八木秀次が懸念する天皇制消滅へのドミノ理論…そして確かな希望が残る。

著者: 澤藤統一郎 さわふじとういちろう : 弁護士
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(2021年12月19日)
 昨日に続いて、「AERA dot.」が紹介する週刊朝日の記事。「皇室の今後はどうなる? 原武史、石川健治、河西秀哉、八木秀次の各氏が語るあるべき姿とは」に関連してもう一言。
https://dot.asahi.com/wa/2021120900077.html?page=1
 この記事で八木秀次は、秋篠宮家長女の皇族からの離脱に関して、天皇制存続への影響をこう語っている(抜粋)。

  「個人の自由意志を貫いて結婚した小室眞子さんをめぐる騒動は、天皇制の維持など、皇室のあり方に非常に大きな影響を与えたと思います。これが前例になることにより、他の内親王、女王の結婚にあたっても同じ形態がとれるようになりました。

  一番懸念されるのは、悠仁親王の即位拒否に道を開いたことです。姉が自由意志を貫いたことが前例となり、即位拒否を主張されてもだめだとは言えなくなった。皇室典範上、皇太子になると皇籍離脱はできませんが、なったとしても特例法という「逃げ道」があるのです。

  こうした道を開いたのは、上皇陛下の生前退位にあったと考えています。皇室典範には退位の規定はなく、むしろ解釈として禁止されていると考えられてきました。それを、当時の天皇陛下の思いを優先するという形にしました。結果として、皇族が自分の思いを貫くことを可能にしてしまった。その論理が提供され、眞子さんが自由意志を貫く結婚につながってしまったと考えるべきです。

  制度として捉えると、退位を認めた瞬間に皇位安定性は一気に揺らぎ、不安定になります。当時、私は「退位を認めることが、即位拒否や、即位後まもなくの退位を認めることになる。これが何度か続けば、皇室は継承できる天皇が誰もいなくなってしまう」と指摘しました。」

 なるほど、これが右翼の心情であり信条なのだ。皇統という血への信仰者(あるいはその集団)が予言する天皇制廃絶に至るドミノ理論である。少し補って解説すれば、最初のドミノが前天皇(明仁)の「8・8メッセージ」に始まる生前退位の実現であり、最後のドミノが天皇制の消滅、ないしは「天皇制の自然死」である。その因果を順序に並べると以下のとおりとなろうか。

 (1) 前天皇(明仁)が自らの意志を貫いて生前退位
  (2) ⇒個人の自由意志を貫いて皇嗣長女結婚・皇籍離脱
  (3) ⇒他の皇族の追随(個人の自由意志による皇籍離脱)
  (4) ⇒皇嗣長男(悠仁)の即位拒否
  (5) ⇒天皇の自由意志による退位
  (6) ⇒天皇位に就く者がなくなる
  (7) ⇒象徴天皇という制度が消滅する

 このドミノ理論におけるキーワードは、 皇族の自由意志」である。天皇もその余の皇族も、男性であれ女性であれ、自由意志を貫くことができるなら皇族の身分から離脱したいと願っているというのだ。だから、天皇制を維持するためには、天皇や皇族の自由意志を認めてはならない。籠の鳥に自由を与えてはならない。うっかりこの自由を認めれば、パンドラの箱が開いて、みんな箱から飛び出して逃げてしまうことになる、というわけだ。

 この天皇制消滅に至るドミノ理論。八木は深刻な懸念として語っているが、私には素晴らしい希望に見える。皇族諸君も、不自由な籠から脱して、掛け替えのない自由やプライバシーを手に入れることができるのだ。天皇制維持にかかる数百億の国費の軽減にもなる。国民の主権者意識も成長するに決まっている。みんなハッピーではないか。

 パンドラの箱を開ければ、皇族も天皇も飛び立って誰もいなくなる。制度としての象徴天皇制もなくなる。しかし、神話のとおり、豊かで明るい希望は箱の中に残るのだ。天皇あっての日本という馬鹿げた神話を清算して、自立した国民が形作る確かな希望である。

初出:「澤藤統一郎の憲法日記」2021.12.19より
http://article9.jp/wordpress/?p=18164
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 https://chikyuza.net/
〔opinion11590:211220〕