中国・国慶節に思う今昔の感。

著者: 澤藤統一郎 さわふじとういちろう : 弁護士
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(2020年10月2日)
昨10月1日が国慶節であった。1949年10月1日、毛沢東が天安門で「中華人民共和国成立了!」と高らかに宣言したとき、北京の空は飽くまでも高く、飽くまでも青く澄みわたり、多くの人々が新しい歴史が始まると胸を躍らせた。ここから本当の「人民の国」ができるのだ、と考えたのだ。

それから70年余、曲折を経ながらも中国は経済的な発展を遂げた。しかし、偉大な「人民の国家」にはなっていない。強大な権力を握る党幹部と、強盛な大資本の支配する国になっているのが現実の姿だ。私も、かつては「人民中国」を人類の希望と考えていた。今思うことは、この大国はいつまで人権や民主主義の理念をを排斥し続けるのだろうか、という無念でしかない。

中国とは何であるか、香港の現状がこれをよく映しよく物語っている。昨日(10月1日)も香港でのデモが弾圧されている。おそらくは、ウィグルも、チベットも、内モンゴルも同様なのだろうが、あまりにも情報が少ない。下記は、6年前(2014年10月2日)の当ブログの一節である。むろん香港の事態は、当時に比較して遙かに深刻になっている。

香港は、1997年英国から中国に「返還」された。その際に50年間の「1国2制度」(一个国家两种制度)による高度の自治を保障された。99年にポルトガルから返還されたマカオ(澳門)がこれに続いている。

两种制度(2種類の制度)とは、建前としては「社会主義」と「資本主義」の両制度ということであったろう。しかし、1978年以来の改革開放路線突き進む中国を「社会主義」と理解する者は、当時既になかったと思われる。「市場的社会主義」とか「社会主義市場経済」とか意味不明の言葉だけは残ったにせよ、社会主義の理想は崩壊していたというほかはない。

結局のところ、「1国2制度」とは、「社会主義か資本主義か」ではなく、政治的な次元での制度選択の問題であった。一党独裁下にある人口12億の大国が、自由と民主々義を知った700万人の小国を飲み込むまでの猶予期間における暫定措置。それが「1国2制度」の常識的理解であったろう。

しかし、今や事態はこの常識を覆そうとしているのではないか。一国2制度は、大国にとってのやっかいな棘となっている。少なくとも、小国の側の意気込みに大国の側が慌てふためいているのではないか。「この小国、飲み込むにはチト骨っぽい。とはいえ放置していたのでは、この小国の『民主とか自由という害毒』が大国のあちこちに感染しはしまいか」。大国にとっても深刻な事態となっているのだ。

がんばれ香港。がんばれ若者たち。君たちの未来を決めるのは、君たち自身なのだから。

なお、中国の考え方については、浅井基文さんのブログが参考になる。ここに紹介されている、中国の独善と強権の論調には寒気を感じざるにはおられない。

https://www.ne.jp/asahi/nd4m-asi/jiwen/thoughts/index.html

浅井さんは、たとえばこう言う。

「社会主義市場経済」とは何ものであるかについて、(2019年)9月21日付の「求是網」は、南開大学マルクス主義学院教授の劉鳳義教授署名文章「社会主義市場経済の制度的優位性」を掲載しました。この文章は、「社会主義市場経済」とは何ものであるかに関する説明を行っており、私のような経済にずぶの素人でもそれなりに理解できる内容となっています。
私が刮目するのは、改革開放初期の中国は鄧小平流の「黒猫白猫」論のレベルにとどまっていましたが、今や理論的思想的に自らを定位しようとする高みを目指しているということです。もちろん、ケチをつけることは簡単です。しかし、社会主義市場経済の優位性に関する7点にわたる理論的主張を先入主なく吟味する価値はあるのではないでしょうか。

私には、とうてい「それなりに理解できる内容」とは思えないが、7点にわたる理論的主張の各項目と、7点目「中国共産党の領導」の全文を転載させていただく。なお、「ケチをつけることは簡単です」ということには、浅井さんに深く同意する。どこの国にも、権力におべんちゃらを惜しまない「学者」という者が存在するのだ。

<社会主義市場経済のメリットと優位性>
①人民の良好な生活に対する要求を満足することを社会主義的生産の根本目的とすること。
②公有制を主体とし、多種類の所有制経済の共同発展という基本的経済制度。
③労働に応じた分配を主体とし、多種類の分配方式を併存するという基本的分配制度。
④発展の理念を分かち合い、ともに豊かになる道。
⑤「効率的な市場」と「有能な政府」という両面における優位性の発揮。
⑥開放拡大と人類運命共同体構築推進。

⑦中国共産党の領導が社会主義市場経済の制度的優位性であること。
中国共産党の領導は中国の特色ある社会主義のもっとも本質的な特徴であり、また、社会主義市場経済の制度的な優位性でもある。中国共産党は一貫してもっとも広範な人民大衆の根本的利益を代表し、人民を中心とする発展思想を堅持し、人民の福祉の増進、人の全面的発展の促進、共同富裕に向かっての着実な前進をもって経済発展の出発点及び着地点としている。経済工作に対する党の集中統一領導を堅持することは、経済と政治の有機的統一を実現するのに有利であり、市場の活力を刺激し、経済の効率を高めることができるとともに、社会主義制度の優位性を発揮し、各方面の積極的要素を十分に引き出し、社会の公正正義を促進することができる。改革開放以来、我が国の経済及び社会が衆目の認める偉大な成果を実現し、人民の生活水準が大幅に向上することができたのは、我々が確固として党の領導を堅持し、各レベルの党組織及び党員全体の役割を十分に発揮させたことと不可分である。

初出:「澤藤統一郎の憲法日記」2020.10.2より許可を得て転載

http://article9.jp/wordpress/?p=15729

〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 https://chikyuza.net/

〔opinion10162:201003〕