かねてより内外の人権団体より日本政府へ中止要請のあった、国軍クーデタ以後もミャンマー国軍の幹部や幹部候補生を留学生として受け入れてきた援助事業。しかし多くの人々が危惧していた事態が、ついに起こりました。日本で軍事教育・訓練を受けた軍人が、帰国後民間人を標的とする空軍のマグェ地域の空爆に参加していたことが暴露されたのです(イラワジ紙5/23)。
本年4月26日、岸信夫防衛相は、クーデター以後も留学生として受け入れていることについて、「民主主義国における組織のあり方をしっかり留学生に教え込むことで将来のミャンマーを立て直す力になってもらえれば」と説明していました。しかしいくら文民統制を教えたところで、本国へ帰ってしまえば、軍人である以上軍部独裁体制に従順であるほかなく、日本政府の説明は詭弁でしかありません。教育援助事業というより間接的な軍事援助でしかない実態が明らかになり、日本政府は国軍による戦争犯罪に加担しているとみられても仕方ないでしょう。レピュテーション・リスク(評判毀損危険)よりも、国軍とのパイプの維持を優先した結果であることはまちがいありません。軍事技術だけ盗まれて、反政府勢力の弾圧に利用されるだけの援助事業は、直ちに中止すべきです。
人権団体ヒューマン・ライツ・ウォッチ(HRW)とジャスティス・フォー・ミャンマーによれば、日本で教育・軍事訓練を受けたルワンモエ空軍中佐は、全日本防衛協会と日本軍事資料によると、2016年8月から2017年3月まで日本の航空指揮幕僚学校で訓練を受けていました。中佐は現在マグェの空軍基地の副司令官の地位にあり、マグェ地域上空で爆撃任務を遂行したといいます。ジャスティス・フォー・ミャンマーの広報担当者であるヤダナーマウン氏は、「日本のプログラムは許しがたいもので、政権を強化し、将来の政権の犯罪を調査する委員会の標的となりうる人材を育成するものだと述べた」由。
国軍部隊と民兵が、300軒以上の家を焼き討ち-サガイン地方ペール郡区チャウンウー村 RFA
抵抗する農村地域への残忍な焦土攻撃。 Myanmar Now
現在、サガインを筆頭に、マグェ、チン、カレン、カヤ―など反軍事政権の拠点となっている地域の村々は、空軍の無差別空爆、超法規的拷問や処刑、恣意的な逮捕、何千もの家屋の放火の標的になっています。2021年のクーデター以来、5万人以上の市民が自宅から避難しているといいます。独立系調査機関である戦略・政策研究所(ISPミャンマー)は最近、クーデター発生時から2022年5月10日までの間に、全国で少なくとも5、646人の民間人が殺害されたことを記録していると発表しています。
しかもマグェやサガイン地域など、PDF(人民防衛隊)が最も強い地域では、現在「ピュー・ソウ・ハティー」(血盟団)と称する有給の民兵グループを国軍は組織し、逮捕、財産の押収、PDFメンバーの殺害、村の破壊を行う全権が与えられているといいます。そのためテロの横行で凄惨な殺人が行なわれています。
世界の耳目がウクライナに集中するのをいいことに、ミャンマーの軍事政権はアセアンの5項目合意を実質反故にして、国内の統治実績づくりに奔走しています。それに合わせて、フンセン・カンボジア首相は、本年度のアセアン議長国という立場を利用して、ミャンマー軍事政権のアセアン復帰への道筋を何とかつけようとして、まずは首都プノンペンで来月開催予定のアセアン国防大臣会議にミャンマーを正式参加させようとしています。また軍事政権は、国内的には少数民族武装組織との和平会議を開催し、これには中国と国境を接する地域にある諸組織が応じようとしています。かつての毛沢東主義者・ビルマ共産党の流れを汲むワ州連合軍は、中国式の近代装備を施された、国内非政府武装組織で最大勢力を誇っていますが、かれらがNUG(国民統一政府)の呼びかけに応じることはまずないでしょう。いずれの動きの背景には、北京政府の影響力というかヘゲモニーが働いていると思われます。
国際的な制裁でミャンマー軍事政権を孤立させれば、中国になお一層のことすり寄るしかなくなる。そういう事態をさけるためと称して、軍事政権の関与政策を継続している日本政府ですが、そうであっても犯罪行為や人権侵害への何らかの加担となれば、話は別です。ミャンマー軍人留学生の受け入れは直ちに中止すべきであり、国会内外で反対の動きを強めていくことが求められています。
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