共産党はいま存亡の岐路に立っている(その65)

参院選惨敗への批判を封じる「常幹声明」、志位新著の大宣伝は論点すり替えのための目くらまし、2025年参院選の結果から(3)

このところ、赤旗紙面は原水爆禁止世界大会のニュースで埋め尽くされている。戦後80年、原子爆弾投下による戦争犯罪が糾弾され、核兵器禁止条約の広がりが一歩でも進むことを願わずにはいられない。だが、ここでも志位議長が我が物顔に登場するのにはいささか辟易する。参院選総括をそっちのけにした自著の「赤旗宣伝シリーズ」が収まったと思ったら、今度は原水禁大会を舞台にした大活躍が始まるのである。大会に参加した外国人要人とのツーショット写真、大会フォーラムでの志位議長に対する質問と回答の大特集など、紙面はまるで志位議長の独壇場というところだ。赤旗には「志位番記者」がいて逐一報道する(しかも大紙面で)ことになっているのだろうか。

8月3日には党幹部会が開かれ、田村委員長が参院選結果についての常任幹部会声明(7月21日)に基づいて報告し、①「常幹声明」を一刻も早く全支部・全党に徹底する、②世代的継承・党員拡大を党員と読者で必ず前進する、③消費税減税、反核・平和運動、地域・分野別の要求運動に立ち上がる、④『Q&Aいま「資本論」がおもしろい』を学習する、の4点を提起した。会議の目的は、第6回中央委員会総会にむけて参院選総括を開始するとのことだが、そのために「常幹声明」を全支部・全党に徹底する――というのだから驚く。

「総括」という言葉の意味を国語辞典で引くと、「個々のものを一つにまとめること」「全体をとりまとめて締めくくること」「労働運動や政治運動でそれまでの活動の内容・成果などを評価・反省すること」などが出てくる。一言でいえば、「全体をとりまとめて締めくくること」になるが、重要なのはその前提として「個々のものを一つにまとめる」ためのプロセスがあることである。参院選をたたかったのは共産党の各支部や個々の党員だから、参院選の総活はまず各支部や個々の党員の意見を聞くことから始めなければならない。それを地区委員会が集約して都道府県委員会で議論し、全国都道府県委員長会議を開いて意見交換してから最終的に常任幹部会で文章化するというのが、正しい民主主義の手続きというものである。

ところが、どうだろう。投開票日の翌日には早くも常任幹部会が参院選総括の「常幹声明」をまとめ、全支部・全党に徹底するために全国都道府県委員長会議を開催し、それを受けた都道府県委員会が地区委員会を通して各支部・党員に「常幹声明」を届けると言う〝逆方向の流れ〟が進んでいる。赤旗8月6日の党活動の頁には、「全支部が常任幹部会声明の討議・読了をすすめよう」との大見出しが掲げられ、愛知県委員会の活動が「8月活動へ機関役員先頭に、県常任・地区委員長会議で意思統一」と紹介されている。

愛知県委員会は8月5日、県常任委員と地区委員長の合同会議を開き、幹部会(8月3日)の確認事項を受けた8月活動について意思統一したという。会議では、常幹声明の「二つの確信」すなわち①自民党・公明党を少数に追い込んだことの積極的意義、②日本の政治の歴史的岐路における日本共産党の役割について議論し、補完勢力、排外勢力の台頭について議論した。具体的には、①現在4割ほどの「常幹声明」討議支部を全支部・全党に徹底する、②選挙で協力してくれた人たちに働きかけ、党員と読者を増やす、③国民要求実現へ消費税減税を掲げた運動を広げる、④志位議長の新著『Q&Aいま「資本論」がおもしろい』を読む取り組みを大いに広げる、というものである。

だが、前々回の拙ブログでも指摘したように、この「常幹声明」には共産党が今回の参院選で惨敗した根本原因が解明されていない。自民党・公明党が少数与党になったことは事実だが、共産党も議席数と比例代表得票数の両方で大きく後退し、比例代表得票数では全政党の中で最下位に近い第9位にまで落ち込んでいる。これでは、共産党が自民党・公明党を「追い込んだ」などとは到底言えないし、日本政治の歴史的岐路において共産党が大きな役割を果たしたとも言えない。〝真相〟はただ一つ、自民党・公明党とともに共産党も大きく票を減らしたということなのである。

ところが「常幹声明」では、自民党・公明党とともに共産党がなぜ大きく後退したのかという〝事実〟の解明がなされていない。もし共産党が自民党・公明党の批判勢力だと有権者に思われているなら、自公両党の後退は共産党の躍進としてあらわれるはずである。しかし、そうならなかったのは、共産党が自民党・公明党と同じく旧い体質の〝既成政党〟だと見なされているからであって、それ以外の何物でもない。有権者は政策のあれこれよりも、政党が国民の要求に応えることの出来るホンモノの政治勢力であるかどうかを見ているのであって、旧い体質の政党は見向きもされなくなってきているのである。

この点、共産党の体質はいかにも旧い。党指導部には任期制もなければ定年制もない。90歳代の常任幹部会員が(過去も)現在もなお堂々と居座っている。何よりも党最高幹部の委員長や議長が党員の直接選挙で選ばれず、志位議長は2000年に委員長に就任以来、四半世紀にわたってその座を独占し続け、現在も議長を務めている。長年、最高幹部のポストに同一人物が居座っていると、周辺の党幹部は「イエスマン」だけになる。異論を挟み、批判をする幹部は遠ざけられるか排除されるかして、いなくなるからである。これは洋の東西を問わない歴史的法則であって、ソ連・東欧の共産党や中国共産党の歴史がそのことを証明している。

志位議長もそのことをよく知っているのだろう。だから、各支部や個々の党員から参院選惨敗への批判の声が上がり、下部からの本格的な選挙総括に発展することを恐れて「常幹声明」を即日つくり、全支部・全党へ徹底すると言う形で党中央に対する批判を封じ込める行為に出たのである。「全支部が常任幹部会声明の討議・読了をすすめよう」という大号令は、有無を言わさず「常幹声明」で意思統一しようとする志位議長の意向を反映している。

おまけに、それだけでは拙いと思ったのか、今回は志位議長の新著『Q&Aいま「資本論」がおもしろい』を読む取り組みがわざわざ付け加えられている。参院選総括と資本論学習にどんな関係があるかは知らないが、「常幹声明」への疑問や批判を逸らす意味では一定の効果があると踏んだのだろう。資本論学習が参院選総括の論点を逸らす「目くらまし」の役割をすることを期待してのことである。それに常任幹部会が志位議長を講師に『Q&Aいま「資本論」がおもしろい』の学習会を行い、資本論を読むムーブメントを起こすため常任幹部会が先頭に立つことを確認したと言うのだから、念が入っている(赤旗8月8日)。

だが、こんなことをしているうちに、党勢は恐ろしい勢いで衰退している。都道府県委員会や地区委員会の幹部もこんなことで党勢が回復するとは思っていないだろうが、「常幹声明」を批判する勇気もなければその意思もないので、トコロテン式に降ろしていくことしか思い浮かばないのだろう。第6回中央委員会総会でどんな参院選総括がなされるか、また引き続く第30回党大会でどんな方針が出されるか、志位議長の動向を見守りたい。(つづく)

初出:「リベラル21」2025.08.18より許可を得て転載
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