はじめに
去る10月21日、東南アジアの外相筋は、11月のASEAN首脳会議に先立ち、内戦激化のミャンマーについて翌週、ジャカルタで緊急協議を行うと発表した。昨年2月のクーデタ以来、反対派に対する軍の残忍な弾圧で2,300人以上の犠牲者が出ており、しかも8月以降、反政府軍との地上戦で国軍の損害が拡大するに従い、その報復として著名な政治犯への死刑執行や児童学校への空爆、抵抗村への空爆砲撃を拡大させている。そのため、2021年4月でのアセアン首脳会議での合意―暴力の停止、人道支援の拡大、軍と反クーデタ派との対話など―は実質的に反故同然でとなっている。このままではアセアンの国際的な信認度の低下に歯止めがかからないことを危惧したマレーシア、インドネシア、シンガポールなどが、危機打開の具体的な手立てを見出すべく、動き出したのである。ミャンマー軍事政権のアセアンからの除名まで行かなくとも、首脳会議や外相会議などへの出席を永続的に禁じる懲罰的措置が科される可能性は、十分考えられるであろう。ミャンマーにかかわりの深い日本としても、この動きを注視し、軍事政権の蛮行にブレーキをかける義務がある。
クーデタ以来、最大の蛮行
記念コンサートの会場を夜間空爆、大量の犠牲者!!
上に述べたアセアンの動きを尻目にかけて、10/24、国軍はミャンマー北部のカチン族支配地域で行われていたカチン独立機構(KIO)設立62周年を記念したコンサート会場(参加1000名以上)をジェット機で空爆、死者50名以上、負傷者100名以上という大惨事となった。
空爆後のコンサート会場。 RFA
これより少し前、9月16日にはサガイン地方のレットイェットコーン村では,2機の軍用ヘリコプターが1時間以上にわたって僧院学校に発砲し、7人の子供を含む13人の民間人が死亡し、12人が負傷してばかりであった。それから1か月後の空爆、当然ながら軍事政権は当日の集まりが軍事的なものではなく、一般の市民参加の記念コンサートであることは、知っていたはずである。コンサートであるからこそ、歌手や政治家などカチンの有名人も混じっていたのである。
時点ではまだ状態が不明な俳優ラトー・ザウ・ディン(カチンニュースグループ) Myanmar Now
地元メディアの「ミャンマー・ナウ」によれば、ミャンマー空軍大尉で、17年間の軍パイロット生活の後レジスタンスに亡命したゼイトゥアウン氏は、日曜日にパカンを攻撃したジェット機はマンダレーのTada-U空港から来ており、ロシア製のYak-130モデル航空機である可能性が高いとミャンマー・ナウに語ったという。Yak-130はもともとは練習機であるが、夜間飛行可能で爆弾積載可能量が大きいので爆撃機として転用されているという。
さらに問題なのは、現地の負傷者を救助救援すべく直ちに救護班が組織され、現地に向かったが、軍が攻撃現場に通じる道路を封鎖したため、村に救援に行くことが不可能であったことである。カチン州の社会問題担当大臣で報道官は、現地で戦闘が止み、安全が確認されたら救援に向かうとして、早急の出動を拒否したという。国連のグテーレス事務総長もこの事件に深い懸念を表明し、「暴力の即時停止をあらためて求めるとともに、負傷したすべての人に、必要に応じて緊急の治療を施す必要がある」と述べた。また在ヤンゴン米国大使館、EU加盟国、ノルウェー、スイス、英国が共同で非難声明を発表したが、しかしいつもながらこうした声明に日本政府が加わることはない。
さらに、「ミャンマー・ナウ」によれば、国際人権団体「ヒューマン・ライト・ウオッチ」の幹部は、この行為を「戦争犯罪」と呼び、軍事政権は当日の集まりが民間ベースのものだったことを知っていながら、現地武装勢力への報復措置として意図的に行ったものだとした。「道徳的にも倫理的にも、このミャンマー軍事政権がいかに完全に破綻しているかを示している」と述べている。実は軍事政権は、ロシアの偽旗作戦を踏襲しているのか、カチン州の集会で民間人が多数死んだというのはデマであり、そもそも現地には軍人しかいなかったと主張している。さらには言うに事欠いて、「ジュネーブ条約に基づく武力紛争法に則って」作戦を実行したと主張しているそうである。嘘を常套手段とする政治の跋扈は、近年ポピュリズム政治家に目立つが、前身が社会主義国であるロシアとミャンマーの場合、全体主義の負の遺産といえるのではないか。国際的に孤立し相身互いのロシアとミャンマー、残忍残酷・嘘八百、監視・拷問を統治の通常の手段とする点でもよく似ている。
サガイン州ミャウン タウンシップの TGR Women Drone Force の女性戦闘員は、ドローン攻撃用の手製爆弾を製造している
ロシア、中国は近代兵器を国連決議に反するものも含め、ミャンマー軍事政権に供与(密輸)している。反政府勢力や少数民族武装勢力は、一部例外を除き(中国の影響下にあると思われる、フル装備のワ州連合軍)ほとんど正当防衛の範囲の武器リストでしかない。自動小銃(戦闘員半分程度)、手りゅう弾、擲弾筒、ロケットランチャー、手製地雷など。それでも近代装備の国軍との地上戦は、互角かそれ以上で戦っている。ロシアが地上戦で押されているのを挽回すべく、ミサイルやドローン攻撃を強化するのと同様、ミャンマー軍は地上戦の負けを取り返すべく、頑強に抵抗するサガインやマグウェ管区、東部辺境諸州に対して無差別空爆や砲撃を行なっている。もしこれに対し、スティンガー・ミサイルなど携行式の対空兵器があれば、おそらく一挙に戦況は変わるであろう。上層は徹底的に腐敗堕落し、軍律は弛緩し、士気は低く、人間性は徹底的に無視され、暴行殺人と略奪をもっぱらとする軍隊に明日の希望を見出すことは困難である。国際社会はこのような軍隊に引導を渡すべく、秩序あるかたちで対空兵器を国民革命の軍隊に、一日でも早く供与してくれればと、切に願うところである。
―――ベトナム戦争時、反帝独立戦争を戦う北ベトナム正規軍や南ベトナム解放民族戦線に近代兵器を供与したのは、ソ連と中国であった。ところがそれから50年、世界の今最悪のならず者であり超反動的政権であるミャンマーの軍事政権を支えているのは彼らなのだ。この歴史的なねじれ現象は、国際関係や地政学という見地からだけではなく、20世紀に開始された社会主義における内発的な矛盾と挫折という体制構造的見地から解明される必要があると思う。
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 https://chikyuza.net/
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