まず、先日Youtubeで拾った地下放送のテレビ番組をご紹介する。反体制派メディア「Mizzima」が4/19に放映した、「クーデタからの利益:ミャンマーの少数民族反乱軍は、民主派戦闘員を歓迎する」と題する、タアン民族解放軍(TNLA)幹部へのインタビューの抄録を以下に記す。
(Youtube付帯説明:TNLAは、ミャンマーと中国の国境沿いにある約12の民族武装組織の一つで、自治権と豊富な天然資源の支配をめぐって数十年にわたって内戦を闘ってきた。2年前のクーデタ以降、かれらは民主化を求める全国的な戦いの中心的存在となって軍事政権軍と戦い、また多数派ビルマ族からなる反クーデタの「人民防衛軍」志願兵を訓練し、戦場に送り出している)
――我々はクーデタ以降、国内で人々の共感、理解、支持を勝ち得てきたと言い切れる。人々はなぜ我々が戦うのかを理解している。多くの教育のあるタアン民族の若者たちが、TNLAに参加し、この革命のための任務を果たしている。これはクーデタが与えてくれた恵みである。この二年間、我々は多くの兵士を徴募して訓練し、7つある旅団のすべてに配属させてきた。・・・ミンアウンフラインは我々と交渉しようとして様々なインセンティブをちらつかせている。しかしそれはたんなる餌にすぎず、真の交渉は彼には不可能であることを、どの組織も知っている。
中国の態度は少し変わってきつつある。中国政府は2022年には我々に圧力をかけなかったが、ミャンマーへの特使を指名してからは、この地域での戦闘を止め、軍事政権と停戦交渉し、経済と開発に注力するよう圧力をかけてきている。我々は中国との国境地帯に基地をおくEAO(少数民族武装組織)であるが、中国とも同盟関係にある。したがって我々の間には若干微妙な問題がある。NUGとは革命的な同盟関係があり協力している。しかしその協力関係は表立ったものでなく、控えめなものである。
TNLA 准将ターボンチョー氏 https://www.youtube.com/watch?v=6PmMw8bmQbI
Ⅰ.中国政府の外交攻勢―少数民族武装組織へのはたらきかけ
以上のインタビュー内容で注目すべきは、中国政府の態度変化である。2021年クーデタ以後、中国は軍事政権と友好関係を継続しつつ、亡命政府というべき国民統一政府NUGにも若干の配慮は見せていた。しかし習近平政権の三期目を節目に疑似中立的な態度をかなぐり捨て、長く滞っていた「一帯一路」関連の巨大プロジェクト再始動に向けて、ミャンマー軍事政権や少数民族武装組織などの利害関係者に対する本格的な取り込みに乗り出してきている。米国は2022年12月、ミャンマーの民主化を支援し、軍事政権への制裁強化を意図していわゆる「ビルマ法」(「ビルマの軍事的責任の厳格化法」)を更新した。米国がミャンマーへ関与することを強く警戒し、中国は先手を打つべく動きだしたのである。中国外務省鄧錫軍氏は、特使として自ら2月にもミャンマー北東部の国境地帯を訪れ「ワ州連合軍(UWSA)」や「ミャンマー民族民主同盟軍(MNDAA)」、「カチン独立軍(KIA)」など有力な7つの武装勢力の代表と会談、首都ネピドーでミンアウンフライン総司令官とも面会している。当然、軍事政権と武装反乱組織の双方に停戦や和解を促し、かつ地域開発についても話を持ちかけていると思われる。
ミャンマー国内の武装勢力のなかで、民主派勢力に与している組織は,カレン民族同盟(KNU),カチン独立機構(KIO),カレンニー民族進歩党(KNPP),チン民族戦線(CNF)の4つである。このほかに、最近はシャン州北部の三兄弟同盟として総称されるようになった、タアン民族解放軍(TNLA)、アラカン軍(AA)、ミャンマー民族民主同盟軍(MNDAA)の三組織は、KIOほど明確に民主派勢力と連携していないが、いくつかの抵抗勢力に訓練と支援を提供することをますます公然と行うようになってきた。数十年にわたる現地取材の経験を有する、著名なスウェーデン人ジャーナリストB・リントナー氏によれば、抵抗勢力のための武器は、このMNDAAとTNLAを通じて―大本の供与者中国の黙認のもと―提供されているという。民主派の人民防衛隊(PDF)は軍の空爆に対抗するのに対空ミサイルが喉から手が出るほど欲しいであろう。ただしUWSAが多数保有している中国製のFN-6型携帯型防空システム(MANPADS)は、いまのところ中国と軍事政権との関係からみて、PDFが入手するのは不可能であろう。リントナー氏の見立てだと、軍事政権と良好な関係にある中国政府が、民主派勢力への武器流出を黙認するのは、中国系住民が多く住むコ―カン地域―第一言語は北京語―を、国軍ミャンマーと中国との緩衝地帯として、はたまたシャン州をはじめとする中国の影響力のゲートウェイとして利用したい中国が、国軍と民主派勢力とのバランスをとるためであるようだ。いずれにせよ、三兄弟同盟は近年急速に戦闘能力を蓄えており、近い将来内戦の帰趨のカギを握るほどになる可能性があるとリントナー氏はいう。
※かつて麻薬地帯とされたコ―カンにおけるMNDAAの詳しい動向は、リントナー氏の論文「コーカン:ミャンマーと中国の狭間で」を参照のこと。
https://www.irrawaddy.com/opinion/guest-column/kokang-caught-between-myanmar-and- china.html
2022年、モンラでパレードするMNDAA部隊/ コーカン イラワジ
それに対して、中国の影響力が強いNCA(全国統一停戦協定)への非署名有力民族武装集団7団体のうち、盟主UWSAとNDAA、SSPP(シャン進歩党)は、2022年にミンアウンフライン最高司令官と2度会談するなど、政権との交渉にますます前向きになっているという。壊滅したビルマ共産党の流れをくむワ州連合軍は、1989年以来ミャンマー軍と停戦協定を結んでおり、中国にとってミャンマーへの影響力行使への力強い手駒となっている。
UWSAワ州連合軍、最大3~4万の部隊を有し、中国供与の高度な武装を誇る。イラワジ
Ⅱ.中国政府の戦略的決断―一帯一路の再始動へむけて
ミャンマーがクーデタ以降混乱と内戦状態にあるなか、中国の投資は、シンガポールに次いでおり、クーデタから2023年2月までの間に1億1300万米ドル以上に上るという。スーチー政権をクーデタで倒し、ほんの一握りのクローニー(政商)一族と軍人以外、圧倒的多数の国民を敵に回した軍事政権を陰に陽に―軍事政権制裁に関する安保理での妨害から経済投資、武器供与に至るまで―バックアップする中国。腐敗の極にあり、残忍極まりない軍事政権に対してはもとより、中国への国民の不信と恨みの念も半端ではない。しかし中国はミャンマー国民の反感を買うリスクを冒しても、雲南省などの中国内陸部の大規模な経済開発を優先して、「一帯一路」関連の中国・ミャンマー間の「経済回廊(CMEC)」計画の実施にむけて動き出してきたのである。
以下の内容は、地元メディア「イラワジ」3/22に掲載された人権運動家のイゴール・ブレイズヴィッチ(以下質問者)が、米国平和研究所ビルマプログラム担当ディレクターであるジェイソン・タワー氏に、軍事政権と中国およびミャンマー国境の少数民族組織をめぐる北京の最近の動きについてインタビューしたものの摘要である。
タワー: 中国はCOVID-zero政策に急速に終止符を打ったのち・・・・すぐに経済のリセットに焦点を当てるようになった。・・・中国とミャンマーの国境に位置する雲南省は、ミャンマー経由のコネクティビティ(ベンガル湾とアンダマン海への打通―N)を重視した開発戦略をとっており、このことは大きな意味を持つ。 ビジネス関係者や政府関係者は現在、国境を越えた開発計画の実施、主要な電力不足の解消、ミャンマーにおける主要なインフラや接続プロジェクトのリセットに注力している。・・・(中国がミャンマーに積極的に関与するのには)他の要因もある。まず、軍部によるミャンマー国民に対する悲惨な戦争に終止符を打つために、ミャンマーに何らかの形で介入することへの国際的な関心が高まっていることである。北京は、ミャンマーにおける紛争の国際化に非常に敏感である。ミャンマー問題が再び国連安保理に持ち込まれた2022年12月以降、北京は、軍と北部EAO(民族武装組織)の交渉を支援するために、新たにアジア問題特使を配置するなど、ミャンマー問題でより積極的に動くようになった。ASEANの分裂が続き、ASEANにもっと大胆な行動を求める声が高まる中、北京は、他の国際的なアクターが紛争の軌道に影響力を持つようになることを懸念しており、最終的にはこれを阻止したいのである。
国建協情報 2019 年 3 月号(No.871)掲載 【一帯一路と経済回廊プロジェクト計画図】
質問者: 中国はミャンマーのクーデタ後の不安定な状態が長く続くことに神経質になっているのか、それとも我慢して内部対立の推移を見守ることができるのか。
タワー: 中国が懸念を強めている。2月に軍が非常事態の延長を発表したことは、統制が取れなくなったことを公に認めたことになり、ミャンマーのすべての近隣諸国が懸念を抱くようになった。郡区の40%以上が軍の管理下にないことを公然と認めたことは、ミャンマーに広大な地政学的経済的利益を有する中国にとって不安材料である。中国もまた、軍の戦場でのパフォーマンスの低さを目の当たりにしている。TNLA(タアン民族解放軍)やMNDAA(ミャンマー民族民主同盟軍)などの主要武装集団は、前線に投入された政権軍を驚くほど簡単に撃破し、新たな大隊を増やし影響力を拡大し続けている。北京では、軍部が選挙を実施し、親軍事政党の下で権威主義的な支配を復活させるのに必要な能力を欠いているとの懸念があるようだ。中国がミャンマーを通る戦略的なエネルギールートのすぐ近くでも戦闘は激しく、雲南省のGDPの10%以上を供給していた。中国はこのルート沿いに鉄道を建設する計画で、シャン州やマグウェ管区では、人民防衛軍や強力な民族武装組織が集まっている。中国にとっては、エネルギー安全保障が暴力によって脅かされ、紛争が長期化すると鉄道などの接続プロジェクトが短中期的に中断される可能性があるため、大きな懸念材料となる。(ベンガル湾の港湾都市チャオピューから雲南省昆明までは、石油と天然ガスのパイプラインが走っているーN)
2023年、ミンアウンフラインと中国の陳海駐ミャンマー大使 中国共産党雲南省委員会のワン・ニン書記 AFP
質問者: 中国は、自国の利益にとって現在の危機の最も望ましい結末について明確にしているのだろうか。中国は、その方向で開発にレバレッジをかける準備ができているのか、できているのか。
タワー: 中国は、どの勢力がどの領土を支配しているかにとらわれていないと思う。それよりも、戦略地政学的利益を確保し、経済プロジェクトを進め、フロンティア地域での西側の影響をチェックすることに重点を置いている。・・・おそらく中国のアプローチは、一方でミャンマーで最も強力なプレーヤーと見なされているワ州連合軍の指導下にある北部EAOの連合、他方では軍とその国家管理評議会への支援を強化することであろう。中国は、これらの当事者に対する影響力を利用して、中国の利益に有利な方向に紛争全体の軌道を左右し、ミャンマーにおける外部の影響力を牽制する方法を検討している。北京が思い通りになれば、これは北部の EAO にとって恩恵となり、彼らの立場を強化し、中国の影響力をカチン州とシャン州にまで拡大するだろう。 これはまた、軍が過度に拡張されたリソースを(過度に伸びた戦線を縮小して―N)を、国民統一政府NUG と連携した PDF および EAO との戦いに集中させるのにも役立つ。
また、もう一つの要因もある。中国が経済的な「一帯一路構想」を補完する形で、中国政府が昨年発表した新たな「グローバル・セキュリティ・イニシアチブ」(GSI)を導入する動きが活発化しているのだ。 中国は最近、GSI に関する白書を発行し、世界の安全保障問題においてより強力な役割を果たすつもりであるという非常に強いシグナルを送った。東南アジアでは、この白書は中国が “瀾滄江メコン地域 “を重視することを強調しており、中国が2022年に静かに開始した “瀾滄江メコンLancang-Mekong協力フォーラム “を活用してミャンマー問題に取り組むことを示唆している。3月上旬、中国は、ミャンマー軍とギニアビサウとの国交樹立を北京で仲介するという前代未聞の行動に出て、ミャンマー軍の国際的正当性の強化を支援するという強い意思表示をしたのである。
以上
このほか、今年になってから新たな投資や貿易協定の締結が目白押しだという。「イラワジ」によれば、ラカイン州の3つの風力発電プロジェクトやカチン州の水力発電所など、ミャンマーにおける複数の中国主導のプロジェクトを許可し、中国の雲南省が米や肥料を同国政府に提供する貿易協定を結んだという。また中国とミャンマーの関係を注意深く監視している戦略政策研究所(ミャンマー)は、両国のいくつかの企業がミャンマーのイラワジ地域で輸出生産ガーデンゾーンプロジェクトを実施することに合意したことを確認したという。まさに軍事政権にとって中国とロシアは救世主であるが、将来その売国的な重いつけを国民は、支払わされることになる。必ずしもミャンマー国民の利益に沿わない、中国の自己都合の大規模開発は、重い債務、環境破壊、経済的従属、国内の強権体制の持続など、この国の百年の計を台無しにする危険性がある。
中国はつい最近までの中立的仲介者の姿勢をかなぐり捨て、軍事政権支持の旗幟を鮮明にした。考えてみれば、毛沢東の冒険主義路線から鄧小平の改革開放路線へは、哲学的には独断論からプラグマティズムへの転換であった。アメリカ式プラグマティズムの場合は、その健康な時代は市民社会と市民道徳の基礎があったので有効に機能した。トライ・アンド・エラー(試行錯誤)のフットワークの軽さが、イノベーションと失敗修正の能力を育んだといえる。しかし鄧小平流のプラグマティズム(白猫黒猫)は、毛沢東の文化大革命による、社会・家族道徳(孝を中心とする五倫五常)の破壊のうえに叢生したものであり、その結果目的のためには手段を択ばない道具的合理性、アモラルな拝金主義を全面開花させた。「人民解放」という普遍的な価値は足蹴にされ、力こそが正義という覇権主義が闊歩しだした。いま、駐フランスの中国大使の非常識な発言が、西側諸国の強烈な反応を引き起こしているが、それにしてもトップクラスの外交官が、国家主権や民族自決権、国際法と法の支配などの基本的な理解に欠けるところに、習近平中国の恐るべき堕落と覇権主義化の現状が露呈しているのである。
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 https://chikyuza.net/
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