一歩後退・二歩前進へ - 安保法成立、持続したい安倍政権・自公への怒り -

著者: 岩垂 弘 いわだれひろし : ジャーナリスト
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 「平和国家」から「戦争ができる国」へ。9月19日、日本は戦後70年にして歴史的な大転換点を越えた。安倍政権と自民・公明両党が、国民多数の声を無視して安保関連法案を17日の参院特別特別委で強行可決、続いて強行開会した参院本会議で19日未明に可決、成立させたからである。これで、集団的自衛権行使が法的根拠を与えられ、自衛隊が米軍とともに戦う道が開かれた。安倍政権は、これに乗じて、最終の目標である「明文改憲」に着手するものと思われる。ここに至って国民の多数派に求められるのは、これを阻むための持続的な運動だ。

 日本国憲法第9条には「日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する」「前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない」とある。第2次大戦後、新生日本として再スタートした日本を支えてきた背骨とも言える条文であり、日本がこれを曲がりなりにもずっと堅持してきたからこそ、諸外国から「日本は平和国家」と見られてきたわけである。

 しかし、安倍政権が集団的自衛権行使を遂行するために国会へ提出した安保関連法案は、憲法の専門家である憲法学者や、元最高裁長官、元最高裁判事、元法制局長官らによって9条の規定に違反する違憲法案であると繰り返し指摘された。にもかかわらず、安倍政権はこれらの指摘にまともに答えようとせず、法案を強行的なやり方によって成立させた。こうした政治的行為は近代国家の規範である立憲主義を根底からないがしろにするものであり、まさに「クーデター」と呼ぶにふさわしい。日本は、こんな無理が公然とまかり通る野蛮な国になってしまったのかとあ然とせざるをえない。9月19日は、一国のトップが米国への約束を優先して民主主義を踏みにじった日として長く記憶されることになるだろう。
 
 安保関連法案が衆院で強行採決されて以来、法案の廃案を求めて国会を目指す市民が日増しに数を増した。国会を包囲する人の輪も日毎に広がった。地方で暮らす人々の間にも国会周辺で叫ぶ人々の思いは次第に伝わっていった。だからであろう。朝日新聞社が9月12、13両日におこなった全国世論調査では、安保関連法案について「賛成」29%、「反対」54%、今国会で成立させる必要が「ある」が20%、「ない」が68%、国会での議論については「尽くされた」11%に対し、「尽くされていない」は75%に上っていた。
 なのに、安倍政権はこうした民意に目もくれず、法案の強行採決に突き進んだ。これほど民意をかえりみない政権は極めてまれで、戦後では、1960年に日米安保条約改定案の承認案件を衆院で強行採決した岸信介内閣以来だ。

 安倍首相の最大の悲願は憲法改定、つまり、明文改憲である。第9条を書き換えて海外にも派兵できる軍隊、国防軍を創設することだ。それ故、安保関連法の制定を果たした首相が次に目指すのは明文改憲であろう。このため、来年夏に予定されている参院選では、自民党を中心とする改憲勢力が議席の三分の二を占めるよう全力を注ぐと思われる。なぜなら、参院ではまだ自民を中心とする改憲派が、改憲発議に必要な三分の二に達していないからだ。
 したがって、今回、安保関連法案に反対した市民には、明文改憲を阻止するための新たな取り組みが求められよう。具体的には、来年夏の参院選で自民党を中心とする改憲派を当選させないための運動だ。
 
 安保関連法案に反対する運動に取り組んできた市民たちにとって、今回の事態は敗北である。いうなれば、「一歩後退」だ。しかし、もし、来年の参院選で自民、公明両党の議席を後退させて安倍首相の狙いを打ち砕くことができれば、市民側にとっては「一歩前進」である。さらに、市民の運動によって将来、安保関連法を廃止できる内閣を誕生させることができれば「二歩前進」となる。

 それには、安倍政権と自民、公明両党の暴挙に対する怒りを、来年の参院選まで持続することが必要だ。
 日本人は熱しやすく冷めやすい、と言われる。また、日本人は既成事実に弱い、とも言われる。現に、こんなことがあった。1960年の日米安保条約改定問題では、条約改定阻止運動が同年6月に空前の規模に盛り上がったにもかかわらず、それから6カ月後の同年11月の総選挙では、改定阻止の先頭に立った社会党(社民党の前身)が敗れ、改定推進の自民党が勝利した。すなわち、この問題が起こる前に287議席であった自民党が296議席に増えたのに対し、社会党は 166議席から145議席に減ったのだ。条約改定阻止運動の熱気が、条約改定案の自然承認とともに国民の間で急速に冷めていったのが社会党敗因の一つだったと、私はみる。

 こうしたことを繰り返さないためにも、怒りを持ち続けることが求められるというものだ。9月18日、自民、公明両党による参院特別委での強行採決に抗議して国会議事堂正門前につめかけた人たちが掲げたブラカードには「賛成議員は落選させよう」「自公議員は当選させない」「復讐は選挙で」と書かれたものが目立った。抗議の声をあげる人たちの目は、すでに来年の参院選に向かっているようだった。市民の怒りは、鎮まることなく、これからも続きそうだ。

 安保関連法に対する違憲訴訟も各地で始まるにちがいない。これを支援してゆくことも不可欠だ。そのためにも息の長い運動が求められる。

初出:「リベラル21」より許可を得て転載http://lib21.blog96.fc2.com/
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