共産党はいま存亡の岐路に立っている(その66)

著者: : 都市計画・まちづくり研究者
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448万票、361万票、286万票と3回連続・全都道府県で一斉に縮小している共産党の得票数と得票率、〝解党的出直し〟なくしてこの動きは止められない、2025年参院選の結果から(4)

赤旗ではもう参院選が終わったかのような空気が流れている。「常幹声明」以来、選挙総括に関する記事らしい記事はまったく見当たらなくなった。その代わり、「志位和夫著『いま「資本論」がおもしろい』をおすすめします」(赤旗8月13日)といった大宣伝が性懲りもなく続けられている。党学習・教育局次長の推薦文はこう結ばれている。
――本書では、アメリカでトランプ政治に正面から対決する運動が『資本論』を読む運動と歩調を合わせて進んでいることが紹介されています。大きな歴史的分かれ道にある日本でもアメリカの運動に〝負けない〟で、政治の進歩的転換をはかる運動と合わせて『資本論』という「巨大な山への挑戦」読む運動を起こしたい、私からもその気持ちを込めて、青い表紙の『共産主義と自由』とセットで赤い表紙の『いま「資本論」がおもしろい』をおすすめします。

私自身も教育者の端くれだったから、学習教育活動の重要性はよく知っているつもりだ。しかし、学習教育活動にはカリキュラムがあるように、学習者の発達段階に合わせて実施しなければ思ったような効果は得られない。まして、赤旗で推奨されている「志位本」を読む運動は政治活動の一環だから、その時の政治情勢とかみ合ったものでなければ効果は薄いだろう。この点、党学習・教育局次長は「日本が歴史的分かれ道」にあることを理由に挙げているが、この言い分は筋が通らない。これまでも「日本の歴史的分かれ道」は何度もあったにもかかわらず、政治情勢が激動するなかで資本論を読むような学習教育運動が提起されたことは一度もなかったからである。

前回の拙ブログでも指摘したが、参院選に惨敗して党の存亡が懸かかっているこの時期に選挙総活抜きにわざわざ「志位本」を読む運動を起こすなど、正気の沙汰とは思えない。これが参院選総括から党員や支持者の目をくらますものでなければ幸いだが、学習意欲をかき立てるほどの魅力がなければ、運動が失敗することは目に見えている。結果はやがて明らかになるだろうが、その時、志位議長本人や党学習・教育局幹部はいったいどんな総括をするのだろうか。

国政選挙では政党の得票数で議席数が決まり、議席数で政権の所在が決まる。「数は力」とあるように、政治権力の源泉は国政選挙の得票数に基づく議席数にある以上、国政選挙の総活は政党得票数の分析が基本となる。得票数と得票率の分析に基づかないあれこれの言説は、「まやかし」か「目くらまし」の一種と考えてまず間違いないだろう。そこで今回の参院選を時系列で分析するため、3回の参院選(2019年、2022年、2025年)の共産党の比例代表得票数と得票率の都道府県別一覧表を作ってみた。資料出所は『前衛臨時増刊号』(No.981、1020)及び2025年参院選開票結果である。

特筆すべきは、共産党の得票数と得票率が3回連続して全都道府県で一斉に縮小していることであろう。この事態は党組織の〝総崩れ〟ともいうべき現象であって、党活動としては〝末期〟に近い現象だと言っても過言ではない。問題の所在が都道府県委員会や地区委員会など地方党組織レベルのものであれば、47都道府県の全てでしかも3回連続して得票数と得票率が一斉に縮小するといった事態は起こり得ない。地方党組織は、その時の事情によって票を伸ばすところもあれば減らすところもあるように地域によってバラツキがあり、また時期が異なれば別の結果があらわれるのが通常の姿である。

ところが、全都道府県でしかも3回連続して一斉に共産党の得票数と得票率が縮小していることは、問題の根源が党そのもの(党中央)に根ざしており、それが根本原因となって国土レベルの〝共産党離れ〟が進行しているとしか考えられない。つまり、共産党という政党が、総体として国民・有権者の支持と信頼を失いつつある危機的状況に直面しており、都道府県委員会や地区委員会などの地方党組織がいくら頑張っても対応できない事態が日本中に広がっている――と見るべきなのである。

最近3回の参院選では、共産党の得票数は448万票、361万票、286万票と恐ろしいほどの勢いで縮小している。2019年を基準にして2022年と2025年の得票数の歩留まり率を見ると、2022年は北海道・東北ブロックが7割(71.5%)に落ち込んだのを除いて、他ブロックではまだ8割前後(76.6~86.0%)の歩留まり率を維持していた。ところが2025年になると、北海道・東北ブロック(56.1%)、九州・沖縄ブロック(58.0%)は5割台になり、その他ブロックでも軒並み6割台に落ち込んでいる。しかも大都市圏ブロック(関東66.6%、近畿66.9%)の落ち込みが激しく、地方圏ブロック(北陸・中部61.7%、中国・四国67.3%)との差が次第になくなってきている。つまり、大都市圏でも地方圏でも得票数の落ち込みが一斉に起こっていて、それが6年間で得票数の3分の1余り(36.1%)を失うと言う危機的な結果として現れているのである。

高度成長期の革新自治体時代は、共産党は地域住民の期待と信頼を一身に担って地域問題の解決に奮闘していた。それが共産党の国政進出への土台となり跳躍台となって、革新政党としての姿を形づくってきたのである。だが、その後の党組織の急速な縮小と高齢化そして党活動の停滞によって、地域問題への取り組みはおろか赤旗読者の維持さえもままならなくなった。3回連続の参院選の得票数と得票率の縮小はその結果であり、起こるべくして起こった必然的な動きだと言わなければならない。

党組織の縮小と高齢化が生じた原因は明白だろう。ソ連・東欧の共産政権の崩壊にともない、社会主義への希望を失った若者世代が大量に党を離れたことに加えて、先進国では唯一生き残った日本共産党が戦時共産主義体制の残滓である「民主集中制」といった負の遺産を清算できず、若者世代を惹きつける魅力を失ったことがその原因である。「革命政党」を標榜して上意下達の党運営に固執する共産党の旧態依然たる体質が、若者世代をはじめ国民諸階層に言い知れぬ〝マイナスイメージ〟を与え、入党者が激減して党組織の縮小と高齢化が引き起こされたのである。

今回の参院選では、旧い体質の「既成政党」に対する有権者の拒否感がひときわ強かった。党代表や幹部が一手に権力を握り、下部組織や党員をアゴで使うような権威主義的政党が批判の的になったのである。この点では、共産党は自公両党に引けを取らない。何しろ共産党は、いまやどの政党でも党運営の基本(常識)となっている代表選挙一つでさえ実施していない。党代表や党幹部が党員や支持者の直接投票で選ばれず、四半世紀以上にわたって同一人物が最高幹部の席に居座り続け、任期制も定年制もない党幹部が「民主集中制」という上意下達のシステムの上に胡坐(あぐら)をかいて下部組織を𠮟咤激励するといった(近代政治以前の)の体制が未だに続いているのである。また選挙戦では、党中央の作成した選挙ビラをばらまくだけで、地域の要求に応える政策もなければ、それを反映したSNSをつくるスキルもないといった組織が多い。こんな古臭い選挙態勢と選挙戦術では選挙に勝てるはずもないが、赤旗は党勢拡大の「数」を追うばかりで、党支部が直面している数々の困難や矛盾をいっこうに伝えようとしない。

志位委員長(当時)は第29回党大会(2024年1月)において、1980年以降長期にわたる党勢後退が続いている原因について、1990年代の旧ソ連・東欧の崩壊を利用した反共攻撃を一因に挙げながらも、主たる原因は「党員拡大と機関紙拡大が党勢拡大の二つの根幹」という方針が党員拡大を事実上後景においやり、新入党員の「空白の期間」が生まれた――といった的外れの報告をしている。党勢後退の大本の原因が党組織の閉鎖的、権威主義的体制にあるにもかかわらず、それを認めれば自らの進退問題に及ぶことから、党勢拡大の両輪と位置づけてきた党員拡大と機関紙拡大の方法に問題がある、との屁理屈をでっち上げたのである。

だが、その後の推移は党員拡大も進まず機関紙拡大も進まないと言う八方塞がりの状態が続いている。党員拡大か、機関紙拡大かといった優先順位の問題ではなく、党活動が停滞しているから党勢が後退するのであって、党活動を活性化しない限り党勢拡大は実現しない。しかし、党活動を活性化するには党内民主主義の確立が不可欠であり、そのためには自由で開かれた討論が必要条件となる。ところが、共産党では自由で開かれた討論が「民主集中制」と称する組織原則によって「規約違反」とされている。これでは手足を縛っておいて、「泳げ!」と命令しているに等しい。

2026年1月に予定されている第30回党大会では、いったどんな方針が打ち出されるのだろうか。第30回党大会までの2年間に第28回党大会時の党員・読者を回復・突破するという目標がすでに破綻している現在、それでも2028年末までの残された3年間で第28党大会時党勢の「3割増」を目指すというのであろうか。また国政選挙における「650万票、10%以上」の目標もそのまま掲げるのであろうか。得票数が448万票、361万票、286万票と激減している共産党がその現実を受け入れられず、およそ実現不可能な目標を掲げることは内外の物笑いになるだけの話である。

党再生の道はただ一つ、‶解党的出直し〟以外にはないだろう。党綱領と規約を抜本的に改正して、党内の自由で開かれた討論を保障する。党内外にわたるオープンな討論を巻き起こして、今の共産党のどこに問題があるかを明らかにする。党代表や党幹部を党員や支持者の直接投票で選出して、指導部を刷新する。党役員に任期制と定年制を導入して、党幹部の若返りを図る、などなどである。こうした一連の党改革を実行するには、新しい世代を中心とする党改革準備組織の結成が求められる。志位議長をはじめ長年党幹部の職にあった者が辞任し、新しいリーダーの下でこうした改革運動が始まれば、共産党に対する国民のイメージを一新する契機となり、そこから共産党再生の新たな道が開けるのではないか。拙論に対する読者諸氏の忌憚のない批判を期待したい。(つづく)

[2019年、2022年、2025年参院選における都道府県別比例代表得票数と得票率、2019年を基準とする2022年、2025年の得票数と得票率の歩留まり率(%)]

2019年 2022年 2025年 22年/19年比25年/19年比
得票数(率) 得票数(率) 得票数 (率) 得票数 得票数
総計 4,483,411(9.0) 3,618,342(6.8) 2,864,738(4.8) 80.7% 63.9%
北海道・東北ブロック
583,025(9.5) 416,813(6.9) 327,124(5.0) 71.5% 56.1%
北海道 275,127(11.6) 189,624(8.2) 147,611(5.8) 68.9% 53.6%
青森 37,914(8.3) 29,974(6.0) 29,338(5.4) 79.1% 77.3%
岩手 58,737(10.4) 36,250 (6.6) 27,494(4.9) 61.7% 46.8%
宮城 75,669(7.9) 58,673(6.5) 45,026(4.4) 77.5% 59.5%
秋田 37,129(8.1) 23,163(5.3) 15,863(3.6) 62.4% 42.7%
山形 34,902(6.5) 27,314(5.1) 21,616(4.2) 78.3% 61.9%
福島 63,547(8.0) 51,815(6.5) 40,176(4.7) 81.5% 63.2%

関東ブロック
1,691,011(9.7) 1,454,287(7.7) 1,126,707(5.4) 86.0% 66.6%
茨城 82,423(7.7) 62,998(5.7) 49,894(3.9) 76.4% 60.5%
栃木 35,268(5.0) 33,359(4.5) 25,522(3.1) 94.6% 72.3%
群馬 57,367(7.6) 48,211(6.4) 41,242(4.9) 84.0% 71.8%
埼玉 293,786(10.6) 246,299(8.2) 189,666(5.5) 83.8% 64.5%
千葉 218,442(9.4) 177,867(6.9) 130,704(4.5) 81.4% 59.8%
東京 651,338(11.3) 589,421(9.4) 448,646(6.4) 90.5% 68.8%
神奈川 352,387(9.7) 296,132(7.2) 241,033(5.3) 84.0% 68.4%

北陸・中部ブロック
665,965(7.4) 517,374(5.5) 411,116(4.1) 77.7% 61.7%
新潟 67,342(6.7) 47,844(4.9) 39,530(3.7) 71.0% 58.6%
富山 22,984(5.7) 18,536(4.3) 14,723(3.1) 80.6% 64.0 %
石川 23,190(5.4) 19,052(4.5) 17,284(3.3) 82.2% 74.5%
福井 19,015(6.4) 15,280(4.5) 11,136(3.0) 80.4% 48.4%
山梨 26,491(7.7) 20,814(5.6) 17,710(4.5) 78.6% 66.8%
岐阜 62,571(7.5) 49,611(5.8) 38,355(4.1) 79.3%61.2%
静岡 120,748(8.1) 92,831(6.0) 71,835(4.2) 76.9% 59.4%
愛知 222,046(7.8) 178,808(5.8) 137,534(3.8) 80.5% 61.9%

近畿ブロック
861,715(10.5) 692,043(7.9) 576,588(5.4) 80.3% 66.9%
三重 45,660(6.1) 35,338(4.7) 28,434(3.4) 77.4% 62.2%
滋賀 52,810(9.1) 48,678(8.0) 34,443(5.1) 92.2% 65.2%
京都 167,302(17.5) 123,993(12.0) 116,328(9.8) 74.1% 71.2%
大阪 334,453(9.6) 265,986(7.1) 227,409(5.4) 79.5% 67.9%
兵庫 179,860(8.3) 145,250(6.3) 114,162(4.3) 80.8% 63.4%
奈良 45,972(8.3) 40,321(6.6) 33,108(5.0) 87.7% 72.0%
和歌山 35,658(9.1) 32,477(8.1) 22,704(5.2) 91.1% 63.6%

中国・四国ブロック
296,559(7.0) 242,784(5.7) 199,573(4.2) 81.9% 67.3%
鳥取 16,009(7.0) 12,889(5.9) 8,993(3.7) 80.5% 56.1%
島根 20,891(7.0) 16,600(5.4) 15,183(4.8) 79.5% 72.6%
岡山 46,335(6.7) 43,105(6.0) 34,459(4.2) 93.0% 74.3%
広島 66,937(6.6) 50,749(4.8) 46,032(3.8) 75.8% 68.7%
山口 33,241(6.2) 25,047(4.8) 19,290(3.3) 75.3% 58.0%
徳島 19,833(8.3) 17,717(6.5) 11,358(3.9) 89.3% 57.2%
香川 19,400(5.4) 15,030(3.9) 14,575(3.3) 77.5% 75.1%
愛媛 33,522(5.8) 23,792(4.5) 22,909(3.8) 71.0% 68.3%
高知 40,391(15.1) 37,855(14.0) 26,774(8.7) 93.7% 66.2%

九州・沖縄ブロック
385,113(7.4) 295,017(5.2) 223,610(3.5) 76.6% 58.0%
福岡 159,492(9.1) 119,013(5.9) 89,461(3.9) 74.6% 56.0%
佐賀 16,231(5.4) 12,032(3.6) 9,961(2.6) 74.1% 61.3%
長崎 28,974(5.9) 22,271(4.3) 18,178(3.2) 76.9% 62.7%
熊本 38,715(5.8) 26,127(3.8) 20,075(2.5) 67.5% 51.8%
大分 29,822(6.3) 22,904(4.7) 17,739(3.4) 76.8% 59.4%
宮崎 21,211(5.7) 16,944(4.1) 12,962(2.7) 79.9% 61.1%
鹿児島 34,754(5.8) 23,945(3.8) 18,921(2.7) 68.9% 54.4%
沖縄 55,914(10.7) 51,781(9.4) 36,313(5.7) 92.6% 64.9%

初出:「リベラル21」2025.08.25より許可を得て転載
http://lib21.blog96.fc2.com/blog-entry-6846.html

〈記事出典コード〉サイトちきゅう座  https://chikyuza.net/
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