敵を知り己を知れば百戦危うからず、敵を侮り己を知らずば百戦危うし、志位議長の発言を読んで思うこと
このところ赤旗には、志位議長の発言や訴えが異常な頻度と比重で連打されている。それも全紙1面、2面を使っての大型記事だ。いったい何が起こっているのだろうか。党勢が後退に後退を重ね、鳴り物入りの「要求対話、要求アンケート運動」が浸透せず(1割)、各紙の3月世論調査の政党支持率で共産党がついに1%の底辺に沈んだことがその背景にあるのだろうか。
〇3月11日、「たたかってこそ社会は変えられる」「大阪ミーティング 若者・真ん中世代大集合、志位議長が熱く訴え」「願い共有 会場一体」
たたかってこそ社会は変えられる。日本共産党大阪府委員会は9日、志位和夫議長を迎えて「わたしとあなた 願いをシェアする大阪ミーティング With 志位さん」を大阪市内で開きました。
〇3月12日、「共産党が幹部会開く」
志位和夫議長が中間発言し、決議案は燃え上がるような熱気と活力みなぎる党をつくるために、情勢論、要求対話、党勢拡大の三つの角度から命題をまとめたものだと指摘しました。
〇3月13日、「全国都道府県委員長会議」「燃えるような熱気と活力をつくりだす指導と活動を 志位議長が中間発言」
日本共産党の志位和夫議長は12日、全国都道府県委員長会議で中間発言を行い、「勝利に向け活動の一大飛躍をどうやってつくるか。燃えるような熱気と活力を全党にみなぎらせていく指導と活動が必要です。幹部会決議は、それが十分につくられていないという認識のうえに、現状打開の要をなす問題を、情勢論、要求対話、党勢拡大の三つの角度から訴えています。討論では、それを深める自己分析と教訓を率直に語ることを呼び掛けます」と語りました。
〇3月14日、「全国都道府県委員長会議 志位議長の中間発言」
勝利に向けて燃えるような熱気と活力をみなぎらせていく指導と活動を、「自民党政治の〝延命戦略〟は早くも破綻があらわになりつつある」、「アメリカ帝国主義の〝落日〟が始まった」、要求対話――「おもしろさ」を伝え、具体化・実践を励ますイニシアティブを、党勢拡大――実際に前進をつくりだし、「やればできる」をみんなの確信に、「大運動」には党の命運がかかっている――討論と実践を心からよびかける。
〇3月18日、「都議選・参院選勝利へ、首都・東京から一大飛躍を」「東京決起集会 志位議長が訴え」
日本共産党東京都委員会は17日、都議選・参院選の必勝に向けた「全都党と後援会の決起集会」を党本部で開きました。志位和夫議長が、幹部会決議(11日)をもとに政治戦をたたかううえでの要の問題を語り、「今年の政治戦は、12年に1度の都議選・参院選の連続選挙となります。首都・東京のたたかいは、文字通り、日本共産党全体の命運がかかったたたかいです。東京の勝利なくして全国の勝利なし。これが今年の政治戦です。幹部会の方針を首都・東京でこそ生かしていただき、勝利に向けた一大飛躍を力をあわせてつくりだしましょう」と訴えました。
〇3月20日、「全都党と後援会の決起集会、志位議長の訴え」
都議選と参議院選挙が目前に迫りました。私は昨年の党大会以降、新しい任務につきまして、いろいろとやってまいりましたが、さいわい体は元気で、心の方は青年のつもりでおりますので、東京のみなさんと心一つに、この歴史的な政治戦をたたかいぬく決意をまず申し上げたいと思います。
志位議長の発言は全て次の3点に集約される。
(1)情勢のつかみ方――自民党政治は追い詰められている、アメリカ帝国主義の〝落日〟が始まった
「要求実現のために頑張る」、財界中心、日米同盟絶対という自民党政治の「二つのゆがみ」に正面から切り込むという姿勢を堅持して奮闘する日本共産党の「二つの基本姿勢」が自民党を追い詰めている。苦し紛れに取り組んでいる自民党の〝延命戦略〟を破綻させつつある。さらに、野党をふるいにかけている。国民のたたかいと一体の日本共産党の頑張りが追い詰めてきている。こうした情勢のおもしろさをつかめるかどうかが要になる。
トランプ政権は、国連憲章も国際法も無視して行動しているが、こんなことは戦後のアメリカの歴史でもなかった。これは決して「強さ」のあらわれではなく孤立への道であり、信頼を根底から損なう道である。世界の見方でもこういう大局観を持たないと国内のたたかいでも方向感覚を失ってしまうことになりかねない。だから、幹部会決議は踏み込んだ解明を行った。
(2)要求対話・要求アンケートの取り組み方
この運動は取り組めばおもしろい。運動の「おもしろさ」を全党に返すことがカギになる。「おもしろさ」が伝わっているかどうか、取り組みが具体化されているかどうか、これは党機関のイニシアティブにかかっている。
(3)党勢拡大の進め方
党勢拡大は「前進をつくりだす」ことが党の熱気と活力をつくりだすことになる。「やればできる」ということを実践で示す。実践で突破する。そこに党機関のイニシアティブが発揮されているか討議を深めてほしい。大阪での若い世代・真ん中世代を対象にした「ミーティング」の取り組みは全党が学ぶべきではないか。まず都道府県がやる、地区委員会もやる、支部も一緒になってやるということになれば、必ず突破口が開けてくる。
この情勢分析と活動方針は、戦場の光景を思い浮かべると理解しやすい。大軍を前にたじろいている部隊を、指揮官が「敵は追い詰められている」「周りから孤立している」と教え諭し、「やればできる」「為せば成る」と発破をかけている光景そのものだ。だがしかし、戦略戦術には「前進」ばかりでなく「後退」もある。賢明な指揮官は戦況が有利な時は前進し、不利な時は後退して戦力を保持する。その判断の基礎になるのが冷静で正確な戦況分析である。不利な戦況の下では燃えるような熱気と活力で「前進」を繰り返すほど犠牲は大きくなり、日本陸軍は「バンザイ突撃」を繰り返して全滅した(『失敗の本質』中公文庫)。
「選挙戦」という戦場分析の基礎になるのが世論調査である。事実、3月18日の赤旗には「石破内閣支持急落」との記事が大きく取り上げられている。石破首相が初当選議員を首相公邸に招いてもてなし、商品券(10万円)をお土産として(事前に)渡したことがばれて大騒ぎになり、首相が釈明と陳謝を繰り返すなかで内閣支持率が急落していることを取り上げたものだ。この内閣支持率の急落が「自民党が追い詰められている」という情勢分析の最大の根拠になり、「いま頑張れば選挙戦に勝利できる」と発破をかけているのである。
だが、赤旗はもう1つの世論調査「政党支持率」を記事にしたことは滅多にない。自民党支持率が低下したときはたまに記事にすることもあるが、共産党の支持率については常にダンマリを決め込んでいる。理由は明白だろう。共産党支持率はこれまでも数パーセントの水準に低迷しており、最近ではさらに低下して底辺に沈んでいるからである。
赤旗が内閣支持率急落を報じた全国紙の世論調査は、3月17日発表の数字だった。3月14~16日にかけて実施された毎日・朝日・読売各紙の世論調査では、確かに石破内閣の支持率が1~2カ月前に比べて急落している。毎日新聞が30%から23%へ、朝日新聞が40%から26%へ、読売新聞が39%から31%へと大幅な低下となった。その一方、内閣支持率がこれだけ急落しているのだから、野党の支持率が上昇してもおかしくないのに、国民民主党が支持率を上げているだけで、「支持政党なし」は朝日36%から38%、毎日39%で変わらず、読売39%から40%とほとんど変化していないのである。
なかでも注目すべきは、共産党の支持率が毎日・朝日は前回2%から今回1%へさらに低下し、読売は2%にとどまっていることである。また、今年夏の参院選比例代表の投票先は、毎日は2%で変わらず、朝日は4%から3%へ低下、読売は3%で変わらずとなって、こちらの方も極めて低い。志位議長があれほど国民要求実現のために共産党が頑張ってきたことを強調し、国民と共産党の団結が自民党を追い詰めていると叫んでいるのに、世論調査はそれとは真逆の傾向を示しているのだから説明がつかないのである。
この情勢の下で共産党が真っ先に解明すべきは、志位議長の党の自己評価と世論調査の「天と地ほどのズレ」ではないだろうか。世論調査は共産党自身が思っているほど共産党を評価していない。それどころか最近は「泡沫政党」と見紛うほどの存在でしかなく、底辺に沈んでいると言った方が正しい。党の支持率1~2%、参院選比例代表投票率2~3%では選挙戦をたたかえない。党内を叱咤激励するだけでは、得票率6%、650万票の獲得は「夢のまた夢」に終わること間違いなしである。
知人のジャーナリストにも意見を求めたが、共産党からの「若者離れ」が決定的な要因だとの回答が返ってきた。世論調査の分析には出ていないが、年代別の政党支持率をみると、10~30代の世代の共産党支持率はほとんど「ゼロ」に近いのだという。中高年層の数パーセントの支持率でやっと持ち堪えているが、時が経つにつれてやせ細っていくとの回答だった。
中国の古典・孫子の兵法に「敵を知り己を知れば百戦危うからず」という言葉がある。彼我の戦力を冷静に分析し、有利な時は戦い、不利な時は戦いを避けるという教えである。だが、志位議長の発言や訴えを読んでみると「敵を侮り、己を誇る」だけのアジテーションとしか思えないほどのお粗末な代物だ。「鼓舞」と「扇動」だけでは選挙戦はたたかえない。客観的な戦況分析とそれに見合った多彩な選挙戦術が要求される。「勝つ」だけではなく、民意に響く選挙戦を展開することなしには共産党の未来は開けない。このままでは「敵を侮り己を知らずば百戦危うし」という結果に陥る。燃えるような熱気と活力で「バンザイ突撃」を命令するだけの指揮官は、現代戦では「百害あって一利なし」の存在でしかないのである。(つづく)
初出:「リベラル21」2025.03.24より許可を得て転載
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〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 https://chikyuza.net/
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