ミャンマー、国軍の虐殺続く ――国連非難決議できず、またしても中国とロシアが障害に

 4月11日に行われた軍によるサガイン管区カントバル郡区のパジギー村への空爆の被害は、当初の推定をはるかに上まわり、国民統合政府NUGによると、死者は168名以上に上っているという。そのうちには40人の子供と24人の妊婦が含まれるという。NUGの事務所開きは、自治体の出張所開設の式典のようなものなので、近隣の村々からも家族連れでお祝いに駆けつけたのであろう。こういう機会に食糧難にあえぐ家庭に、米や調味料などが配られることも多いので、人々が早朝から多く詰めかけたのであろう。それを知っていて、軍は意図的に攻撃したのである。さらに質の悪いことに、この日の夕方、ふたたび軍用機による空爆が行われ、生存者の捜索や死者の収容を試みる救助隊を攻撃したという。
 すでに国際社会では、アセアン、米国国務省、国連(UN)のアントニオ・グテーレス事務総長、フォルカー・テュルク国連人権高等弁務官などが、軍の蛮行を厳しく非難している。さらに国連安全保障理事会(UNSC)の常任理事国である英国は、パジギー村の虐殺に対応するため、国連決議2269の完全実施を求める声明を出すことを提案した。この決議は、2022年12月に国連安保理で採択され、ミャンマーにおける暴力の停止と、ASEANコンセンサスに対する政権の最初の約束を守ることを要求していた。ところが、国連安保理常任理事国のロシアと中国が3/12の会合で留保を表明したため、理事会は英国の声明案の発表やミャンマー軍のパジギー村への蛮行を非難することはできなかったという。中国の外交官は、国連安保理メンバーはミャンマーの内紛の平和的解決を促すべきだが、他国の内政については公平性を保つべきだと述べたという。軍による民間人の無差別殺戮に目をつぶることが、公平性を担保することだという驚くべき外交的論理には開いた口が塞がらない。二十世紀社会主義の成れの果てに、怒りと深い幻滅感を味わうのは私だけであろうか。

地元のレジスタンス戦闘員が、犠牲者たちの遺体を埋葬するために収容している。イラワジ

 4月上旬、ザガイン管区のパジギー村だけではなく、軍に激しく抵抗するチン州でも空爆を行なっている。4/9にはチン州ミンダット郡区バンパル村で3名、4/10にはウェブラ町で10名、空爆と砲撃で犠牲者が出ている。
 
             チン州の抵抗地域への空爆また空爆   イラワジ

<空爆の論理>

 荒井信一「空爆の歴史」(岩波新書08年)をひも解いて、私の抱いていた感想が確信に変わった。日中戦争でもベトナム戦争でも、侵略側は地上戦で抵抗勢力を攻めあぐねて、一般住民に対する無差別テロとしての空爆に活路を見出そうとしたとある。一般住民を爆撃の恐怖によってパニックに追いやり、その戦意をくじく狙いがあった。それは住民の非協力や抵抗に対する懲罰の意味もあるので、攻撃は残虐であればあるほど効果はあると錯覚された。しかし実際には住民の抗戦意欲は衰えず、かえって攻撃側が追い込まれていく。
 本著によれば、空爆戦略は「東アフリカからインド、ビルマにいたるまでイギリスの植民地支配の恒常的ツールとなった」とある。しかもその戦略イデオロギーのうらには、人種主義的な差別と優越意識が働いていたという。そうだとすれば、ミャンマー軍の獰猛さや残忍さは宗主国大英帝国譲りといえなくもない。アウンサン将軍に率いられて国民義勇軍として独立を勝ち取ったというエリート意識が、そのうち裏返って特権意識へと変質し、一般国民を見下すようになった。自分たちは何をしても許されるという特権意識に、住民殺害について一度も責任を問われたことがないという免責特権までつけ加わって、腐敗しきった手に負えない殺人集団が出来上がったのだ。
 なるほど、チン州、ザガイン管区への空爆は、地上戦の敗北への報復攻撃のニュアンスが強い。4/18付けの地元のイラワジ紙によれば、チン州のレジスタンス勢力は、チン州の首都ハカを強化するために移動していた国軍の大規模な援軍輸送隊を壊滅させたという。2台の装甲車に守られた30数台の輸送隊は、もともと約200人の兵力を有していたが、最後の待ち伏せの前に約40人の兵士と12台の車両に減らされた。抵抗勢力によると、抵抗勢力はドローンと地雷を使用し、装甲車と残りのトラックを破壊したという。

チン州の輸送隊を護衛していた純軍の装甲車は抵抗勢力によって破壊された       イラワジ
 今ミャンマーの民主派武装勢力にスティンガーやジャベリンなどの携帯ミサイルが手に入れば、それこそゲームチェンジ、戦況は一変するであろう。ロシアや中国は、軍部を後押しして武器供与し放題、国連で非難もできない。それに対し、もし民主派への強力な武器援助が分かれば、(例えば、中国許容の)レッドラインを超えることになるから、武器の供与は不可という。なんという不公平、非対称性かと思う。国際社会の支援の弱さを恥じ入るばかりである。

沈黙の抵抗!!
 ティンジャン(水祭り)とは、本来なら水をかけ合い、一年の汚れを落として新年を迎える国民的大行事。タイのソンクランと同じ上座部仏教のお祭りだが、本年は国民は徹底的にボイコット。ミャンマー国民の心の底からの怒りが感じ取られる。

4月13日、ゴーストタウン化したヤンゴン中心街

右側はシャングリラ・ホテル。この付近で16年前、ジャーナリスト永井氏が射殺された。
 この日、ヤンゴンでは、歩道橋からこんな横断幕が吊るされ、連帯の意思表示がされたそうである。「(パジギー)村全体が燃えているのに、なぜあなたは浮かれて踊っているのですか?」

下は、例年の水かけ祭りの様子。この時期日中は40度を超す。

〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 https://chikyuza.net/
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