだまだいろんな人物が登場する。そして最後に、登場人物たちの想像を絶する衝撃的な死の連鎖で幕を閉じるのだが、エンドロールの前には、画面いっぱいに小さい画面が並び、そのコマは際限なく無数となったところで、画面は真っ暗になるという仕掛けである。
制作の意図はわからないではないが、私の体調もあってか、“疲労困憊”の一語に尽きるのだった。恵比寿駅への長い、長い動く歩道、乗換駅を乗り過ごさないように必死であった。電車のなかでは、ワルシャワの高層ビルの間を巨大な航空機が低空飛行をする、9・11を想起するような画面が何度か現れたのは、なんの暗喩なのか・・・を考えたりしていたら眠らずに済んだ。
そして、見逃した「赤い闇」は、一足先の11月24日に見ていた連れ合いから、話を聞いてはいた。1933年、世界恐慌の中で、なぜソ連だけが繁栄しているのかを謎に思ったイギリスの若いジャーナリストが、モスクワへ、そしてウクライナへと向かって目にしたのは、スターリンによる人工的大量餓死の悲惨な姿であったのである。まさに、いまのウクライナとプーチンを想起するではないか。くすしくも、11月26日は、ホロドモールの追悼の日であった。
そして、“体力の限界”を感じて、翌日の二本は、あきらめたのである。
初出:「内野光子のブログ」2022.11.28より許可を得て転載
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〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 https://chikyuza.net/
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