共産党はいま存亡の岐路に立っている(その68)

参院選敗北の責任を党中央として〝痛感する〟と言いながら、誰も責任を取らない党指導部の不思議、第6回中央委員会総会決議に見る強烈な前衛意識の存在、2025年参院選の結果から(6)

日本共産党第6回中央委員会総会(6中総)が9月3、4日の両日,党本部で開催され、中央委員176人、準中央委員24名が出席し、6中総決議案と志位議長の中間発言、田村委員長の結語を〝全会一致〟で採択したという(赤旗9月5日)。共産党の参院選目標は、比例代表「650万票、10%以上、5議席獲得」、選挙区「現有3議席確保」だったが、比例代表は目標の半分にも達しない286万4千票、得票率4.8%にとどまり、改選4議席から2議席へ後退した。一方、選挙区選挙は3議席から1議席へ後退、計7議席から3議席への〝大敗〟となった。

政治は「結果責任」と言われるように、選挙結果は党指導部の責任に直結する。選挙に勝利すれば党指導部は引き続きとどまることができるが、敗北すれば引責辞任して新しい指導部に席を譲ることが鉄則である。これが政界の常識というものであり、この新陳代謝の組織原則が機能しない政党は劣化して滅びるほかない。議席数を減らした自民党、比例得票数を減らした立憲民主党では、指導部の交代をめぐる激しい論争が起こっている。同じく議席数を減らした公明党は斎藤代表が早くから辞任を表明し、比例得票数を減らした維新の会の前原共同代表は辞任した。

ところが不思議なことに、共産党はこれほどの大敗を喫したにもかかわらず、この種の動きや論争がまったく見られない。参院選翌日に出された常幹声明(7月21日)やその後の幹部会決定(8月3日)を見ても、大敗を喫した党指導部の政治責任にはまったく触れず、6中総(9月5日)の「参議院選挙の日本共産党の結果について」において、僅かに「わが党の結果はたいへんに厳しく重大な結果であり、党中央として、その責任を痛感している」と記されているだけである。

党中央として責任を痛感しているのであれば、責任の取り方を然るべき形で示さなければならない。ところがそれに続く文面では、見出しが「なぜ後退したか――三つの角度からの教訓」となっているように、後退の原因が新興政党の登場を巡るマスコミ報道の影響、その中での選挙戦術の難しさ、党建設が進まないなどと言った問題に一般化され、しかもそれが党指導部の責任ではなく、党組織全体の〝教訓〟として認識しなければならない――、というレトリックで党指導部の政治責任が巧みに回避されているのである。

しかしこの角度からの分析では、共産党の比例代表得票数が全政党中最下位に近い9位にまで落ち込んだという、これまでにない事態の出現を説明することができない。共産党の大敗は、党組織や党活動上の個々の問題によると言うよりも、共産党という政党そのものの存在意義が問われる事態が生起している――、と考えても不思議ではないからである。政党が多党化する中で政治情勢が激変し、共産党が野党共闘を軸に革新陣営の一翼として位置づけられていた時代が去り、その時々の政治テーマによって政党間の合従連衡が繰り返される時代への適応が遅れたことが、共産党の大敗につながった、と考えてもおかしくないからである。

参院選総括に関する共産党の「常幹声明」「幹部会決定」「6中総決議」を貫く際立った特徴は、強烈な〝前衛意識〟の存在であろう。「自民党政治の『二つのゆがみ』を根本から変える改革を推進すること、極右・排外主義とのたたかいを断固として進めること。こうした『二重の役割』を堂々と果たせるのは、日本共産党をおいてほかにない。わが党は、『時流に流されず正論を貫く党』としての役割を存分に発揮して奮闘する」(6中総決議)との一節がそのことを端的に示している。この主張に対しては、「意気軒昂」「気宇壮大」と言いたいところだが、しかしその裏には、結党以来の〝前衛意識〟が根強く張り付いていることに気付かないわけにはいかない。

つまり、「時流に流されず正論を貫く」と言った主張は聞こえがいいが、そこには民意や世論の動向を「時流=その時代の流されやすい風潮」と決めつけ、党の主張こそが「正論=道理の正しい議論」だとする強烈な前衛意識が見て取れるのである。言い換えれば、民意や世論は支配層の意向によってしばしば操作されやすいものである以上、共産党はそのような時流には惑わされないで、科学的社会主義の理論に基づき確固とした正論を展開しなければならない。それを出来るのは共産党だけであり、共産党が民意や世論を正しく導いていかなければならない、という強烈な前衛意識がそこに横たわっているのである。

党指導部における強烈な前衛意識の存在は、参院選総括の仕方にもあらわれている。通常は選挙戦をたたかった地域組織などから選挙総括の議論を始めるのが筋だが、今回の参院選総括はまず常任幹部会の声明が出され、次に幹部会決定が続き、最後に中央委員会総会において〝全会一致〟で決議されるという典型的な上から下へのプロセスを辿った。そこでは、党指導部こそが最も正しい判断ができる前衛組織の要であり、下部組織はその判断に従うという「民主集中制」に基づく上意下達システムが完膚なきまでに貫徹している。

選挙総括を党指導部が先取りして行うこのシステムは、結果として敗北責任が党指導部に及ばないように作文され、それを全党の「教訓」にするという形で収束することが運命づけられている。そこでは、しばしば「中間発言」と称して教訓を垂れる志位議長の見解が「正論」となり、それが党中央の見解として全党に徹底されていくことになる。だが、それが納得されて実行されるかということは別問題である。

上記の声明や決議などに共通する特徴はそればかりではない。共産党の主張は一から十まで展開されているが、それが国民や有権者からどう評価されているかという点については全く言及がない。毎月公表される各紙の世論調査において共産党支持率がなぜかくも低いのか、なぜ上昇しないのか。2016年から2025年までの過去4回の参院選において、共産党の比例得票数(得票率)が601万6千票(10.7%)、448万3千票(8.9%)、361万8千票(6.8%)、286万4千票(4.8%)と雪崩を打って崩壊しているのはなぜかなどなど、解明すべき問題は山ほどあるのに何一つ説明らしい説明がない。民意や世論の動向は取るに足らない、時流に流されず正論を貫く共産党の主張はいずれ理解される、ともでも思っているのだろうか。

結論を急ごう。志位議長は6中総の閉会挨拶で、「この総会は中央役員の奮闘によって歴史的成功をおさめることができた」と自画自賛した。参院選総括を上からの「常幹声明」「幹部会決定」「6中総決議」として立て続けに繰り出し、党指導部の政治責任を回避して「全会一致」で承認させたことは、志位議長にとっては「歴史的成功」と映るのかもしれない。だが、このようなやり方は政治的劣化と衰退を覆い隠す方便以外の何物でもない。過去3回の参院選において全都道府県で比例得票数が連続して後退している厳然たる事実には何ら言及せず、新興政党をめぐるメディア報道を口実にした参院選敗北の言い訳などは、現在進行中の党組織の構造的衰退の前に早晩破綻せざるを得ないからである。

6中総決議は、最後に「質量ともに強大な党をつくる集中期間」を呼びかけている。具体的には、(1)2025年9月~12月末までを「世代的継承を中軸に、質量ともに強大な党をつくる集中期間」とし、全党の力を集めて必ず成功させる。(2)党員拡大では、毎月現勢で前進し、5千人の新しい党員を迎える。(3)赤旗読者拡大では、「紙」と電子版の合計で日刊紙、日曜版とも第29回党大会現勢を回復・突破する。日刊紙は1万人、日曜版は「紙」で2.7万人、電子版で3万人増やす。(4)第30回党大会までに党勢を前進の軌道に乗せ、第28回党大会現勢(27万人の党員、100万人の赤旗読者)の回復・突破をやり遂げる――というものである。

赤旗日曜版の電子版発行などはこれまで報道されていなかっただけに、それを突如発表してしかも3万人増やすと言うのだから実現可能性の疑問は大きい。「紙」の日曜版はもはや拡大が見込めないので電子版の発行に踏み切ったのであろうが、十分な準備を経て発行されるのであればともかく、今回の突如の発表は少なからぬ混乱を予想させる。第29回党大会以来の党勢(2024年1月~2025年8月)の推移は、入党6667人、日刊紙1万8781人減、日曜版4万6861人減、電子版1545人増、機関紙合計は6万4097人減である。この間の赤旗訃報欄に掲載された党員死亡数は3310人、掲載率4割(党大会毎の数字で検証)とすると8275人になり、これだけで入党数を超えることになる。これに離党者数が加わるとなると、党員数の減少はさらに膨れ上がる。6中総決議の「質量ともに強大な党をつくる集中期間」は、これらの現実を踏まえて打ち出されたのか、それとも第29回党大会決議の辻褄合わせの数字なのか、真偽のほどは分からない。(つづく)

初出:「リベラル21」2025.09.11より許可を得て転載
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