中国経済が米国を抜いて世界一になる時、中国封じ込めに失敗した安倍ドンキホーテ政権に未来はあるか――AIIB問題で世界の孤児となった日本

日本の政治経済は、いま大きな岐路にさしかかっている。隣国で打ち出されたアジアインフラ投資銀行AIIB問題は、一つの象徴として分析に値する。資本金1000億ドル=約12兆円、総裁予定者は金立群元中国財政次官である。3月初めに主要7カ国(G7)で初めて英国が参加を表明したことによって参加メンバーは雪崩を打って膨らんだ。

オズボーン財務相声明は「世界で最も急速な成長を遂げているアジア・太平洋地域との連携強化は、英国企業にとって事業や投資の絶好の機会」と強調した。「英国企業にとって事業や投資の絶好の機会」となりうる組織に参加しない法はない。中国の軍事力や外交方針には疑問がないわけではないが、まずは「事業や投資の機会」を優先させたわけで、どこかの国の硬直したスタンスとは大違いである。

英国のこのような柔軟姿勢は、ただちにG7構成国に雪崩れ現象を引き起こした。フランス、ドイツ、イタリアをはじめとして、BRICs諸国のうち、中国は当事者として当然、ロシア、インド、ブラジルが全員顔を並べ、さらにはASEAN(東南アジア諸国連合)のインドネ シア、ベトナム、シンガポールなど加盟10カ国全てが参加した。その他にもサウジアラビア、クウェート、カタールなど中東の主要資源国、中央アジアのウズベキ スタン、カザフスタン、そして最後には、米国に気兼ねしていたオーストラリア、ニュージーランド、韓国、台湾も参加した。

この結果、日米(そしてカナダ)だけが取り残された。米国外交の大失敗であることは明らかである。とはいえ、米国は「腐っても鯛」程度の力をもつから、世界銀行などを通じて、中国との関係を再調整する可能性は残されている。また2009年以来毎年休まず開かれている米中戦略対話のチャネルは、今年6月に7回目を迎える。時間をかけて着実な対話を続けてきた。なにしろ中国は米国債の世界最大の買い手なのだ。人民元の支持なしには米ドルは紙屑になるほど堅い絆で結ばれている。

哀れなのは、日本だ。昨年秋の安倍・習近平対話の横向き、笑顔なしの冷たい関係は、大方の記憶に新しい。「地球儀を俯瞰する外交」によって「中国封じ込め」を図ると豪語してきた安倍対中外交は、完敗に終わった。

表向きの理由としては、AIIBの①運営に 不透明さが残る、②融資の審査が甘ければ焦げ付く、③中国のアジアでの影響力拡大を助長する、④独裁政権や環境に悪影響を与える、⑤米国との関係悪化の懸念あり、等々を「参加見送り」の口実としてきたが、これらの口実がほとんど子供騙しの煙幕にすぎないことは、当初から明らかであった。日本がこれらの煙幕で中国無視を続けているうちに、米国を除く主要7カ国がすべて参加表明を行い、アジアに位置する日本だけが一人取り残され、完全に孤立した。この誤算は、何を意味するか。

歳川隆雄「ニュースの深層」(2015年4月4日)によると、AIIBは「中国外交の完全勝利、間違った安倍首相は、官邸で財務省、外務省幹部を怒鳴った」という。騒ぎの口火を切ったのは、「維新の党」の江田憲司代表である。4月2日の記者会見で、中国主導によって発足するアジアインフラ投資銀行(AIIB)参加国・地域が50カ国・地域を超えたことについて、「中国外交の勝利、日本外交の完全敗北だ」と述べた上で「今からでも遅くないので(日本政府は)参加して欲しい」と要求した。

あてが外れたのは、安倍首相も同じであったようだ。3月31日午後、首相官邸で財務省の山崎達雄財務官(1979年旧大蔵省入省)、淺川雅嗣国際局長(80年同)、外務省の長嶺安政外務審議官(経済担当・77年外務省)と会った際、「聞いていた話と違うじゃないか。君たちは、いったい何処から情報を取っていたんだ」と怒鳴りつけた由である。

AIIB構想について、外務省(斎木昭隆外務事務次官・76年入省)では、アジア大洋州局中国・モンゴル第2課が所管している。同省は英国の参加を誤算と反省した。しかし、キャメロン首相は13年12月に訪中しており、さらに昨年3月のオランダ・ハーグで開催された核サミットの際も習近平・キャメロン会談が行われている。

歳川のいうように、情報収集・分析力が“甘かった”のは明らかだ。財務省の淺川国際局長は中国財政当局に独自の人脈を持つと自任していた由だが、何の役にも立っていないことが暴露された。アジア開発銀行(ADB、本部マニラ)副総裁経験がある金立群AIIB総裁にも通じていると見られていたが、これは見かけ倒し。同省には、勝栄二郎元財務事務次官(現IIJ社長・75年入省)のような自称中国通も少なくないと見られてきたが、これも通じていなかった。

実は、同省内ではAIIB発足でADBの存在感が希薄になることから参加消極論が支配的だったことが大きいという。ADB歴代総裁は、初代の渡辺武総裁(1930年入省)から中尾武現彦総裁(80年入省)まで、9人が全て財務省(旧大蔵省)出身者であり、安倍のお気に入り、黒田東彦日銀総裁は前ADB総裁である。ADB総裁は財務省の既得権益なのだ。こうしたことから、AIIBを軽視し、読み違いを犯したと見られる。

類似の事情は、日米同盟を金科玉条とする外務省にも当てはまる。「中国主導の新経済圏づくり」と見る米国への過剰配慮が根っ子にある。それに基づくAIIB軽視の情報を優先し、判断を誤り、「日本外交敗北」をもたらした、と見られている。

歳川隆雄の解説は、安倍官邸と霞が関官僚との責任のなすり合いを紹介して興味津々だが、国民の目から見たら、ほとんど目くそ鼻くその類ではないか。

そもそもは安倍官邸が「中国封じ込め」などとはしゃぎまくるので、これに迎合しつつ、財務官僚はアジア開銀の既得権益擁護の私利私欲からAIIBを軽視、無視し続けた。外務省は日米外交しか脳裏になく、徹底的な対米追随こそが国益と錯覚するトラウマにとらわれてきた。

ここから浮かび上がるのは、安倍官邸の外交オンチぶりだけではなく、これに迎合するのみで、何ら建設的な役割を果たし得ない霞が関官僚の劣化ぶりだ。政治の劣化を支える官僚の劣化、両者の相乗作用が今回の大失敗の原因ではないか。

私はここで40年前の沖縄返還とニクソン・ショック(そしてこれに触発された田中訪中による日中国交正常化)を想起する。いわゆるニクソン・ショックには、ドルが金との兌換停止に陥ったという国際金融の側面と、ニクソンが日本の頭越しに北京を訪問して米中首脳会談を行う前夜まで、日本外務省は、国連安保理常任理事国としての「台湾(中華民国)の地位」を守るために最後まで努力し、「中華人民共和国の国連復帰」を妨害し続けた愚策であるという側面がある。これは佐藤栄作外交の大失敗として特筆すべき事件と私は見ているが、今回繰り返されたAIIB無視事件もこれに並ぶような大きな失敗である。

ここで当時の外務官僚の無責任の事例を挙げておきたい。沖縄返還と田中訪中は、戦後外交を画する大きな転換点であった。両者に外務省条約局法規課長、条約課長としてキーパーソンの地位にいたのが、3月に死去した栗山尚一氏である。

沖縄返還交渉の最後のツメは1971年6月10日、パリのアメリカ大使館で行われた。その席でロジャース国務長官は、愛知外相に対して、「返還協定の調印前に中華民国と協議すること」を求めた。何を協議するのか。当時米国と外交関係を保持していた蒋経国が米国に求めていた件だ。すなわち、「尖閣の最終的地位が決定されていないこと、この問題はすべての関係国によって決定されるべきことを明確に断言すること」を返還協定の調印時に求めていた。

米国はこの蒋経国の要求を容れて、マクロフスキー報道官をパリに派遣し、愛知ロジャース会談に立ち会わせている。返還交渉の最終段階を正確に全世界に向けて発表することが台湾側の要求であった。ほとんどの日本人がいまは忘れているが、当時の中華民国は国連安保理の常任理事国の一員、すなわち戦勝国連合の一員であり、その国際的地位は敗戦国日本よりも高かったのだ。

栗山尚一条約課長はこのパリでの交渉経過を知りながら、真実の証言を怠ってきた。この事実は米国務省の情報公開(FRUS)と中華民国による蒋経国総統文書の公開によって明らかになり、また民主党政権当時の沖縄密約情報公開[末尾の外務省極秘資料参照]によって明らかになったにもかかわらず、外務省は虚偽を続けている。

もう一つ。栗山尚一条約課長は田中訪中にも同行しており、田中周恩来間で尖閣についてどのような対話が行われたかも熟知している。にもかかわらず、事実上「暗黙の了解が存在した」と尖閣国有化騒ぎの後に語るのみで、交渉経過について真実の証言を行っていない。田中周恩来会談については、当時の中国課長橋本恕氏も同罪で、虚偽証言を続けたまま昨年4月に死去した。日本のマスメディアは、橋本や栗山の貢献を称賛する追悼記事を掲げたが、どれ一つとして、彼らの失策に言及したものはない。

橋本に至っては会談記録そのものを抹殺する暴挙さえ行っている。これらの証拠隠滅と虚偽証言こそが今回の日中衝突の直接的原因であることを私は4冊の本で分析した(『チャイメリカ』『尖閣問題の核心』『尖閣衝突は沖縄返還に始まる』『敗戦沖縄天皇』花伝社)。

さて71~72年の失敗と、2015年の失敗を比較すると、結果は今回のほうがより重大だ。というのは、「40年前の中国軽視」策は、田中角栄の英断による訪中を通じて、米国に先立つこと7年の国交正常化により、辛うじて隣国として、侵略国としてのメンツを保持できた(米中は、朝鮮戦争で敵対するまでは、同盟国であった事実さえ時に忘れられている)。

ところが、「今回の中国軽視・敵視」には、もはや起死回生策は見当たらない。それだけではない。「40年前の中国」は、朝鮮戦争以後の20年にわたる孤立を経てようやく国際社会に復帰したばかりの「経済小国」であった。ところがいまや中国はドイツ経済を超え、日本経済を超えて、「購買力ベース」ではすでに米国を超え、「為替レートベース」でも米国に迫る世界1、2位の経済大国である。

イギリスを始めとして西欧勢が雪崩を打って参加し、創設国のメンバーシップを得る方向を選択したのは、一にも二にも、経済的利害を重視したからだ。経済的利害を重視する必要性に迫られている点では、日本もより切実であるし、かつ安全保障上の対話も日本の地理的位置からして、西欧よりもはるかに喫緊の課題であることは明らかだ。

彼我の条件を対比するとき、無人島にすぎない尖閣をめぐる衝突を奇貨として、隣国関係を煽り、挑発し、封じ込めなどを口走るのは、狂気の沙汰である。

正確な史実を隠蔽して私利私欲の政治家の暗躍を許したことで外務省の責任放棄は非難を免れない。彼らは自民党青嵐会(石原慎太郎ら)の攻撃を恐れて会談記録を行方不明にした形跡がある。もし正確な記録が残されていれば、日中関係がこのような紛糾に至ることは避けられたはずだ。紛糾後の相互不信関係をもとに両国関係を議論するのは、因果関係をとりちがえたものだが、この種の議論のみがマスコミに踊る。衆愚政治としかいいようがない事態である。

要するに、石原慎太郎の挑発に始まり、これに軽々と乗せられた野田佳彦政権の尖閣国有化、抗議する中国海警による公船派遣、対抗する海上保安庁の警備艇派遣といった一連の疑心暗鬼エスカレーションを通じて、両国の相互不信は空前に高まり、2012~14年の日中関係は、武力衝突必至かといわれるほどの緊張に達した。両国政府の対外強硬策は、それぞれが国内のナショナリズムを支えとしつつ、これを煽動してさらなる強硬策へという悪循環をたどったことで、その様相は酷似している。この限りでは両国共に反省しなければならない。

ここで、両国のスタンスの違いは大きい。「日本経済の没落」と「中国経済の勃興」だ。不安定な世界経済構造のなかで、大方の国々は、経済成長を牽引しつづける中国に目を向け、そこにビジネスチャンスをつかもうとしている。その姿勢を端的に示すものが、AIIBへの参加表明にほかならない。これに対して、主として安全保障あるいは国際政治面の配慮から、アメリカ頼り、中国敵対路線を公言してきたのが安倍反動政権である。私はこのような安倍対中外交に大きな疑問を感じて「中国経済が米国を抜いて世界一になる時、中国封じ込めに動く安倍ドンキホーテ政権に未来はあるか」(『中国情報ハンドブック』蒼蒼社、2014年7月)を書いて、批判してきた。遺憾ながら私の危惧は的中し、日本が世界の孤児への道を歩む姿が誰の目にも明らかになりつつある。

2015年3月末は、創設メンバー資格の締め切り日であった。創設メンバーになることによって始めて運営に発言権をもつ。発言権をもつ形での参加を自ら拒否しておきながら、運営に難癖をつけるのは、負け犬の遠吠えそのものだ。AIIBの創設メンバーの地位を放棄した日本が、対照的に追求を続けているのは、国連安保理の常任理事国ポストである。国連の創設過程とその後の運営を見れば明らかなように、安保理常任理事国ポストとは、由来「連合国の五大国」に与えられた特権ポストである。戦後国際政治の大枠は連合国すなわち戦勝国連合が決定したのであり、「敗戦国としての日本」が多少国連の分担金を過大に支出したところで、敗戦国が戦勝国の地位を得ることが不可能なことは、2005年の失敗が示している。にもかかわらず、この失敗から何も教訓を学ばない。失敗を率直に認めず、依然可能性があるかのごとき虚偽宣伝を政府外務省は続けている。

このような白日夢願望とAIIBの無視とは、メダルの表裏である。このような白日夢から覚めて、今日の世界経済、アジア経済の現実を知るには、やはり虚心坦懐に、中国の姿を見つめる必要がある。

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習近平の唱えるAIIDとは何か、それを習近平の演説から探るには、次の五つの演説を調べるのがよい。

➊2013年10月3日、インドネシア国会での演説(「共に「二一世紀海上シルクロード」を建設しよう」『習近平談治国理政』)

➋2013年10月7日、APEC-CEOサミットでの演説(「改革開放を深化し共に素晴らしいアジア太平洋地域をつくろう」『習近平談治国理政』)

➌2013年10月24日、周辺外交活動座談会における談話(「親密、包容の周辺外交の理念を堅持する誠実、思恵」『習近平談治国理政』)

➍2014年5月21日、アジア相互協力信頼醸成措置会議第4回サミットでの演説(「アジア安全観を積極的に樹立し安全協力の新局面を共に創出しよう」『習近平談治国理政』)

➎2014年6月5日、中国・アラブ諸国協力フォーラム第6回閣僚級会議開幕式における談話(「シルクロード精神を発揚し中国・アラブ諸国の協力を深化する」『習近平談治国理政』)

 

習近平構想は2013年10月の三つの演説と2014年5~6月の二つの演説からなる。

➊では、「中国はASEAN諸国との相互アクセスの強化に力を尽くしている」と指摘しつつ、「中国はアジアインフラ投資銀行の設立を提唱し、ASEAN諸国を含めて、この地域の発展途上国がインフラの相互アクセスの体制作りを進めることを支援したいと考えている」

「東南アジア地域は昔から「海上シルクロード」の重要な中枢だった。中国はASEAN諸国と海上での協力を強化し、中国政府が設立した中国・ASEAN海上協力基金を活用して、海洋協力のパートナーシップを発展させ、共に「21世紀海上シルクロード」を建設することを願っている」と述べて、「海のシルクロード21世紀版」を建設することがインフラの中身と想定されていた。

➋では、パリ島で聞かれた今回のアジア太平洋経済協力会議(APEC)非公式首脳会合での演説だ。曰く「長い間、アジア太平洋地域は常に世界経済の成長をけん引する重要なエンジンであった。世界経済の回復の原動力が欠乏している背景の下、アジア太平洋各経済体は敢えて天下に先んじる勇気を奮い、発展・刷新、成長の連動、利益の融合ができる開放型経済発展パターンの確立を推進しなければならない」として、「世界経済を牽引するアジア太平洋」を位置づけ、ついで「アジア太平洋と中国の関係」をこう位置づけた。「中国はアジア太平洋地域の多くの経済体にとって最大の貿易パートナー、最大の輸出市場、主要投資国となっている。2012年のアジア経済の成長率に対する中国の貢献率は、すでに50パーセントを上回っている。2012年末時点で、中国が設立を許可した外資系企業は累計76万社に上り、外資直接投資額は約1兆3000億ドルに達した。中国はすでに20カ国・地域と12の自由貿易協定(FTA)を締結しており、交渉中のは六つあり、自由貿易パートナーはほとんどAPEC加盟国・地域である。今後5年間、中国の製品輸入額は10兆ドル、新規対外投資は5000億ドル、中国大陸部外への観光客数は延べ4億人を超える」。

「現在、アジア諸国、特に新興市場と発展途上国はインフラ整備の融資需要が大きい一方、最近は経済の下押しリスクの増大と金融市場の不安定さなどの厳しい試練に直面しており、より多くの資金をインフラ整備に導くことで経済の持続的で安定した成長を維持し、地域内の相互アクセスと経済一体化プロセスを促進する必要がある。そのため、中国はアジアインフラ投資銀行の設立を提唱し、東南アジア諸国連合(ASEAN) 諸国を含むアジア地域の発展途上国のインフラ整備のために資金面での支持を提供したい考えである」。

➊➋が、インドネシアのバリ島で開かれたAPEC非公式首脳会合の機会をとらえて「海のシルクロード」を呼びかけたのに対して、➌は、同じ構想の国内向けの演説だ。いわゆる「周辺外交」を説いた演説である。曰く、「地理的位置、自然環境から見ても、相互関係から見ても、周辺はわが国にとって極めて重要な戦略的意義を持っている。周辺問題を考え、周辺外交を進める時には、立体的、多元的で、時空を越えた視点を持つことが必要である。わが国の周辺の情勢を見ると、周辺環境は大きく変化し、わが国と周辺諸国の関係は大きく変化しており、わが国と周辺諸国との経済・貿易のつながりはいっそう緊密になり、相互作用はかつてなく密接になっている」「関係諸国と共に努力して、インフラの相互アクセスを加速し、シルクロード経済帯、21世紀海上シルクロードを立派に建設すべきだ。周辺を基礎に自由貿易圏戦略の実施を急ぎ、貿易、投資分野の協力の可能性を広げ、地域経済一体化の新しい枠組みを築くべきだ。地域金融協力を絶えず深化させ、アジアインフラ投資銀行の設立準備を積極的に進め、地域の金融セーフティネットを整備すべきだ。国境地帯の開放を加速し、国境沿いの省・自治区と周辺諸国の互恵協力を深めるべきだ」。

➍は、アジア相互協力信頼醸成措置会議(略称CICA、Conference on Interaction and Confidence-Building Measures in Asia)が上海で第4回首脳会合を開いた際の演説である。この会議に日本はオブザー参加するだけで、正式メンバーではないこともあり、報道は少ない。これは1993年に発足した多国間協力組織である。

1992年10月の第47回国連総会において、カザフスタン大統領(ヌルスルタン・ナザルバエフ)が「アジア全域の相互協力と信頼醸成を目的とする地域フォーラム」として設立を提唱したことに始まる。正規加盟は26カ国・地域、オブザーバーは7カ国・4機関であり、西アジア、中央アジア、南アジア、東アジアだけでなく、ロシアのような北アジアまで及ぶ。事務局はカザフスタンのアルマトイに置かれている。「欧州安全保障協力機構(OSCE)のアジア版」との見方もある。

➊➋が「海のシルクロード」を建設するインフラであるのに対して、➍は「陸のシルクロード」というインフラ建設を狙う。習近平曰く、「総合[的安全保障]とは、伝統的安全保障と非伝統的安全保障を統一的に考慮することである。アジアの安全保障問題は極めて複雑で、ホットで敏感な問題もあれば、民族・宗教上の矛盾もあり、テロ、国際犯罪、環境安全保障、ネットセキュリティ、エネルギー・資源安全保障、ひどい自然災害などによる困難が顕著に増え、伝統的安全保障と非伝統的安全保障、両分野の脅威が交錯し、安全保障問題の内包と外延がさらに拡大している。アジアの安全保障問題については歴史的経緯と現状を総合的に考慮し、多方面からの取り組みを集め、総合的施策をとり、地域の安全保障管理を協調して推進しなければならない。現在の際立った地域安全保障問題の解決に力を入れるだけでなく、さまざまな潜在的脅威への対応を統一的に計画し、テロリズム、分裂主義、過激主義という「三つの勢力」に対し、一切容赦なしの姿勢をとり、国・地域の協いっそう厳しく取り締まり、地域人民が平穏で和やかな土地で幸せに生活できるようにしなければならない。中国は各国と共に、『陸のシルクロード経済帯』と『海のシルクロード21世紀版』[原文=一帯一路]の建設を加速し、アジアインフラ投資銀行を早期に設立し、地域協力のプロセスにより深く参与していく」。

➎は、2014年6月5日「中国・アラブ諸国協力フォーラム」の「第6回閣僚級会議開幕式における談話」である。中国・アラブ諸国協力フォーラムは、2004年1月30日に設立され、中固とアラブ諸国の対話・協力を強化し、平和・発展を促すことをうたっている。メンバーは中国とアラブ連盟の22の加盟国からなる。

習近平曰く、今後五年で、中国は10兆ドルを上回る商品を輸入し、5000億ドルを超える対外直接投資を行う。2013年のアラブ諸国からの商品輸入額は1400億ドルで、これは今後予定されている毎年2兆ドルの商品輸入額の7パーセントに過ぎない。アラブ諸国への直接投資額は22億ドルで、今後予定されている毎年1000億ドルの対外直接投資額の2.2パーセントに過ぎない。ギャップは潜在力となるものであり、チャンスでもある。中国はアラブ諸国の雇用拡大、工業化推進、経済成長推進を支援することを願っている。中国側は中国企業がアラブ諸国からより多くの石油以外の製品を輸入することを奨励して、貿易構造を最適化し、今後10年間で相互貿易額を昨年の2400億ドルから6000億ドルにまで増やすよう努力する。また、中国企業がアラブ諸国のエネルギー、石油化学工業、農業、製造業、サービス業へ投資することを奨励し、今後10年間で中国のアラブ諸国に対する非金融類投資累計額を昨年の100億ドルから600億ドル以上にまで増やすよう努力する。原子力、宇宙衛星、新エネルギーの三大ハイテク分野を突破口として、双方の実務協力のレベルを引き上げるよう努力する。中国・アラブ諸国技術移転センターの設立を検討し、アラブ原子力平和利用トレーニングセンターを共同で設立し、アラブ諸国における中国の衛星測位システム「北斗」の展開を検討する。条件の整ったものから実現していく。例えば、中国・湾岸協力理事会(GCC)自由貿易圏、中国・アラブ首長国連邦共同投資基金、アジアインフラ投資銀行(AIIB) 設立へのアラブ諸国の参加などである。

 

要するに、「陸のシルクロード経済帯」と「海のシルクロード」(「一帯一路」)を結ぶインフラ投資を行うのが、この投資銀行の目的であるから、中国が中心に位置づけられていることは明らかだ。とはいえ、日本から見れば、日本こそが「陸のシルクロードの終点」であり、かつ「海のシルクロードの始点」であることも確かな事実である。この文脈では、日本はすでに「一帯一路」に巻き込まれている。課題はどのような形で参加し、どのように日本の国益を実現できるか、である。安倍内閣にそのような対応能力が欠けていることはすでに明らかだ。日本の悲劇は、そのような無能内閣に代替できる政権を作れないことだ。

 

y1y2y3y4〈記事出典コード〉サイトちきゅう座http://www.chikyuza.net/

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