沖縄で10~11月、米兵による事件がまたも発生。垂直離着陸輸送機オスプレイ強行配備と重なって、県民の怒りが高まっている。特に米兵の乱暴狼藉は跡を絶たず、日米関係の悪化が憂慮される。
10月16日、米海兵隊員2人が集団強姦事件を起こした。事態を重視した米側は直ちに「日本に駐留する米軍兵士に対し、夜間外出(午後11時~翌午前5時)禁止令」を出した。ところが効き目はなく、半月後の11月2日夜、県内の居酒屋で、店長が酔っ払った米空軍兵に「門限ですよ」と声をかけたところ、突然階段を駆け上がって3階の民家に押し入った。寝ていた少年の顔を殴り、テレビなどを破壊して窓から逃走を図った。ところが窓から転落して重傷、米基地内の病院に搬送された。
身柄引き渡しを要請しない不思議
琉球新報11月7日付社説は、「またしても日米地位協定の壁によって不平等な形で捜査が進むことになった。米空軍兵による住居侵入中学生傷害事件について、県警はこの兵士を容疑者と断定したにもかかわらず、地位協定の運用改善で定められた起訴前の身柄引き渡しを求める凶悪事件に該当しないと判断し、兵士を逮捕せず、引き渡しを求めなかった。起訴前・身柄引き渡しの議論となるのは、警察が容疑者を特定した時点で該当の米軍人、軍属が基地の中にいる場合だ。基地の外にいるところを県警が発見して身柄を確保すれば、起訴前引き渡しの議論は起こらないはずだ。今回の住居侵入傷害事件は米兵が犯行後に建物の3階から転落して重傷を負ったため、人道的な見地から基地内の米海軍病院に搬送された。治療が済んで退院したのに、嘉手納基地内に移送されたのは解せない。退院後は県警に身柄を引き渡すのが筋であり、米軍監視下に置かれた措置が正当だとは思えない。事件当日、藤村修官房長官は『起訴前の身柄引き渡しを要請する必要はない』との見解を示している。事情聴取も開始されていない段階での“口先介入”は何を意図しているのか。政府関係者が『(引き渡しを)申し入れれば、日米間に摩擦が生じる』と明かしており、日米関係悪化の懸念ばかりを優先する姿勢としか映らない。1995年に合意した運用改善による身柄引き渡しの実現はこれまで2件しかない。凶悪事件に限定した運用改善を甘受しているような国が主権国家といえるのか」と、米軍優位の地位協定の問題点を指摘している。
もはや制約を設けることなく、全ての容疑者に適用するよう地位協定改定交渉を進める好機である。
「旧安保条約」と変わらぬ米国優位
28条からなる日米地位協定の正式名称は「日本国とアメリカ合衆国との間の相互協定及
び安全保障条約第6条に基づく施設及び区域並びに日本国における合衆国軍隊の地位に関する協定」といい、旧安保条約と同時に締結された日米行政協定はその前身である。日米行政協定は、NATO軍地位協定をモデルとして締結されたもので、米軍の占領政策継続を保障した協定。1960年の新安保条約締結時に行政協定も改定され、現在の地位協定となった。改定といっても、基本的には行政協定の内容が受け継がれたため、地位協定は行政協定締結時の日米間の力関係を色濃く残した不平等・不合理な協定となっている。
NYタイムズ紙は11月5日「沖縄県民の懸念に対して敏感であるべきだ」と題する社説を掲げ、「沖縄米軍基地の県外移転、地位協定改定を求める」と述べている。沖縄駐留米軍の問題点を取り上げ、負担軽減を求める沖縄県民の主張に、大筋で沿った提言と受け取れる。
沖縄県は長年、地位協定改定を政府に要望してきた。しかし政府は、一貫して改定に消極的だった。米側の事情にばかり配慮する政府のスタンスに、沖縄県民が怒るのは当然だ。民主党政権は前回総選挙の政権公約に「地位協定改定を提起」を明記していたが、これまた公約違反とは情けない。
ドイツ・イタリア地位協定の独自性
NATO軍が駐留するドイツとは大きな違いがある。ドイツの場合、NATO軍に適用されるNATO軍地位協定を補足する協定(ボン補足協定)を有し、駐留NATO軍に対し、一定の規制をかけている。ドイツの場合、特定の施設の使用に対するドイツ側の利益(国土整備、都市計画、自然保護など)が明らかに上回る場合ドイツ政府は、その施設の返還を請求でき、駐留軍は請求に対して、妥当な考慮を払うことを義務付けている(第485項b)。これにより、施設を提供することがドイツ側の不利益につながる場合は、施設を提供しないという解釈も可能。また、駐留軍に対しては、施設の需要について、一定期間毎にドイツ連邦当局に報告することも併せて義務付けている(第48条1項b)。
日本との違いが歴然ではないか。日本の場合、不要となった「施設及び区域」の返還についての規定が薄弱。先に見たボン補足協定が、返還基準に関して「ドイツ側の利益が上回る場合」と具体的な基準を設けているのに対し、日米地位協定の場合、日米「いずれか一方の要請があるとき」「この協定の目的のため必要でなくなったとき」などときわめて抽象的な規定に留まっている。何らかの明確な基準を設けることが必要だ。またドイツは、駐留NATO軍に対し、一定の規制をかけている。駐留軍に対しては、施設の需要について、一定期間毎にドイツ連邦当局に報告することも併せて義務付けている(第48条1項b)点も注目される。
またイタリアは、ドイツより駐留米軍に厳しい縛りをかけているという。北部にあるアビアーノ米空軍飛行場はイタリア空軍が管理し、一日の飛行回数とルートを規制、騒音対策を徹底している。
夏場の午後1時から4時まで昼寝するイタリアの習慣「リポーゾ」に従い、米軍機もエンジンを切って自粛すると聞かされて、驚いた。日本と独・伊の差は歴然としており、ただ耐えるだけの沖縄県民に救いの手を差し延べない日本政府の弱腰を痛感させられた。
国際問題研究者の新原昭治氏の調査により、日本側が特に重要と考える事件以外については、「公務外」の事件であっても第一次裁判権を放棄する旨の密約(1953年10月28日締結)があったことが明らかになった。当時の在日米軍法務官・国際法主席担当官のデール・ソネンバーグ氏は2001年に発表した論文の中で、日米密約の存在を明記したうえで、「日本はこの了解事項を誠実に実行してきている」と密約が現在も実行され続けていることを認めている。
中国封じ込めのガイドライン再改正
長島昭久防衛副大臣は11月9日、ワシントンでカーター国防副長官、キャンベル国務次官補と「日米防衛力のための指針」(ガイドライン)再改定の協議を開始した。両政府は12月上旬に外務、防衛当局の実務作業に入るという。森本敏防衛相は9日「前回、予想していなかった多岐にわたるリスクが問題となり、東アジアでは朝鮮半島だけでなく、中国が海洋に出てくる問題ある」と述べ、中国を意識していることを認めた。
中国を封じ込める米戦略の一環であることは明らかで、日本にとっても重大案件だ。最近、日米合同の離島奪還作戦を行うなど日米軍事協力強化に米国は必死で、米国が同盟各国との提携にシフトしたと考えられる。防衛予算の大幅削減もあって、「世界の警察官」役を果たせなくなった証左であろう。米軍高官が「アフガニスタン駐留の米兵3万人余が近く帰還するが、沖縄にも多くの兵隊が帰って来る。戦場で心身が傷ついた兵隊が、凶暴な事件を引き起こすことが心配だ」と漏らしていたが、米政府の悩みは深刻だ。
「ガイドライン見直し」日米協議の一項に、「地位協定」改正があるか気になって、各紙を点検したが全く見当たらなかった。メディア各社は、この不条理を徹底究明してもらいたい。
初出:「メディア展望」12月号(新聞通信調査会)より許可を得て転載 ――編集部
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 http://www.chikyuza.net/
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