今どきの中学生が出会う短歌~国語教科書に登場の歌人たち、その作品は(2)

光村図書出版『国語2』

 この教科書は、中学3年間で、古典の和歌、近・現代短歌への格別の配慮がみられる。詩については1年生で、短歌については2年生で、俳句と古典和歌について3年生でという学習指導要領に従い、基本的には各社共通ではあるが、光村の場合は、各年に、コラム「四季のたより」として、和歌・短歌や俳句などを掲載している。また、一年生の教科書にも「百人一首を味わう」として、20首を収録している。

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 2年生では、栗木京子の書下ろしエッセイの「短歌に親しむ」に以下の五首を掲載している。

・くれなゐの二尺伸びたる薔薇の芽の針やはらかに春雨のふる(正岡子規)(学図・東書・三省堂・光村)⇒三省堂、教育出版、光村

・夏のかぜ山よりきたり三百の牧の若馬耳吹かれけり(与謝野晶子) ⇒光村*新

・死に近き母に添寝のしんしんと遠田のかはづ天に聞こゆ(斉藤茂吉)(学図・三省堂・教育)⇒光村*新

・鯨の世紀恐竜の世紀いづれにも戻れぬ地球の水仙の白(馬場あき子) ⇒光村*新

・蛇行する川には蛇行の理由あり急げばいいってもんじゃない(俵万智)⇒光村*新

  

 同じく栗木の「短歌を味わう」では、つぎの六首を鑑賞の対象としている。

・白鳥は哀しからずや空の青海のあをにも染まずただよふ(若山牧水)(東書・三省堂・教育・光村)⇒三省堂、光村

・不来方のお城の草に寝ころびて/空に吸はれし/十五の心(石川啄木)(東書・学図・三省堂・光村)⇒三省堂、教育出版*新、光村

・のぼり坂のペタル踏みつつ子は叫ぶ「まっすぐ?」、そうだ、どんどんのぼれ(佐佐木幸綱)(学図)⇒光村*新

・ぽぽぽぽと秋雲浮き子供らはどこか遠くに遊びに行けり(河野裕子)⇒光村*新

・観覧車回れよ回れ想ひ出は君には一日我には一生(栗木京子)(東書・学図・三省堂・教育・光村)⇒三省堂、教育出版、光村

・一本の道をゆくとき風は割れぼくの背中で元に戻った(木下龍也)⇒光村*新

  ここでは、中学校国語教科書のいわば定番の短歌と併せて、河野裕子と木下龍也の短歌が登場する。木下は、近年の短歌ブームの渦中にある若手であって、その評価には異論もあるが、栗木は、作品として定着したとみたのだろう。光村出版の編集は上記、栗木の「短歌に親しむ」「短歌を味わう」に見るように、その重用が顕著である。

 2年生の「広がる読書」には、近・現代短歌に関しては、以下をあげている。

栗木京子『短歌を楽しむ』岩波書店 1999年(12月)
栗木京子『短歌をつくろう』岩波書店 2010年(11月)
東直子『短歌の時間』春陽堂書店 2022年(3月)

 

 以下は「季節のしおり」に収録された近・現代短歌で、学年と季節を示す。このコーナーでは、俵万智を除いて、光村出版としては、これまでとっていなかった、伝統的な近代の歌人の短歌を意識的に収録したのかもしれない。

・なつかしき冬の朝かな。湯をのめば、湯気がやはらかに、顔にかかれり(石川啄木)<1年・冬> ⇒光村*新

・やはらかに柳あをめる 北上の岸辺目に見ゆ 泣けとごとくに(石川啄木)<2年・春>(教育)⇒ 光村*新

・清水へ祇園をよぎる桜月夜今宵逢ふ人みなうつくしき(与謝野晶子)<2年・春>⇒ 光村*新

・海を知らぬ少女の前に麦藁帽のわれは両手をひろげていたり(寺山修司)<2年・夏>(東書・光村)⇒光村

・葛の花 踏みしだかれて、色あたらし。この山道を行きし人あり(釈迢空)<2年・秋>(三省堂)光村*新

・街をゆき子供の傍を通る時蜜柑の香せり冬がまた来る(木下利玄)<2年・冬>  ⇒ 光村*新

・「寒いね」と話しかければ「寒いね」と答える人のいるあたたかさ(俵万智)<2年・冬>(東書・三省堂・教育)⇒三省堂、光村*新

  

 さらに、3年生の教科書の巻末には、「郷土ゆかりの作家・作品」ということで、文学全般にわたって、北海道から沖縄県まで、都道府県ごとにリスト化している。近・現代短歌が採られている都道府県名を記した。こうしてみると、茂吉の「みちのくの・・・」を除いて、他社の教科書にない短歌を「郷土ゆかり」のいわば「ご当地短歌」として登場させていることに注目すべきだろう。

・みちのくの母のいのちを一目見ん一目みんとぞたたにいそげる(斎藤茂吉)<山形県>(教育)⇒三省堂*新、教育出版、光村*新

・陸奥をふたわけざまに聳えたまふ蔵王の山の雲の中に立つ(斎藤茂吉)<山形県> ⇒光村*新

・海恋し潮の遠鳴りかぞへては少女となりし父母の家(与謝野晶子)<大阪府>⇒光村*新

・ふるさとの和泉の山をきはやかに浮けし海より朝風ぞ吹く(与謝野晶子)<大阪府>⇒光村*新

・幾山河越えさり行かば寂しさの終てなむ国ぞ今日も旅ゆく(若山牧水)<宮崎県>光村*新

・ふるさとの尾鈴の山のかなしさよ秋もかすみのたなびきて居り(若山牧水)<宮崎県> ⇒光村*新 

 また、3年では、「春待つと」と題して、萬葉、古今、新古今からの名歌が収録され、さらに古典の名作としても古典和歌が取り上げられている。

 以上みたように、光村出版の中学校国語教科書は、和歌・短歌を全学年通じて、さまざまな工夫で、さまざまな個所で取り上げ、和歌・短歌への関心と理解を深めさせようとする意図が見えるのが特色と言えよう。

  つぎに、東京書籍の「新編新しい国語2」を検討したいが、参考のため、当ブログの過去記事と2016年版の概要一覧をご覧ください。

中学校国語教科書の中の近代・現代短歌と短歌作品~しきりに回る「観覧車」(2011年11月30日)
http://dmituko.cocolog-nifty.com/utino/2011/11/post-de32.html

<中学校国語教科書における「近代・現代短歌」の概要(2016年度版)>201576日作成 内野光子)
http://dmituko.cocolog-nifty.com/tyuugakkkokokugoitiran.pdf

なお、遡っては、以下の記事と比較表もご覧ください。

中学校国語教科書の中の近代・現代短歌と短歌作品~しきりに回る「観覧車」(2011年11月30日)
http://dmituko.cocolog-nifty.com/utino/2011/11/post-de32.html

<中学校国語教科書平成18年度・24年度比較表>
http://dmituko.cocolog-nifty.com/hikakuhyou.pdf

(つづく)

20258

8月25日、ベランダに出ると小さな「朝の訪問者」、カメラを向けると顔を隠した雨蛙。昨夜の「夜の訪問者」ヤモリは、さすがに写真を撮る気にはならなかったが。

初出:「内野光子のブログ」2025.8.26より許可を得て転載
http://dmituko.cocolog-nifty.com/utino/2025/08/post-304158.html

〈記事出典コード〉サイトちきゅう座  https://chikyuza.net/
〔opinion14403:250828〕