ラッセル法廷2014「ガザ特別セッション」評決の概要

この夏、7月8日から8月27日の50日間のイスラエルのプロテクティブ・エッジ作戦によるガザ猛爆は、7割もの民間人を含む2,188人の死者、11231人の負傷者の犠牲をともないガザの民衆に未曾有の災厄をもたらしました。日本では、空爆開始直後に、「ガザ・繰り返されるジェノサイド」を訴えた京都大学の岡真理さんの連日の精力的な訳出提供によって、犠牲者の証言、事態の進行、戦争犯罪の様相など重要な論点がただちに浮き彫りにされたことも記憶に新しいことです。

 

停戦後ただちに準備され、約1ヵ月後、EU本部のあるベルギー、ブラッセルに拠点をもつ「パレスチナにかんするラッセル法廷」が緊急の「ガザ特別セッション」(9月24-25日)を開廷した。バンダナ・シバ、リチャード・フォークら11人の陪審員とパレスチナのジャーナリスト、ムハマド・ウメール、外科医マッズ・ギルバート、ジェノサイドの専門家ポール・ベーレンスら16人の証人が出廷し評決が下され緊急行動が提起された。(ガザのパレスチナ人権センターの弁護士ラジ・スラーニ、映画製作者アシュラフ・マシュハラウィが証人として出廷の予定だったが、イスラエル‐エジプト両政府のラファ通過拒否のため果たせなかった。)

 

この「パレスチナにかんするラッセル法廷」(国際戦犯民衆法廷)は、2008-09年のキャストレッド作戦の惨状を受けて2009年に設立され、2010年には「バルセロナ・セッション」(3月1-3日)、つづいて「ロンドン・セッション」(11月20-22)、さらに翌2011年には「ケープタウン・セッション」(11月5-7日)、2012年には「ニューヨーク・セッション」(10月6-7日)、そして2013年には「ファイナル・セッション」(3月16-17日)がブラッセルで開催された。今回で6回目のセッションとなる。各セッションで、国際人権法、国際人道法、戦時国際法などが駆使されイスラエルの蛮行が裁かれたのは言うまでもないが、各セッションにはそれぞれの力点と特徴がある。例えば、「バルセロナ」「ロンドン」ではイスラエルの戦争犯罪はもとより、包括的な入植地問題、分離壁、東エルサレム「併合」、そしてEU諸国の共犯に焦点が当てられた。「ケープタウン」では、イスラエルがアパルトヘイト国家であると明確に定義し差別法の撤廃と厳しい制裁を課すことを勧告し、「ニューヨーク」では米国の長年の共謀が詳細に告発され国連の共犯と欠陥に焦点が当てられた。ファイナルの「ブラッセル」では、社会的生存権の危機、ソシオサイドの問題が提起された。

 

今回の「特別セッション」では、プロテクティブ・エッジ作戦の民間人とその生存基盤への見境のない戦争犯罪だけでなく、とりわけイスラエル内にエスカレートしているジェノサイドの教唆扇動に焦点が当てられている。ここではその「評決の概要」を紹介するが、いずれ証人の証言も含めた専門家による全体の訳出が期待される。拙訳ですが、参考にしていただければ幸いです。

 

それにしても、イスラエルの不処罰を放置しておく国際法運用の機能不全は、イスラエル‐米国の共謀、欧州諸国の共犯にその根因があるのは明らかとはいえ、現時のパレスチナ問題の解決のみならず将来の人類の行く末にすでに大きな禍根を残していることも明らかだろう。なぜなら、人類の共同規範はジャスティスをめぐって不断に育てていくものだから。(たとえば、巨大メディアの共犯、諜報機関の暗躍を誰がどのように裁くのか?)

 

さらに、日本が秘密保護法、集団的自衛権、イスラエルとの核軍事技術協力を準備して、戦争犯罪を続けるイスラエル‐米‐NATO陣営に強硬に加わろうとしている今、また、ジェノサイドの教唆扇動となるイスラエル内のヘイトスピーチを追うように日本国内のヘイトスピーチが政権に守られ横行している今、国際法の共同規範に再度自国と世界を照らして見ることが求められるだろうから。ちなみに、日本国はいまだにジェノサイド条約に批准も加盟もしていない危険な国だ。(2014年10月25日松元記)

 

※評決は、判断のパラグラフごとに数字が打たれています。

はじめに       1…4

Ⅰ軍事力の行使   5

Ⅱ戦争犯罪      6…8

Ⅲ人道に対する罪  9…17

Ⅳジェノサイド    18…29

Ⅴ結論と行動    30…35

 

Extraordinary Session on Gaza: Summary of findings

Brussels, 25 September 2014

 

ガザ特別セッション:評決の概要(松元保昭訳)

2014年9月25日、ブラッセル

 

この法廷が沈黙の罪を防ぐかもしれない。

バートランド・ラッセル 1966年11月13日 ロンドン

 

The Russell Tribunal on Palestin´s Web site

http://www.russelltribunalonpalestine.com/

 

This Findings Url

http://www.russelltribunalonpalestine.com/en/wp-content/uploads/2014/09/Summary-of-Findings.pdf

 

はじめに

[1]、2014年7-8月に報道されたガザのパレスチナ民間人に加えられた死と破壊、(双方の)自暴自棄の様子を想像して、世界中すべての人々が心底からの憤り、怒り、そして嫌悪感に襲われた。刑罰を免れてきた状態で占領しているイスラエル当局によって、あまりにも長い間、犯罪と重大な人権侵害がパレスチナの人々に犯されてきた。ガザの領域に課せられた占領、封鎖、包囲は、集団懲罰の体制に達しているが、ごく最近の戦闘は、民間人を集団的に懲罰し脅迫する軍事行動の明らかな激化を意味している。「プロテクティブ・エッジ作戦」はガザに対する6年間で3度目の強大な軍事作戦であったばかりでなく、攻撃の規模、激しさ、期間においても際立ったエスカレーションが特徴となった。それは、1967年のパレスチナ全領域の占領開始以来、ガザ地区に対するイスラエルのもっとも大規模な襲撃であった。この周期的な激しい暴力の破壊パターンとその継続する見込みを考慮して、本法廷のメンバーは、ガザの人々に声を上げる機会を提供することと抗しがたい緊急行動の訴えを表明する必要性を自覚させられた。パレスチナにかんするラッセル法廷が、これらの恐るべき非人道的な行為に対する責任に向けて良心の声をあげて行動するため何らかの判断基準の一助となるよう希望する。

 

[2]、50日間の闘争経過中、継続された空爆と地上攻撃の状況下で約700トンの(投下)命令がイスラエルの軍隊によって展開された。このおよその数字は、ガザ地区の1キロ平方当たり2トンの投下命令に等しい。これらの軍事行動は以下の結果をもたらした:パレスチナ人の死者2188人、少なくとも1658人が民間人だった:11231人の民間人が負傷した:18000棟の建築物が危害を受けた(ガザで利用されているすべての建築物の13%が完全にまた部分的に破壊された):約110000人の民間人が避難を余儀なくされた:8つの医療施設が完全に破壊され他の多くが危害を受けた。32カ所の病院のうち17カ所が危害を受け、その結果6カ所が閉鎖された:約450000人の民間人が地域の水道供給を利用できないまま放置された大規模な浄水施設の破壊:ガザ地区全体を一日ほぼ20時間電気のない状態にさせたガザ唯一の電力施設の破壊、これによって汚水処理、食料供給、および負傷者と避難民を収容する医療施設の能力に深刻な影響をもたらした:臨時の避難民センターとして使われていたUNRWAの3つの学校を含む国連が援助し管理する基盤施設への大量の攻撃と破壊:約128の企業の完全破壊、および農地や家畜にもたらされたおよそ5億5千万ドル相当の損害:文化的・宗教的な施設への攻撃:最後に、闘争は約373000人の子どもたちを直接の専門的な心理サポートを必要とする状態に追い詰めた。攻撃は、民間および国家基盤施設にもたらされた損害の修復に78億ドルを要求するだろうとパレスチナ自治政府が見積もるほどの被害が組織的かつ広範囲に及んだ。

 

[3]、パレスチナにかんするラッセル法廷(RToP:The Russell Tribunal on Palestine )は、世論を啓発しまた最高権力者たちに影響力を及ぼすために市民社会(非政府組織、組合、慈善団体、教会など信仰に基づく組織)の要求に応えて開設された国際的な市民を基礎とした良心の法廷である。RToP は、著名な学者であり哲学者でもあるバートランド・ラッセルに創設されたベトナム戦犯法廷(1966-1967)を受け継いで、同じ厳格な法規範を採用し同じ精神にあふれている。本法廷は、パレスチナにかんするラッセル法廷の準拠枠を構成する国際公法(国際人権法、国際人道法、刑事国際法を含む)によって国際戦犯民衆法廷としての効力を持つ。

 

[4]、2014年7-8月のガザ地区でのイスラエル軍事作戦のあと、ガザにおける潜在的な国際犯罪の真相を審査するため緊急にRToP特別セッションを再召集する決定がなされた。この特別セッションの期間中、RToPは2014年夏のガザの事態に直接関連する広範な分野の問題について目撃者と専門家の見解を提供するほぼ16名の個々の証人から証言を聴取した。法廷の陪審員メンバーは、証人たちから与えられた痛々しい証言に胸を痛め深く心を揺さぶられた。2014年9月24日の聴聞と陪審員の審理を受けて、パレスチナにかんするラッセル法廷ガザ特別セッションの評決は、次のように要約される。

 

Ⅰ、軍事力の行使

[5]、イスラエルはガザ地区の占領国家である。占領者としてのイスラエルは、国際公法の原則のもとではガザで軍事力の行使を手段として自己防衛のために行動しているとは見做されない。イスラエルは他国の軍隊による武力攻撃に応じたものではなかった:むしろそれは、占領した領域の征圧を達成し、また占領した住民全体のその統治のために占領権力として軍事力を行使した行動であった。国際法のもとでは、植民地支配または外国人占領のもとで生きる人民は、占領に抵抗する権利がある。イスラエルの軍事行動は合法的自己防衛で軍事力に訴える国家というより、むしろその占領を維持して抵抗を鎮圧するための占領権力の軍事力行使に該当する。パレスチナ人のテリトリーを継続して占領することとガザの完全封鎖は、それ自身が国連総会決議3314(第3条aおよび b)(1974年)[訳注1]で定義された侵略行為である:本法廷は、侵略者がその侵略に立ち向かう抵抗に対して自己防衛を主張することはできないと指摘する。プロテクティブ・エッジ作戦は、占領の強要とガザ地区の包囲継続の一部であった。この包囲は第四ジュネーヴ条約第33条[訳注2]に違反する集団懲罰に相等する。

 

【訳注1、国連総会決議3314(第3条aおよび b):1974年12月14日に国連総会第29回総会で採択。第3条(侵略行為)次に掲げる行為は、いずれも宣戦布告の有無に関わりなく、2条の規定に従うことを条件として、侵略行為とされる。(a) 一国の軍隊による他国の領域に対する侵略若しくは、攻撃、一時的なものであってもかかる侵入若しくは攻撃の結果もたらせられる軍事占領、又は武力の行使による他国の全部若しくは一部の併合。(b) 一国の軍隊による他国の領域に対する砲爆撃、又は国に一国による他国の領域に対する兵器の使用。(c) 一国の軍隊による他国の港又は沿岸の封鎖。以下省略】

 

【訳注2、第四ジュネーヴ条約第33条:戦時における文民の保護に関する1949年8月12日の第四ジュネーヴ条約第33条〔集団懲罰禁止〕被保護者は、自己が行ってもいない違反行為のために罰せられることはない。集団に科する罰及びすべての脅迫又は恐かつによる措置は、禁止する。② 略奪は、禁止する。③ 被保護者及びその財産に対する報復は、禁止する。】

Ⅱ、戦争犯罪

[6]RToP法廷に姿を見せた証人から提供された証拠は、プロテクティブ・エッジ作戦期間中に実行された軍事攻撃の小さな断片だけをカバーする。しかしながら彼らの証言は、イスラエル軍が訴訟上の戦争犯罪を犯したという結論を不可避的に導く公共圏におけるイスラエルの攻撃の広範囲に収集された証拠記録に結びつけた。イスラエル軍隊は、国際人道法の二つの基本的な原則に違反した。―民間人の標的と軍事目標とを識別する義務:および作戦目的に釣り合うべき軍事暴力行使の義務。作戦期間中、ガザの病院、学校、モスクを含む民間人エリアへの爆撃と砲爆撃のその規模で、イスラエル軍によって推定700トンの武器弾薬が使われ過剰に行使された。それに較べると、2008-09年のキャスト・レッド作戦期間中は50トンである。ガザの民間人はこの猛爆撃で脅迫され、世界人権宣言の第13条の(2)[訳注3]に従って彼らの地から離れる権利を侵害されただけでなく、戦争難民として保護と援助を求めて地域から避難する権利も与えられなかった。

 

【訳注3、世界人権宣言の第13条の(2):1948年12月10日第3回国連総会で採択された最も普遍的な人権文書。第13条(2)すべて人は、自国その他いずれの国をも立ち去り、及び自国に帰る権利を有する。】

 

[7]、法廷が聴取した証拠は、イスラエルの軍隊によって犯された戦争犯罪は以下の犯罪(に限定されないが)を含むことを提起している:

 

意図的な殺害(地上部隊による即決の処刑またガザ内部でイスラエル部隊が占拠した家屋から辺りに向けたスナイパーによる民間人の殺害を含む):

 

軍事的な必要性では正当化されない資産の大規模な破壊(とくにガザの唯一の電力機能および浄排水施設を明らかに系統的な攻撃目標としたことなど不可欠な公共施設の破壊を含む):

 

民間住民と民間の施設に向かって故意に攻撃を指揮したこと(人口緻密な民間地域での大規模で理不尽な砲爆撃と空爆を含む):

 

こうした攻撃が民間人の生命の喪失、負傷また民間施設に対する広範で長期の危害、あるいは自然環境に対する長期にわたる重大な危害が付随して起こるだろうと十分承知したうえで故意に攻撃を開始したことは、民間人の位置からハマースにロケットが発射された時でさえ先手を打っていた直接かつ全般的な軍事的優位と具体的に比較すると明らかに度を越したものであった。(すなわち、レジスタンス・グループまたは政治指導者の行為の報いとして民間人を集団的に懲罰する意図的な作戦で不均衡な武力行使に巻き込むその「ダーヒヤ・ドクトリン」[訳注4]の形態で、イスラエル軍が明示的に表明し実行してきた不均衡な軍事力の行使。)

 

【訳注4、ダーヒヤ・ドクトリン:「ダーヒヤ」とはアラビア語で「郊外」の意味だそうで、2006年夏のイスラエルのレバノン攻撃でベイルート郊外の人口密集地を不均衡な破壊兵器で一帯を大規模に破壊した戦略。2008-09年のキャスト・レッド作戦以降、この「ダーヒヤ・ドクトリン」が一貫してガザに対して行使され「ガザ・ドクトリン」とも言われる。】

 

宗教や教育専用の建物に向けた攻撃を故意に指揮したこと(民間人の避難所として運営されている国連の学校を知りながら繰り返し攻撃目標にしたことを含む):

 

病院、医療施設とその職員に向けた攻撃を故意に指揮したこと(病院また負傷した民間人の止む無い避難所への殺害に結果する直接砲撃だけでなく、目に見える指標の付いた医療施設や任務中の救急隊員を標的にする明白なパターンを含む):

 

軍事作戦を避ける特定の地点、地域また軍隊を表示するため民間人や被保護者の存在を利用したこと(すなわち、人間の盾としてのパレスチナ民間人の利用):

 

本来的に無差別で必要以上の障害また不必要な苦痛を引き起こす性質をもつ戦争の兵器、発射体、軍用品、方式を利用したこと(フレシェット弾、新兵器DIME(高密度不活性金属爆薬)、サーモバリック兵器[カーペット爆弾](燃料気化爆弾)、劣化ウランを利用する兵器を含む):

 

戦時国際慣習法[訳注5]に違反する民間の全住民に恐怖を広げる暴力の行使(引き続く大きな爆弾に先立って警告シグナルとして小爆弾がパレスチナ人の家に投下される「屋根のノック」作戦の利用を含む):

 

【訳注5、戦時国際慣習法:ジュネーヴ諸条約などの国際人道法やハーグ陸戦条約および陸海空の交戦法規など幅広い諸条約を含む。「文民としての非戦闘員は保護対象であり、これを無視して危害を加えることは戦争犯罪である」と規定されている。】

 

[8]、プロテクティブ・エッジ作戦期間中、パレスチナ抵抗運動が民間人を無差別に標的にした兵器を利用していたという供述は、公共圏でイスラエル当局に明確に主張されていた。法廷が入手しうる情報は、プロテクティブ・エッジ作戦期間中に469人の兵士と837人の民間人の負傷をともない、パレスチナの武装グループによって66人のイスラエル兵と7人のイスラエル民間人が殺害されたということである。しかしながら、これは矛盾した情報でもあり、パレスチナ側のロケットにかんする公式のイスラエル筋からの数値は曖昧なままである。実際にイスラエル軍の検閲は箝口令を敷いており、ロケット弾が落ちた場所を当局の協力なしに確認することは非常に困難である。それらの真相を供述するために本法廷に出廷するよう招請したが、イスラエル当局は応じなかった。これにもかかわらず、RToPは、民間住民に向けてその火器能力を指揮するいかなる武装グループもそれによって戦時国際法に違反するという原則の問題を強調しておく。民間人の死を招くこうした砲撃がどこであっても、潜在的にはそれらの責任者によって戦争犯罪が犯されてきた。軍人と民間人の標的を識別することができない兵器の発砲は、それ自体犯罪である。

 

Ⅲ、人道に対する罪

人道に対する罪の文脈上の構成要件

[9]、明らかな「通常の」国内の犯罪行為が人道に対する罪の入り口に達するためには、疑いなく文脈上の法的構成要件が満たされなければならない。民間住民に対する広範にわたる組織的な攻撃であり、また犯罪者の行為が攻撃の幅広い前後関係を知りながら犯されたものでその攻撃の一部でなければならない。国際刑事裁判所のローマ規定によれば、こうした攻撃を犯す国家の存在または組織化された政策が確証されることが追加された法制上の構成要件である。国際刑事裁判所のローマ規定第7条[訳注6]は、いくつか具体的な人道に対する罪を列挙している:殺人;絶滅させること;奴隷化すること;住民の追放また強制移送;投獄また他の身体的自由の剥奪;拷問;強姦および性的虐待;迫害;強制失踪;アパルトヘイト;および他の非人間的行為。本法廷は、評決がこれら各項目に抵触するものと確信しているが特別セッションの今回の焦点と入手した資料を考慮して、RToP は(ⅰ)殺人(ⅱ)絶滅させること(ⅲ)迫害についての評決に限定する。

 

【訳注6、国際刑事裁判所のローマ規定第7条:国際刑事裁判所(ICC)は2002年オランダのハーグで発足。1998年のローマ会議において国際刑事裁判所ローマ規程が採択された。人道に対する罪はこの裁判所の管轄事項となっている。第7条人道に対する犯罪の1、この規程の適用上、「人道に対する犯罪」とは、文民たる住民に対する攻撃であって広範又は組織的なものの一部として、そのような攻撃であると認識しつつ行う次のいずれかの行為をいう。として「殺人」以下上記の具体的事例とその定義、運用が規定されている。】

 

[10]、RToPが与えられた圧倒的多数の証拠は、明らかに民間住民に対して起きた攻撃であることを確証している。激しい規模での民間人の死者、負傷者、また民間人家屋の破壊は、プロテクティブ・エッジ作戦が圧倒的にガザの民間人に直接向けられていたという‘(訴追申立て通りの=以下略)明白なケース(a prima facie case)’を立証する明らかな証拠を提供している。

 

[11]、イスラエルに引き起こされた生命の喪失と財産の破壊の程度にかんする上述で聴取され要約された証言の観点から見て、現場で収集されたさまざまな国連機関と人権団体のデータと並んで検討されたが、本法廷は、ガザの民間住民に対する攻撃が広範囲にわたる組織的なものであったという非常に‘明白なケース’を確証した動かぬ証拠があると評決する。

 

[12]、政策上の必要要件に関係して、法廷はイスラエル軍の三つの政策指令にとりわけ関係のある証言を聴取した。―すなわち、ダーヒヤ・ドクトリン(レジスタンス・グループまたは政治指導者の行為に対して不均衡な軍事力を意図的に行使して民間住民を集団的な懲罰に巻き込むこと)、ハンニバル指令(イスラエル兵が捕虜になった場合、先手を打って(捕虜を含む)その範域全体の破壊)、およびレッド・ライン指針(イスラエル部隊が占拠した家屋の周囲を任意に内密の「レッド・ライン」としそれを越えた「殺害ゾーン」を創設し(民間人を)巻き込むこと)。これらの政策の各々は、国際人道法による市民および市民の財産を保護すべき立場を破廉恥にも意図的に無視したものであり、根本的にはガザの民間住民を無差別暴力に巻き込むことである。こうした彼らの処置は、市民生活を無視して民間地域を攻撃目標にするイスラエル政府およびイスラエル占領軍の側に責任がある具体的政策の‘明白なケース’に相当する。本法廷は上記に述べられたように、国際刑事裁判所のローマ規定第7条の趣旨で人道に対する罪にかんする文脈上の構成要件が満たされる動かぬケースであると評決する:とりわけここで選ばれた(ⅰ)殺害(ⅱ)絶滅(ⅲ)迫害という犯罪に関しては。

 

(ⅰ)、殺人

[13]、殺人の人道に対する罪は、犯罪者が1人またそれ以上の人間を殺す(あるいは死を引き起こす)ことが要求される。旧ユーゴスラヴィアの国際刑事裁判所は、「不法で意図的な人間の殺害」と殺人を定義した。RToPは、プロテクティブ・エッジ作戦の期間中のパレスチナ民間人死者数の著しい割合は、故意で不法で意図的な殺害の結果であったという非常に‘明白なケース’が実行されたものと評決する。RToPは、シュジャイアで家族の身内を探している間に仮想されたレッド・ラインを横切ったというサーレム・ハリール・シャッマーリの意図的な処刑、また64歳のムハマド・タオフィーク・クォーデが自分の家の中で殺害されたひどい恐れを持たざるを得ない状況など、多数の個別的な事例にかんする証言を聴取した。RToPは、彼らの死は殺人の人道に対する罪、加えて意図的な殺害の戦争犯罪の‘明白な事例’であると評決する。

 

)、根絶させること

[14]、国際刑事裁判所のローマ規定によれば、根絶させることの罪は、住民の一部に破壊をもたらすことを意図した大量殺害および生存条件に故意に打撃を与えること(食料、水また医療処置へのアクセスを奪うことを含む)の双方を含んでいる。それゆえ、根絶させることの人道に対する罪とジェノサイドの罪にはある程度の一致点がある。しかしながら、根絶させることの罪はしばしば大量の犠牲者を巻き込むこともあるが、犠牲者が被保護集団の一員であることまたは犯罪者が全体また一部の集団に破壊をもたらそうとする特定の意思があったことを必ずしも必要としないジェノサイドとは異なっている。

 

[15]、この特別セッションの審理中、RToPは、民間住民と被保護者の財産に向けられた大量の死者に直結する攻撃について詳細で広範囲にわたる証言を聴取した。とくに法廷は、医療施設とその職員に対する攻撃の詳細な証言を聴取した。意図的で無差別な医療設備を攻撃目標とすることは、市民生活の実質的な機能低下の原因となった。加えれば、ガザの電力施設といった民間の基盤施設に対する計画的で無差別な攻撃は、大幅な死者数増大の一因ともなった。人道的回廊の拒否と結びついて、エレズとラファ通過の封鎖、UNRWA施設の攻撃目標、これらはガザ住民の一部に破壊をもたらすことを意図したもので生存条件に危害を及ぼす要因となったことは間違いがない。

 

 ()、迫害

[16]、迫害の人道に対する罪は、集団または集団の成員に対して故意で重大な基本的人権の剥奪を伴う。集団が、政治的、人種的、国民的、民族的、文化的、ジェンダーまたは宗教的理由といった差別的な目的の対象にされていることが必要である。この差別意思の構成要件は、迫害の罪をジェノサイドの罪に幾分似たものにさせているが、迫害は、全体または部分的に集団を破壊する特定の意思の立証を決定的には必要としない。RToPは、迫害の行為は次の三つのカテゴリーに従って考慮されることになると確定する:

 

○身体的または精神的な危害を引き起こす差別行為:

○自由に対する差別的侵害:

○差別的な目的による所有権(財産)に対する犯罪。

 

[17]、RToPのこれまで(5回)のセッションで採用した評決およびパレスチナの人々に対する継続する暴力の拡大に合わせて、本法廷は、イスラエル政府とイスラエル軍の戦闘行為と政策はパレスチナの人々に対する本来的な差別であると評決する。法廷は、イスラエル政府とイスラエル軍のその戦闘行為と政策では、とくにガザの人々の場合、とりわけ政治的関係、国籍、民族性、宗教、文化およびジェンダーを基礎とするパレスチナの人々に対する差別であると確定する。本法廷の評決は、加えられた犯罪と基本的人権侵害の全体が、パレスチナの人々およびガザ住民に対する差別を根拠に継続して犯されてきたものという考えに基づいている。この点にかんして法廷は、不充分ながら以下のリストに注目する:殺人;拷問(イスラエル軍に誘拐され尋問中にワイアーでぐるぐる巻きにされ性的わいせつで脅迫され、またイスラエルのために人間の盾を強要された16歳のアハマド・アブ=リーダの場合を含む);性暴力(公衆の前で服を脱ぎ裸を強制されたホザーアのイマーム、ハリール・アル=ナジャールのような);拷問とはならない肉体への暴力;容赦なく残忍な処遇;非人間的条件での屈従;規則的な屈辱と堕落;民間住民への威嚇(ガザ民間人がイスラエル軍に彼らの家の中にいるよう現に命令され、次いでじっさいに爆撃にさらされたケースを含む);不当逮捕および拘留;投獄また監禁;移動の自由の制限(人道的通路の拒絶またガザの領域から離れることの拒絶を含む);および個人住宅、会社、宗教施設、文化的な象徴建造物、生計手段などの没収または破壊。

 

Ⅳ、ジェノサイド

[18]、ジェノサイドの国際的な犯罪[訳注7]は、国民的、民族的、人種的、宗教的集団の全体また一部に対し破壊する意思をもって犯された以下の行為のいずれにも関係する。

 

【訳注7、集団殺害罪の防止及び処罰に関する条約(ジェノサイド条約)は、1948年12月9日第3回国連総会にて採択。締約国136か国。第1条[国際法上の犯罪]締約国は、集団殺害が平時に行われるか、戦時に行われるかを問わず、国際法上の犯罪であることを確認し、これを防止し処罰することを約束する。第2条[定義]この条約では、集団殺害とは、国民的、人種的、民族的または宗教的集団を全部または一部破壊する意図を持って行われた次の行為のいずれをも意味する。日本国は、憲法上戦力を保持しないので第1条の「平時、戦時を問わず防止し処罰する」ことが出来ないとして批准も加盟もしていない。】

 

a.集団構成員の殺害;

b. 集団構成員に対し重大な肉体的かつ精神的な危害を引き起こすこと;

c. 集団の生存諸条件に対し全体また一部にその身体的破壊をもたらすことを意図して故意に課すこと;

d. 集団内における出生を故意に妨げる措置を課すこと;

e. 集団の子どもたちを他の集団に強制的に移送すること;

 

[19]、ジェノサイドの直接かつ公然の扇動は、扇動の結果として誰が行為するかにかかわらず、これもまた国際犯罪である[訳注8]。

 

【訳注8、ジェノサイド条約第3条、次の行為は処罰する、のc項には「ジェノサイドを犯す直接かつ公然の教唆扇動」とある。】

 

[20]、ジェノサイドの定義によればパレスチナ人が国民的集団を成すことは明らかであり、イスラエル軍の諸行動が戦争犯罪および人道に対する罪の諸項目に該当すると見做され、上記のサブ段落a.~c.に明記された条項を満たすことが立証された。

 

[21]、ジェノサイドの犯罪は人道に対する罪に密接に関連している。人道に対する罪の迫害は特定の集団を差別から保護することを目的としているが、ジェノサイドを犯罪と見做すことはこのような(国民的、人種的、民族的、宗教的な)集団を抹殺から保護することを目的としている。ときに微妙な二つの犯罪の区別は、「破壊する意思」の構成要件で特徴的に描き出され、ユーゴスラヴィア法廷で判事たちに詳しく説明されていた:「迫害が集団また集団の一部の破壊を目論んだ故意で計画的な行為をもって過激な形態にエスカレートしたなら、こうした迫害はつきるところジェノサイドに相等すると考えられる。」

 

[22]、パレスチナにおけるイスラエルの政策と実践は、何十年もの間、イスラエルの征圧にパレスチナ人が屈服することを確実にすることを目標にしてきた。これは、1948年のイスラエル国家創設以来、パレスチナ人の強制排除と資産強奪を基礎とした入植植民地主義政策をとおして達成された。この進行過程は、度重なる軍事作戦の犯罪的な遂行だけでなく、パレスチナ人の自己決定権の剥奪とそれらの地に滞留させ続けることを確実にするよう意図したパレスチナ人の人権の系統的な侵害、ウェスト・バンクの入植地またアパルトヘイトと人種差別体制の強要、ガザ包囲とその人々に対する長期間に及ぶ集団懲罰をとおして今日も継続している。

 

[23]、その期間を通じて、イスラエルの占領政策は、彼らの身体的破壊というよりむしろパレスチナ人民の支配と服従に向けられてきたように思える。近年は、ウェスト・バンクとイスラエルでパレスチナの人々の家屋と宗教施設に自警団スタイルの「値札」攻撃[訳注9]の急増をみせた。パレスチナの人々に対する人種差別的な恐喝を特徴とするこうしたレトリックが、2014年の夏の間中、イスラエルのメディアと公的言説の表現の至るところに急速にエスカレートした。プロテクティブ・エッジ作戦の規模と強烈さは、パレスチナの人々に対する先例のない暴力のエスカレーションの兆候を示している。こうした理由のため、RToPは、いま初めて、イスラエルの政策に対する国際法のジェノサイド禁止令に照らした真剣な調査を提起せざるを得ない。

 

【訳注9、「値札」攻撃(‘price tag’ attacks) :パレスチナ人に対するユダヤ人入植者による暴力で、オリーブ畑を根こそぎ引き抜き、家屋、車など財産が破壊され、パレスチナ人の子どもが虐待され、モスクや墓地が冒涜され、数多くの悪事を働いた跡に、「price tag」の落書きを残していく。2005年の「ガザ撤退」に反発したことから始まった一部のユダヤ人入植者たちによる、「正当な価格を返せ」という一連の報復テロ恐喝キャンペーン。入植地の企業活動を制限しようとする国家政策にも反対し、ときには政府当局者や治安部隊、警察などにも報復テロがなされる。イスラエル国家はかろうじて調査はしているものの、犯人はめったに裁判にはかけられない。日本のヤクザ言葉の「落とし前」に等しい。】

 

[24]、法廷は、2014年の夏の間、人種差別的なレトリックと扇動が痛烈に著しい増加を誇示する証拠を聴取した。証拠は、このような扇動が社会的また(宗教上の)伝統的メディアで、サッカーファン、警察官、メディア・コメンテーター、宗教指導者、国会議員、さらに政府閣僚からとイスラエル社会の様々なレベルで至るところに顕在化したことを示している。これは、さまざまな程度での人種差別、憎悪および暴力への教唆扇動と判断されうる。証拠は、2014年の夏に使われた言葉づかいやスピーチが、時には、直接かつ公然たるジェノサイドの扇動を成していると判断できる臨界点に達したことを示している。

 

[25]、この扇動のあるものは、どこかのジェノサイド的な状況と同様のやり方で、目標集団に対する露骨な暴力の要求だけでなく、性的特化(強姦)、性役割の強調、また人間性を失うミーム(リチャード・ドーキンスの提唱した文化的遺伝子の概念であるが、証言者から得られた差別的事例であると思われる=訳者)、モチーフ、そして偏見の利用においても特徴づけられている。RToPは、こうした扇動の複数の実例証言を聞いた。ひとつの顕著な実例は、2014年7月に広く報道されたイスラエル国会議員アイェレト・シェケドの表現では、実際に「すべてのパレスチナ人が敵である」と定義し、「その老人と女たち、その町々と村々、その財産とその施設」を破壊せよと主張し、「テロリストの母」は「蛇を育てた肉体だから」破壊されるべきだと表明した[訳注10]。

 

【訳注10、京都大学の岡真理さんは、エレクトロニック・インティファーダからアリー・アブーニウマの《「強制収容所」「絶滅収容所」:イスラエル国会の副議長のガザ・ジェノサイド計画》を訳出紹介している(2014年8月3日)。クネセト(イスラエル国会)の副議長、モシェ・フェイグリンは、ガザのパレスチナ人の殲滅計画を発表した。フェイグリンが投稿したのは、ネタニヤフ宛ての書簡だが、「レジスタンスの巣を絶滅する」などの言葉を吐いている。】

 

[26]、ジェノサイドの法的定義は、たんに被保護集団に属する人々を対象にするのでなく、集団を破壊する意思を持っている人々を対象にしており、RToPは犯罪者の側の特定の意思の証明が要求される点に注目する。こうした犯罪を起訴する論点に関連ある証拠の綿密な調査に基づき、与えられた状況でこのような特定の意思が存在しているかどうかを確定するために国際戦犯法廷が存在する。RToPは、定義された個別の刑事責任の論点を越えたジェノサイドの新たなより幅広い理解がガザの状況にも適用するよう提起されたことを指摘しておく。ガザで長年続いた集団懲罰という体制の累積効果は、増大する破壊をもたらそうと計算されてきた生存条件が集団としてのガザのパレスチナ人に負わされていると考えられる。このプロセスは、ガザ封鎖の継続と再建能力の拒絶をともないプロテクティブ・エッジ作戦の大規模な暴力でさらに悪化させられた。本法廷は、事実上、ジェノサイドとなる上記第Ⅲ章(人道に対する罪)で論証されたような迫害体制の潜在的影響力を強調する。2014年夏にガザに対して展開された物理的かつレトリカルな暴力の明らかなエスカレーションの観点から、本法廷は、「ジェノサイドの諸行為の禁止と防止のために締約国が適切と認める国連憲章に基づく措置をとること」という1948年のジェノサイド条約のすべての締約国の責務を強調する[訳注11]。

 

【訳注11、ジェノサイド条約第8条[国連による措置]には、「締約国は、国際連合の権威ある機関がジェノサイドおよび第3条に列挙された他の行為を禁止し防止するため適当と認める国際連合憲章に基づく措置を執るように、これら機関に要求することができる。」とある。】

 

[27]、ジェノサイドの禁止―および直接かつ公然のジェノサイドの教唆扇動は、国際法の強制(a jus cogens norm=非-制限)規範を構成する。(この違反行為は国家免除を放棄せざるをえない=訳者)1948年のジェノサイド条約によれば、彼らが立憲上責任ある支配者であるか公式の当局であるかまた私的な個人であるかにかかわらず、ジェノサイドを企てまた教唆扇動する諸個人は罰せられることになる。このような犯罪に責任ある人々を調査し訴追する法的義務と並んで適切な措置をとることがあらゆる国家の責務となる。さらにそれ以上に、その軍隊と政府の人物たちがジェノサイドの共謀、扇動、企て、共犯に関与しているのに、(上に述べたことを)しないイスラエル国家を保証することは、あらゆる国家の責任となる。

 

[28]、法廷が受け取った証拠は、イスラエル国家がジェノサイドを直接また公然と扇動する犯罪を防止し処罰するその義務を怠っていることを明示している。これは、パレスチナでのイスラエルの軍事行動に対応して2014年7月に国連事務総長の特別顧問が発したジェノサイドの防止および保護責任に関する警告と合致している:「とくにパレスチナ住民に対するソーシャル・メディアでの罪悪感のないヘイトスピーチの使用によって、ワレワレハ等シク侵害サレテイル。」特別顧問は、集団の構成員の殺害を要求する個々のイスラエル人が広めてきたパレスチナ人に対する人間性を奪うようなメッセージに注意を促した。顧問は、残虐な犯罪を犯す教唆扇動は国際法によって禁じられていると再度強調した。

 

[29]、RToPの以前のセッションは、イスラエル国家がパレスチナ人を支配するイスラエル・ユダヤ人の支配的立場に基礎を置くアパルトヘイト体制の要件を満たしていることを立証した(「ケープタウン・セッション」=訳者)。ガザのパレスチナ人の長期にわたる包囲と集団懲罰、ウェスト・バンクの継続する入植地プロジェクト、そして現在頻繁に起こっているガザ地区の民間住民に対する大規模な軍事襲撃、それらの上に、さらに悪化して増大している人種差別的なヘイトスピーチが加えられなければならない。人道に対する罪の基本パターンが不処罰のもとで犯され、また直接かつ公然としたジェノサイドへの扇動が社会の至るところで顕在化しており、(イスラエル国家は)こうした状況下にあると考えられる。それは、ジェノサイドの犯罪を犯すためにこれらの諸条件を利用することを個々人また国家が欲しているようにさえ考えられる。直接かつ公然のジェノサイドへの扇動という国際犯罪を構成する反-パレスチナ人スピーチの増大、およびジェノサイドへの扇動を防止し処罰するその義務を実行すべきイスラエル国家の不履行に着目すると、RToPは、現在犯されているジェノサイドの犯罪の危険性にかんする警告については国際社会に信を置かざるを得ないと、いま現在、強く考えさせられている。裁判官は、この特別セッションの進行全体で、警告ともいえる驚くべき証言を聴いた。犯罪を積み重ね、制裁もなく、刑罰を免れている情況では、ルワンダの教訓と別の大規模な残虐行為が、繰り返し無視されて行くかもしれないと、われわれは心底からの惧れを抱いている。

 

Ⅴ、結論と行動

[30]、上記の評決を考慮して、パレスチナにかんするラッセル法廷はイスラエル国家に対しただちに命じる:

 

◆占領を終結しパレスチナ人の自決権を尊重すること;

  ◆国際法に従ってその義務を完全に尊重すること;

  ◆人権侵害を受けた犠牲者に完全な賠償を与えること;

  ◆すべての政治犯の囚人を解放すること;

  ◆実際に国際犯罪の責任の疑いのあるいかなる個人も真剣に調査し起訴すること;

  ◆ジェノサイド条約に違反するいかなる行為も防止し処罰するよう実行すること;

 

[31]、イスラエルとエジプトに向けて:

◆ガザの包囲および封鎖をただちに解除すること。またメディア、人道および人権諸組織に対し妨げられることのない通行権を許可するだけでなく、ガザ地区の妨げられることのない再建を可能にすること:

 

[32]、欧州連合に向けて:

◆平和の保持、真の国際安全保障の強化、民主主義および法の支配の強化と発展、また人権および基本的自由の尊重、これらの目的を遂行するための制限措置にかんするEU政策と歩調を合わせて、とりわけイスラエルに対して制限措置を採用すること:

 

◇EU-イスラエルの提携協定を一時停止すること;

 

◇EU-イスラエルの科学援助協定を一時停止し、またイスラエル軍事関連企業との協力をただちに中止すること;

 

◇武器およびすべてのタイプに関わる軍需品の売却、提供、移転、輸出に関する禁止を含むイスラエルに対する包括的な武器通商禁止を課すこと。また資金提供引当金と技術援助、軍事活動に関連する仲介サービスとその他の事業の禁止;

 

◇イスラエルからのすべての軍事装備(備品、機器、技術)の輸入の一時停止;

 

◇国際刑事裁判所にかんするEU政策と歩調を合わせ、ただちにローマ規定を承認するようイスラエルとパレスチナに活発に促すこと;

 

◇イスラエル軍が破壊したEUおよび/または加盟国が資金提供した基盤施設の危害に対して返済を要求すること;

 

◇すべてのEU加盟国がパレスチナ国家を承認すること;

 

◇その2004年の国際司法裁判所(ICJ)の勧告「分離壁の法的義務にかんする勧告」の実施に向けて支持し実行すること;

 

[33]、国連加盟国に向けて:

◆すべての加盟国は、ガザ地区におけるイスラエルの占領、包囲および犯罪から生じる不法な状況に終結をもたらすために協力すること。援助拒否あるいは援助義務と並んで、すべての加盟国は、制裁の賦課、国際機関を通して共同での外交関係の断絶、あるいはコンセンサスが得られない場合でも個別にイスラエルとの相互関係の中断を含めて、イスラエルに十分な圧力を及ぼすための適切な措置を検討しなければならない;

 

◆国連総会はイスラエル国家に対し完全な武器の通商禁止(武器禁輸)を要求すること;

 

◆「それらの国家がジェノサイド行為の防止と鎮圧のために適切な検討をするよう、国連憲章に基づく措置をとること」および第四ジュネーブ条約(第1条)[訳注12]の「尊重を確実にすること」という義務をすべての加盟国が果たすこと;

 

【訳注12、第四ジュネーブ条約第一編総則第1条〔条約の尊重〕に、「締約国は、すべての場合において、この条約を尊重し、且つ、この条約の尊重を確保することを約束する。」とある。】

 

◆アメリカ合衆国と欧州連合加盟国は、国際正義の諸機構に(不当に)関与することを止めて、パレスチナ自治政府に圧力をかけることを中止すること;

 

◆すべての当事国は、国連人権委員会の調査に協力すること。またその調査目的のため委員会がイスラエルとガザの完全な通行権を許容されることを確保すること;

 

◆国連人権諸機関が、ジャーナリスト、メディア従事者、医療従事者の基本的な自由と権利の侵害を調査すること;

 

◆イスラエルの占領と破壊の支持を停止するように、援助国はパレスチナの国際援助体制の完全な再構成を保証すること;

 

◆すべての加盟国は、パレスチナが完全に国連加盟国の一員であることを含むパレスチナ人の自己決定権の完全な達成を援助すること;

 

◆保護責任ドクトリンに鑑みて、すべての加盟国は、パレスチナ人の人権ステップの継続的な拒否を考慮して、これ以上の残虐行為を防止する措置を確実にすること;

 

[34]、パレスチナ自治政府に向けて:

◆パレスチナ国家は国際刑事裁判所のローマ規定に遅滞なく加盟すること;

◆人権理事会の調査に完全な協力体制をとること;

◆国際正義の諸機構と完全な関係を築くこと;

 

[35]、世界の市民社会に向けて:

◆ボイコット、資本引上げ、および制裁の運動を完全に支持し、発展させ、広げること;

 

◆国際市場を利用する占領を支持したり利益を得たりするイスラエルの企業および機関を拒否することを目標とした活動を支持すること;

 

◆英国のエルビット・システム社[訳注13]のようなパレスチナ人に対する犯罪任務に資金援助し幇助する企業を閉鎖する行動を起こす活動家に連帯を示すこと;

 

【訳注13、英国のエルビット・システム社:イスラエルに本拠を置く世界的な軍事・情報企業。宇宙軍事システム、情報通信システム、無人機などの生産・販売など軍民双転用の技術提携も盛ん。米・英・仏など世界十数か国に関連企業をもつ。】

 

◆それら企業がイスラエルの犯罪に寄与しないことを確実にし、またそれら企業が国際法の布告と原則に一致した行動をとることを確実にするため、即時の措置をとるよう活発なロビー活動をして各国政府に圧力をかけること;

 

 

私は、みなさんに、あなた自身の憤りの動機をもってほしいと願います。これが大切です。何かがあなたを憤慨させるとき、あなたは闘志にあふれ、強くなり、関わるようになるでしょう。Stéphane Hessel[訳注14]

 

【訳注14、Stéphane Hessel:ステファン・エセル、1917年ベルリン生まれのドイツ系ユダヤ人、2013年95歳で逝去。ナチ時代のフランス・レジスタンスの活動家で、1944年創案の世界人権宣言の起草に携わる。フランスの外交官であるが、2002年から5回ガザを訪れ2008年末からのキャスト・レッド作戦後もガザで惨状を確認し、ゴールドストーン報告書を推奨している。彼の人生を貫く言葉は、「憤ることの大切さ」、「最悪の態度は無関心である」。ちなみに、映画『怒れ!憤れ!―ステファン・エセルの遺言―』が全国で上映予定。】

 

(以上、翻訳終わり)

〈記事出典コード〉サイトちきゅう座http://www.chikyuza.net/
〔eye2804:141029〕