ミャンマー、反政府武装勢力一斉攻撃で勝利 ――軍事政権打倒へ新局面開く

 雨季が終わり乾季に入ったミャンマーであるが、10月27日、ミャンマーにおける強力な少数民族の武装組織からなる北部同盟(同胞同盟Brotherhood Alliance)は、「1027作戦」を発令して、政府軍の拠点、前哨基地、警察署など150か所以上を一斉攻撃。軍事政権は中国国境のチンシュエホーを含む三つの町と120以上の軍事拠点の支配を失った。軽歩兵師団司令官を含む多くの軍事政権職員が殺害され、シャン州クンロン郡区で30日、国軍の第143軽歩兵大隊に所属する兵士41人が投降したのをはじめ、投降者は100名以上にのぼる。北部同盟は、4つの武装組織である、アラカン軍(AA)、カチン独立軍(KIA)、ミャンマー民族民主同盟軍(MNDAA)、タアン民族解放軍(TNLA)からなるが、今回の作戦はMNDAAが主導しているという。MNDAAは麻薬栽培で有名なコーカン地区を拠点とする武装組織で、2000~3000名と少数ながら近年急速に力をつけつつある組織である。使用する武器は、多くはワ州連合軍経由の中国製とみられているが、確定的なことはわからない。※
※「1027作戦」は中国が後押ししているという情報があるが、この間の親密な中緬関係からみてそれには無理があろう。しかし作戦準備がワ州連合軍支配下の地域で行なわれたとすれば、中国のある種の黙認がなければ、それは不可能であることも確かである。
 カチン州を本拠とするKIAは主作戦には加わっていないものの、東部カイン州のカレン民族解放軍(KNLA)とともに、「1027作戦」を支援するための側面攻撃を行なっている。さらに南部ではカレン民族解放軍(KNLA)とその傘下のPDFグループ(人民防衛軍=民主派民兵組織)が、ヤンゴンとタイ国境の重要都市ミャワディを結ぶアジア・ハイウェイのコ―カレーの町を攻撃し、この地域の政府軍の影響力を削ごうとしている。
 今回の「1027作戦」には、総勢2万人の戦闘員が参加しているという。この作戦の特徴は、群雄割拠というか、これまではバラバラであった多くの武装勢力が、一つの作戦のもとに大々的に連携をとって政府軍を攻略し、敗北させていることである。ミャンマーの反体制運動の宿痾であった反目や対立―宗教、所属民族、地域、貧富等に由来する―を少しずつ克服し、統一した政治的軍事的指導部の形成に実績を積みつつあることがわかる。従来言われてきた、突出した指導者や指導部がない、統一した政治軍事戦略がない、物的政治的な外部支援がないといった弱点を自己克服する方向に向かっているといっていいであろう。対して政府軍は重火器類や航空兵力を有し、都市部ではいぜん優位に立っているにもかかわらず、兵力の不足のため戦線が伸び切っていて疲弊しており、一般将兵の士気は総じて低い。予備役の現役復帰や民兵の強制的組織化などに取り組んでいるが、地上戦闘員の不足は日々深刻化しているようである。

(以上の情報はすべてオープン・ソースに属するもので、地元の民主派ポータルサイトである「イラワジ」、「ミャンマー・ナウ」、「ミャンマー・フロンティア」のほか、「ラジオ・フリー・アジア」やBBC、DW、Guardian、Newsweek、東京新聞、朝日新聞などから得たものである。数字に関する情報は、いずれもが第三者による検証を欠いているので、確定的なものではない)
  
中国雲南省昆明とミャンマー第二の都市マンダレーを結ぶルート沿いに戦火が拡大している。国軍をバックアップする中国も「一帯一路」の利権が絡むだけに、気が気ではないであろう。

11/5、シャン州北部の政府軍基地を占拠したMNDAA部隊/コーカン

11/4、ラショウ郡区のジャ・ヤン民兵基地で、タアン民族解放軍が押収した武器、弾薬。/ TNLA

11/3、ナムカム郡区のタアン民族解放軍に占拠された国軍歩兵大隊42 / TNLA

11/1、シャン州北部のクンロン郡区で、国軍派民兵部隊が同胞同盟に降伏した。/ Kokang

メセ郡区にある2つの政府軍基地を襲撃したカレンニの抵抗組織が押収した武器と弾薬   RFA

<大敗北に顔色なし>
 ミンアウンフライン率いる軍事政権は、東部シャン州での敗北に狼狽、あわてて緊急安全保障評議会を招集し、体制の建て直しを協議し反撃体制を強化することを決定した。しかしタンシュエ時代から軍事評議会の幹部であるミンスウェ大統領代行が、「このままでは国が分裂しかねない」と危機意識をあらわにしたように、体制崩壊の危機が感じ取られるまでになっており、一部マスメディアではミンアウンフライン失脚の観測まで打ち上げているほどである。ミンアウンフライの最側近の幹部であるモーミントゥン中将が、10月汚職で逮捕され長期刑を喰らったニュースに世界は驚いた。それは軍高官たちが政権崩壊を感じ取って、外貨準備高不足の危機もものかわ、今のうちに現ナマ(ドル)をできる限り掻き込んで、海外へ逃亡する準備に走っている様を表している。ミンアウンライは泣いて馬謖(ばしょく)を斬るで、政権崩壊に歯止めをかけようとしたのである。

11/8、ネピドーで開かれた緊急国防安全保障会議でのミンアウンフライン イラワジ

 ミンアウンフラインの報告によれば、今回の一斉攻勢を主導したミャンマー民族民主同盟軍(MNDAA)は、ワ州連合軍が統制するワ州で「作戦1027」の準備を行ったと述べた。これは政権にとり、ショッキングな事実である。ワ州連合軍はビルマ共産党の残党がもととなっている。現在は中国共産党の影響下にあり、3万から4万の兵力と中国供与の近代兵器を装備した、少数民族武装勢力のうちで最大の軍事力を誇っている。表向きはミャンマー軍に敵対せず、中立的立場を装ってはいるものの、反体制派の武器の多くは、ワ州連合軍から流れているともいわれている。国軍にとって、ワ州連合軍は要警戒の存在なのである。
 そのほか、ミンアウンフライン報告では、同胞同盟によるドローン攻撃が軍事政権の拠点に深刻な被害を与えているとしている。MNDAAは市場で入手可能な中国製の無人機を爆弾投下に使用しているという。
 また人民防衛軍を含む他のグループが、「1027作戦」に呼応してザガイン地域を攻撃したという。我々の世代にはベトナム戦争を思わせる乾季攻勢である。

<官製ロシア・ブーム、深まる両国関係>
▼ロシアと初の海軍演習 連携「実地」へ

 「パリアー(のけ者)国家」として国際社会で孤立するミャンマーとロシアは、武器や石油製品の供給関係から、急速に経済・社会の広い範囲にわたる協力関係に入ってきている。その関係の深まりを象徴するものとして、去る11月7~9日に初めて海軍合同演習をアンダマン海で実施した。演習に先立ち、ミンアウンフライン国軍総司令官は4日、首都ネピドーでロシアのエフメノフ海軍総司令官と会い、友好関係の促進へ意見を交わした。

11/6,ヤンゴン郊外のティラワ港にて、ロシアの大型対潜艦アドミラル・トリブツ船上で、第1回ミャンマー・ロシア海上演習の開会式で、ロシア海軍の儀仗兵を視察しながら敬礼するミンアウンフラインミャンマー軍最高司令官(中央)

▼軍事政権は、ミャンマーの2つの主要な公務員学校に通う政府職員研修生に対し、軍事訓練に加えてロシア語コースを義務付ける計画だという。2016年に政権に就いたNLD政権は、軍服と軍事訓練をアカデミーで義務付ける規則を撤廃した。それはアカデミーで使用されている教材には、様々な超国家主義的、反イスラム的、親軍事的な思想が含まれているということで、民主化の政府方針にそぐわないと判断したからだった。
▼軍事政権は、2022年8月にミャンマーを訪れたラブロフ外相とミンアウンフライン最高司令官との会談で、ヤンゴンにロシア正教会建設用地を割り当てることを確約していた。なにか、毒喰わば皿までということわざが浮かんでくるような軍事政権のロシアへのすり寄りであるが、宗教の政治的利用という点で、両国政府は一致しているのである。ミンアウンフラインのロシア訪問に同行した著名な僧侶シタグ・サヤドー・アシン・ニャニサラは、2021年の軍事クーデタへの支持を表明したのと同様に、モスクワ総主教キリルは、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領のウクライナ侵攻を支持している。

セルギー猊下とミンアウンフライン、2023年5月にネピドーで会談。/ Cincds

 しかし現世利益追求のミンアウンフラインは、ロシア人旅行者は旅行先の国の正教会を訪れる傾向があり、ミャンマーに教会ができればロシア人観光客を惹きつけるだろうというロシア側の甘言に乗ったのであろう。さらに、国軍が観光相に任命したテーアウン氏はロシア人観光客がミャンマーを訪れるのを見越し、最大都市ヤンゴンと中部マンダレーでロシア語講座を開設すると発表した。2023年には、軍事政権は、モスクワの支援を受けて初の核情報センターを開設した。構造的な電力不足に悩む政権は、なんとか原発の導入によって局面の打開を図りたいのである。我々68世代はおおむね反スターリン主義で一致していたが、しかしあのソ連が今日の見下げ果てた姿になろうとは想像もつかなかった。諸行無常、いや隔世の感を禁じ得ないのである。

〈記事出典コード〉サイトちきゅう座http://www.chikyuza.net/
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