中国、ミャンマー抵抗軍に戦闘停止せよと警告 ――そのくせ他国には内政干渉するなという、その身勝手さ傲慢さ

著者: 野上俊明 のがみとしあき : ちきゅう座会員
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 複数の地元メディアの伝えるところでは、中国雲南省の国境にある瑞麗市安全保障委員会は、タアン民族解放軍TNLAに対し、ミャンマー国軍との戦闘をただちに止めよと警告を発したという。もし止めなければ、中国が懲罰的措置をとることになり、同グループは「その結果に責任を負う」ことになると述べたそうである。8/30、中国外務省の高官も、中国は「ミャンマー北部の紛争を非常に懸念している」とし、「引き続き同地域の情勢の緩和と沈静化を推進していく」と語った。事実、中国(人民解放)軍は瑞麗地区で地上部隊と空軍部隊による実弾演習を実施して威嚇的な姿勢を誇示し、かつ国境封鎖して、瑞麗市とミャンマーの貿易都市ムセとを遮断し、タアン民族解放軍らに燃料や食料、医薬品などの物資が渡らないように措置したという。また中国は、国境地帯の最強力部隊を有するワ州連合軍UMSAやカチン独立軍KIAのトップクラスとも会談した。UMSAに対しては、抵抗勢力に武器弾薬を渡さないように、KIAに対しては戦闘を停止して、軍事政権と交渉するよう圧力をかけたと言われる。中国外務省曰く、「中国はミャンマーの和平と和解のプロセスにおいて建設的な役割を果たし、ミャンマー北部の緊張緩和を推進していく」。

 シャン州北部の街道を進軍するタアン解放戦線TNLA       イラワジ
 中国軍が国境を越えてミャンマー内戦に軍事介入することは今のところ考えられないが、しかし軍事政権を支えるために物心両面のバックアップする姿勢を強めている。「ラジオ・フリー・アジア」9/2によれば、軍事的な敗北が続き、主要な収入源であった国境貿易拠点を反政府派に押さえられているため、財政難に苦しみ、戦争継続能力に支障をきたしつつある軍事政権に、中国の王毅外相は最近、軍事政権に30億ドルの財政的救済策を提案したという。これに対し、併行政府である統一政府NUGは、直ちに抗議の声明を発した――「国民を代表する権利を持たず、国民から力ずくで国家権力を奪取した非合法な軍事評議会が、公的債務を装って国内外の貸し手から借り入れることに手を貸し、テロ、迫害、虐殺の手段に資金を提供していることは、許されないし、容認できないことだ」。かくも反革命に手を貸す中国とはいったい如何なる国なのか。二十世紀の教訓――安定した市民社会とデモクラシーを持たない国は、たとえ社会主義を標榜し国力が増したとしても、ほんとうに国際社会の公益に資するのかどうか、疑問を持たざるを得ない。
 さて、軍事政権が、来年11月の実施を公約している総選挙であるが、中国はこれを内戦を封じ込め、情勢を安定させる鍵とみなして、軍事政権への全面協力の態勢に入っている。しかし中国・習近平指導部のこうした判断と外交姿勢には、ある面驚きを禁じ得ない。国民の圧倒的多数が反旗を翻している軍事政権に肩入れして、自国の権益を守ろうとするのでは、かつての帝国主義諸国と同じ轍を踏むことになる。残忍かつ無能で、腐敗堕落し、反人民的な傀儡政権を半ば無理を承知でテコ入れして見事に敗北してきた事例を、かつては解放勢力の側に立って観ていたであろう中国が繰り返そうとしているのである。アフガン侵略で国を滅ぼしたソ連と同様、社会主義の表看板とは裏腹に、中国も帝国主義的な対外姿勢に傾斜しつつあるとみるべきではないか。対ミャンマー外交で、中国対外路線のすべてを判断するつもりはないが、それにしても東南アジアの奥地でやっていることはあまりにえげつない。

マンダレーPDFは先週、マンダレー地域北部の郡区を解放した後、住民から歓迎を受けた。イラワジ
<内戦に介入、ミャンマー国民の主権侵害>
 崩壊の危機に瀕する軍事政権への中国の肩入れに対し、当然ながらミャンマー国民はあげて怒髪天を衝くがごとく怒りまくっている。ミャンマー国民がいま多大な犠牲を払いながら、自らの主権を行使して近代的民主的な連邦国家を築こうとし、その大いなる可能性が開けつつあるときに、中国が傲慢不遜にも目の前に立ち塞がろうとしている。駐ミャンマー中国大使館が、8/31に中国外務省の声明――中国はミャンマーの和平と和解のプロセスにおいて建設的な役割を果たし、ミャンマー北部の緊張緩和を促進し続けるであろう――が、フェイスブックで掲載されてから、ミャンマー人のネットユーザーからの投稿が殺到したという。中国の内政干渉への非難とともに、タアン民族解放軍TNLAへの励ましと連帯の内容が圧倒的だったという。これほどまでに中国嫌いをつくっておいて、なお両国関係に未来があるなどとどうしていえるのか。
 なるほど、中国は、ラカイン州沿岸からミャンマー中央部、シャン州を経て雲南省に至る石油・ガスパイプライン、マンダレー地域のタガウンニッケル鉱山、ザガイン地域のレッパダウン銅鉱山、中国・ミャンマー経済回廊内のその他のプロジェクトなどに関わり、膨大な投資を行なってきた。しかし、そのほとんどがミャンマーの軍事政権下で契約締結されたものであり、ミャンマー国民が必ずしも便益に浴するものばかりとは限らない。中国に弱みを握られて、不承不承サインしたものも少なくないであろう。
 中国の出方は、習近平政権の覇権主義的傾向を反映するものであろう。道理が薄弱で力でねじ伏せようとする志向性がますます強まっている。くわえて昨今の中国経済の不振から、「一帯一路」関連の過剰投資(受け手の過剰債務)の危険性が露呈するのを回避すべく、投資済みのプロジェクトの実行を急がせているのであろう。そういう意味で、一種のあせりが中国外交を歪ませているのかもしれない。それにしても王毅外相のミャンマー問題に寄せる外交方針を聞いても、そこにあるのは中国の国家利益的関心だけであり、ヒューマニズムのひとかけらも感じ取られない。中国革命とは人類の普遍史的観点に立てば、しょせんその程度のものだったのかもしれない。

<旧王都マンダレーの包囲網進む>
 下図をみれば、旧王都でありミャンマー第二の都市であるマンダレーに対する抵抗勢力の包囲網が出来上がりつつあるのがわかる。特にマンダレーから北東部74キロに位置するピンウールインをめぐる攻防が鍵になる。陸軍士官学校はじめ軍関係の施設があり、軍の士気にかかわる伝統的な国軍のまちなのである。ここを落とせば、マンダレーの包囲網はほぼ完成する。しかし人口170万人を数える大都市だけに、市への突入は民間人に多大な犠牲を強いることになる。170万人が避難できるような場所はどこにもない。国軍は敗北し撤退した町には、焦土作戦で空から陸から猛烈な報復的砲爆撃を加え、容赦しないのである。
――アジア太平洋戦争=日英戦争の昭和二十年最後のヤマ場は、マンダレーやメイクティ―ラをめぐる攻防戦であったが、マンダレーヒルに立てこもる日本軍に対し、連合軍は焦土・殲滅作戦で臨み、マンダレー市の多くが灰燼に帰した。
 そういう意味では、個人的見解だが、噂になっているマンダレー攻略は、時期尚早であろう。巨大都市の攻略は、ゲリラ戦ではなく正規軍による機動戦となる。そのような用意と覚悟が抵抗勢力の側にあるとは思われない。軍事的政治的な条件がもっともっと熟し、江戸城ではないが、マンダレーへの抵抗軍の無血入城すら可能になるくらい、軍事政権を締め上げなければならない。

戦況概況図

太陽マーク=軍事衝突、黄色マーク=抵抗勢力支配、緑マーク=国軍支配。イラワジ
 9/3、「ミャンマーのための勇敢な戦士たち」(BWM- Brave Warriors for Myanmar)と称する人民防衛軍の戦士たちは、マンダレー宮殿にある中央地域軍司令部に対して迫撃砲攻撃を敢行し、司令部の要員に多くの損害を与えた。軍事政権No.2のソ―ウイン大将は負傷を免れたが、ほうほうの態でヘリコプターでネピドーに逃げ帰ったという。
 同様のニュースが入っている。9/4政権トップのミンアウンフライン最高司令官は、カレニ―民族防衛軍KNDFとの激しい攻防戦となっているカレン二―州の州都ロイコーで、庁舎内にある地域作戦司令部で打ち合わせ中、榴弾砲弾を浴びたという。難は遁れたというものの、政権トップですら安全な場所はなくなりつつあるのである。抵抗勢力の情報によれば、政権内部から密告があったという。それを聞くと、南ベトナムのグエンバンチュウ政権中枢部にまでスパイが入り込んで、大規模作戦の内部情報が解放勢力にタダ漏れしていたという事案を思い出す。しかり、政権の末期症状が現れ始めているのである。

マンダレーヒルからの景観。右側旧コンバウン王朝宮殿内に司令部が設置されている。

<若干のコメント>
 中国の軍事政権への肩入れは、ミャンマー国民の反中国感情をかき立て、全員を敵に回してしまうという意味で、持続可能ではない。真の国家利益―経済的な利益、安全保障上の利益、地政学上の安定―という観点からみても、合理的な判断とは到底思えない。しかも軍事政権と敵対する少数民族組織にも援助を供与しながら、両者の仲介者として、つまり分断と調停を上手に使い分けて地域支配を貫徹しようとしている。しかし西欧的価値嫌いもあってであろう、最大の多数派である民主主義志向のビルマ族系国民の意向を完全に無視し、世界で最も残虐な軍隊のひとつであるミャンマー国軍に入れ込む結果になってしまっている。つまりアメリカはじめ歴代の帝国主義者が犯した誤りを繰り返そうとしているのである。
 抵抗勢力側の問題点もいくつか露呈しているので、指摘しておこう。
 まずは、ロヒンギャに対する迫害と虐殺が再発している。ラカイン州は州都シットウェ地域以外の土地はほぼアラカン軍AAが制圧しているが、その過程でアラカン軍によると思われるロヒンギャへの虐殺が数千人規模で行なわれているという。アラカン族も仏教徒であり、もともとムスリムに対しては敵対感情を有しており、現在の攻勢のなかで勝利と支配を見越して、邪魔な存在を少しでも減らしておきたいという動機が働く可能性がある。国連はじめ国際社会が声を大にしてアラカン軍の所業を非難し、ロヒンギャ難民救出の手を早急に打たなければならない。宗教や民族ethnicityによる分断線が活発化すれば、それは本来は味方同士の相打ちとなり、軍事政権の思うつぼである。

マンダレー人民防衛軍(MDY-PDF)に入隊し、訓練を受ける女性たち。Myanmar Now

5月27日、カイン州コーカレイ郡区でパレードするヤンゴン地方人民防衛軍の新兵。徴兵から逃れて入隊した青年も多いという。  Frontier Myanmar

 中国が介入することによって、今般の戦いの二重性格―内戦と革命―が曖昧にされ、理念なきモノ獲りにされてしまう危険性がある。近代的な民主的連邦国家を、そのための最大の障害である国軍を打倒しつつ実現する。この共通利益のために宗教、民族、地域等の差異に十全な配慮を払いつつ、諸民族の統一戦線A united front of the ethnic groups   を結成して戦うのである。もちろん連邦制の解釈もいろいろであろう。中央統一政府との連携の深いfederalismもあれば、ワ州連合軍やアラカン軍が考える独立性の強いconfederationもある。当面はその差異を尊重しながら、軍部独裁打倒の一線に並び立ち、共同行動を積み重ねて相互理解を進めていく以外に道はない。それが進めば、中国にも己が誤った選択をしていることに気づかせることもできるであろう。
<追加>
 9/6付反体制メディア「イラワジ」は、中国の不当な恫喝に対するミャンマー市民社会の抗議を、次のように伝えている―以下抄録。
――270以上のミャンマーの民間社会団体が中国に対し、同国の少数民族武装組織(EAO)に対するあらゆる脅迫を直ちに停止し、違法なミャンマー軍事政権との停戦と譲歩に同意するよう圧力をかけるのをやめるよう求めた。・・・276団体は声明で、EAOはミャンマー革命の最前線に立っており、その領土で事実上の権力者として機能し、将来の連邦民主主義の重要な利害関係者である一方、軍事政権は「ミャンマー危機の根本原因である違法で非合法な犯罪組織」であると述べた。・・・
 彼らは、中国との国境に不安定さをもたらしているのは軍事政権の行動だとし、中国にミャンマー軍事政権への支援をやめ、革命勢力と市民社会を弱体化させるのをやめるよう要求した。彼らはさらに、中国による軍事政権とその選挙計画への支援はミャンマー国民の意志を損ない、国民の苦しみを深め、危機を長引かせるものだと付け加えた。軍事政権の選挙計画は国際的に広く偽物として否定されている。
 反軍事政権同盟ヤンゴン(AJAY)のナン・リン氏は、・・・「我々の革命勢力は中国に対する憎悪を煽っているわけではない。我々は中国を憎んでおらず、いかなる民族も憎んでおらず、敵を求めているわけでもない。しかし、我々の国民の自由、正義、尊厳への道に対するいかなる干渉や圧力も受け入れない」と語った。同氏はさらに、ミャンマーに軍事評議会と独裁政権が存続し、中国が軍の側に立って人民の弾圧に目をつぶる限り、ミャンマー国民の間で中国に対する認識は好意的でなく、中国のプロジェクトや利益も不安定になるだろうと付け加えた。

〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 https://chikyuza.net/
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