マンションのくい打ち偽装が示す日本の建築業界の質的劣化と堕落=多重下請・ピンハネ構造の下での「経費と時間の制約」を限りなく下請けに押し付ける今の建築業界の在り方を強制的に矯正しない限り、不正事件はまた起きる

みなさまご承知の通り、昨今、三井不動産が販売した横浜市の大型高層マンションで、巨大建築物を支える基礎工事中の基礎工事である「くい打ち」の偽装や工事データのすり替え不正が発覚し大問題となっています。マンションが傾いたり、耐震性に疑義が出たりして、表面化しました。不正工事を行っていたのは2次下請けの旭化成建材(元請は三井住友建設、1次下請は日立ハイテクノロジーズ)ですが、事件の内容や背景事情などを少し覗き込んでみますと、どうも今回の事件は旭化成建材という特定の会社や、同社の担当社員・下請けという特定の工事担い手の倫理・良識・誠実性や責任問題だけではすまない、建築業界そのものの構造的な問題が浮かび上がってきます。事実、その後も、このくい打ち偽装が旭化成建材社内では広く多くの役職員が関係して長期にわたり行われてきたことや、旭化成建材のみならず、くい打ち業者の大手である三谷セキサンやジャパンパイルなどでも行われていたことが発覚していますし、横浜のマンションだけでなく他の場所の他の業者のマンションでも同じようなことが起きていること、あるいは東洋ゴム事件などが報じられるようになりました。

2005年の姉歯・ヒューザー耐震偽装事件から約10年が経過し、日本の建築業界はあの10年前の事件を教訓として業界企業の隅々にまでその体質の抜本的改善を図り、二度とあのような一般の居住者・消費者・ユーザーを恐怖と不安に陥れない仕組みと体制の立て直しが求められていました。しかし、今回の再びの大事件発覚により(しかも広範囲)、その期待は根底から裏切られています。建築業界の益々の質的劣化と堕落、そして歪んだ業界の構造的問題の深刻化、更には、国土交通省や自治体など、管理監督行政の怠慢と不作為と無責任、あるいは業界との癒着による腐敗堕落と抜本的改善・改革の先送り、そしていわゆる建築確認行政の民間活用(市場原理主義)における利益相反など、これまで隠されつつ進められてきた建築業界・建築行政のさまざまな諸悪が、今回再び(定期的に)不正・不祥事事件として火を噴いているような気がします。私は一消費者・国民として許しがたいことだと考え激怒しています。

今やこの日本では、私たち一般の消費者・国民は、自分たちが日常に暮らす居住用の住居でさえもが安心して入手することができない事態に陥っているのでしょうか。事が深刻なのは、このマンションを売り出したのが、日本でもトップクラスのマンション業者である三井不動産であることです。業界のトップがこれでは、日本には信頼のできるマンション業者や建設業者は存在しないことになります。この事件に対するいい加減な対応や責任問題のあいまい化を許さないこと、すなわち関係当事者への厳しい刑事罰(懲役刑等)、厳しい行政罰(関係個人及び会社の関連免許取消等)、厳しい民事罰(万全の損害賠償補償)の各処分を断行することに加え、建築業界や官庁・役所の構造的諸問題の解決とそのための法整備などなどに着手していく必要があります。本来ならば10年前の姉歯事件の際に片づけておくべきことをせずに、いい加減な再発防止対策程度ですませていたことが今回の憂うべき事件をもたらしているのであって、前回のように、なすべきことを棚上げ・先送りにしたままでは、この国の建築物がそれこそ総体として危険建造物の集合体になってしまうように思われてなりません。

私は建築業界や建築行政・都市計画行政については全くの門外漢ですが、以下、今回の「くい打ち偽装」事件について思うところ・気が付いたことを列記しておきます。この分野における専門家の方々には、下記に書きましたことをきちんと受け止めていただき、直ちにその抜本改革に着手していただくことにより、事態の改善をお願いしたいところです。また、これまでに申し上げてきた同じようなことをここでも繰り返したくはありませんが、こうした建築業界の不祥事の頻度の高い発覚・大騒ぎの背後には、戦後の日本を世界有数の土建王国にしてしまった自民党政治家達と国土交通省(旧建設省)を中心とした霞が関官僚達の「どうしようもない体質」が横たわっているのであり、これに鋭いメスを入れない限りは、いつまでたってもこの建築業界の「正常化」は図れないだろうと思われることです。彼らにとっては、建築とは一般の消費者・国民・ユーザーのためにあるのではなく、業界と癒着をし、業界とともに自らの利権と利益を増進していくために存在しているのでしょう。だからこそ、一般の消費者・国民・ユーザーの居住の安全性や建築物への信頼などは、業界を支配する一部の建築業者の事業や金儲けが保障されてこそ、のものとして、優先順位が劣後する状態に追いやられています。つまり、今の自民党政権と、そのよって立つ基盤をそのままに放置していては、こうした事件や業界・官庁・役所の構造や体質は今後も変わらないように思われます。私たちの安全で安心できる住居と生活を確保するためにも、腐敗堕落した業界の上で「悪の華」を咲かせている自民党政権と霞が関官僚達は広く一般の消費者・国民・ユーザー=有権者の力で葬り去らねばならないように思います。

(1)管理組合 三井との闘争(『アエラ 2015.11.30』) ← 非常に興味深い記事です、ぜひご覧ください(田中一郎)
 http://blog.livedoor.jp/junyamaoka/archives/51614299.html

(2)建築確認 行政の責任で(五十嵐敬喜法政大名誉教授 毎日 2015.11.20)← 必見です(田中一郎)
 ポイントは次の3点です。

(一部抜粋)
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a.建築確認をもう一度自治体の責任に戻すことを提言したい。
b.ただ、全国で50~70万件に上る建築確認を自治体職員だけで検査するのは難しい。そこで欧米のように、建築家に弁護士や医師と同じような強い権限を与えることもあわせて提案したい。中立の立場から専門的に検査し、建築物に責任を持つ制度を新設すれば、自治体作業の分担にもつながる。
c.行政は建築基準法について検討するだけでなく、都市計画法や建築士法など関連法の見直しを含めて議論してもらいたい。耐震偽装事件後は、法改正で構造計算書のチェックを強化しただけだった。当時のように小手先の改革で終わらせてはいけない。
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(3)旭化成建材、改ざん360件、61人関与、153件なお不明(東京 2015.11.25)
 http://news.tbs.co.jp/newseye/tbs_newseye2643136.html

(4)くい打ち最大手も流用、三谷セキサン(毎日 2015.11.26 夕刊)
 http://news.yahoo.co.jp/pickup/6182135

 <関連サイト>
(1)杭データ偽装問題の深層 第一部問題発生の構造と解決策(改) – YouTube ← 注目(田中一郎)
 https://www.youtube.com/watch?v=chuJ-7l6K7M

(2)杭データ擬装問題の深層 第二部解決策を探る – YouTube ← 注目(田中一郎)
 https://www.youtube.com/watch?v=iwkjSWALu5M&feature=youtu.be

(3)杭打ちデータ「不正流用」は日常茶飯事なのか 企業戦略 東洋経済オンライン 新世代リーダーのためのビジネスサイト
 http://toyokeizai.net/articles/-/93382

(4)マンション杭打ち不正、鹿島施工でも地盤に届いていない可能性|データ・マックス NETIB-NEWS
 http://www.data-max.co.jp/20151026_ymh_01/

(5)杭打ちデータ偽装、日本建築業界の「高品質神話」が崩壊―中国紙:レコードチャイナ
 http://www.recordchina.co.jp/a121679.html

(6)くい打ちデータ改ざん ジャパンパイルでも18物件でデータ流用 FNN
 http://www.fnn-news.com/news/headlines/articles/CONN00308367.html

(7)<傾斜マンション>厳しい罰則ないと再発の恐れ マンション・住宅最前線 櫻井幸雄 毎日新聞「経済プレミア」
 http://mainichi.jp/auth/logined_meter_over.php?url=http%3A%2F%2Fmainichi.jp%2Fpremier%2Fbusiness%2Fentry%2Findex.html%3Fid%3D20151102biz00m010052000c&usid=web

(8)◆マンション傾斜問題、新築「青田売り」の敬遠広がる(日本経済新聞)
 分譲マンションの完成前に全戸を販売し終える「青田売り」は、日本独自のシステムだ。消費者には間取りなど設計を変更できる利点があるが、購入前に品質をチェックできないという問題が残る。杭のデータ改ざんで不信感を持った消費者が青田売りを敬遠。新築から中古への大転換が起き始めた。
http://mxt.nikkei.com/?4_41909_1201954_1

(田中一郎コメント)
 以下、申し上げたいことを箇条書きにします。

1.建築紛争や建築物偽装事件の背景には、市場原理主義というご都合主義が存在する。1999年の建築基準法改悪により、仕様基準の性能基準への転換や、建築確認検査機関の民間活用などが図られ、建築業者やゼネコンなどが出資し経営支配する民間会社が建築確認を行うようになった。これは明らかに利益相反行為そのものであり(雇われ監査法人が自身を雇った企業の会計監査を行うという利益相反行為、料金を支払って企業格付・社債格付をしてもらうというと利益相反と類似 ⇒ かならずロクでもないことが起きる)、中長期的な観点から正常に機能するとは思えない。自分が建てた建築物を、自分の息がかかった検査機関が建築検査するわけだからだ。不正やごまかしは必然的に起きる。「建築確認」(法令が定める基準や規制に適合していれば、すべてOKを出すことが義務化されている)は五十嵐敬喜法政大学名誉教授がおっしゃるように「建築許可」(建築物の法令基準規制適合性だけでなく、都市計画や行政の施策・政策や地域住民合意との合致が必要)に転換したうえで、公共機関=自治体などの行政が行うべきであり、その実働部隊は、責任機関である行政の下にいて働く建築士・建築家という形が現実的(都道府県や市町村の建築課所属の技術系役人でもいい)。

2.建築確認を「民営化」し、結果的に建築確認された建築物に誰が最終責任を持つのかがあいまいになってしまった現状は、たとえば食品の表示偽装により「粗悪品を高値で買わされる」「安全性に疑問なものや危険性があるものを食べさせられる」「国産だと思って買ったら外国産だった」などの詐欺(まがい)事件が頻発している食品業界と似ている。食品の安全と表示に責任を持つべき消費者庁、厚生労働省、農林水産省は、いずこも無責任極まりないし、食品の安全と表示については、食品業界や食品輸入業者の事業優先が「当たり前」となっている。建築業界と所管の役所もこの食品業界と同じような状況だ。いずれについても、ただひたすら規制緩和という「やりたい放題」放置政策や、民営化・民間活用という「私物化」奨励政策をその内容とする市場原理主義アホダラ教に基づく政策の結果と言える。

3.関係当事者への厳しい処罰・処分は絶対に必要である。業界として構造的問題があることは理解するが、だからといって関係当事者に対して緩い罰則でいいはずがない。今回は2度目の大事件である、絶対に許されない。上記で申し上げたように、刑事、行政、民事の3つのレベルで厳罰に処すべきである(たとえば、民事=倍賞については「手付解約倍返し」に準じて、業者から被害者に建築物代金を払い戻す(事故建築物を買い戻させる)場合には、経過期間利息付きの「倍額返し」で行わさせるよう法制化するなど)。

4.建築工事の元請と多重下請の構造が、実際に工事を担う末端下請け業者を「工事期間」制約と「コスト=経費」制約の2つが強く圧迫し、無理な仕事の押付けが常態化している。これを解きほぐさない限りは、追い詰められた現場は必ずや再び同じような不正や擬装事件を引き起こすだろう。そもそも元請けが今日ではかなり無能化、あるいは腐敗堕落していて、インチキ見逃しの単なるピンハネ会社にすぎず、工事の利益や甘い汁だけを吸って、責任と負担を下請けへ押し付けているに過ぎないロクでもない会社になってしまっている可能性がある。つまり元請や一次下請には期待することはできない。まずは、安全な建築物をきちんとつくれる・つくらせることを保障する、ミニマムの「建築期間」と「経費・コスト」をルール化しておく必要があるだろう。

また、元請・下請の仕事の分担や責任の持ち方、工事の進め方とその中途段階での検査の在り方やり方、設計と施工の在り方の見直し、そしてそれに見合った利益や報酬の在り方について、過去の不祥事事件を教訓にして「適正化」のためのルール作りや法制化が必要不可欠である(例:下請けは2次までしか認めない、自らが工事を実施しないで下請に出したモジュール工事部分の利益率は●●%を限度にする、公契約を義務化して下請けで働く人々の賃金や労働条件や福利厚生や安全の最低限度を法的に保障するなどなど)。

(くい打ちや耐震性が偽装された建物でも、よく調べれば、それほど危険ではない、だから取り壊す必要はない、などという議論が一部の「専門家」から出ているが、それには賛同できない。明らかな「だまし」「虚偽」「偽装」の上の契約は無効であり、少なくとも「倍返しの買い戻し」くらいは補償されなければならない。取り壊すのはもったいない、などというのなら、全部を迷惑料付きで買い戻したのちに、マンション業者なり建築業者なりが判断すればいいだろう。そして、「こういう経過があった建築物です」と明確に表示・説明したうえで再び売り出せばいい。被害者に理屈で「安全ですから心配しないで」などと「押しつける」ことは許されない=他の事件では、建て替えさせる、あるいは買い戻させるのは大変な労力で、結局被害者が泣かされる場合が多い))

5.建築業界とその管理監督行政の在り方そのものが旧態依然で腐敗しているのではないか。今回を含めて不正や不祥事はこれらと直接関係がないように見えても、こうした業界としての様々な欠陥や矛盾の複合汚染の結果として表面化してきているのではないか。

(1)東京への一極集中と高層マンション・高層ビル乱立の問題 ⇒ 都市無計画制度の矛盾と、建築や土建そのものが目的と化している今日の日本、何のための建築であり土木なのか

(2)都市計画や建築基準法上の権限が、依然として政府(国土交通省・大臣)やその「出先」としての都道府県・知事に集中している。そしてその下で動く建築関係や都市計画関係、あるいは社会資本整備関係の審議会などは、業界利権関係者の巣窟のようになっている。現状の体制や人員では、建築業界や都市計画制度の適正化など、とてもとても実現しそうにない。彼ら有力土建業者の事業と利益と、それに結びつく政治家・官僚たちの利権優先となるのは火を見るよりも明らか(昨今はこれに御用学者やマスごみ、更には司法・裁判所までがジョインの状態)であって、地方分権や地方自治など夢のまた夢である。

(3)依然として「建てよ増やせよ」の成長至上主義・拡大優先主義=「小さく生んで大きく育てる」のダムやオリンピックの利権土建事業方式、景観も、風情も、居心地も、快適さも、居住の安全や安心も、コミュニティの尊重も、日照権も、およそ人間性のかけらも感じさせない「コンクリート至上主義」の業界文化(だからこそ、建築物の居住者・利用者の安全性など二の次となって、耐震性やくい打ち・基礎工事などが、工期とコストのつじつま合わせのために犠牲にされる)などがまかり通っている。

(4)行政の歪みや不作為を正すべき司法もまた、歪みや不作為を続けている、しかも、関係事件の判決内容は劣化するばかり ⇒ 裁判官たちを「弾劾裁判」(不当判決の責任追及)にかけるべき、でなければ、裁判官リコール制度を創設せよ

(5)賃貸マンションなどでは、施主が誰なのかはっきりせず、資金の出所が投資FUND(REITなど)であったり投資信託であったりする場合もある。住宅建築が単なる金儲けの手段として位置づけられ、それが住宅建築やマンション業の前面に出しゃばり始めている。住宅建設やマンション業に伴う「社会性」や「人間性」が「利益至上主義」の下でおざなりにされている。

(6)この建築業界の出鱈目な構造が、そのまま原発・原子力業界に持ち込まれ、今日ではそれが更にひどい状態で露出している。原発の場合には、設計もひどいけれども、施工もまた出鱈目の山であることが既に明らかになっている(例;平井憲夫さん)。もちろん、原子力規制委員会・規制庁の安全規制など、全く不十分でインチキの固まりであることも申し上げるまでもない。危険性は一般建築物の比ではない。

6.都市計画制度・建築基準法の抜本改正が必要
 まもなく出現する人口激減社会に対応した「まちづくり」改革法案として、非常によくできたプランだと思います。ただ、それでもまだ、いくつかの問題はあるように思っていて、たとえば、まちづくりにおける建築業者・大資本=特に大手ゼネコンの資金力や政治力などをどうコントロールするのか、あるいは、地方各地にみられるボス支配の社会構造の中で、理想的な民主と自治の仕組み・制度はかえって危険な面があるのではないか、絶対的な最低限の規制のようなもの=建築物・構造物ナショナルミニマムのようなものが必要ではないか、完全自治へ向けて階段を上がっていくのはいいが、少しずつレベルアップしていくような斬新的なものの方が無難ではないか、等々です。

〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 http://www.chikyuza.net/
〔opinion5785:151203〕