二十世紀文学の名作に触れる(46) ガルシア・マルケスの『百年の孤独』――奇矯な叙述に彩られた世にも不思議な物語

 1982年にノーベル文学賞を受けた南米コロンビアの作家ガルシア・マルケス(1928~2014)の代表作『百年の孤独』は欧米の評論家が「マジック・リアリズム」と激賞したベストセラー小説だ。人の怨霊が祟ったり、死者が再生~謎解きに励んだり、絶世の美女がある日急に空に消えたり。ラテン音楽のめくるめく狂騒さながら、要約至難な天下の奇談が次から次へと綴られる。困難は承知で新潮社版(2006年、訳:鼓直)を基に、内容の一端を紹介してみたい。
 
 東には険しい山脈が、南には沼と湿原が続く(南米コロンビア北部の)無人の地。ブエンディア家のホセ・アルカディオが従妹に当たる妻のウルスラや眷属ら二十戸ほどを率い、ここに移り住み、「マコンド」と名乗る村を拵える。夫婦が郷里を捨てたのには訳があった。
 三百年ほど昔から仲のいい二つの家族が、何世代にもわたり互いの子供たちを繰り返し近親結婚させてきた。その結果、<豚の尻尾>を持つ子供が生まれる異変が生じた。それを気遣うウルスラが交接を怖がり、初夜に夫を拒む。そのことを揶揄した男を夫は投槍で殺すが、死んだ男の幽霊が周辺にしばしば出没するのに閉口し、一行は郷里から旅立ったのだ。

 族長のホセは商いに来たジプシーたちと付き合い、怪しげな錬金術の研究に耽る。真面目一点張りの妻ウルスラは飴細工の商いに励んだ。第二世代の長男ホセや次男アウレニャノが成人する頃には、寒村だったマコンドは商店や職人の仕事場が軒を連ねる賑やかな町になる。が、族長のホセは精神に異常を来たして栗の木に縛り付けられ、老衰の死を迎える。

 マコンドに外の世界の「政治」が入り込んでくる。第二世代の弟アウレニャノは自由党の側に立って蜂起し、「大佐」と呼ばれる軍事指導者にのし上がる。政府軍との攻防の中で、大佐の甥(兄ホセの子、第三世代)は政府軍に処刑され、大佐の子(第三世代)も後に政府軍とのいざこざでむざむざ殺害されてしまう。

 政治力にものを言わす保守派のモンカダ将軍がマコンドの市長兼司令官に就く。アウレニャノ大佐の革命軍が武力で街を制圧し、将軍を死刑に処す。大佐の構想は中米の連邦勢力を糾合し、保守政権を一掃することだった。が、当初は革命支持だった自由党の地主たちが保身に走り、保守党の地主たちと結託~大佐の過激な決定の撤回を声明する。
 絶大な権力に伴う孤独の中で、大佐は進むべき道を見失って無力感に陥り、保守党政府との妥協的停戦協定に調印してしまう。協定調印式の席上、大佐はピストル自殺を図る。が、弾丸が胸を貫通したものの命は取り留め、彼は殉教者扱いされ、昔日の声望を回復する。

 アウレニャノ・セグンド(第四世代)が美しい小町娘フェルナンダと結ばれる。が、情婦のペトラ・コテスの手管にあしらわれ、三角関係が続き、彼は双方の女にまめに優しく仕えた。政府がアウレリャノ大佐の表彰を発表し、十七人もの大佐の息子たちが各地からマコンドを訪ねてくる。ある淋しげな翳をまとう男たちで、大佐は銘々に金細工の魚を贈った。

 冬の初め、予定より八か月遅れながら鉄道が開通し、マコンドに花一杯の汽車が到着する。
 人々は新発明の品々の多さに戸惑った。青白い電球・活動写真・円筒式蓄音機・・・。各地から汽車で押し掛けた連中が町に住み着き、トタン屋根の木造家屋が立ち並ぶキャンプが出現する。大勢の娼婦たちが移り住み、物騒な山師たちで溢れかえった。ある日、ブエンディア家の小町娘レメディオス(第四世代)がシーツにくるまれ、遥かな上空へ姿を消す。

 秋の夕方、庭で排尿中に大佐は息が絶える。メメ(第五世代)が勉学を終え、騒々しいパーティなどの気晴らしに耽る。娘盛りを迎え、感じがよく人に好かれた。バナナ会社の職工マウリシオとメメは運命的な恋に落ちる。ジプシーのように黒くて陰気な目をした彼は自尊心と慎みを具え、かつ情熱的だった。二人は激しく愛し合い、やがてメメが身ごもる。

 メメの赤ん坊アウレニャノ(第六世代)が屋敷に引き取られ、メメ自身は海外の修道院に追いやられる。ホセ・アルカディオ(第四世代)がバナナ会社の労務者を扇動~ストを計画。
 大規模なストが始まり、三個連隊の兵隊が出動し、機関銃が火を噴く。かすり傷で済んだホセは死体の山に埋もれ貨車で運ばれる途中、脱出。帰宅した彼は、敵からは姿が見えない。

 長雨が四年十一ケ月と二日も降り続いた。鬱屈するアウレニャノ・セグンド(第四世代)はカッとし、家中の壊れ易い物を全て壊す。曾祖母ウルスラ(第一世代)だけが埋め場所を知っている大金の存在を思い出し、庭中を三か月間も徹底的に調べるが遂に見つからない。
 セグンドは家族を餓死から救うべく、富くじ商売を始める。毎週火曜の晩、彼はアコーデオンを弾いた。百二十㌔あった体重は七十八㌔に減っていた。娘のアマランタ・ウルスラ(第五世代)は生徒六名の私立学校に入るが、出生証明書に「捨て子」と記載があるアウレニャノの方は公立学校に通うことも許されなかった。成長したアマランタは勉学のため遠くブリュッセルへ旅立つ。尼僧らの監視の下での計らいだった。
 
 大人になったアウレニャノはメルキアデスの部屋にこもり、羊皮紙の研究に打ち込む。ローマから帰ったホセ・アルカディオ(第四世代)が、ウルスラの隠匿した金貨の大金を発見する。が、彼は目をかけていた四人の子供たちに水浴中に襲われて溺死し、金貨を奪われる。アマランタ・ウルスラは中年のベルギー人の夫ガストン同伴で舞い戻ってくる。彼女は勝気で行動的、美貌と魅力に恵まれていた。まもなくガストンは商用でブリュッセルへ帰国する。

 宿命的な恋に陥ったアマランタとアウレニャノは情事に溺れ、激しく愛を交わす。妊娠したアマランタは豚の尻尾を持った赤ん坊(第六世代?第七世代?)を出産後、出血で死ぬ。愛し合った両人は、実は叔母と甥の間柄だった。独りぼっちになったアウレニャノはメルキアデスが遺した羊皮紙(文字はサンスクリット語と判明)の解読にひたすら打ち込むほかない。(蜃気楼の)町は風によってなぎ倒され、人間の記憶から消えることは明らかだった。

 本書の題名『百年の孤独』について一言。「孤独」は英語のsolitude(一人でいること)。二人でもなく、三人でもない意である。一人でいることは即ち、「愛しえないこと」を指す。ガルシア・マルケスはブエンディア家の人間の孤独の由来を訊かれ、「原因は愛の欠如にある」「ブエンディア家の人間は人を愛することができなかった」と断言している。

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