中国による「民族文化ジェノサイド」を防止する有効な手立ては?

(2020年9月12日)
中国の香港民主派への弾圧の印象が強烈で、以来この大国の人権状況が気にかかってならない。香港以前には、チベット・ウイグルに対する弾圧が問題とされており、香港後は台湾だろうと思っていたら、突然に内モンゴル自治区における「同化政策」が大きな住民の反発を招いているという報道である。

私は、昨年(2019年)8月に、旧関東軍の戦跡をめぐる内モンゴルの旅に参加した。ハイラルからノモンハン、ホロンバイル、そしてロシア国境の満州里まで。あの独特の縦書きのモンゴル文字をあちこちで見かけたが、その文字と言語の消長が問題となっているとは気が付かなかった。見る目のないことは如何ともしがたく、バス旅行の行程では不穏な空気を感じ取ることもできなかった。

それでも、モンゴル族の現地ガイドに「漢族との差別はありますか。不満はないのですか」と聞くと、漢族の通訳に聞こえぬよう配慮しつつ、「それは、当然にありますよ」と語っていた。が、明らかにそれ以上に話はしたくないという態度で、このテーマでの会話の発展はなかった。

あれから1年。この9月から始まった新学期での学校教育が様変わりだという。これまで保障されていた内モンゴル自治区内小中学校でのモンゴル語教育が、事実上中国語(北京官話)だけとされることに、モンゴル族の住民が激しく反発して抗議行動が噴出し、これを当局が厳しく取り締まっている、という。ああ、香港と同様の構図だ。

本日(9月12日)のNHKWEBNEWSは、「中国 内モンゴル自治区 小中学校での中国語教育強化に抗議活動」として、以下のように報じている。

 中国で少数民族のモンゴル族が多く住む内モンゴル自治区の小中学校で、新学期から中国語の教育が強化されたことを受けて、現地では生徒や保護者らによる抗議活動が起きています。
 これに対して地元の公安当局は、騒動を起こしたなどとして100人以上の顔写真をインターネット上に公開して出頭や情報提供を呼びかけるなど、抑え込む姿勢を示しています。
 
 中国内陸部の内モンゴル自治区では、地元政府が先月下旬、新学期に合わせて一部の教科書をモンゴル語から中国語に変更すると発表しました。

 アメリカに拠点を置く人権団体「南モンゴル人権情報センター」によりますと、中国語の教育が強化されることにモンゴル族の生徒や保護者の間で反発が広がり、複数の地域で抗議活動が起きているということです。

 これに対して地元の公安当局は、騒動を起こしたなどとして、インターネット上に100人以上の顔写真を公開して、出頭や情報提供を呼びかけています。また、現地には公安省のトップも訪れ、「反分裂主義との闘いを進め、民族の団結を促進しなければならない」と訓示していて、抗議活動を抑え込む姿勢を示しています。

 これについて中国外務省の趙立堅報道官は、11日の記者会見で「これはあくまで内政問題だ」と述べるにとどめ、海外メディアの報道に神経をとがらせています。

《公安省のトップ》《反分裂主義との闘い》は意味不明だが、住民の抗議行動と、公安当局の取締りの意図は、よく分かる。そして、相変わらずの「あくまで内政問題だ」という逃げ口上。

時事ドットコムニュースの見出しは、より深刻である。『中国・内モンゴル、標準語教育に住民反発 同化政策、「文化絶滅」の懸念』というのだ。内容も詳細でよく分かる。

 【北京時事】中国北部の内モンゴル自治区で、小中学校の授業で使う言語をモンゴル語から標準中国語に変更することにモンゴル族住民が反発し、抗議デモや授業のボイコットが相次いでいる。当局は参加者の拘束など弾圧を強めている。

 同自治区は1学期開始前の8月26日、少数民族系の小中学校1年の国語の教科書をモンゴル語から標準中国語にかえると通知。来年以降は段階的に道徳や歴史にも中国語授業を広げる方針だ。保護者や一般市民が各地の街頭で抗議活動を展開し、授業をボイコットした生徒は数千人以上とみられる。

 米国のNGO「南モンゴル人権情報センター」によれば、警察はデモ参加者を暴力的に取り締まり、一部を拘束。インターネット上で100人以上の参加者の顔写真を公開し、出頭や情報提供を呼び掛けた。寄宿制の学校では生徒が自宅に帰らないよう警官隊が敷地を封鎖したという。

 AFP通信によると、住民の1人は「ほとんどのモンゴル族は授業の変更に反対だ」と述べ、子供が母語を流ちょうに話せなくなると危惧。「言葉は数十年で絶滅の危機にひんする」と訴えた。

 こうした「同化政策」は、チベット自治区や新疆ウイグル自治区でも進む。「中華民族」の結束を目指し標準中国語の浸透を図る習近平政権は異論を排除する構えだ。趙克志国務委員兼公安相は2日まで内モンゴル自治区に入り「反分裂闘争を推進し、民族の団結を促せ」と警察幹部に訓示した。

 国際社会には波紋が広がり、モンゴルのウランバートルでは抗議活動が行われた。エルベグドルジ前大統領はツイッターで「モンゴル文化のジェノサイド(抹殺)は生存への闘いをあおるだけだ」と非難した。しかし、中国外務省の華春瑩報道局長は3日の記者会見で「国の共通言語を学んで使うのは各市民の権利であり義務だ」と主張し、批判に耳を貸そうとしなかった。」

中国は、今や世界の悪役を買って出ようというのだろうか。「モンゴル文化のジェノサイド」といわれる政策を何故強行しようとするのか。清の時代の中央政府は、地方や辺境を決して中央一色に染め上げようとはせず、「因俗而治」(俗に因りて治む)を国策にしたという。「因俗而治」を訳せば、「各地の文化習俗を尊重した統治」と言えようか。現代中国はこの知恵を失って、退化してしまったのではないか。

それにしても、香港も内モンゴルも当局の力があまりに強い。中国の横暴に有効な歯止めとなる手立てはないものかと思っていたら、こんな報道が目に入った。

「北京冬季五輪、実施再検討を 人権団体がIOCに文書」「160 超の人権団体、北京冬季五輪開催の再考をIOCに要請」という、ロイターやAFPの記事である。もしかしたら、この方式は効くかも知れない。中国だって、国際的な孤立は避けたいのだろう。

「2022年に開催を予定している北京冬季五輪について、世界各国の160以上の人権団体が9日までに、実施再検討を求める文書を国際オリンピック委員会(IOC)に連名で送付した。中国政府の人権侵害を理由に挙げている。

 新疆ウイグル自治区や香港での対応をめぐって、中国政府に対して国際的な批判が上がっている。8日に公開された連名の文書には、「中国での人権侵害の悪化を見過ごせば、五輪精神が損なわれる」などと記された。これに対して中国外務省の報道官は、IOCに送られた文書をスポーツの政治利用だと非難。「五輪憲章の精神に反している」などと反論した。(ロイター時事)。」

「160を超える人権擁護団体が連名で国際オリンピック委員会(IOC)に書簡を送り、2022年の北京冬季オリンピック開催を再考するよう要請した。中国政府による人権侵害を理由に挙げている。

過去数カ月間、この種の要請は各人権団体から何度も行われていたが、今回の書簡はこれまでで最大規模。新疆ウイグル自治区に暮らすウイグル族への対応や「香港国家安全維持法」の施行を巡り、中国に対する国際的な批判が高まっている。

8日に公開された書簡には、アジア、欧州、北米、アフリカ、オーストラリアに拠点を置く、ウイグル族やチベット族、香港住民、モンゴル族の人権団体が署名。「中国全土で起きている人権危機の深刻化が見過ごされてしまえば、オリンピック精神と試合の評価は一段と損なわれるということをIOCは認識しなければならない」としている。(AFP)」

初出:「澤藤統一郎の憲法日記」2020.9.12より許可を得て転載

http://article9.jp/wordpress/?p=15637

〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 https://chikyuza.net/

〔opinion10108:200913〕