世界平和アピール七人委員会は1月16日、「腐敗政治と力依存の政策からの脱却を」と題するアピールを発表した。
アピールはまず、2012年以来の安倍政権によって引き起こされてきた政治腐敗を列挙する。自民党の派閥によって続けられてきた裏金作り、森友学園への格安の国有地売却や内閣総理大臣主催の桜を見る会における地元有権者の優遇、河井克行元法相夫妻の公職選挙法違反事件、自民党と旧統一教会との癒着やもたれ合いなどである。
次いで、アピールは「このような腐敗が進む政権の下で、特定秘密保護法が制定され、集団的自衛権の行使を容認する閣議決定が行われ、急速な軍備増強が行われ、沖縄県の軍事基地の増強や殺傷武器の輸出の容認が進められたりしてきている」と指摘し、「民主主義政治への信頼を掘り崩すような行為が進む事態と、力で異論を抑え込んだり、対外的な力の誇示に向かったりする政策の推進は無縁ではない。権力をもった者がほしいままに支配力を行使することを是とし、多様な立場の尊重と信頼関係に基づく合意形成を軽んじる姿勢が背後にある」と断定する。
そして、アピールは、こうした力任せの政治は世界的にも広がっているとし、「市場経済の勝者がほしいままに富を蓄積し権力を行使するのをよしとする体制の下で、選挙による民意の反映というシステムが、力の支配を抑制する方向でではなく、排外主義と結びつく力の支配に屈するような方向で働くような事態が世界各国で見られる」とする。
そうした視点から、アピールは「現代政治の危機を脱していくには何が必要なのだろうか。力任せの政治を許さない世論を形成し、選挙と立憲政治・議会政治に反映させていくことが求められる」と問いかけ、「国際社会でもそうした変化を進めることが必要であり、国連では人権を重視し、力任せの大国に対する批判の国際世論を反映させる傾向が強まっている。国連重視を掲げてきた日本はこの線に沿って外交を進めていくのでなければならない」と述べている。
世界平和アピール七人委は、1955年、世界連邦建設同盟理事長・下中弥三郎、物理学者・湯川秀樹らにより、人道主義と平和主義に立つ不偏不党の知識人の集まりとして結成され、国際間の紛争は武力で解決してはならない、を原則に日本国憲法擁護、核兵器廃絶、世界平和実現などを目指して内外に向けアピールを発してきた。今回のアピールは159回目。
現在の委員は大石芳野(写真家)、小沼通二(物理学者)、池内了(宇宙物理学者)、池辺晋一郎(作曲家)、髙村薫(作家)、島薗進(上智大学教授・宗教学)、酒井啓子(千葉大学教授)の7氏。
アピールの全文は次の通り。
自民党の派閥が政治資金パーティーの収入の一部を裏金化したとして、有力派閥の幹部議員の多くが政治資金規正法違反容疑で捜査を受け、逮捕される議員も出た。元首相の安倍晋三氏が長を務める派閥だったが、その安倍政権の下で、森友学園への格安の国有地売却や内閣総理大臣主催の桜を見る会における地元有権者の優遇など幾つもの疑いがかけられていたことが思い起こされる。違法行為が疑われても権力の座についていれば、処罰を免れることができると考える人も多かった。
2012年以来の第2次安倍政権だが、立法機関である国会を軽視・無視するばかりか、その後半以後、河井克行元法相夫妻が公職選挙法違反に問われて法相辞任さらに国会議員を失職あるいは辞職に追い込まれるなど、与党政治家の腐敗摘発が後をたたない。また、旧統一教会と自民党との癒着やもたれ合いも注目を集め、あからさまな利用し合いの関係が露わになってきた。宗教を隠れ蓑に違法な活動を行ったり、信徒から途方もない金額の献金をむさぼり取るなどしてきた教団である。その教団が、政治家の政治活動や選挙運動で献身的な奉仕活動を行う見返りにそのお墨付きを得て、身を守り勢力を拡張することができたのだった。
このような腐敗が進む政権の下で、特定秘密保護法が制定され、集団的自衛権の行使を容認する閣議決定が行われ、急速な軍備増強が行われ、沖縄県の軍事基地の増強や殺傷武器の輸出の容認が進められたりしてきている。民主主義政治への信頼を掘り崩すような行為が進む事態と、力で異論を抑え込んだり、対外的な力の誇示に向かったりする政策の推進は無縁ではない。権力をもったものがほしいままに支配力を行使することを是とし、多様な立場の尊重と信頼関係に基づく合意形成を軽んじる姿勢が背後にある。
このような力任せの政治は東アジアでは古来、覇道とよばれてきたものである。現代世界では、これは日本だけで目立っているわけではない。核兵器の使用をほのめかし他国を侵略するプーチン大統領のロシア、多数の子どもや女性がいる人口密集地域を攻撃するイスラエル、イスラエルの市民虐殺を支持する米国などにも同様の傾向が見られる。ソ連時代の独裁体制から脱したはずのロシアが新たな力の支配を代表する国になり、中東地域で民主主義体制を代表すると見られていたイスラエルや、世界の民主主義を牽引する国と見られてきた米国で、力任せの支配をよしとする姿勢が顕著である。プーチン、ネタニヤフ、トランプのような政治指導者は罪に問われる人物であり、その地位にふさわしくないと考える人々が国の内外にきわめて多いのに、その地位から退けることができない。
これは市場経済による競争が社会の活力を高めるとして、格差是正や社会的公正を目指す政治を軽視する新自由主義と、それに対応する資本主義の負の側面の肥大化の弊害と関わりがある。市場経済の勝者がほしいままに富を蓄積し権力を行使するのをよしとする体制の下で、選挙による民意の反映というシステムが、力の支配を抑制する方向でではなく、排外主義と結びつく力の支配に屈するような方向で働くような事態が世界各国で見られる。
民主主義が適切に機能していないということだが、このような現代政治の危機を脱していくには何が必要なのだろうか。力任せの政治を許さない世論を形成し、選挙と立憲政治・議会政治に反映させていくことが求められるが、これが現在容易でない。だが、国内でも国際社会でもそうした変化を進めることが必要であり、国連では人権を重視し、力任せの大国に対する批判の国際世論を反映させる傾向が強まっている。国連重視を掲げてきた日本はこの線に沿って外交を進めていくのでなければならない。国内では、速やかに腐敗した政治手法をなくしていくことが不可欠である。これは政治への信頼を取り戻すための第一歩になる。
グローバル化が進む現代世界では、国際政治と国内政治とが影響し合う傾向が増している。平和を目指す政治は、また信頼を尊ぶ政治でもある。
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