(2020年12月22日)
本日午後1時、北海道から沖縄までにわたる35名が、東京地検特捜部に佐川宣壽らを被告発人とする告発状を提出した。代理人弁護士に委任しての告発ではなく、告発人自身が告発状を作成して提出するスタイルを採り、3名がとりまとめて検察庁に持参提出した。35名はいずれも肩書を付さない一市民として告発者となっているが、自然科学系の研究者、市民運動家、弁護士など多彩である。
各告発人それぞれの判断で、佐川宣壽だけを告発する者が5名であり、その余の30名の告発人は佐川宣壽だけでなく事件当時の財務省理財局の幹部3名を加えた4人を被告発人とする告発をした。被疑罪名は《有印公文書変造・同行使》と《公用文書毀棄》である。
被告発人らはいずれも、先行告発によって捜査対象となったが、不起訴処分となり検察審査会の不起訴不当の議決を経て再捜査の結果再び不起訴処分となった。
再告発が起訴に至るにはハードルが高いことは承知のうえだが、検察官の不起訴処分に一事不再理原則の適用はなく、本件に関しては先行告発の際には知られていなかった諸事情に鑑み、「再起」あってしかるべきである。
先行告発の際とは異なる事情変更の主たるものは以下のとおりである。
◇何よりも、赤木俊夫氏の自死とその手記の発表
◇いわゆる「赤木ファイル」の存在の判明
◇「官邸の守護神」ならびに安倍晋三自身の退陣
◇その余の手続の行き詰まり
森友事件とは、総理大臣による国政私物化の犯罪である。これに憤った市民は、可能な手段がある限り、追及をやめることはない。
下記に、佐川宣壽一人に対する告発状を掲載する。再告発であることから、告発状としては長文になっているが、お読みいただけば、佐川宣壽だけでなく、安倍晋三の責任を追及する告発であることがご理解いただけると思う。
この告発状の書式をお読みになって、そのとおりだと思われる方は、このままの文章でも、あるいはご自分のご意見で加除添削してでも結構なので、ダウンロードしたものに署名捺印の上、東京地検に持参または郵送して告発に加わっていただきたい。
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告 発 状
2020年12月22日
東京地方検察庁 検察官殿
告発人住所
告発人自署押印
被告発人 佐川 宣壽 (本事件当時・財務省理財局長)
(現住所 告発人において詳らかにしない)
はじめに
1 本件は、いわゆる森友事件の一端をなす犯罪の告発である。
森友事件とは、長期政権を誇った当時の内閣総理大臣の国政私物化を本質とする政治的犯罪である。最高権力者である時の内閣総理大臣による国政私物化を実現する官僚の犯罪があり、その事件が発覚して問題となるや、配下の官僚は権力者を擁護するための証拠隠滅行為に走った。証拠隠滅の態様の主たるものは、国会での虚偽答弁と、公文書の改ざん・破棄である。このうち、本件においては、公文書の改ざん・破棄に限定しての告発を行うものである。
本件告発にかかる各犯罪行為が、内閣総理大臣の直接・間接の指示を受けてのものであったのか、あるいは被告発人自身の忖度による犯罪であったかは判然としない。本件捜査に当たっては、犯行の動機として、この点を十分に留意していただきたい。
2 被告発人は既に先行する告発を受けていったんは捜査対象となり、不起訴処分となっている。告発人は、先行する告発の不起訴処分にとうてい納得することができず、本件を再起の上厳格な再捜査と起訴とを求めるものであるが、森友事件に関連する先行告発の経過概要は、以下のとおりである。
森友事件に関しては、多数の市民から38名に及ぶ被告発人に対する先行告発がなされたが、2018年5月31日大阪地検検察官は38人に対する告発事件の全てについて不起訴処分とした。この不起訴処分に対する審査申立を受けた大阪第一検察審査会は2019年3月15日付で、被告発人10人の下記各被疑事実については、不起訴不当の議決をした。
(1) 国有地である森友学園敷地を同学園に売却するにあたって、鑑定価格9億5600万円のところ埋設ごみ撤去費用8億2000万円を値引くとする名目で、1億3400万円という不当な廉価で売却して、国に値引き額相当の損害を与えたとする背任の被疑事実
(2) 関連決裁文書を改ざんした有印公文書変造・同行使の被疑事実
(3) 近畿財務局が学園側との交渉記録などを廃棄したとする公用文書毀棄の被疑事実
この議決を受けた大阪地検は再捜査の結果、同年8月9日に10名の被告発人全員の全罰条について「嫌疑不十分」として再度の不起訴処分としている。
本件は、上記の(2)及び(3)の被疑事実について、再告発するものである。
3 告発人が再告発して再起を求める理由は、先行告発当時にはその存在が知られていなかった、新たな事実や証拠の存在が明らかになったことにある。
その最たるものは、後述のとおり、亡赤木俊夫氏の自死と本年3月に初めて公開された生前の手記であり、その心の痛みである。赤木氏が残したという文書改ざんの記録を綴ったいわゆる「赤木ファイル」の存在もある。これは、赤木氏の遺族が国と被告発人佐川宣壽を被告として起こした損害賠償請求訴訟において提出した音声データの中で、赤木氏の元上司が「われわれがどういう過程で(改ざんを)やったのか全部分かる」と話していたというファイルである。
さらに、先行告発が不起訴となった当時「官邸の守護神」と異名をとった幹部検察官がその職を退いたという状況の変化もあり、何よりも政権の交代が実現したという事情もある。
主要野党による予備的調査請求に対して、衆院調査局は先月(11月)9日報告書を取りまとめて財務金融委員長に提出した。これによって、国会答弁の想定問答や2018年6月の本件に関わる戒告処分の処分説明書の写しなど5文書が初めて公開された。しかし、亡赤木氏が改ざんの経緯を記したとされる「赤木ファイル」については、同省は「訴訟に関わることであるため回答を差し控えたい」として、存在するかどうかを含め説明を拒否している。
また、先月(11月)24日、衆院調査局は学校法人「森友学園」への国有地売却問題を巡る国会質疑で、安倍政権下の政府答弁のうち事実と異なる答弁が計139回に及んだことを明らかにしている。
この「虚偽答弁」は2017年2月15日から18年7月22日までの衆参両院での答弁で、18年6月に決裁文書改ざんについて財務省がまとめた報告書と異なる答弁が88回、会計検査院が開示した中間報告と異なる答弁が51回だったとされる。この139回の「虚偽答弁」のうち、最も事実関係を知る立場にあった被告発人佐川宣壽のものが、108回を占めているという。
4 本件のごとき、政治的事件については、本来は国権の最高機関である国会の国政調査権発動による真相の究明が望ましい。しかし、国会には権威はあっても、権力者の犯罪について、これを究明する実効的手段に乏しい。
いま、同じ政権による国政私物化のもう一つの事件である、「桜を見る会前夜祭」での公職選挙法違反・政治資金規正法違反疑惑を解明する捜査の進展が大きな話題となっている。当該事件の被告発人本人である安倍晋三自らが、「告発を受けて捜査が行われていると承知している。(安倍)事務所としては全面的に協力していく。」と述べているところである。
森友事件・加計学園事件・桜を見る会問題ともに、真相の徹底究明はなされず、生煮えのまま安倍晋三政権は幕を下ろした。しかし、事件が終熄したわけでも解決したわけでもない。いま、検察官が捜査を開始した「桜を見る会前夜祭疑惑」についてだけ、真実の一端が解明されようとしている。
告発人らは森友事件についても、地検の再捜査によって、疑惑解明の進展を願う次第である。
5 犯罪あれば捜査し、捜査の結果嫌疑あれば起訴されるべきが当然の事理である。事実上時の権力者を主犯とする告訴において、これまで刑事司法が十分に機能してこなかった。検察までもが驕慢な長期政権に屈従を強いられているのかという疑惑の中にあった。
今、その疑惑を払拭する好機である。本件告発を受理して再起の上捜査を遂げて検察に対する国民の信頼を回復し、権力者による国政私物化の犯罪の一端なりとも解明していただきたい。
第1 告発の趣旨と本件告発の背景事情
1 被告発人の下記「第2 告発にかかる事実」に記載の各公文書改ざん行為は刑法上の有印公文書変造・同行使に、各公用文書の廃棄行為は公用文書毀棄の各罪に当たるので、この事実を申告するとともに、厳正な捜査と処罰を求める。
2 本件は、財務省幹部公務員である被告発人による、いわゆる森友学園事件関連「決裁文書」の改ざん、ならびに「応接録」と分類される交渉記録の廃棄を被疑事実として告発するものである。
森友学園事件については既に多くの関係者が、多くの罪名で告発(以下、「先行告発」という)を受けて、いったんは検察官の捜査対象となった経緯がある。
本件被告発人も、複数告発人から先行告発を受けており、その罪名は、虚偽有印公文書作成・同行使、有印公文書変造・同行使、公用文書毀棄、証憑隠滅であった。
2018年5月31日大阪地検検察官は、38人に及ぶ先行告発事件の全ての被告発人について全部の罪名の告発を不起訴処分としたが、同年6月4日本件被告発人の上記各告発罪名の先行告発事件については、「嫌疑なし」ではなく、全て「嫌疑不十分」による不起訴処分であったことを明らかにしている。
さらに、不起訴処分に対する審査申立を受けた大阪第一検察審査会は、2019年3月15日付で、被告発人の有印公文書変造及び公用文書毀棄については、「不起訴不当」と議決している。
本件告発は、先行告発においては不十分とされた嫌疑について、証拠の補充に関する指摘をして、再告発に及ぶものである。再起のうえ厳正に再捜査を遂げて起訴処分をされたい。
3 森友学園事件とは、国土交通省大阪航空局所管の国有地(普通財産)が、内閣総理大臣(安倍晋三・当時)及びその妻(安倍昭恵)と誼を通じる人物に只同然の破格の安値で売り渡された事案である。
この件が明るみに出るや、国政の最高権力者による行政私物化として指弾の世論が沸騰した。国会で野党議員からの厳しい追及を受けた安倍晋三内閣総理大臣は、2017年2月17日衆議院予算委員会答弁において「私や妻が関係しているということになれば、間違いなく、総理大臣も国会議員も辞める」と明言した。
被告発人は当該国有財産の適正処分を所掌の任務とし、かつ関連文書の管理に責任を負う地位にあった公務員である。上記の総理大臣答弁以後は、当該答弁の内容に拘束され、総理大臣やその妻、あるいはその周辺の国会議員らの立場を擁護するために、国会審議における答弁の偽証や提出文書の改ざんを繰り返すことになった。
本件は、権力者である総理大臣におもねり、総理大臣とその妻の立場を忖度して、「私(安倍晋三)や妻(安倍昭恵)が関係しているという」事実の表面化を避けることを動機とし目的ともした、被告発人の「決裁文書の改ざん」と「応接録の廃棄」について、これを犯罪として刑事告発するものである。
4 先行告発事件が全て不起訴処分とされた2018年5月31日の直前、同年3月7日に財務省近畿財務局職員の亡赤木俊夫氏が自死するという痛ましい出来事が起こっている。同氏は、被告発人の部下としてその指示を受ける立場にあり、被告発人が決定した本件公文書改ざんの一部を命じられて不本意ながらもその実行を強いられ、事後に自責の念から自死するに至ったことが明らかになっている。
そのことが社会に知られたのは、本年3月に同氏が遺した手記が週刊誌(「週刊文春」3月26日号)に公開されたことによる。
また、貴重な資料として、財務省が被告発人の文書の改ざんの経過を「森友学園案件にかかる決裁文書の改ざん等に関する調査報告書」(以下、「調査報告書」という)が公表されたのが、先行告発事件における不起訴処分後の2018年6月4日のことである。同調査報告書は、当時既に国税局長に栄転していた被告発人を停職3月処分相当とした。第三者による客観性の高い調査ではなく、言わば仲間内の調査報告ではあるが一応の経過は知りうる内容となっている。
被告発人に対する先行告発の時点では、その内容すらまったく社会に知られていなかった。
5 以上のとおり、本件は時の内閣総理大臣(安倍晋三)の国政私物化疑惑隠蔽の動機で行われた犯罪であり、犯罪の実行を余儀なくされた被告発人の部下の職員が、自責の念から自らの命を断つという行為を余儀なくさせた、道義的に罪の深い犯罪でもある。
また、被告発人に対する先行告発から処分までの時期は、「官邸の守護神」と異名をとった黒川弘務が法務事務次官の職にあった期間(2016年9月5日~2019年1月18日)と重なる。その地位にあった同人の存在が、先行告発の不起訴処分に影響を及ぼしたものと推認せざるをえない。
その黒川は、2019年1月19日に東京高検検事長となり、本年1月31日には、前例なく「違法」とも指摘されている閣議決定によって定年を6か月延長された。これは、官邸の意向で、同人を次期検事総長に据える布石であったと理解されている。次期検事総長の地位を約束されている「官邸の守護神」が健在な間は、総理大臣の国政私物化疑惑隠蔽を動機とする被疑事実に関しての先行告発について、厳正な捜査も処分も困難であったものと考えざるを得ない。
ところが、思いがけないことに、本年5月21日賭けマージャンが発覚して黒川は辞表を提出、翌5月22日に閣議はこれを承認した。この「官邸の守護神」退場によって、森友事件関連の先行告発事件不起訴処分は、再度見直されて然るべき事態を迎えている。
さらに、黒川退場という事態に加えて、本年9月16日安倍晋三は内閣総理大臣の地位を辞し、同日菅義偉が就任した。忖度すべき対象となる最高権力者の退陣によって、先行告発捜査時における巨大な障碍が消滅し、本件の再起をなすべき新たな舞台が調ったものと考えられる。
6 森友学園事件とは、その本質において安倍晋三政権による国政私物化を象徴する事件であり、我が国の民主主義政治の劣化・腐敗を曝け出した事件である。民主政治再生のために、闇の中にある事実を徹底して糾明し、全てを国民に知らしめることが刑事司法の任務として期待されている。
また、政権は替わったが、現内閣総理大臣菅義偉は、安倍政権における官房長官であり、かつ前政権の承継を公言しているところでもある。森友学園事件の事実の究明と責任の追及とは、いまなお、我が国の民主主義にとっての重要課題であり続けている。
第2 告発にかかる事実と罰条
1 有印公文書変造・同行使罪
(1) 犯罪を構成する事実
2017年2月下旬から4月にかけての当時、被告発人は財務省理財局長の地位にあって、所掌の「学校法人森友学園に対する国有地処分案件」(以下、本案件)に関する関係文書の管理及び同案件の国会審議における答弁を担当する立場にあった者であるところ、
2017年2月17日衆議院予算委員会における本案件に関する質疑に際して、内閣総理大臣安倍晋三(当時、以下同じ)が「本人や妻が、事務所も含めて、この国有地払い下げに一切関わっていないことは明確にしたい」「私や妻が関係しているということになれば、間違いなく、総理大臣も国会議員も辞める」と答弁したことから、
将来的に下記各決裁文書の公表を求められる場合には、このまま公表するには記載内容に不都合があり、上記内閣総理大臣答弁に齟齬しない内容に記載を書き換える必要があるとの認識のもと、
同月21日及び同日以後同年4月までの間に、財務省理財局ならびに近畿財務局職員をして、前記内閣総理大臣答弁の内容に沿うべく、下記14点の関連決裁文書の記載から、内閣総理大臣安倍晋三及び同人の妻安倍昭恵ならびに複数の政治家の本案件関与を推認させる記載を削除するよう命じ、その結果財務省理財局ないし近畿財務局の職員らをして各決裁文書中の300個所に及ぶ記載を改竄に至らしめ、
もって、公務員としてその職務に関し、行使の目的で署名押印のある公文書を変造し、
かつ、同変造文書を国会に提出してこれを行使した
ものである。
記
○主要5文書(括弧内は、各文書の作成日付)
・ 文書1 「貸付決議書」①(2015年4月28日)
・ 文書2 「貸付決議書」②(2015年5月27日)
・ 文書3 「売払決議書」(2016年6月14日)
・ 文書4 「特例申請決裁文書」(2015年2月4日)
・ 文書5 「特例承認決裁文書」(2015年4月30日)
○主要5文書の改ざん内容を反映する形で書き換えが行われた9文書
・ 承諾書の提出について(2014年6月30日)
・ 未利用国有地等の処分等の相手方の決定通知について(2015年2月20日)
・ 予定価格の決定について(年額貸付料(定期借地))(2015年4月27日)
・ 特別会計所属普通財産の処理方針の決定について(2015年4月28日)
・ 有益費支払いに関する意見について(照会)(2016年2月25日)
・ 有益費支払いに関する三者合意書の締結について(2016年3月29日)
・ 国有財産の鑑定評価委託業務について(2016年4月14日)
・ 予定価格の決定(売払価格)及び相手方への価格通知について(2016年5月31日)
・ 特別会計所属普通財産の処理方針の決定について(2016年6月14日)
(以上の文書は、いずれも2018年5月23日に財務省が公表したもので、下記URLで、全文書を特定し確認できる。
https://www.mof.go.jp/public_relations/statement/other/20180523a.pdf
また、各文書の書き換えの状況については、下記の各URLで特定できる。
https://www.mof.go.jp/public_relations/statement/other/201803A.pdf
https://www.mof.go.jp/public_relations/statement/other/201803B.pdf)
(2) 罰条
刑法156条。罪名は有印公文書変造、法定刑は1年以上10年以下の懲役である。また、刑法158条の有印変造公文書行使罪にも該当し、両罪の関係は牽連犯となる。
2 公用文書毀棄罪
(1) 犯罪を構成する事実
2017年2月下旬から4月にかけての当時、被告発人は財務省理財局長の地位にあって、所掌の「学校法人森友学園に対する国有地処分案件」(以下、本案件)に関する関係文書の管理及び同案件の国会審議における答弁を担当する立場にあった者であるところ、
2017年2月17日衆議院予算委員会における本案件に関する質疑に際して、内閣総理大臣安倍晋三(当時、以下同じ)が「本人や妻が、事務所も含めて、この国有地払い下げに一切関わっていないことは明確にしたい」「私や妻が関係しているということになれば、間違いなく、総理大臣も国会議員も辞める」と答弁したことから、
将来的に本案件にかかる下記の「応接録」(近畿財務局と森友学園や関係政治家らとの交渉記録)の公表を求められる場合には、上記内閣総理大臣答弁に齟齬をきたす虞あることから各文書の記載内容の公表に不都合があり、これを廃棄すべき必要があるとの認識のもと、
同月24日、衆議院予算委員会において、「近畿財務局と森友学園との交渉記録というのはございませんでした」「平成28年6月の売買契約締結をもちまして既に事案が終了してございますので、記録が残っていない」と事実と異なる答弁をしたうえ、
財務省理財局ならびに近畿財務局職員をして、前記内閣総理大臣答弁と被告発人自らの答弁内容に沿うべく、紙媒体及びサーバー上に電子ファイルの形で保存されていた、下記各応接録のすべてについて廃棄を命じ、もって、公務所の用に供する文書又は電磁的記録を毀棄した
ものである。
記
① 財務省が2018年5月23日に公表した、同省ホームページの下記URLに記載の「(売却前)応接録」217点
https://www.mof.go.jp/public_relations/statement/other/20180523p-0.pdf
② 財務省が2018年6月4日に公表した、同省ホームページの下記URLに記載の「(売却後)応接録」71点
https://www.mof.go.jp/public_relations/statement/other/20180604a.pdf
(2) 罰条
刑法258条。罪名は公用文書等毀棄、法定刑は3月以上7年以下の懲役である。
第3 告発にかかる事実の構成要件該当性
1 先行告発時には一般には知られていなかった諸事実が、今は明るみに出ていることから、本件告発にかかる各被疑事実の存在については、いずれも疑問の余地がない。そのことは、財務省自身がまとめた2018年6月4日付の調査報告書や、大阪第一検察審査会の議決書等の記載からも明らかである。
2 有印公文書変造・同行使
(1) 先行告発を不起訴(嫌疑不十分)とした大阪地検は、被告発人の本件各決裁文書の改ざんは、文書内容の根幹部分である森友学園側との契約内容や金額などに大きな変更を加えるものではなく、「変造」の構成要件に当たらないと判断した如くである。
しかし、これは「はじめに不起訴処分ありき」とした大阪地検検察官の口実に過ぎない。この点、先行告発に対する不起訴処分を不当とした検察審査会の議決は、「第三者の視点から見ても原本の内容が変わってしまったと評価できるので、変造と言わざるをえない」と指摘している。
(2) 改ざんされた決裁文書14点のうち、最初に改ざんされた典型例が、「文書4・特例申請決裁文書」(2015年2月4日)、及び「文書5・特例承認決裁文書」(2015年4月30日)である。
各文書はいずれも、本文に当たる「調書」と、別紙「これまでの経緯」とからなるが、改ざん以前はいずれの別紙「これまでの経緯」も3頁に渡る詳細な時系列交渉経過記録であるところ、改ざん後は半ページに足りないわずか12行に削減されている。
しかも、重大なことは分量だけでなく改ざんの内容である。2017年2月17日衆議院予算委員会における「私や妻が関係しているということになれば、間違いなく、総理大臣も国会議員も辞める」との総理大臣答弁を念頭に置いての改ざんとなっていることが明らかである。
関係する原決裁文書の典型記載は次の2個所であって、文書4・文書5の各別紙「これまでの経緯」に同文で掲載されているものである。
ア 平成26(2014)年4月28日欄の交渉記録として、「なお、打ち合わせの際、本年4月25日、安倍昭恵総理夫人を現地に案内し、夫人からは、「いい土地ですから前に進めてください」との発言あり(森友学園籠池理事長と現地で並んで写っている写真を提示)」とある。
イ 2015(平成27)年1月8日欄の交渉記録として、「産経新聞インターネット記事に森友学園が小学校の運営に乗り出している旨の記事が掲載。記事の中で、安部(ママ)首相夫人が森友学園に訪問した際に学園の教育方針に感涙した旨が記載される」とある。
以上のア、イの記載は、文書4・文書5とも全文抹消されている。
(3) また、文書4・文書5の、各本文・別紙には、政治家名として、鴻池祥肇、北川イッセイ、平沼赳夫の名が出てくるが、いずれもその名を含む文章の全文が抹消されている。
前件の不起訴を不当とした検察審査会の議決が「第三者の視点から見ても原本の内容が変わってしまったと評価できるので、変造と言わざるをえない」と指摘しているとおりである。しかも、現実には存在した安倍昭恵総理夫人の本件売買への関与をあたかもなかったがごとくした文書の改ざんは、本件各決裁文書内容の根幹部分を改変したものというべく、刑法158条に言う有印公文書の変造に当たる。
3 公用文書毀棄
公用文書毀棄罪の成立に関しての大阪地検見解は、(1)「応接録」はそもそも公用文書に当たらない、(2)保存期間が「1年未満保存(事案終了まで)と定められている文書なので、国有地売買契約締結の2016年6月20日以後に廃棄しても罪には問えない、との2点で否定的な判断に至った如くである。
これに対して、不起訴不当とした検察審査会議決は、「本件応接記録は、それに基づいて事後的に業務の適正性を点検する可能性がある以上は公用文書であり、売買契約締結をもって事案終了とは言えず、また少なくとも国会の議論で記録の存在が問題となった時点で手元に残っている以上は保存すべき公用文書といえる」として、上記2点を否定する判断のもと、当時残っていた応接記録24通の廃棄が公用文書毀棄に当たるとした。
本件国有財産の売却態様は一見明白に異例・異常なもので、その経緯についての国民への十分な説明が要求されることは自明であったに拘わらず、敢えてなされた本件応接録の廃棄は国民への説明を積極的に拒否したものと言うほかはない。国民の知る権利に応え、行政活動が適正に行われていることを国民に知らせる責務を負う公務員にあるまじき行為として本件公用文書廃棄を犯罪とすべきは当然のことである。
4 有印公文書変造の経緯
(1) 被告発人において、最初に本件各決裁文書の改ざんの必要を認識したのは2017年2月21日のことで、衆議院予算委員会における「私や妻が関係しているということになれば、間違いなく、総理大臣も国会議員も辞める」との安倍晋三総理大臣答弁の4日後のことである。
2018年6月4日付「財務省・調査報告書」によれば、「2017年2月21日財務省理財局は国会議員団との面会の結果、森友関連決裁文書のうち、「文書4(特例申請)」「文書5(特例承認)」等における政治家関係者に関する記載の取り扱いが問題となり得ることが認識された」という。
この文章では、「政治家関係者に関する記載」と微妙な表現をしているものの、「文書4(特例申請)」「文書5(特例承認)」を瞥見して最も目を惹くものは、「政治家」ではなく、明らかに「安倍昭恵総理夫人」に関する記載である。2月17日「総理進退答弁」の直後のことであるから、なおさらというべきであろう。
続く調査報告書の記載によれば、報告を受けた被告発人は、「そうした記載のある文書を外に出すべきではなく、最低限の記載とすべきであると反応した。」「(理財局員は)被告発人の反応を受けて、将来的に当該決裁文書の公表を求められる場合に備えて、記載を直す必要があると認識した」旨明記されている。
(2) 以上の「政治家関係者」には、政治家安倍晋三内閣総理大臣の妻である安倍昭恵を含むものであることは既述のとおりであり、当時の状況から見て、森友関連文書を、「公表を求められる」「外に出す」とは、国会に提出することを意味し、このままの記載内容では関連決裁文書を国会に提出することはできない。結局、被告発人は不都合な政治家関係者の記載を削除して、無難な最低限の記載とするよう、文書の改ざんを局内に指示したものである。
こうして、2017年2月26日を初回として、現実に改ざんを実行したのは、亡赤木俊夫氏ら被告発人の指示を受けた近畿財務局の第一線職員であった。
(3) 「文書4(特例申請)」「文書5(特例承認)」に次いで、改ざん対象とされたのは、「文書3(売払決議)」である。
前記報告書によれば、「当時、本省理財局においては、遠からず各種決裁文書の公表を求められ、国会審議等における質問の材料となりかねないとの認識が共有されていた。このため、2017(平成29)年2月27日、国有財産企画課及び国有財産審理室から被告発人に対して、まずは「文書3(売払決議)」の内容を報告した。この際、被告発人は、このままでは外には出せないと反応したことから、配下の職員の間では、記載を直すことになるとの認識が改めて共有された。」「また、被告発人から理財局員に対して、担当者に任せるのではなくしっかりと見るように、との指示があり、指示を受けた部下は、記載内容を整えた上で被告発人の了解を得ることが必要になると認識した。」という。
文書3・4・5のみならず、総理大臣夫人を筆頭とする「政治家関係者」名が記載されている全文書について、被告発人から理財局・近畿財務局の関係職員に改ざんの指示があったというべきである。
(4) さらに、同年3月2日の参議院予算委員会において、国会議員から、森友学園案件に関する決裁文書を同委員会に提出するよう要求があった。その要求への対応として本省理財局では、まずは「文書1(貸付決議①)」と「文書3(売払決議)」について、配下の国有財産審理室の職員が相談して検討を進め、同年3月6日から3月8日にかけて、被告発人に対して、複数回にわたり、検討状況が報告された。同月7日未明、本省理財局の国有財産審理室の職員から近畿財務局に対して、「文書1(貸付決議①)」や「文書3(売払決議)」等の書き換え案が送付されたが、この段階では、小幅な書き換えにとどまっていた。その後、被告発人を含めて行った議論を踏まえ、同年3月8日にかけて、まずは「文書3(売払決議)」の作業を先行して行った上で提出・公表するとの方針とともに、貸付契約までの経緯の記述を全て削除するほか、国土交通省大阪航空局の対応状況を削除する等の更なる書き換え案が、近畿財務局に対して示された。
他方、本省理財局においては、国会審議への対応や、国会議員等からの説明要求や資料要求等への対応に追われており。「文書3(売払決議)」の書き換え内容については、同年3月20日に、被告発人を含めて改めて議論を行うこととなった。その際、被告発人からは、同年2月から3月にかけて積み重ねてきた国会答弁を踏まえた内容とするよう念押しがあった。同日の議論を踏まえて、翌日21日までに、売払いに至る経緯を加筆した案が作成され、近畿財務局に共有された。「文書3(売払決議)」のほか、「文書1(貸付決議①)」について同様の作業が必要となることは、本省理財局の幹部職員の間で認識されており、同年3月20日に被告発人も含めて議論を行った上で、書き換え案が近畿財務局に共有された。
5 公用文書毀棄の経緯
(1) 調査報告書によれば、「2017年2月21日、被告発人は部下に対して「政治家関係者との応接録」を廃棄するよう指示し、この旨は理財局の関係職員に共有されている。同月17日における「私や妻が関係しているということになれば、間違いなく、総理大臣も国会議員も辞める」との衆議院予算委員会における安倍晋三総理大臣「進退答弁」の4日後のことである。
近畿財務局においては、本省理財局からの指示を受けて、政治家関係者との応接録として存在が確認されたものを紙媒体及び電子ファイルともに廃棄した。本省理財局内においても、保存されていた政治家関係者との応接録の廃棄を進めたが、サーバー上の共有フォルダに保存されていた電子ファイルについては、廃棄されず残されたものも存在した。
(2) 同月22日一部の政党からの「近畿財務局職員と森友学園との接触記録」の存否についての回答要求に対して、同月24日朝「そうした記録はない」との書面を提出し、被告発人は同日の衆院予算委員会において、理財局長として「(国有財産売り渡し先との)交渉記録はない」「速やかに廃棄した」と答弁している。
(3) 上記答弁の直後、被告発人は部下に対し口頭で、「残っている応接録があれば、適切に廃棄するよう」指示し実行させている。
第4 本件告発に対する再起の必要性
1 刑事訴訟制度においては、不起訴処分に既判力も一事不再理の効果もない。むしろ、事件事務規程(法務省刑総訓第3号)第3条は「事件の受理手続は,次の場合に行う。」として、「(4) 検察官が告訴,告発,自首又は請求を受けたとき」とならんで、「(6) 不起訴処分又は中止処分に付した事件を再起するとき。」を挙げている。不起訴処分に付した事件の再起が当然に予定されている。
2 再起の要件についての定めは特にないが、起訴独占の権限を有する検察官の起訴基準の一般原則に則って、法的正義の実現と、検察官の独立性に関しての国民の信頼性回復のために必要な限り、事件を再起して、再告発を受理しなければならない。
先行告発とこれに対する処分には国民の耳目が集中した。もとより、国民の関心は強力な政権に対する検察官の独立の有無にあった。残念ながら、刑事司法に寄せられた国民の期待は裏切られ、検察の政権からの独立に関する国民の信頼は、今地に落ちている。その回復が是非とも必要である。
3 しかも、先行告発が全て不起訴処分となった後に、当時知られていなかったいくつもの証拠の存在が明らかとなり、大きな事情の変更も生じている。
新証拠のその一は、心ならずも本件決裁文書の改ざんに手を染めざるを得ない立場に立たされたことで自責の念から自死を余儀なくされた近畿財務局職員亡赤木俊夫氏の生前の手記が公表されたことである。また、その遺族の民事訴訟でも、赤木氏の上司であった職員の発言内容の録音が公開され、その録音の中で、亡赤木氏が作成した「改ざんを指示された際の経緯を記録したファイル」が存在し、元上司は「これを見たら、我々がどういう過程で(改ざんを)やったのか全部分かる」と発言しているという。
そのファイルは、財務省の本省に保管されているものと推測されるが、遺族側の要請にかかわらず、このファイルはいまだに法廷に顕出されていない。
また、在任中は「官邸の守護神」との異名のあった前東京高検・検事長黒川弘務の引責辞任があり、さらには忖度の対象だった最高権力者安倍晋三の退任という事情もある。
4 先行告発は、大阪地検に対するものだけではなく他の検察庁への告発もあったが、他庁告発事件は全て大阪地検検察官に送致されて、全被告発人についての全被疑事実が全て不起訴となっている。
従って、大阪地検において再起するには微妙な問題がつきまとうものと考えざるを得ない。告発人は、敢えて東京地検に再告発して、先行告発に対する処分の呪縛から免れての再捜査と厳正な処分を願う次第である。
第5 先行告発に対する検察庁の姿勢について
1 既述のとおり、本件各被疑事実は、財務省幹部職員である被告発人における内閣総理大臣安倍晋三の意向や立場への忖度を動機とする犯罪である。言わば、ときの総理大臣の地位を防衛するために敢えて犯した犯罪行為なのである。
憲法15条2項を引用するまでもなく、公務員は国民全体の奉仕者であって、一部の奉仕者ではない。国民全体の利益と一部の者の利益が相反する場合には、その一部の者が内閣総理大臣であろうとも、国民全体への奉仕を貫かねばならない。時の権力者である内閣総理大臣の立場を忖度しての公務員の奉仕は、当該公務員の保身や出世には有益であろうが、公務員にあるまじき国民を裏切る行為である。
2 にもかかわらず、被告発人は、ひとえに総理大臣の立場を慮って、国民に奉仕すべき責務を放擲して、積極的に当該決裁文書を廃棄し、改ざんしたものである。
この被告発人の犯行の動機は、告発を受けた検察官にとって格別の重い意味をもつ。厳正な捜査と起訴処分が、内閣総理大臣の地位を危うくしかねないからである。
しかし、犯罪が覚知できれば、厳正に捜査を遂げ、公正な立場で起訴処分をなすべきが検察官の職責である。検察官までが、ときの権力者におもねり、内閣総理大臣の意向や立場を忖度して起訴に躊躇するようなことがあっては、法治の根幹を揺るがすこととなる。
3 先行告発における、総数38名の被告発人全員の不起訴処分は、果たして公正かつ厳正に捜査を遂げた結果であったかに疑義なしとしない。その疑惑を裏付ける幾つかの根拠がある。
2018年4月9日発行の、月刊「文藝春秋」(2018年5月号)が、下記の記事を掲載している。(記事中の年齢や日付、肩書き等は掲載時のもの)。
「今から約1年前、2017年早春の国会でのことだった。
学校法人「森友学園」への国有地売却を巡り、財務省の佐川宣寿理財局長(当時)は野党の質問攻めに忙殺されていた。委員会室で10数メートル先に座る首相の安倍晋三の秘書官の一人が佐川氏に歩み寄り、1枚のメモを手渡した。
『もっと強気で行け。PMより』
「PM」は「プライムミニスター(首相)」、即ち安倍を指す官僚たちの略語だ。安倍の妻、昭恵の土地売却への関与を疑い、猛攻に出る野党。安倍は2月17日の衆院予算委員会で「私や妻が関係していたとなれば、間違いなく首相も国会議員もやめる」と感情も露わに退路を断っていた。
防戦の矢面に立ったのは、国有財産を所管する財務省理財局長の佐川と、土地の元々の管理者だった国土交通省航空局長の佐藤善信の2人だ。(略)
火消しを一手に担ったのが佐川だ。
「近畿財務局と森友学園の交渉記録はございません」(2月24日)
「価格設定して向こうと交渉することはございません」(同27日)
野党の攻め口を遮断するこんな強気の答弁を連発し、売却の適法性を主張して追及に一歩も引かない。時に語気を強め、闘志むき出しの佐川答弁への首相官邸の評価はうなぎ上りとなる。「PMメモ」の含意は佐川個人への激励にとどまらなかった。第二次安倍内閣の発足から冷え切った関係が続く安倍官邸と財務省。森友問題でこの両者が疑惑の火の粉を払う共通の利害で結ばれ、政治的に初めて「同じ舟に乗った」。それを「PMメモ」は象徴していたのだ。(以下略)」
以上のとおり、被告発人は、内閣総理大臣と深いつながりをもち、内閣総理大臣(PM)の指示に従っていたと考えられる。具体的には『もっと強気で偽証せよ』と指示されたとみなして間違いない。
このことは先行告発の捜査と処分を担当した検察官にとって、大きな心理的負担となったものと考えざるを得ない。
4 さらに、先行告発当時、検察官が内閣総理大臣の支配から独立していなかったと強く疑わせる根拠となる文書の存在がある。
日本共産党の辰巳孝太郎参議院議員(当時)が、2018年6月18日の決算委員会で質疑をした際に提出した文書がある。表題のないA4判1枚の文書の右上に手書きで〈5/21つるた参事官〉と書かれており、〈応接録については、5/23に13文書とともに出す〉との記述で始まっている。
作成者の「つるた」とは、国土交通省の大臣官房参事官(人事担当)である鶴田浩久とされる。その本文はこう記載されている。
『5/23の後、調査報告書をいつ出すかは、刑事処分がいつになるかに依存している。官邸も早くということで、法務省に何度も巻きを入れているが、刑事処分が5/25夜という話はなくなりそうで、翌週と思われる。』
これは驚くべき内容である。『官邸も早く(不起訴処分をせよ)ということで、法務省に何度も巻きを入れている』というのである。「巻きを入れる」とは、急がせるの意。つまり、官邸から、法務省を通じて、検察庁(検察官)に、早く不起訴にせよと急がせている、というのだ。官邸が「巻をいれている相手」である「法務省」とは、当時法務事務次官であった黒川弘務にほかならない。官邸と検察庁を結ぶ結節点に、「官邸の守護神」が位置していたのだ。
しかも、このメモの内容の信憑性はきわめて高い。『5/23の後、調査報告書をいつ出すかは、刑事処分がいつになるかに依存している。』は、刑事処分の発表後に調査報告書を出すという関係省庁間の合意の成立を物語っている。事実、大阪地検が被告発人をはじめとする被告発人38人全員の不起訴処分を公表したのは5月31日(木)のことで、財務省が調査報告書を公表したのは6月4日(月)となった。官邸・法務省・検察庁・財務省・国交省の密接5者が、密室で密着し談合していたという構図である。他の省庁はともかく、検察庁は準司法機関として官邸から独立していなければならない。
5 なお、現在において再確認しておく必要のある、別の観点からの重要事実の存在を一点指摘しておきたい。
2018年6月4日付「財務省調査報告書」にはまったく記載がないが、実は、問題の2017年2月17日(金)安倍総理予算委員会「進退答弁」(「私や妻が関係していれば、総理大臣も国会議員も辞める」)直後の同月22日(水)、被告発人と同中村、太田充財務省大臣官房総括審議官(佐川の次の理財局長)らが官邸に呼ばれている。呼んだのは、当時官房長官だった菅義偉・現首相。国有地売却の経緯などについて、主として被告発人から説明を受けたことになっているが、この面談の席で決裁文書改ざん・応接文書廃棄の合意が成立した疑惑を払拭し得ない。
客観的な事実の経過として、「森友疑惑」追及が国会で始まったのが2月21日(火)である。2月24日(金)には被告発人が国会で「記録は廃棄した」旨の断定的な答弁を行い、2月26日(日)に亡赤木俊夫氏が決裁文書改ざん着手を余儀なくされている。
菅義偉官房長官が2月22日の面談で全ての事実を知って、佐川・太田の両名に何らかの指示なり示唆を与えた蓋然性は高い。忖度を超えて、文書の改ざん・廃棄の指示があった可能性も否定し得ない。少なくとも、菅義偉官房長官から本件について安倍晋三首相への報告が行われたものと合理的に推察される。当時の首相と現在の首相がこのような形で、本件に介在しているのである。
森友事件の全体像ならびに事件に関わる公文書の改ざん・廃棄の事実の解明には、この点に切り込んだ捜査が不可欠である。
6 以上のとおり、先行告発を全部不起訴とした際の大阪地検は、法務省(具体的には黒川事務次官)を介しての官邸の圧力に屈したものと考えざるを得ない。
しかし、今事情は変わった。その黒川は、本年1月31日に前例のない定年延長の閣議決定があって、官邸の意向による次期検事総長人事の布石とされたが、おおきな世論の糾弾の中、常習の賭けマージャンが発覚して5月22日辞職に至った。官邸の守護神がない今、既に検察庁が官邸から独立しているのか、あるいは相変わらずの官邸従属体質なのかが問われている。
本件について再起の上、改めて厳正な捜査を遂げられ、内閣総理大臣の意向や立場を忖度することなく、東京地裁へ起訴をされたい。そのことによって、公開の法廷で、国民の前に何があったのかを明らかにされたい。
告発人は、我が国の健全な民主主義の発展を願う立場から国民を代表して本件告発を行い、権力から独立した検察官に再度の捜査と起訴とを申し入れる。
初出:「澤藤統一郎の憲法日記」2020.12.22より許可を得て転載
http://article9.jp/wordpress/?p=16071
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 https://chikyuza.net/
〔opinion10402:201223〕