国民世論がポピュリズム化している、「日本型ポピュリズム=推し活選挙」が自民党の歴史的圧勝を導いた
第51回衆院選は2月8日、投開票され、定数465(小選挙区289、比例代表176)のうち、自民党は単独過半数(233議席)を大きく上回り、少数与党の参院で法案を否決されても再可決できる3分の2(310議席)を超え、316議席に達した。一つの政党が3分の2にあたる議席を確保するのは戦後初めてのことであり、そこには自民党が小選挙区の議席を31都県で独占したことがある。一方、立憲民主党と公明党が結成した新党「中道改革連合」は、公示前の167議席(立憲143、公明24)から3分の1以下の49議席(立憲21、公明28)に激減して惨敗した。国会地図は、与野党の間に歴史的とも言うべき大変動が生じたのである。
しかも、惨敗した中道の中身が尋常ではない。立憲民主党が143議席から21議席へ122議席(85%)失ったのに対し、公明党は逆に24議席から28議席へ4議席(17%)増やしている。鳴り物入りで新党を立ち上げたにもかかわらず、一方の立憲が壊滅し、他方の公明が増大するという「複雑骨折=ねじれ現象」が生じた。この事態は、中道の選挙戦略に致命的な誤りがあったことの結果であり、立憲の中に抜きがたい不公平感と不信感を生み出し、このまま一つの政党として存続できるかどうか、大きな影を落としている。
世間では、自民党の歴史的圧勝は「高市人気」がもたらしたもの――との観測が有力だ。しかし、歴史的圧勝の原因を高市氏個人の資質によるものと考えるのは、あまりにも単純すぎる。この間、選挙結果に関する各紙の膨大な情報を前にして判断に迷っていたのは、高市人気と国民世論との間にどんな関係があるのか、見当がつかなかったからである。それでも各紙を読み比べているうちに、幾つかの手掛かりが見えてきた。その一つは、日経新聞(2月10日)の「推し活化の波つかんだ」とする、山田昌弘中央大教授(社会学)の分析だった。山田教授はこう指摘する(要旨)。
――自民党が圧勝した背景には、好きなアイドルやキャラクターを応援するように、選挙の「推し活」化が進んでいる影響がある。経済停滞が長引き、努力しても報われず、将来に希望が持てない「希望格差社会」の中で、自分の応援で「推し」が活躍すれば、満足感が得られるアイドルグループの「総選挙」が広がっているように、実際の選挙でも同様の現象が見られる。高市首相が衆院解散を表明した1月の記者会見で「高市総理か、別の方か」と自らの職を賭す姿勢を示した言葉が、推し活化が進む状況とうまくかみあった。
――政策の中身よりもイメージやキャラクターが重視された選挙戦で、他党と違う明確な対立軸を打ち出せなかった中道は伸び悩んだ。政党はタレントを育成・演出する芸能プロダクションのようになりつつある。有権者が政治を身近に感じられる効果はあるものの、政策が二の次になり、長期的な視野での課題解決が先送りされる懸念は大きい。
山田教授の分析は、今回の選挙の一面をよく捉えている。高市首相の選挙戦の模様をテレビニュースで見たが、政策の中身をあまり語らず、ただ決意を繰り返すだけの演説に対して数千人の聴衆が歓呼する有様は、指摘通りの光景だった。ヒットラーやゲッペルスが万余の聴衆を魅了したナチス党の集会とまではいかないまでも、それに似た空気が集会に溢れていたのには、ある種の脅威を感じないわけにはいかなかった。
この視点を日本政治全般にわたって論じたのが、翌日の日経新聞(2月11日)、「『推し活』選挙 政党政治を溶かす、戦後民主主義に引導」とする、政策報道ユニット長の論説である(要旨)。
――日本の政治構造が大きく変わった。自民党は8日の衆院選で316議席を獲得した。単独の政党が衆院定数の3分の2を上回るのは戦後初となる。この圧勝は政党勢力図の変化を表すにとどまらない。欧米のような激しい社会分断や衝突こそないものの、静かに政党政治が溶解していく「日本型ポピュリズム」の一つの到達点を指し示す。
――れいわ新選組や国民民主党、参政党が氷河期世代対策や外国人政策などを通じて政党ブームを巻き起こした選挙はあったが、それでもブームの中心には政策があった。一方、高市首相を支えたネットからは政策が消え、あるのは「サナ推し」という「推し活」だった。政策を説明する内容はほとんどなく、目立ったのは「持ち前の明るい笑顔で逆境に立ち向かうヒロイン」の姿だった。政治家への支持において「推し」ほど強力な形態はない。政治家と有権者の関係は、間接民主主義における「負託」でもなく、成果や見返りへの「期待」でもなく、フアンからの「貢献」があるだけだ。
――「推し活選挙」の末の高市1強体制は日本をどこに導くのか。地殻変動の一つは、「護憲vs改憲」を対立軸とした戦後民主主義の構図に引導が渡されたことだ。自民大勝の背景には、「左派の旗手」という立ち位置ながら選挙直前に公明党と「中道改革連合」を結成し、肝心の安全保障政策への姿勢を曖昧にした立憲民主党への不信がある。本来なら他のリベラル政党が新党への失望票の受け皿となるはずだが、むしろ議席を減らし、存在感は風前のともしびとなった(以下略)。
ここで指摘されている最大のポイントは、「推し活選挙」が政党政治の溶解を引き起こし、「護憲vs改憲」を対立軸とした戦後民主主義の構図に引導が渡された――とする分析であろう。論説には、護憲勢力が「風前のともしび」であることを示す数字は掲載されていないが、共産党が8議席から4議席へ半減、れいわ新選組が8議席から1議席へ壊滅寸前、社民党が1議席も取れなかったことを思えば、まさに「風前のともしび」というほかない。
共産党は「総選挙の結果について」(常任幹部会声明、赤旗2月10日)において、後退の原因を次のように記している。
――「高市旋風」がつくられ、多くの政党が高市政権に迎合・屈服する状況がつくられたことは、高市政権と正面からたたかうわが党にとっては大きな逆風として作用しました。それは高市強権政治に立ち向かうわが党のかけがいのない役割が、多くの有権者に伝わるならば、わが党の前進・躍進の契機にもしうるものでしたが、逆風を押し返すには党の力があまりにも足らなかったというのが、私たちの強い実感です。
同様のことは、志位議長が衆院選直前の日経新聞のインタビュー(2月6日)の中でも、「共産党の最大の弱点は数が少ないことだ。議長として国会議員の数を増やすことに専念し、強く大きな党をつくる」と語っている。いずれも「党の力が足りない」「数が少ない」というだけで、なぜ足りないのか、なぜ少ないのかについては語らないのである。
この5年間に5回の国政選挙があったが、共産党の比例得票数・得票率は、2021年衆院選416万6千票(7.2%)、2022年参院選361万8千票(6.8%)、2024年衆院選336万8千票(6.1%)、2025年参院選286万4千票(4.8%)、2026年衆院選251万9千票(4.4%)と縮小し続けている。その根本原因である「民主集中制」など党の構造的な閉鎖的・権威主義的体質にメスを入れないで、四半世紀にもわたって党指導部トップに居座っている人物が、「国会議員の数を増やす」「強く大きな党をつくる」と言っても通用しない。
上記の常任幹部会声明には、「なぜ日本共産党が重大な後退をきっしたか。その総活については党内外の方々の声によく耳を傾け、学びながら、あらゆる面で自己検討を深め、次の中央委員会総会で明らかになるようにします」とあるが、言葉の上でいくら反省しても、党組織の抜本的改革と党指導部の新陳代謝が進まない限り「空文句」にしか聞こえない。事実、志位氏は「議長として国会議員の数を増やすことに専念する」と発言しており、(不破議長のように)90歳を過ぎても党指導部に居座り続ける決意を示している。
国民世論がポピュリズム化し、「日本型ポピュリズム=推し活選挙」が政党政治を溶解させつつある現在、共産党が「憲法を真ん中にすえた確かな共同」をつくると言っても、衆議院議員465人のうち「4人」、れいわ新選組を入れても「5人」というのでは、「象の前のアリ」の発言に等しい。現在の党組織と党指導を前提にした「確かな共同」の呼びかけは、むなしく空中に消えていくだけだ。
「憲法を真ん中にした確かな共同」をもし本気でつくるのであれば、立憲民主党と同じく、共産党も「解党的出直し」を求められる。新しい立憲民主党と共産党が本気で向き合うとき、国民世論のポピュリズム化を阻止し、政党政治を復活させることができる。次の国政選挙までにその態勢が整うかどうか、日本国憲法と戦後民主主義の命運が懸かっている(つづく)。
「リベラル21」2026.02.16より許可を得て転載
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〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 https://chikyuza.net/
〔opinion14688:260216〕







