本日は、緊急シンポジウム「辺野古新基地建設と沖縄の自治-辺野古が問う日本の地方自治のあり方」に参加した。
行政法学者を中心とした「辺野古訴訟支援研究会」が主催し、「沖縄等米軍基地問題議員懇談会」が共催。衆院第1議員会館地下の会議室で、参加者は210名と盛況だった。
集会の性格は政治集会ではない。法的な研究成果の報告という地味なものなのだが、元米軍海兵隊員の女性殺害事件勃発と時期が重なった。準備された集会の内容は事件とは直接の関わりはない。「緊急シンポジウム」ということで参加した聴衆の一部には場違いな感じだったかも知れない。それでも、多くのスピーカーが、この傷ましい事件に触れて、基地撤去に向けた怒りの集会ともなった。
主なプログラムは、
「辺野古裁判の経過・意義と国地方係争処理委員会の争点」
沖縄県辺野古裁判等弁護団代表竹下勇夫氏
「沖縄から国地方係争処理委員会の役割を考える一和解を受けて」
成蹊大学教授武田真一郎氏
「辺野古新基地阻止への思いと地方自治」
沖縄県知事翁長雄志氏(知事公館室長代読)
「辺野古埋立問題と日本の地方自治一今後の展望」
早稲田大学教授岡田正則氏
パネルディスカッション
辺野古新基地建設をめぐっては、国と沖縄県との間に3件の訴訟が係属していたが、本年3月4日福岡高裁那覇支部で暫定的な和解が成立。3件とも訴訟は取り下げられ、和解にもとづいて国は湾の埋立作業を停止して今日に至っている。しかし、この和解は飽くまで仕切り直しのしばしの休戦に過ぎない。
和解3日後の3月7日、はやくも国土交通大臣は沖縄県知事に対して、地方自治法に基づく是正を指示(知事がした「埋立承認取消処分」を取消すよう指示)した。この指示は手続的に不備があって撤回され、3月16日にあらためての指示があり、これを不服とする知事は、和解が定めたとおり、同月23日に国地方係争処理委員会審査申し出をして、現在その審査が進行中である。
審査期間は90日以内と定められている。するとリミットは6月21日(火)ということ。果たして、どのような判断になるだろうか。大いに注目されるところ。
配布されたレジメに、「国地方係争処理委員会及び訴訟における法的争点」表が掲載されていた。これを転載しておきたい。
争点1 審査の対象
国の主張 仲井眞前知事の埋立承認の適法性
県の主張 現知事(翁長)の埋立承認取消の適法性
是正の指示、そのものが違法
争点2 どこに基地を設置するか知事に審査権限はあるか
国の主張 国の政策的・技術的な裁量に委ねられている。
県の主張 基地を作ることを目的とした公有水面の埋立ての必要性の認定が問題となっていて、それは知事にある。
争点3 普天間の危険除去を理由に、埋立の必要性あり、といえるか
国の主張 いえる。
県の主張 普天間の危険除去の必要性が埋立の必要性と論理的に結びつくわけではない。
争点4 埋立により辺野古の海が有する優れた自然価値を損なわれないか
国の主張 環境評価、代替案等で、可能な限り、損なわれないようにしている。
県の主張 環境アセスが不十分であるし、専門家等の疑問に適切に答えていない。
争点5 職権取消しの法理の適用
国の主張 適用有り
県の主張 適用なし
争点6 辺野古新基地建設は、沖縄の自治権侵害に当たるか
国の主張 (?)
県の主張 米軍基地に対して、国の規制や自治体の規制が及ばないし、自治体の街づくりにも支障があり、これは自治権侵害にあたる。
以上の争点の判断において、本日強調されたのは、国地方係争処理委員会の存在理由や使命についてである。また、憲法が想定する地方自治のあり方である。
憲法の保障する地方自治を実現するためには、国と地方自治体の関係は「対等・平等・協力」の関係でなければならない。このような認識にたって地方分権改革(1999年)が進められ、国に対する地方の「対等・平等・協力」関係を確保するために、地方自治体が国等の関与を争う制度として国地方係争処理委員会が設けられた。裁判所の審理の対象が違法性に限られるのに対して、国地方係争処理委員会は、国と地方の各行政方針などにも踏み込み柔軟な判断をなし得る。
係争委は、自治体に対する国の関与の適法性や公益適合性を審査する機関だが、飽くまで憲法の保障する地方自治の本旨の実現を図るためのもの。「政治権力の圧力に屈することなく、その使命を貫け」「地方自治に関する憲法の原則を貫け」という熱いメッセージの集会となった。
(2016年5月24日)
初出:「澤藤統一郎の憲法日記」2016.05.24より許可を得て転載
http://article9.jp/wordpress/?p=6924
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座http://www.chikyuza.net/
〔eye3452:160525〕