ミャンマー情勢 弾圧に屈せず、自由の経験は国民に勇気をあたえた!

 国連は2/28日曜日に、ミャンマーでの軍事クーデタに対する全国的な抗議行動に対し、少なくとも18人を射殺し、30人以上を負傷させたと発表した。ヤンゴンでもはじめて犠牲者が出た。国軍系のテレビは、軍と警察に対し実弾射撃はしないよう命令が出ていたとするが、これは内外の反響に驚いたクーデタ政権の稚拙ないいわけであろう。催涙弾、スタングレネード、ゴム弾、空中射撃などによってもデモ隊を鎮圧できなかったので、命令に従って実弾を使用したのは明白である。狙いは正確で、犠牲者は頭部か胸部かに致命傷を負ってほとんど即死している。
 しかし驚くべき光景である。学生は街頭で仲間の多くが射殺されても屈しない。国家公務員、地方公務員とも逮捕、解雇の脅しに屈せず不服従運動を継続している。一般住民も町内でクーデタ軍の任命の役人に対しボイコット運動をする。これらの武力鎮圧への反応から、1988年や2007年の動乱とのちがいが見てとれる。若者たちは異口同音に「われわれは将来世代のために闘っている。ミャンマーを暗黒時代に逆もどりさせるわけにはいかない」と言う。彼らはこの10年のあいだ、不十分ながら自由な政治的社会的条件のもとで育った初めての世代である。過去の敗北と精神的委縮を知らない彼らに、自由は勇気をあたえた。自由は世界と将来へ開かれた視点を彼らにあたえた。そして自由とともに手にしたSNSの手段は、その日暮らしの自己中心主義から、共同の世界を俯瞰する高みに彼らを押し上げた。そして若者たちに触発されて、市民社会の深部から公務員労働者が動き出し、隊列が日々膨らみつつある。2/28の日曜日の出来事は、ミャンマー版「血の日曜日」事件になりそうな勢いである。
《速報》国連のブルゲナー事務総長特使(ミャンマー担当)記者会見 3/3の1日のデでモ38人死亡、クーデタ後最多に。軍事評議会はこれでも抑制しているのだとうそぶいている。日欧米の介入が急がれる。

ヤンゴン中心部での抗議デモ。不正義への怒りから市民革命へ    AFP

2/3 射殺された人々への追悼と三本指で抗議の意思を表すヤンゴン市民 ロイター
<世界でもっとも残忍な軍隊>


マンダレーにて。ここは戦場か!?狙撃銃をもった狙撃兵も投入されている。7DAYS
 反クーデタ運動のメッカ、レーダン交差点で、下の画像のIT技術者二―二―アウンテナイン君は、胸を撃たれ道路に転倒。しかし銃弾がやまないので、誰も助けにいけない。ニーニー君は、一瞬間意識を取り戻して携帯で母親に「撃たれた」と電話し、息を引き取った。またテインガンジュン区では、へイントゥアウンさん(23)は、妊娠中の若い妻と一緒にデモに参加しようとしたところを撃たれ、即死した。

双子の兄弟、二―二―アウンテナイン君は胸を撃たれた。              イラワジ紙

ヤンゴン・ダウンタウン。スーチー氏の非暴力抵抗運動の教えが効いている。 Myanmar Now

                              ロイター

<闘い方はちがっても。地域の自主管理闘争>
 地元のオンライン・メディアである「Frontier Myanmar」によれば、街頭から町なかへ入ると、別の闘争が展開されている。軍事評議会による地方自治体の「ペット」化に反対する地域社会の反撃が続いている。地域住民は、軍事評議会が任命した「治安と法の支配チーム」を拒否し、それに対抗して選出された議員を中心に臨時地方政府を作り上げつつあるという。

横断幕には「ミンアウンライン(軍事評議会議長)からの行政官はいりません」とある。

<Pick Up 直近の出来事>

●日本は、2/28治安部隊の武力鎮圧と大量逮捕に対してこれを非難するとの外務報道官の談話を発表。日本政府としてスーチー国家最高顧問を含む関係者の解放と、民主的な政治体制の早期回復を改めて国軍に対して強く求めるとの姿勢を示した。なんとも迫力を欠いた「談話」である。
 イラワジ紙によれば、さきに菅政権の外交顧問である内閣官房参与宮家邦彦氏は、ジャパンタイムズ(2021年2月4日)で、タッマドゥ(ミャンマーの軍隊)に対し厳しい態度をとれば、彼らを過去の暗黒面に押し戻すだけなので、国際社会は話し合いを再開し、国軍の考えを変えるよう説得することだと述べているという。しかし現時点で見れば、宮家氏の見解は日本政府の無力さの言いつくろいにしか映らない。
 ちなみに日本政府の対ミャンマー政策は、2000年代から変化しており、安倍政権の意を体して中国を意識した開発へ前のめりになってきた。国際協力機構(JICA)は、民主化を求める市民社会を迂回し、体制の在り方を不問に付して経済的な援助を強化し、存在感を高めようとしている。イラワジ紙によれば、2007年から2016年にかけて、日本は全体的援助を民主化関連プログラムに対する観点からみると、29のドナー国のうち26という下位にランク付けされているという。
 かつてネウイン独裁時代(1962~1988)、ビルマとの歴史的な友好関係を口実に巨額のODAを投入したが、ビルマの近代化にはまったく寄与せず、独裁体制の延命に手を貸しただけであった。2011年の半文民・テインセイン政府になって、ODAの再開のための障碍になっていた約5000億の債務をまず帳消しにしなければならなかった。歴代自民党政府とビルマ軍部独裁との黒い関係を、特別な友好関係の美名で覆い隠してはならない。

●3/1スーチー国家顧問は1日、ネピドーの裁判所で行われた公判にビデオ会議方式で出廷した。スーチー国家顧問の長期拘束のため、いろいろな罪状がでっち上げられているし、これからもそうなるであろう。国際社会とも協力して、まずスーチー国家顧問の解放を勝ち取らなければならない。

●3/1スーチー氏が党首を務める国民民主連盟(NLD)の議会メンバーが設立した「連邦議会代表委員会(CRPH)」は1日、クーデタを起こした国軍が設けた最高意思決定機関「国家統治評議会」をテロ組織だと定義した。国軍が最近、CRPHを違法だと決めたことに対する反撃の一歩である。2/26、軍事政権は在ミャンマーの各国大使館にCRPHとの連絡を禁じている。

●3/2 CRPH(連邦議会代表委員会)は、4人の臨時大臣を任命した。クーデタ政権を認めないとともに、NLD政権がなお正当な政府機関であるとする意思表示である。NLDは11月の総選挙で地滑り的勝利を収めた。二院制の連邦議会と州/地方議会の両院の議席、および民族問題大臣のポストを含む、全国で選出された1,117議席のうち920議席を獲得した。じつに占有率82%である。

●ヤンゴン地域警察の警察署長が、反クーデタ運動への合流を宣言、以下警察幹部続く!!
Myanmar Now 3/1 によれば、内務省Special Branch(公安警察)の少佐が、2/28に反クーデター抗議者との連帯を示して辞任したと発表した。「私は現在の軍事政権の下で奉仕を続けたくありません。 だからこそ、私は他の公務員と一緒に立っていることを示すためにCDMに参加した。逮捕は覚悟している」とビデオで述べたという。また3/3には「マンダレーの2人の高位警察官がCDMに参加」との報道。これらは今回の反クーデタ運動が、旧来の反乱と性格を異にしつつある証左であろう。一言でいうと、市民革命としての実を現し始めたものと解釈できる。
●3/3 イラワジ紙によれば、合計115人の情報省職員が、ミャンマーの軍事評議会のもとで働くことを拒否し、市民的不服従運動に参加した。そのため2/8から政権のメディア機能は停止状態にあるという。情報省といえば、軍政時代は内務省管轄の民衆抑圧の機関であった。その機関の内部反乱は、市民革命の明らかな兆候と見てとれるだろう。
●3/2 東南アジア諸国連合(ASEAN)のオンライン緊急外相会議
 さきにインドネシア外相の示した調停案、つまり「国軍のもとでの再選挙」案に対してミャンマーの反クーデタ運動が猛反発したため、いったんは引っ込めたが、おそらくアセアン各国はこの線で話をまとめたいと思われる。米欧がミャンマーへの制裁を強めれば国軍が態度を硬化し、かえって中国に追いやる結果になってアセアンの結束が緩むことを懸念して、欧米とNLD・反クーデタ勢力と国軍との間を取り持とうとしているのであろう。この会議にはミャンマー国軍が外相に任命したワナ・マウン・ルウィン氏も出席させていることからもわかるように、現状ではアセアンの働きかけは国軍に有利な調整工作にしかならないであろう。これを欧米と国内の反クーデタ勢力がどう押し返していけるのか、とくにバイデン新政権の動向が注目される。欧米が民衆への発砲をやめさせるために、経済制裁の強化以外に有効な手段があるのかどうか、世界は注目している。

<気がかりな指導部の形成>
 次回詳しく検討したいが、反クーデタ勢力にとって喫緊の課題は、全運動を統括し交渉能力を持つ指導部の形成である。NLDの「連邦議会代表委員会(CRPH)」は、いわば影の内閣としての意義を持つことは認めるが、現在の巨大な運動体をまとめる力があるのかについては疑念が残る。NLD自身がスーチー氏を頂点とする多少なりと権威主義的な組織であったので、幹部たちが情勢を自己分析し、そこから適切な方針なり政策を打ち出すことがどこまでできるのか心もとない。少数民族組織やNLD以外の諸政党政派、市民社会組織との日頃からの交流があってこそ、運動内部の連帯と結束が可能になる。必要なのは議会勢力と議会外の大衆的な運動を統括し、この運動の出口戦略を固めることである。おそらくこうした活動を指導できる政治家がNLDふくめ少ないのではないか。指導部がなければ、運動の成果はだれかに横取りされていく運命にある。

<報道姿勢のちがい>
 以前からのことであるが、欧米の高級紙は事実を重んじて現地の人々の生の声を伝えようとする。ところが日本の大手新聞は、紙幅の都合もあるのかもしれないが、事実は加工されていて隔靴痛痒の感を免れがたい。ミャンマー報道で特に気になったのは、リベラルの傾向だとスーチー氏賛美からいつまでも抜けきらないことである。ミャンマー国民の熱狂から少し距離をおいて、5年間の治政実績からスーチー氏の政治家としての能力を冷静に判断する必要があろう。また政党としてのNLDや民主化勢力の現状への調査報道がほとんどみられない。ある種これは日本の国内政治や政党に対して近年まともな分析がなされていないことの反映かもしれない。
 福島原発の時もそうであったが、欧米の新聞はいち早く原子炉のメルトダウンの危険性を伝え警鐘を乱打したが、日本の新聞ではそうでなかった。今回も日本の新聞を読んでいるかぎり、事態の推移が手際よくまとめられているものの、現地の人々の声がどういうものか実感できない。欧米の高級紙はほとんどミャンマーに関心を示していないが、やはり左派系リベラル系では熱心に取り上げられており、ニュースネタの勘所をよく押さえているように思われる。ルポルタージュの伝統の有無も関係あるのかとも考えるが、はやり事件現場の人々に寄り添い、問題の核心がどこにあるのかを実証的に探求する訓練を日頃からしているせいであろう。しかしやはり「イラワジ」や「Myanmar Now」をはじめとする地元ジャーナリズムが、逮捕や命の危険を冒して現場直撃で取材し、事実を拡散している努力には素晴らしいものがある。

〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 https://chikyuza.net/
〔opinion10609:210304〕