(2022年11月24日)
昨日に続いての、国歌の話題。香港を押さえ込んだ中国は香港の民衆に中国国歌(「義勇行進曲」)を強制した。中国への国家忠誠(即ち、習近平共産党への忠誠)を刑罰をもって強制したのだ。これが、中国の人権弾圧体質を物語っている。その中国国歌が、いま韓国でのできごとで話題となっている。
昨日の当ブログ記事同様、こちらも国際スポーツ大会を舞台にした国歌の扱い。会場に中国国歌(「義勇行進曲」)が流れるべき時に、「香港民主化デモの歌」(「香港に栄光あれ」)が、「誤って」流されたという椿事である。
11月13日韓国・仁川でのこと。7人制ラグビー国際大会「2022 アジアラグビーセブンズシリーズ」で、香港と韓国が対戦した。その試合前セレモニーでの国歌斉唱時に、中国国歌の伴奏が流されるはずのところで、「誤って」「香港に栄光あれ」が流されたのだ。香港当局や中国にとっては仰天動地のハプニング。香港の民衆や韓国の民主派は、内心ほくそ笑んだに違いない。
この曲「香港に栄光あれ(Glory to Hong Kong)」は、「2019年の香港での逃亡犯条例改正案をめぐるデモをきっかけに制作された楽曲で、デモ参加者らの間で非公式の国歌のような位置づけにされている一方、香港当局や中国当局などは香港独立をあおるなどとして批判している」(Record China による)という曰く付きのもの。民主化運動の賛歌だったが、香港国家安全維持法が施行された現在は、演奏は事実上禁止されているという。それでも中国に帰属意識のない香港の民主派には、「国歌」に準ずるものだという。
この事態に、香港政府は過剰に反応した。そうせざるを得ないのだろう。14日、韓国政府に厳重抗議した。「中国国歌の代わりに、暴力的な抗議活動や『独立』運動と密接に関連する曲が演奏されたことに強い遺憾の意を表し、抗議する」というもの。
アジアラグビーと大韓ラグビー協会は、香港ラグビー総会および香港政府、中国政府に「心からの謝罪」を表明しているというが、問題の余波は広がっており、まだ収束していない。
興味深いのは、「たかが国歌」についての、関係者のこの大仰な反応である。中国派で固められた香港立法会の某議員は「主催機関は直ちに謝罪したが十分ではない。これは取り返しのつかないミスだ」「国歌演奏と国旗掲揚は厳粛かつ神聖であり、いかなる場合でもミスは許されない。問題の曲は香港人に動乱の傷を負わせたものだ」などと指摘。駐香港大韓民国総領事館に手紙を送り、韓国政府に対し、主催者が過失を厳正に検討するよう促すと同時に、中国人民に謝罪するよう要請するとした。
香港警察は、国歌条例や香港国家安全維持法(国安法)に違反しないか調査に乗り出す方針だという。香港特別行政区行政長官の李家超は、「現場でこの曲が流されたことに政治的な意図があることは誰もが知っている」「本件が香港国家安全維持法や国歌法に違反するかどうか徹底的に調査を行う」「警察は十分に経験を積んでおり、調査の進展に応じて適切に対処する」と述べている。
また、政府報道官は、「国歌はわが国の象徴だ。大会主催者は、国歌に正当な敬意が払われるよう保証する義務がある」と述べたという。もっと正確には、こう言いたいのだ。
「国歌はわが国の象徴だ。我が国の国歌を疎かにすることは絶対に許さない。大会主催者は、我が国の国歌を疎かに扱ったことに、もっと恐縮して見せなければならない。中国国歌には大国中国にふさわしい、特別の敬意が払われてしかるべきなのだから」
国旗や国歌には常に、こういう七面倒臭さと胡散臭さがつきまとう。
初出:「澤藤統一郎の憲法日記」2022.11.24より許可を得て転載
http://article9.jp/wordpress/?p=20349
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 https://chikyuza.net/
〔opinion12573:221125〕