共産党はいま存亡の岐路に立っている(その59)

参院選京都選挙区で共産、立憲、れいわの3女性候補の2議席独占なるか、共産党は従来型の選挙活動で現有議席を維持できるだろうか(6)

前回の拙ブログで、自民の西田昌司氏と無所属の二之湯真士氏が保守票の奪い合いで「共倒れ」になった場合、共産の倉林明子氏、立憲の山本和嘉子氏、れいわの西郷南海子氏の女性3候補が浮上し、2議席を独占するかもしれない――と書いた。この観測は結構大きな反響を呼び、私の許には賛否両論の意見が寄せられている。反応は「冗談も休み休み言え!」といった酷評から、「ひょっとしたらひょっとするかも?」との感想まで様々だ。

だがその後、西田氏にとっては〝政治的ダメージ〟となる2つの決議案が6月6日、京都市議会で可決された。1つは西田氏の「ひめゆり発言」に対して「強い遺憾の意を表明する」決議、もう1つは、北陸新幹線延伸の地下トンネルルート反対決議だ。以下、6月7日の京都新聞記事を見よう(要旨)。

〇京都新聞、「ひめゆり発言『強い遺憾』、京都市会が決議 自公は反対、『西田氏見解、沖縄の心傷つける』」
――京都市議会は6日の本会議で、自民党西田昌司参院議員(京都選挙区)が沖縄戦の慰霊碑「ひめゆりの塔」の展示について「歴史の書き換え」などと発言したことに関して、「強い遺憾の意を表明する」とした決議案を賛成多数で可決した。決議では、西田氏の発言や見解は「沖縄県民の心を深く傷つけると言わざるを得ない」と批判。沖縄戦では京都出身者も犠牲となり、戦後は京都の議員が党派を超えて沖縄との友好を深めてきた歴史を踏まえ、「県民の心情に寄り添い、沖縄戦の歴史に真摯(しんし)に向き合うこと」を求めた。
決議案は維新・京都党・国民民主の合同会派や共産など3会派と無所属議員2人が共同提案した。討論では賛成議員が「求められているのは、市議会として戦没者や戦争体験者を冒涜(ぼうとく)する発言に満身の怒りを持って抗議する」と主張、賛成多数で可決した。自民と公明は反対した。一方、自民、公明両会派が「京都と沖縄の絆を次世代に伝え平和社会の実現を目指す」とする決議案を提案したが否決された。決議案では「沖縄の人々の筆舌に尽くしがたい艱難辛苦(かんなんしんく)に寄り添わなければならない」などとしたが、西田氏の名前や発言には一切言及しなかった。

この決議案の共同提案に無所属議員が加わっていることは、西田発言に対する批判が党派を超えて広がっていることを示している。一方、自民・公明は、西田発言には一切触れずに「京都と沖縄の絆を次世代に伝え平和社会の実現を目指す」とする抽象的な決議案を提案して否決された。京都新聞「インサイド」欄には、その内容を巡って自民市議団内で激しい意見対立のあったことが暴露されている(6月7日、抜粋)。
――自民党や公明党が提出した決議案を巡っては、自民市議団内で意見が鋭く対立した。関係者によると当初の決議案には西田氏を厳しく指摘する文言が入っていたが、西田氏の「擁護派」が強く主張して削除。しかし可決に持ち込めず、夏の参院選を目前に内部に「亀裂」(自民関係者)が走っている。
関係者によると、自民が作成した原案は西田氏の発言に触れ「沖縄に対する配慮を欠いたものであり、多くの人々の心を深く傷つけた」と指摘していたという。4日行われた団会議では、複数の議員が「西田氏に後ろから鉄砲を撃つようなもの」「一国会議員の発言を決議であげつらう意味が分からない」などと強く反論した。団幹部が協議し、「擁護派」も賛同できる案に文言修正し可決を目指した。しかし議長を除く66人中、賛成は32人と半数に1人足りず否決となった。ある自民市議は「なぜ提出にこだわったのか。参院選前に西田氏の足を引っ張る形となり、じくじたる思いだ」と語る。

この決議案に対しては、自民支持層からも「言わずもがな」「意味不明」「世迷い言」といった強い批判の声が上がっている。一方、公明支持層からは自民に追随するばかりで自前の判断ができない市議団に対し、激しい憤りと失望の声が広がっているという。いずれもこれまで西田氏に1票を投じてきた人たちだけに、これらの人々がまとまって棄権に回れば、参院選の構図は一変することになる。

しかし、今回の2つの決議の中でより大きな波紋を巻き起こしたのは、「北陸新幹線地下トンネルルート反対決議」の方だった。各紙6月7日の記事を見よう(要旨)。

〇毎日新聞、「大深度トンネル反対可決、京都市議会小浜ルートに姿勢示す」
――北陸新幹線の延伸計画を巡り、京都市議会は6日の本会議で「京都市内大深度トンネルルートへの反対決議」を賛成多数で可決した。福井県小浜市を経由し、府内をほぼトンネルで通す現行の「小浜・京都ルート」は、京都市街地については地下40メートルより深い大深度地下の掘削を基本としている。同市議会が延伸計画の是非を表明するのは初めて。
反対決議は、市内の大深度地下にトンネルを通す計画は、地下水への影響、大量の掘削土の処理、採算性などの問題があると列挙し、「計画をこのまま進めることは市の未来に向けて重大な問題を招く」とした。同市議会は自民所属の議長を含め67人。維新・京都・国民市議団(15人)や共産市議団(14人)などが提案し、民主・市民フォーラム(2人)、改新京都(2人)、無所属4人中3人の計36人が賛成した。

〇朝日新聞、「京都市長改めて懸念、北陸新幹線地下ルート反対決議」
――京都市の地下深くをトンネルで貫くことに京都市議会がノーを突き付けた。北陸新幹線の敦賀―新大阪間の延伸計画で、京都市街地に大深度トンネルを建設することに反対する決議案が可決され、松井孝治京都市長も現行案への懸念を改めて示した。松井市長は報道陣の取材に対し、「懸念や課題を解消し、国策を実現するという道筋は簡単ではない」としたうえで、国側には「いろんなアイデアを考えていただいたら」とさらなる対応を求めた。現行案に反対する署名活動をしている京都仏教会常務理事で聖護院門跡の宮城泰年さんは、大深度トンネルに反対する決議について「京都市民の民意が反映された大英断。国や与党プロジェクトチームは市民の民意を真摯に受け止め、立ち止まって再考していただきたい」と話した。

〇京都新聞、「北陸新幹線延伸 小浜・京都ルート、『大深度』京都市会が反対、賛成多数で決議『未来に問題』」(1面)、「地下工事懸念『民意』示す、現行ルートさらに困難か、京都市会『大深度』反対決議」(社会面)
――京都市議会(定数67)は6日、北陸新幹線の新大阪延伸計画を巡り、「京都市内大深度トンネルルート」に反対する決議案を賛成多数で可決した。市内を大深度トンネルで掘り進む予定の現行「小浜・京都ルート」に対し、議会として反対する意思を示した。大深度地下利用法では、都市部の地下40メートルより深い場所の公共工事について、地権者との用地交渉や補償をしなくても、国などの認可があれば使用できると定めている。現行ルートは2ルートが検討されているが、いずれも地下40メートル超のトンネル工事を見込んでいる。
決議案は現行ルートについて「市民はもちろんさまざまな団体や専門家から、問題あり撤回すべきとの強い意見が市に届けられている」と指摘。課題として、建設による地下水への影響、ヒ素を含む可能性がある大量の残土の処理、住民への情報非開示、歴史的・文化的建造物への影響、採算性を挙げ、「計画をこのまま進めることは、京都市の未来に向けて重大な問題を招く」と反対を表明した(以上1面)。

――北陸新幹線新大阪延伸計画で、京都市議会が現行の「小浜・京都ルート」に事実上のノーを突きつけた。京都では例のない地下40メートル超の大深度トンネル工事には市民の強い懸念があり、日本維新の会や共産党などの野党が考え方の違いを超えて「民意」を示した形だ。事業費を負担する京都市の松井孝治市長も「決議を重く受け止める」と話しており、現行ルート実現へのハードルはますます高くなった。現行ルートを巡っては、昨年11月に自民党京都府議団が西脇隆俊知事に現行ルートの再考を国に求めるよう要望書を提出。国は昨年中に詳細ルートを絞り込む予定だったが、西脇知事と松井市長から慎重な対応を求められたこともあって見送り、本年度中の着工も断念した。国は府内自治体向けの説明会を3月に開催したが、要望の強い住民向けの説明会は実施の見通しさえ立っていない。
夏の参院選で京都選挙区から自民公認で立候補する西田昌司参院議員は現行ルートを推進しており、ある自民市議は「現行ルート推薦に慎重な議員も多いが(西田氏を)支えるしかない」とため息をつく。延伸問題が参院選で争点になるのは必至で、決議には有権者にアピールする狙いも透けて見える。ある維新市議は「参院選が終わるまで自民は延伸問題に触れず、静かにしてほしかったはず。決議をさらなる論争のきっかけにしたい」ともくろむ(以上社会面)。

西田氏にとって「ひめゆり発言糾弾決議」は確かに〝政治的ダメージ〟であることには間違いないが、「大深度トンネル工事反対決議」の方はそれを遥かに上回る〝決定的ダメージ〟だと言ってよいだろう。北陸新幹線京都ルートの建設は、西田氏が政治生命を懸けて取り組んできた一大プロジェクトであり、西田氏は関係自治体の与党議員から成る「与党プロジェクトチーム」を率いて、路線決定のために死力を尽くしてきた。ところが、京都仏教会の「千年の愚行」「有史以来の蛮行」との指摘を機に世論は一変し、関係業界や市民の間に批判的空気が一挙に広がった。今回の市議会決議はその集大成であり帰結であって、この世論を覆すことはもはや不可能になった。これまで西田氏に渋々従ってきた地方議員の間でもこれを機に離反する動きが急速に高まり、西田氏の政治生命は危機に瀕していると言っても過言ではないだろう。

それでは、女性3候補の当選可能性はどうだろうか。現在のところ京都選挙区の世論調査が行われていないので、過去の政党別得票数・得票率の推移を見よう(「れいわ」は立候補していない)。2019年参院選の政党別得票数・得票率は、倉林明子(共産現)24万6436票(25.8%)、増原裕子(立憲新)23万2354票(24.4%)、2022年参院選は福山哲郎(立憲現)27万5140票(26.5%)、武山彩子(共産新)13万260票(12.5%)だった。立憲が得票数23万~27万票、得票率25%前後の安定した得票を重ねているのに対して、共産は得票数24万票から13万票、得票率25%から12%へ半減している。現職候補と新人候補の差が現れたと言えなくもないが、立憲が現職・新人候補の如何にかかわらずほぼ同じ得票数を確保していることを思えば、この間の共産の党勢後退が大きく影響していることは間違いない。

次に、最近の政党支持率の動向を見よう。5月19日に公表された直近の各紙世論調査の結果を朝日・毎日・読売の順で並べると、政党支持率(%。カッコ内は前回4月調査)は、立憲7(7)、9(10)、6(6)、共産2(2)、2(2)、1(2)、れいわ7(7)、5(5)、4(3)となる。また、参院選の比例代表投票先は、立憲6(7)、10(11)、10、共産4(5)、2(2)、2、れいわ7(7)、5(5)、7となる。3党の中ではいずれも立憲が第1位となっているが、注目されるのは「れいわ」が第2位となり、共産は3位に沈んでいることだ。

この世論調査は全国調査で京都選挙区にそのまま当てはまるわけではないが、京都選挙区は全国動向を先取りしてあらわれる選挙区なので、やはり重要な意味を含んでいる。福山参院議員の秘書を務めている立憲の山本和嘉子氏は、連合京都の支援を受けて先行している一方、共産現職の倉林明子氏は票が伸び悩んでいる。その原因となっているのが、れいわの西郷南海子氏との競合関係だ。西郷氏はこれまで共産と行動を共にしてきた市民活動家であり、無党派層にも名前が浸透している。無党派層の動向如何では予想外の結果が出ることも考えられ、予断を許さない状況が展開しているのである。

今回の一連の西田発言騒動で、京都選挙区では既成政治家への嫌悪感と拒否感が広がっている。政治刷新を求める空気が日ごとに高まる中で女性候補への期待が高まっており、私の女性候補2議席独占の予想はあながち荒唐無稽なものとは言えないだろう。今後の選挙情勢の行方に注目したい。(つづく)

初出:「リベラル21」2025.6.10より許可を得て転載
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〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 https://chikyuza.net/
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