中国批判の「謬論」と、中国政府の言う「事実・真相」。

(2020年7月11日)
《中華人民共和国駐日本国大使館》のホームページの内容が興味深い。いろんなことを教えてくれる。考えさせられる。国家とは何なのか、権力とは、そのホンネとは。そして、個人の尊厳とは。民主主義の無力や「人権」という言葉の多義性に思いをいたさずにはおられない。是非に、というほどのことではないが、閲覧をお勧めしたい。
http://www.china-embassy.or.jp/jpn/

本日(7月11日)現在、同ホームページのトップに「中国関連の人権問題に関するさまざまな謬論と事実・真相」と表題する記事がある。7月8日にアップされたもの。

そのリードが以下のとおり。

最近、米欧の一部の人々が香港、新型コロナウイルス肺炎、新疆などにかかわる問題で、いわれもなく中国の人権状況を非難し、多くの謬論をばらまいており、それは中国に対する無知と偏見に満ち満ちている。

そこで、われわれは事実によって物を言い、真相によって道理を説くため、「中国関連の人権問題に関するさまざまな謬論と事実・真相」を編集・執筆した。

中国大使館が「事実によって物を言い、真相によって道理を説」かねばならない「謬論」は、〈その1〉から〈その31〉に及ぶ。中国に対するこれだけの批判があるとは知らなかった。中国政府も、ずいぶんと外部からの批判を気にしていることがよく分かる。

そのうちの香港に関する10の「謬論」と、それに対置された「事実・真相」を引用する。念のためであるが、私的な編集の手は一切加えていない。恣意的なカットもしていない。これが全文であって、中国当局の主張なのだ。

果たして、中国当局が「事実によって物を言い、真相によって道理を説く」ことに成功しているだろうか。いささかなりとも人権を大切に思う人にとって説得力のある論説になっているだろうか。

ここで赤裸々に語られているのは、みごとなまでの「国家の論理」である。しかも傲慢で批判に耳を傾けようという姿勢はまったく見えない。反面教師の「論理」として繰り返し読み直すに値するものである。ただ恐れるのは、このような「論理」で、中国国民の多くが納得してしまっているのではないかと言うこと。

他人事ではない。安倍政権の嘘とゴマカシ、小池都政無内容な美辞麗句にも、けっして納得してはならない。

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謬論その1 国家安全立法は香港住民の人権と基本的自由を破壊し、「市民的および政治的権利に関する国際規約」に違反する。

事実・真相

◆「中華人民共和国香港特別行政区国家安全維持法」は、香港特別行政区の国家安全維持においては人権を尊重、保障し、香港特別行政区住民が香港特別行政区基本法および「市民的および政治的権利に関する国際規約」「経済的、社会的および文化的権利に関する国際規約」の香港に適用される関係規定に基づいて有する、言論・報道・出版の自由、結社・集会・行進・示威の自由を含む権利と自由を法によって保護しなければならないと明確に規定している。

◆香港関連の国家安全立法は国家分裂罪、国家政権転覆罪、テロ活動罪、外国または域外勢力と結託して国家の安全を害する罪という4種類の犯罪だけを対象にしており、処罰するのは国家の安全を著しく害する容疑のある極少数の犯罪分子で、規律・法規を順守する大多数の香港市民は保護され、大多数の香港住民の安全および法によって有するさまざまな権利と自由は保障されている。

◆世界の100余りの国の憲法は、基本的権利と自由の行使では国の安全を害してはならないと定めている。「市民的および政治的権利に関する国際規約」は、信仰の自由、言論の自由、平和的集会の自由および公開の裁判を受けるといった権利はすべて、国の安全、公の秩序などの理由に基づいて必要な制限を受け得ると定めている。「欧州人権条約」にも類似の規定がある。

謬論その2 香港関連の国家安全立法は定義のあいまいな犯罪行為が列挙され、中国の国家安全機関によって民衆抑圧のために乱用されるおそれがある。

事実・真相

◆香港関連の国家安全立法は国の安全を著しく害する4種類の犯罪行為だけを対象にしており、ともすれば数十にも上る、米英などの国の安全に関わる罪名よりはるかに少ない。この法律は国家安全の法執行を明確に規制し、すべての法執行行為は厳格に法律の定めるところにより、法定の職責に合致し、法定の手続きを順守しなければならず、いかなる個人と組織の合法的権益をも侵害してはならないとしている。さらに、駐香港国家安全公署は厳格に法によって職責を履行し、法によって監督を受けなければならず、その要員は必ず全国的法律を順守するほか、香港特別行政区の法律を順守しなければならないと定めている。

◆米国、英国、カナダ、オーストラリアなどはいずれも国家安全保障のための厳密な法体系をつくっており、国の安全を害する犯罪行為の取り締まりではまったく容赦しない。

謬論その3 国家安全立法は香港にある外国企業が「ビジネスと人権に関する指導原則」の定めによって人権尊重の責任を履行するのを難しくする。

事実・真相

◆香港関連の国家安全立法は国家分裂罪、国家政権転覆罪、テロ活動罪、外国または域外勢力と結託して国家の安全を害する罪という4種類の犯罪だけを対象にしている。これらの犯罪行為は明らかに、法を守る企業または住民の行為や関わりうる活動ではない。法を守る多国籍企業はみな香港が安定と秩序を取り戻すことを望んでいる。法律が実施されれば、香港にある企業が人権尊重の責任を履行するのに役立つだろう。

謬論その4 香港の警察は武力を過度に使用しているのに処罰を受けない(化学剤を使って抗議者に当たる、女性抗議者に対する警察局でのセクハラや性的暴行、医療関係者へのいやがらせなど)。

事実・真相

◆「条例改正の風波」中、香港の警察隊は連続数カ月間に数百回の暴力事件を前にしながら、ずっと法律と警察の内部手引に従って法を執行した。過激なデモ隊は、石、鉄棒の使用からパチンコ玉の打ち込み、傘の先に刃物を結びつけた雨傘さらには危険化学品へと絶えず装備をエスカレートさせたが、警察隊はずっと最大限の冷静さ、理知と自制を保ち、つねに進んで武力を使用しないようにした。一部の者が暴力で突っ込んだり、違法な暴力行為をとり、現場の人々の身体の安全を脅かしたりした時だけ、相応の武力を使って阻止した。これは完全に国際的規範にかなっている。たとえ警官の生命を著しく脅かす危険な武器や暴力による違法行為を前にしても、警察隊はなお自制の姿勢を示し、文明的に法を執行し、プロ精神に徹していた。香港で、警察隊の法執行で死亡したデモ参加者は1人もおらず、逆に2020年5月末までに、590人を超える警備要員が法執行中に負傷している。

◆香港の警察隊の自制的専門的法執行と鮮やかな対照を成しているのは、米国で警察が暴力的法執行で死者を出し、発砲して射殺する行為が珍しくなく、2019年だけで1004回に達していることだ。2020年6月中旬までに、米国各地のフロイド事件で誘発された抗議デモ活動中に少なくとも13人が死亡し、数百人が負傷し、1・35万人超が逮捕されている。そのうち37歳のフリー作家兼記者リンダ・ティラドさんはミネアポリスの抗議活動を報じた際、警察のゴム弾で目を打たれて片方の目を失明した。

謬論その5 中国政府は香港の抗議活動と民主化の宣伝を弾圧している。

事実・真相

◆香港の復帰後の事実は、香港住民が法によって有する言論、報道、出版、結社、集会、行進、デモの自由が十分に保障されていることをすでに証明した。

◆2019年6月の「条例改正風波」の発生以来、一部の過激なデモ隊が故意に暴力事件を造り出し、その行動は平和なデモや意見の自由な表明のという限界を完全に超えて、極端な暴力違法活動に変化している。これらの暴力行為はあからさまに法律に触れ、市民の安全を著しく脅かし、国家の主権と尊厳に公然と挑戦しており、事実ははっきりし、証拠は揺るがず、悪質なものである。

◆文明化法治化した社会で、要求の平和的理性的表明は基本的要求で、ごく当たり前なことだが、権利の行使は必ず法治の枠組み内で行わなければならず、いかなる主張も違法な方法で表明することはできず、まして暴力に訴えることはできない。法治は香港の核心的価値で、香港の長期安定・繁栄を保障する基礎である。法がある以上必ずそれにより、違法は必ず追及するというのは法治の精神の具体的現れである。暴力と暴徒にゼロトレランスで臨んではじめて、香港の法律と秩序を守り、法治を示すことができる。そして暴力と暴徒を支持し放任するのは、民主主義、自由と法治を公然と踏みにじることである。

謬論その6 香港関連の国家安全立法は中国の「中英共同声明」における約束と義務に違反している。

事実・真相

◆中国政府の香港統治の法的根拠は中国憲法と香港基本法であり、「中英共同声明」とは関係がない。1997年の香港の中国復帰に伴って、「中英共同声明」で定められた、英国と関係のある条項はすべて履行が終わっており、英国は復帰後の香港に主権、統治権、監督権をもたない。

◆「中英共同声明」の香港に対する基本方針・政策は中国の政策表明であり、全人代が制定した基本法にすでに十分体現されている。中国の政策表明は英国に対する約束ではなく、しかもこれらの政策はすべて変わっておらず、中国は引き続き堅持するだろう。

謬論その7 国家安全立法は中国の中央政府が一方的に香港に押しつけるものだ。

事実・真相

◆国の安全立法はそもそも一国の主権と中央の権限に属することだ。中国の中央政府は国の安全を守る最大の、最終的責任を負っている。全人代は中国の最高権力機関である。全人代が中国憲法と香港基本法の規定に基づき、国家レベルで香港特別行政区における国家安全維持の法制度と執行メカニズムを導入・整備することは、香港の国家安全の法的な抜け穴をふさぎ、国の安全を確実に守るのに必要な措置で、「一国二制度」の長期的安定を確保するための抜本策でもある。

◆基本法第23条は香港特別行政区に国の安全を守る独自の立法権限を与えているが、復帰から23年近くたっても、反中央・香港かく乱勢力と外部の敵対勢力が必死に阻害、妨害したことにより、この立法はなお終わっていない。香港特区の国家安全維持が厳しい局面を迎えている状況下、中央政府にはすみやかに抜け穴を埋め、欠陥を補う権限もあれば責任もある。

◆マカオ特別行政区では2009年初めに国の安全を守る現地立法を終え、「国家安全維持法」を制定するとともに、関連の法執行作業と国の安全を守る付帯立法の検討作業を整然と進めている。2018年、マカオ特区政府はマカオで国の安全を守る実務の統括・調整機関――マカオ特別行政区国家安全維持委員会を設立するとともに、国の安全を守る法制度、組織体制および執行メカニズムの整備を続けている。

◆英国が香港の植民地支配を行っていた頃、英国の「反逆法」が香港に適用され、専門の執行機関もあった。中国中央政府の香港関連国家安全立法に横やりを入れるのは、完全なダブルスタンダードである。

謬論その8 中国は国家安全立法について香港の民衆と意味のある話し合いをしておらず、この立法には世論面の基礎がない。

事実・真相

◆香港国家安全維持法の制定では、香港同胞を含むすべての中国人民の共同の意思が十分体現されている。立法起草過程で、中央と関係部門はさまざまな方法とルートを通じて、特区行政長官と主要高官、立法会主席、香港の法律界、香港基本法委員会委員および全人代代表、政協委員など各界の意見と提案を聞いた。法律案のテキストが出来上がると、関係方面は香港特区政府から出された意見・提案を真剣に検討し、香港特区の実情を十分考慮し、採用できるものはできる限り採用する精神にのっとって、法律案のテキストを繰り返し修正してより完全にし、科学的立法、民主的立法、法による立法を確実にした。

◆中央の関係部門は香港で12回の座談会を開催し、香港政界、法律、商工、金融、教育、科学技術、文化、宗教、青年、労働各界および社会団体、地域団体の120名の代表が参加して率直に意見を述べた。短期間に、香港中聯弁〈中央人民政府駐香港特別行政区連絡弁公室〉は36人の香港地区全人代代表と190人の香港地区政協全国委員の200点余りの意見書を受けとった。香港各界はまた、電子メール、手紙または中国人代網ログインなどの方法で意見を反映することができた。

◆全人代の関係「決定」が公表されると、香港各界の代表はいち早く支持の態度を表明した。300万近い香港人が「撑国安立法」〈国家安全立法支持〉の署名活動に応じ、128万を超える香港人が「米国など外部勢力の介入反対」のネット署名に参加した。

謬論その9 国家安全立法は「一国二制度」の終焉(しゅうえん)を意味しており、香港の高度の自治権を奪った。

事実・真相

◆全人代の「決定」は冒頭に主旨を示し、国が「一国二制度」、「港人治港」〈香港住民による香港管理〉、高度の自治の方針を揺るぎなくしかも全面的かつ正確に貫くことを説明し、その第1条で再度この方針をはっきり説明している。香港関連の国家安全立法の目的は香港の国家安全における致命的な抜け穴をふさぎ、「一国」の基礎を固め、香港が「一国」という基本を堅持すると同時に「二制度」の利点をよりよく生かすことを最大限保証することにある。

◆香港国家安全維持法の実施後も、香港住民が法によって有する諸権利と自由は影響を受けず、特区の独立した立法権と終審権は影響を受けない。「一国二制度」の方針は変わらず、香港特別行政区で資本主義制度がとられることは変わらず、高度の自治は変わらず、法律制度は変わらない。

謬論その10 国家安全立法は香港の繁栄・安定を危うくする。

事実・真相

◆まったく反対に、香港関連の国家安全立法は香港の繁栄・安定の維持により一層資する。2019年6月の「条例改正風波」の発生以来、「香港独立」、「黒い暴力」活動は香港の法治と経済・民生を大きく傷つけ、また香港のビジネス環境と国際的イメージを著しくこわした。香港関連の国家安全立法はまさにこの局面を転換するためのもので、香港の良好なビジネス環境を維持し、香港の金融、貿易、海運センターとしての地位を固め高め、外部からの投資家の自信を強めるうえで利益はあっても弊害はない。香港関連の国家安全立法の「決定」が可決されると、香港上海、チャータード、スワイヤー、ジャーディンなど香港の外資グループは、香港の長期安定に資する、すべての発展の基礎と前提であるとして、続々と支持を表明した。

◆世界を見渡すと、ニューヨークにせよロンドンによせ(ママ)、国家安全保障法実施のためにビジネス環境が壊された国際金融センターは一つもない。香港米国商業会議所の最近の調査によると、7割を超える対象企業が香港から撤退することはないと明確に表明し、6割超の調査対象者が香港を離れることはないとしている。チャンスと利益に盾突く企業はない。

◆マカオ特別行政区は2009年基本法第23条に従って国家安全維持法を可決した。2009年から19年までに、マカオのGDPは153%伸び、観光客数は81%伸び、全体の失業率は10年間の最低に下がっている。

初出:「澤藤統一郎の憲法日記」2020.7.11より許可を得て転載

http://article9.jp/wordpress/?p=15221

〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 https://chikyuza.net/

〔opinion9932:200712〕