またまた、「法と民主主義」6月号《特集・アベノミクス崩壊と国民生活》のお薦めである。本日は、「アベノミクスと漁業… 加瀬和俊」論文のご紹介。
「特集にあたって」と標題するリードでは、南典男編集委員が、加瀬論文をこう要約して紹介記事を書いている。
「加瀬和俊氏(帝京大学教授)は、安倍内閣による漁業・農業の『成長産業化』方針の下で、漁業法が大幅に改変され、企業的経営体が優良漁場を優先的に確保し、免許された海面を私有地のように排他的に占有し続ける仕組みが作られ、
①小規模漁業者を排除し、
②都道府県行政を国の付属物とみなし、
③現場の実情を軽視している
と指摘している。
アベノミクスによって、漁業のみならず地域経済全体が壊されようとしている。」
加瀬さんは、長く東大社研の助教授・教授だった方。専門は、日本近代経済史(雇用・失業問題、農漁業問題)だという。今次の漁業法改正問題では、その新自由主義的本質を追及して、政府に果敢な論戦の先頭に立った。
アベノミクスとは何か、どんな特徴をもっているのか、4頁の論文によく表れている。さらに、そもそも経済とはあるいは経済政策とは、いったい何を目指すものなのかが、鋭く問われているとも思う。いったい、今の政権は、何を大義として、誰のためにどのような経済社会を作ろうとしているのだろうか。そのような問題意識が、この論文の最後の次のまとめの一文に鮮明である。
以上のように、今回の漁業法の改訂の経緯には、資本力を有する企業的経営に最大限の便宜を図り、それが当該産業内の大多数の経営体にマイナスに作用するものであっても、それこそが「成長産業化」なのだという思い込みと、それを強権的な方法で実現するという手法とが鮮明に表れており、アベノミクスの典型例とみなすことができる。
アベノミクスが推進するものは、「資本力を有する企業的経営に最大限の便宜」を実現することである。そのことによって、「当該産業内の大多数の経営体へのマイナスの作用」が強行される。大義は、「成長産業化」である。
もう少し砕いて端的に言えば、こういうことだ。
今のまま零細漁民に小規模な漁業をやらせていたのでは、漁業はいつまでも成長産業にはならない。今の零細漁民保護制度を抜本的に改変して、漁業界外部からの大資本を呼び寄せて漁業を企業的経営の対象とすることが肝要なのだ。そのための、最大限の企業誘致策を講じることが喫緊の課題で、零細漁民の切り捨て強行もやむを得ない。
具体的な内容は、およそ以下のとおりである。
新制度の意図するところは在来型の各種の管理方式を撤廃して漁船規模を大型化し、操業を自由に行いたいという企業の主張を受け入れていることにほかならない。
今回の漁業法「改正」は、「規制改革推進会議等の官邸主導の諸会合で水産政策審議会等にはかることもなく、仲間内だけで作った方針の提示を通じて、一気苛成に漁業法の全面改訂(2018年12月成立)に至った」のである。
漁業法はその章別編成を含めて全文改訂といって良い大幅な変更がなされた。
その特徴の第1は、法律の目的から「漁村の民主化」(旧法第1条)を削除し、法全体をそれに対応させて改変した。
第2は、家族経営は遅れた存在であり、「成長産業化」のためには企業経営の優遇とともに、家族経営を企業的レベルに引き上げる必要があり、そのレベルに到達した者だけが存続する資格があるという発想」である。(以下略)
私は思う。いま、アベノミクスが強行しようとしている漁業政策は、漁民と漁村を根こそぎ破壊しようとするものなのだ。アベノミクス推進派にとっては、現在の沿岸漁業とその保護政策は、資本の自由な操業にとっての障害物でしかない。
企業的漁業に桎梏となっている零細漁民による沿岸漁業を清算して、その後に大資本による企業的漁業が行われようとしている。これは、国際的潮流である「小規模農業者・小規模漁業者の重視」とは大きく異なる特異な経済政策に外ならない。
かつては、農漁村が、保守政治の金城湯池といわれた。今や、まったく、事情は異なるのだ。アベノミクスに、新自由主義に、生業とコミュニティを奪われようとしている農民・漁民は、反安倍の立場に立たざるを得ない。
全国の漁民の皆さんに、警鐘を鳴らさねばならない。漁民が、安倍自民党に一票を投ずることは、おのれの首を絞めることなのだ。農業においても同様である。君、欺されて与党に票を投ずることなかれ。
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よろしくお願いします。
(2019年7月10日)
初出:「澤藤統一郎の憲法日記」2019.7.10より許可を得て転載
http://article9.jp/wordpress/?p=12938
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 https://chikyuza.net/
〔opinion8802:190711〕