共産党はいま存亡の岐路に立っている(その51)

独左翼党の総選挙躍進を大きく取り上げた「しんぶん赤旗」(3月4日)はいったい何を伝えようとしたのか

3月4日の赤旗は興味深い紙面だった。1つは1面と3面で大きく取り上げた独左翼党の総選挙躍進の記事、もう1つは6面全紙を使った青年・学生むけの「入党の呼びかけ」である。日本共産党と独左翼党の関係は、志位議長が同党共同議長と儀礼的会談(2024年9月)を行ったことはあるが、その活動についてはこれまで大きく取り上げられることがなかった。それだけ今回の独左翼党の総選挙躍進は、参院選を控えた日本共産党にとっては大きな衝撃だったのである。

赤旗の見出しを拾ってみると、「独左翼党 数万人の新入党員、カギはSNSと直接対話」「家賃と物価・・・一番の要求を政策に」「SNSが効果/人権守るに共感」とあるように、「カギはSNSと直接対話」にあると強調されている。目下、共産党が進めている「SNS活用」と「500万要求対話」を軸とする活動方針を実践すれば、来る参院選の勝利は「間違いなし」と言いたいのだろう。

だが、現場にいた赤旗特派員(記者)は、独左翼党躍進の記事をどのような角度から取り上げるかについて大いに悩んだに違いない。同党が「開かれた左翼政党」を標榜して共産党の党名を改め、前衛党の組織原則である「民主集中制」を廃して党内外の自由な交流と意見表明を認め、派閥の存在を否定することなくそれぞれの主張を活かした幅広い活動を展開していることが、今回総選挙での躍進につながった――と書くわけにはいかないだろうからである。

だから前置きとしては、まず同党に対するこれまでの否定的評価を述べ、その上で今回の躍進の原因を紹介するという、込み入った手法の記事になっている。以下はその1節である。
――この間、有権者の多くが左翼党に抱いていた印象は「いつも内輪もめをしている党」でした。2007年の結党以来、党内外での自由な意見表明や派閥を認める一方、政策や人事を巡る意見対立が絶えませんでした。ロシアのウクライナ全面侵略や移民・難民受け入れを巡る見解の違いが決定打となり、元連邦議会議員団長が2023年に複数の議員と多くの高齢党員とともに離党。2024年1月に結成された新党は同年6月の欧州議会選挙、9月の東部州議会選挙で勝利する一方、左翼党は惨敗を重ね、支持率は過去最低レベルの2%に落ち込みました(3面)。
――党の分裂や党員の高齢化などによる「消滅寸前」といわれた時期も経験しながら、支持率を回復し数万規模の新入党員も迎えました。立て直しに向けてどのような努力があり、何が有識者に響いたのか。党関係者を取材しました(1面)。

それからがいよいよ本題の記事になり、その躍進ぶりが次のように紹介されている(要約)。
(1)左翼党は2021年前回選挙から得票率を4・9%から8・8%に伸ばし、議員数は前回39人(改選前28人)から64人になった。
(2)議員の平均年齢が最も若く、女性と性的少数者の当選も最多。出口調査で18~24歳の政党支持率は1位、首都ベルリンでは初めて第1党になった。
(3)青年層に近づくためにソーシャルメディアの予算を10倍化。有権者との直接対話は、低所得者や投票に行かない人々が多い地域を集中訪問し、政治が緊急に取り組むべき課題を聞き取った。総選挙公約はこの対話作戦に基づいて作成し、最も多くの声があった「高い家賃と物価・光熱費への対策」を前面に打ち出した。
(4)党が揺れていた2023年当時の党員総数は約4万9千人。総選挙中に多くの新入党員を迎え、現在は10万人を超えた。党分裂で失っていた議会会派の結成資格を取り戻した今、家賃・物価抑制の法案提出に向けて動いている。

独左翼党の躍進は、ヤニス・エーリング連邦幹事長(39)の声に集約されている(1面)。「極右を許さない、国民生活をよくしたいという社会的正義のためにあるのが左翼。党内改革を進め、有権者から見た党の姿をよくできたら、既存政治に代わるオルタナティブ(選択肢)として大きな支持が得られると確信しています」。

左翼党の存在意義は、極右を許さず国民生活をよくするという社会的正義の実現にあること、党内改革を進めて有識者に受け入れられる政党になることが重要であり、そのことが既存政治に代わる選択肢になると表明されている。大上段に振りかぶった政治変革の目標を打ち出すよりも、当面する政治課題(極右の進出など)と国民生活の要求(家賃・物価の高騰など)に応えることに最重点が置かれ、有権者に期待と好感を持たれる党内改革(党づくり)を進めることが、既成政党に代わる新たな政治勢力の可能性を広げると平易な言葉で説明されているのである。

一方、日本共産党の青年・学生むけの「入党の呼びかけ」や総選挙の公約では、「異常なアメリカ言いなり」「財界・大企業中心」という自民党政治の「二つのゆがみ」に真正面からメスを入れる「ホンモノの改革」を国民とともに進めるのが日本共産党であり、社会主義・共産主義を目指す体制変革の党が日本共産党だと強調されている。そのためには「民主集中制」を堅持して党活動を行うことが規約に定められ、①週1回の支部会議に参加すること、②実収入の1%の党費を納めること、③「しんぶん赤旗」日刊紙を読むこと、④学習につとめ活動に参加することが力説されている。

両党それぞれの置かれた状況や歴史が異なる以上、安易な比較は慎まなければならないが、赤旗が独左翼党の総選挙躍進をこれだけ大々的に報じるのであれば、SNSの活用や直接対話といった選挙戦略の紹介にとどまらず、党組織や党活動のあり方、選挙公約の作り方、新入党員の迎え方に至るまでもっと踏み込んだ分析が求められるのではないか。そうでなければ、独左翼党がなぜ総選挙で18~24歳の若者世代の支持率が第1位になり、議員の平均年齢が他党に比べて最も若く、首都ベルリンで第1党になったのか説明がつかない。

これに対して、日本共産党の方は党勢も党支持率もあまりはかばかしくなく、次期参院選で若者支持率が第1位になり、東京選挙区で第1党に躍進することなどおよそ考えられない。今年2月の党勢拡大(赤旗3月2日)は、4月末までの「500万要求対話・党勢拡大・世代的継承の大運動」が折り返し点を迎えたにもかかわらず、依然として後退局面から脱却できない状況が続いている。2月の入党申し込み数235人、赤旗日刊紙読者183人減、日曜版読者427人減、電子版読者61人増であり、第29回党大会以降の14カ月分合計は、入党申し込み数5239人、日刊紙読者8707人減、日曜版読者3万9825人減、電子版読者1175人増である。

第28回党大会(2020年1月)から第29回党大会(2024年1月)の4年間の公表された党員死亡数1万9814人、この間、赤旗訃報欄に掲載された党員死亡数7442人(筆者算出)、掲載率37.6%である。第29回党大会から2025年2月末に至る14カ月の赤旗訃報欄掲載数2327人(筆者算出)なので、掲載率37.6%とすると党員死亡数6189人となり、入党申し込み数5239人を950人超過している。つまり、党員も赤旗読者もともに減少していることになる。

第29回党大会で公表された党勢現勢は、党員25万人、赤旗読者85万人だった。第28回党大会時は党員27万人、赤旗読者100万人だったので、4年間で党員2万人、赤旗読者15万人が減ったことになる。離党者数は公表されていないが、27万人+入党者数1万6千人(年平均4千人)-死亡者数2万人(年平均5千人)-離党者数=25万人という計算式から、離党者数1万6千人(年平均4千人)という数字が導ける。つまり年平均では、死亡者数5千人と離党者数4千人の合計9千人となり、入党者数4千人の倍以上になっているのである。このままでいくと、第30回党大会(2026年1月)では党員24万人(25万人+入党者8千人-死亡者1万人-離党者8千人)、赤旗読者77万人(85万人-日刊紙読者1万5千人-日曜版読者6万8千人+電子版読者2千人)になる公算が大きい。

なぜ、日本共産党は党勢後退が止まらないにもかかわらず、成果を期待できない党勢拡大運動を長期にわたって続けるのであろうか。答えはただ一つ、それに代わる党活動のイメージが描けないからであり、「開かれた左翼党」への戦略転換ができないからである。党の政治的影響力を大きくするには「強くて大きい党づくり」をするしかなく、それ以外の道を構想できないからである。党指導部が長期にわたって刷新されず、高齢化の一途を辿っていることがそれに輪をかけている。党内外の自由な意見交流や意見表明が除名・除籍の対象になるといった「前世紀の遺物=民主集中制」が、党組織・党活動の自由で持続可能な発展を妨げているからである。

独左翼党の総選挙躍進から日本共産党が学ぶべきことは、SNSの活用や直接対話といった選挙戦術にとどまらず、「消滅寸前」といわれた独左翼党が立て直しに向けてどのような努力をしたのか、何が有識者に響いたのかを根本から学ぶことではないだろうか。(つづく)

初出:「リベラル21」2025.03.11より許可を得て転載
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〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 https://chikyuza.net/
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