中国の内政干渉―高まる本気度、主権侵害へ

 ミャンマー内戦は、11月時点で、総じて反軍抵抗勢力が着実に勝利を拡大し、軍事政権はヤンゴン・ネーピドゥ・マンダレーという大都市とそれをつなぐライン上の中央平原地帯に勢力圏を縮小しつつある。ミンアウンフライン政権は、クーデタ以降の4年間、みずからが加盟するアセアンの同盟国からも孤立し、ますますもって北朝鮮のようにパーリア(のけ者)国家化しつつある。しかしその分、権威主義国家として友好関係にあるロシアと中国への依存は深まっており、両国からは戦闘車両、攻撃ヘリや航空機―大型ロシア製Mi─35ヘリコプターやミグ29戦闘機、中国製のK─8ジェット機―とその燃料、監視システムなどの公安警備機器や攻撃型ドローンなどを供与されている。しかし昨年の「1027作戦」以来の負け戦続きで、特に中国への依存は戦略的レベルにまで嵩じており、ミャンマーの国家主権が侵害され、中国の傀儡国家化の怖れすら出ている。自称国家主権と仏教の守護神ミンアウンフライン政権は、生き残るためならあらゆる譲歩を惜しまなくなっている。
 8月王毅外相の訪緬以後、中国は全方位外交から軍事政権支持一本に転換した。その結果、武器の供与や国際舞台での支持にとどまらず、内戦への本格介入に踏み切った。ミャンマー民族民主同盟軍(MNDAA)やタアン民族解放軍(TNLA)や人民防衛軍(PDF)らの攻勢によって貿易都市ラショウが陥落。ラショウにあった北東軍管区司令部―全国に14ある軍管区司令部で第3の位―は、反体制側の手に落ちた初めての重要司令部となっている。MNDAAは、ラショウを自らのコ―カン自治区に編入すると宣言した。しかし、ラショウから13号道路で結ばれる要衝ピンウールィンを攻め落とせば、旧王都マンダレーまで一瀉千里というところで、中国政府はMNDAAに対し戦闘の停止とラショウの国軍への明け渡しを命じた。くわえて、MNDAAがラショウからの撤退に応じるまで国境交易を封鎖し、MNDAAやTNLAら少数民族支配地域に必要な物資が届かなくなる措置を講じた。このためMNDAAは、9月の声明でマンダレー市と南部シャン州の州都タウンジーを攻撃しないと誓約し、国民統一政府(NUG)や中国に反対するいかなる国際組織とも協力しないと約束した。しかしそういいつつも、12月初めの時点でもラショウの占領を解いていない。それに業を煮やした中国側は、11月に入ってMNDAAの最高司令官である彭達仁を昆明にて拘束、自宅軟禁状態においた。身柄の釈放を条件に、MNDAAのラショウ明け渡しを迫っていた。
 そして12月3日、MNDAAは軍事政権との一方的な停戦を宣言し、中国が仲介する和平努力に参加することを約束した。自己の領分であるコーカン自治区への物資―とりわけ、水、電気、医薬品―流入を阻止され、一般住民の被害が拡大していることも考慮したのであろう。MNDAA側は、停戦の条件として国軍の無差別空爆の停止を要求したというが、今のところ空爆撃も続いている。10万軒以上もの民家を破壊し、5000人以上もの民間人を殺戮している国軍の行為に、中国は目をつぶっている。 
 MNDAAにかぎらないが、この1年間の攻勢の成功体験から反体制勢力が得たもいのは大きい。一時的に譲歩することがあろうとも、民族自治のために軍事政権を打倒するという決意は変わらないであろう。中国は、自らが大中華思想というショーヴィニズム(排他的自民族優越主義)に冒されているため、少数民族の五分の魂のしぶとさや不屈さが分かっていない。アメリカやフランスの植民地主義者がそうであったように、へたをすると傀儡政権を守るために泥沼に足をとられることになるかもしれない。

11月30日、シャン州北部チャウメへの国軍の空爆のあと。(TNLA提供)
 軍事政権は生き残るために、中国側の要求をのみ、来年の選挙実施と遅れている「一帯一路」関連プロジェクトへの全面協力を確約した。しかし中国は、軍事政権にチャオピュー深海港や経済回廊の建設を進捗させ、事業地全体を守るだけの実力がないと分かっているのであろう。雲南省からミャンマーを通過してインド洋への道――これは、たんなる経済権益だけでなく、地政学的な優位性の確保になくてはならないプロジェクトなのだ。だから国民統一政府(NUG)が1月に声明を発表して、中国による経済投資と企業を保護すると誓ったにもかかわらず、これを中国は黙殺した。
 中国にとっては、NUGの後ろ側にはアメリカやEUなどが控えており、軍事政権が敗北すれば、ミャンマーは西側の同盟国になることは必定である。とはいえ内戦が本格化してから西側の援助は、市民社会による小規模支援を除いては、ほぼないと言っていいであろう。かつての民主化闘争の星、アウンサンスーチーが独房に閉じ込められているらしいと分かっていても、西側世界は救いの手を差し伸べる構えさえみせていない。国際司法裁判所でロヒンギャの大規模迫害を行なった国軍を幾分かでもかばって見せたことが、西側の人々や政府を大いに失望させ、それがトラウマとなっているのであろう。いずれにせよ、その及び腰がますます中露を増長させていることはまちがいない。

こういうときもあった。経済回廊覚書 2019年、北京で イラワジ
<中国の軍事介入の第一歩か>
 王毅外相とミンアウンフラインは、中国と合同で民間軍事企業(PMC―private military company)の設立で合意した。警備活動の民間委託、民間への軍事的アウトソーシングと言えば聞こえはいいが、実際はロシアのワグネルなどの傭兵部隊に近いと思われ、強力な戦闘能力を有するものになるのであろう。すでに中国はアフリカの「一帯一路」関連事業で、40か国以上の実績をあげているという。軍事政権にとっても軍事的ジョイントヴェンチャーのメリットは、近代戦の軍事技術を学べるということであろう。高性能無人機の使用、情報心理戦、プロパガンダ技術など国軍にはないものを吸収する機会となりうる。
 中国で軍事関連で純民間企業があると信じる人はいないであろう。日本の暴力団にフロント企業があるように、軍事会社が人民解放軍のフロント企業であることは自明といっていいであろう。ミャンマーの「一帯一路」事業の線引き内は、どこもかしこも強力な反政府武装勢力の勢力圏である――アラカン軍(AA)、カチン独立軍(KIA)、ミャンマー民族民主同盟軍(MNDAA)、タアン民族解放軍(TNLA)、マンダレー地域人民防衛軍(PDF)など。万一武力衝突が起こって、戦火が拡大した場合、中国本土の人民解放軍は手を拱いているであろうか。中緬経済回廊は中国の生命線であるとして、越境して内戦に本格介入する可能性はないとはいえないであろう。
 このところ、ミンアウンフライン軍事政権の中露への追従的態度は、度を越している。このままでいけば、中露の傀儡政権化もあり得ない話ではない。
●この7月、政権は前例のない措置を講じて、中国の祝祭日である旧正月をミャンマーの公式祝日とした!
●ネピドーでは、ロシアで学んだ将校たちが現在、軍事政権の4つの省庁の職員にロシア語を教えている。ホテル・観光省の職員もこの11月から中国語の授業を受講。
●ウクライナ戦争で労働者不足に悩むロシアへ労働者派遣を検討中。特にロシアは建設業と造船業の労働者としてミャンマー人労働者を求めているという。ミャンマーの平均月給40ドルだが、ロシアは200ドルであり、ミャンマー政府は中抜きで数億ドル稼げると皮算用?
●ヤンゴンに、中国語学校やロシア語学校をあいついで設立。
●ヤンゴンの一等地にロシア正教の教会堂建設が決まった。

セルギー大主教と軍事政権関係者、2023年10月ヤンゴンにて イラワジ
 ミンラインフライン政権の連日の一般居住地域への空爆による殺戮、中露の跳梁のさまをミャンマー国民がどうみているかは、いうまでもないであろう。5300万人の国民の圧倒的多数が、軍政府と中露に深い恨みと復讐心を抱いているのはいうまでもない。中露は、二十世紀に労働者階級と被抑圧民族の解放の旗を掲げて、世界史の舞台に登場した二大勢力であった。1962年にクーデタによって登場したネウイン軍事政権もまた、「社会主義におけるビルマの道」を標榜した。しかし二十世紀社会主義は、いずれもが無残にも市場経済と自由民主主義を柱とする資本主義体制に敗れ去った。しかし社会主義としては敗れ去っても、独裁的権威主義的な国家として再生し、資本主義と西側価値体系への復讐の念に燃えているようにみえる。
 彼らに民族自決という政策は、二十世紀に成熟した民主主義的な普遍的な価値のひとつであることを分からせるためには、まだまだ多くの犠牲を払わねばならないようだ。※

※暴論に聞こえるかもしれないが、台湾問題も民族自決の範疇に括られるものではないか。台湾島(および周辺島嶼)の帰属は、そこに住む住民に自己決定権があるのではなかろうか。したがって台湾がどのような政体を選ぶかも、台湾に住む人々にその決定権がある。歴史的事例として、信仰を同じくするアングロサクソン族であっても、アメリカはイギリスから独立し、別の国家を創設した。

〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 https://chikyuza.net/
〔opinion13993:241205〕