東日本大震災にともなって生じた東京電力福島第一原子力発電所事故から4カ月にあたる7月11日、世界平和アピール七人委員会が東京・有楽町の日本外国特派員協会で記者会見し、「原発に未来はない;原発のない世界を考え、IAEAの役割強化を訴える」と題するアピールを発表した。世界平和アピール七人委としては104本目のアピールだか、原発問題に関する発言は初めて。
世界平和アピール七人委は1955年に平凡社社長・下中弥三郎氏、湯川秀樹博士、日本婦人団体連合会会長・平塚らいてうさんら当時の日本を代表する知識人7人で結成された、無党派の知識人グループ。人道主義の立場から平和と核兵器廃絶を日本内外に訴え続けてきた。
現在の委員は池内了(総合研究大学院大学教授)、池田香代子(翻訳家・作家)、大石芳野(写真家)、小沼通二(慶應義塾大学名誉教授)、辻井喬(詩人・作家)、土山秀夫(元長崎大学学長)、武者小路公秀(元国連大学副学長)の7氏。
記者会見には池内、池田、小沼、辻井、武者小路の5氏が参加し、外国特派員側は26人が出席した。アピールは日、英、仏、独の4カ国語で発表された。
アピールはA4用紙6枚にのぼる長文のものだが、まず、事故から4カ月の日本を「事故発生から4カ月経過した現在でも、発熱を続ける核燃料の安定した制御には至らず、短時間に状況が大きく変わる可能性は低減したとはいえ、新たな水素爆発発生の危険性はなくなっていない。また冷却に使った大量の高濃度汚染水の処理はできないままであり、発電所外への放射性物資の放出も収束できず、事故終息宣言が出せないでいる。何が起きたのかの全貌は、まだわかっていない。東京電力と経済産業省の原子力安全保安院は、科学と技術のもつ基本的性格と可能性を軽視し、安易に原発利用を進めてきたため、事故発生後適切な対応を速やかに取れず、被害が拡大したといわざるを得ない。避難を強いられた人たちは、土地と家と、家族のまとまり、コミュニティ内の絆、いつくしんできた動植物、仕事、精神的安心などを突然失うことを強いられ、被曝者を出し、今日でも、今後の見通しをたてられずに不安定な毎日を送らされている」と分析する。
そして、「しかるに日本の現行の危機管理政策は、経済効果とのバランスを優先し、災害被災地の住民、とくに脆弱な立場の市民の平和的生存権を侵害している事実について十分配慮していない。現在、避難を強制された人たち、その周辺で不安に打ちひしがれながら懸命に生きている人たち、さらに距離が離れているにもかかわらず、外で遊ぶことが出来なくなった子供たち、妊娠中・育児中の女性たち、放射性物質が飛来してきて生産物が売れなくなった人たちなどのことを考えると、彼らの基本的人権が侵されていると考えざるを得ない」と憂慮する。
その上で「原子力発電は、原子炉の中で核分裂によって大量の放射性物質を作り出し、その時の発熱を利用して発電する装置である。運転停止後も、年単位で続く発熱を冷却し続けなければならず、作られた放射性物質は一万年以上管理を続けなければならない。この管理に失敗すれば、理由のいかんを問わず人体を含む環境を汚染する」として、「従って我々は、スイス・ドイツ・イタリヤだけにとどまることなく、全世界の原子力発電所すべての廃止を決定すべきだと考える」と主張する。
次いで、日本における廃止の順序と期限について次のような具体的提案を行う。
(1)当初の耐用年数に達した老朽化原子炉は、故障の確率が増加するので、寿命を延ばすことなく廃炉にすべきである。
(2)建設中・計画中の発電用原子炉は、不十分な安全審査基準によって認可されたものなので、直ちに凍結・廃止すべきである。
(3)4つのプレートが集まっていて、数しれぬ活断層が地下にある日本では、地震・津波は避けることができない。活断層の上など危険性が高い原子炉は即時停止すべきである。
(4)福島原発事故が終結できない一つの理由は、一つの敷地に6基の大型原発を設置している過密によるものであった。日本の原子力発電所はほとんどすべて複数の原子炉を持っている。複数原子炉は、削減の順序を決め速やかに規模を縮小すべきである。
(5)これらの基準によって廃止されることにならない原子炉があれば、再び大事故が起こりうると覚悟ができた場合に限り、安全対策について万全の策を講じ、国内・国外の第三者の検証をもとめて承認を得たうえで、設置する地元自治体だけでなく、危害が及びうる範囲の市民の同意を条件として、最短期間運転を続ける。これらの条件をすべて満たすことが出来ないならば、これらの原発の廃止に踏み切る以外ない。
併せて、将来に向けたエネルギー政策を速やかに進めるために必要な手順を次のように提言する。
(1)再生可能な自然エネルギーの研究・開発・利用の速やかな拡大を優先して進める。大型化・集中化・一様化から、小型化・分散化・多様化への転換をはかり、これを支えるための種々の規制の撤廃を進める。
(2)日本では、市民と企業の間に省エネルギー意識が急速に浸透しつつある。電力使用量の一層の削減、省エネルギー機器の採用・普及によるエネルギー効率の向上、電力使用時間の分散化の徹底、自家発電の推進によって電力使用のピークを大きく減少させる。
(3)前2項の拡大とともに、残存原子力発電所の運転期間の短縮が可能になるし、させなければならない。
アピールはまた、国連の専門機関である国際原子力機関(IAEA)に原発への関与の一層の強化を要請し、次のように言う。
「IAEAは、平常時から、(原発の)安全性について科学技術的側面と社会的側面についての国際的基準を作成し、軍事転用の可能性についての現地査察にとどまらず、各国の原子力平和利用の大型施設の情報把握を一層強化していくべきである。さらに万一原発事故が起きた場合には、要請を受けてから助言をし、協力し、情報を収集して加盟国に報告することにとどまらず、主体的に国際専門家チームを組織し、事故の完全収束にむけて、全面的な処置の中心になる体制を整えていくようIAEAならびに加盟各国に希望する」
現在、日本を含めた各国で進められている原発輸出の動きについても「輸出先国に原発事故による過酷な被害の可能性を輸出することになるので、行うべきではないと考える。また持続可能な自然エネルギー研究・開発・利用の国際協力こそ積極的に強化すべきだと訴える」としている。
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