自公政権が崩壊した現在、「反動ブロック対決」と「議員定数削減阻止一点共闘」は両立するか、自維政権にどう立ち向かうか(1)
「政治は一寸先が闇」と言うが、この1、2週間は「驚天動地」ともいうべき大波乱が相次いで発生した時期だった。第1が自公政権の崩壊、第2が自維政権の成立である。自民総裁選で高市早苗氏が新総裁に選出されてから僅か1週間足らず、26年間続いてきた自公政権が崩壊し、それから1週間も経たないうちに自民・維新の連立協議が始まり、数日後に自維政権が発足したのである。
〇10月4日 自民新総裁に高市早苗氏選出。
〇10月7日 「裏金議員」萩生田氏を幹事長代行に充てた新執行部発足。
〇10月10日 自民の企業・団体献金問題の対応に同意できない公明が高市氏に連立離脱伝達。
〇10月16日 自民と維新が連立政権樹立に向けて初会合。
〇10月20日 「議員定数1割削減」を含む連立協議成立。
〇10月21日 臨時国会で高市氏が首相に指名、高市内閣発足。
共産党の機関紙「しんぶん赤旗」(10月12日)は、自公政権の崩壊を「検証・自公連立、最悪の26年」を特集した。そこでは「自公連立政権の26年間、『数の力』を背景に、安保法制=戦争法をはじめとした『戦争する国』づくりや年金改革、消費税増税など、数々の悪政が強行されました」と総括している。この総括は、6中総決議における「自民・公明、維新、国民民主、参政党などによる〝反動ブロック〟が形成された」との認識に基づいている(赤旗9月5日)。
――選挙戦で、自民党の補完勢力である国民民主党と、極右・排外主義の立場に立つ参政党などが伸長したことは、日本の政治の前途にとってきわめて重大な結果となった。自民党・公明党と維新の会、国民民主党、参政党などによる〝反動ブロック〟が形成され、社会保障など国民生活の破壊、大軍拡の暴走、憲法と民主主義の蹂躙、ジェンダー平等への逆流など、日本の政治に深刻な逆行をもたらす危険が生まれている。
――日本共産党は呼びかける。思想・信条の違い、政党支持の違いを超えて、自民・公明、補完勢力、極右・排外主義勢力による〝反動ブロック〟の危険に正面から対決し、暮らし、平和、民主主義を擁護・発展させる〝新しい国民的・民主的共同〟をつくろうではないか。
拙ブログは、共産が〝弱小政党〟に転落した情勢の下で、圧倒的多数を占める〝反動ブロック〟に対決する国民運動が果たして実現可能なのか――、との疑問を呈したが、その後の政局は予想をはるかに超える展開となった。公明が自民連立から離脱したのを機に、自民との連立を画策していた国民民主が見放され、その間隙を縫って「国会議員定数の1割削減」を絶対条件とする維新と、これを受け入れた自民との間で連立が成立したのである。立憲・国民・維新の3党協議は破棄され、共産から〝反動ブロック〟の一翼と名指しされた公明や国民は、いまや(立憲も含めて)一斉に「中道勢力」を名乗るようになった。
維新が国会議員定数の削減とりわけ衆議院比例区の1割削減を連立条件にしたのは、小選挙区での当選の可能性が少なく、比例区で辛うじて当選者を確保している少数政党を追い落とすためであり、維新が「第2保守党」に伸し上がるための政略に基づくものであろう。また自民がこの条件を受け入れたのは、一方では参政党や日本保守党の議席増に歯止めをかけて保守票を取り戻し、他方ではれいわ、共産、社民などの議席を根絶やしにして革新勢力の伸長を阻止するためであり、比例区定数の削減はそのための「一石二鳥」の手段として利用できる、と判断したからであろう。自維政権は比例区定数削減によって衆議院の絶対多数を確保し、専制支配を敷くための体制を整えようと意図しているのである。
日経新聞(10月18日)は、次期衆院選で定数465のおよそ1割に当たる50議席を比例区で削減した場合、2024年衆院選の結果に基づく各党議席数の変化は、自民17減(-9%)、立憲9減(-6%)、公明6減(-25%)、維新5減(-13%)、国民4減(-14%)、れいわ3減(-33%)、共産2減(-25%)、参政2減(-67%)、日本保守2減(-67%)になると試算している。自民・維新・立憲・国民がせいぜい1割前後の議席減に止まるのに対して、公明・共産は4分の1、れいわは3分の1、参政・保守は3分の2の大幅な議席減となり、少数政党ほど大きな打撃を受けることになる。社民は掲載されていないが、恐らく「議席ゼロ」になることは間違いない。
議員定数削減は、維新の「身を切る改革」のトレードマークになっている。しかしその実態は「敵の身を切る政略」そのものであって、維新の牙城・大阪での実績がそのことを赤裸々に物語っている。維新が過半数を占める大阪府議会・大阪市議会では、容赦ない議員定数の削減が次から次へと行われ、対抗勢力を少数派に追い込んできた。
大阪府議会では、維新が過半数を握った2011年統一地方選から現在まで、議員定数が109から79へ実に3割近くも削減されている。その方法は、複数の当選者がいる選挙区を定員1人の選挙区にして、維新以外の競合する政党を締め出す(落選させる)というあくどいものである。その結果、53選挙区のうち36選挙区が「1人区」となり、維新への批判票の多くが死票となっている。大阪府議会(人口約884万人)の定数は、人口規模が近い神奈川県議会(定数105)や愛知県議会(定数102)と比べると格段に少なく、人口あたりの議員数は都道府県議会では最少となっている。
大阪市議会では、維新が2011年に市長の座を押さえて以降、2017年に3減、2022年に2減の定数削減が行われ、議会過半数を握った2023年には、さらに81から70へ2桁の定員を減らす条例改正案が可決された(自民・公明も賛成)。議員定数の削減は、民意を切り捨て、議会から行政機関に対するチェック機能を形骸化させ、住民自治を後退させる。自治体の首長と地方議会は自治を支える「車の両輪」であり、議員定数を一方的に削減することは、そのバランスを崩すことにつながる。議員定数削減は、多様な住民の意思をくみ取り、首長をチェックする議会の機能が衰退させ、住民自治を破壊するのである。大阪市の人口あたりの議員数は現状でも少ないが、新定数では20政令指定市の中で大阪市より少ないのは横浜市だけになる。
維新の府議会・市議会の定数削減による影響をもろに受けたのは共産だった。大阪府議会では、2007年統一地方選挙(定数112)時に共産は10議席を有していたが、定数削減が始まった2011年統一地方選(定数109)では一気に4議席に減少し、2015年(定数88)3議席、2019年(同)2議席、2023年(定数79)1議席となり、次回は「議席ゼロ」の危機が迫っている。大阪市議会では、2015年統一地方選挙(定数86)時に共産は10議席だったが、定数削減後の2019年(定数83)には4議席に減少し、2023年(定数81)には2議席となった。次回は定数70となるので、「議席ゼロ」になる可能性が限りなく大きい。
大阪で議会定数削減の「実績」を挙げてきた維新が自民と連立を組んだことは、今後の政局に多大な影響を及ぼすことが予想される。とりわけ党勢後退が深刻化し、国政選挙の得票数が毎回2割前後も減っている共産にとっては、衆議院比例区定数の削減が「命取り」になることは火を見るよりも明らかである。その所為か、維新と自民の間で「1割を目標に衆院議員定数を削減するため、臨時国会で議員立法で法案を提出し、成立を目指す」との合意内容が明らかになった時点から、赤旗の紙面が一変した。「議員定数削減容認できない、民主主義の根幹を揺るがす」(10月19日)、「自維連立 悪政推進許さない、比例定数削減阻止に全力」(10月21日)が1面トップで掲げられ、総合面では「民主主義への〝宣戦布告〟定数削減 自維が合意」「少ない日本の国会議員、企業・団体献金は温存、弾圧立法狙い福祉削る」の特集が組まれた。
注目されるのは、臨時国会開会党議員総会における田村委員長の「あいさつ」である(赤旗10月22日)。田村氏は、自民・維新の連立政権は「悪政推進の〝反動ブロック〟そのものであり、戦後の自民党政権の歴史のなかでも、国民にとって最悪の政権となる危険をもつ政権」だとした上で、今国会の緊急の課題として、議会定数削減を断固阻止する広範な共同を呼びかけた。
――そもそも議員定数を含め、選挙制度は民主主義の土台であり、そのあり方は全ての政党による国民的な議論が不可欠です。一部の政党、まして政権与党が数の力で、しかも悪政推進の突破口として定数削減を強行するなど、断じて許されません。この場から、議会定数削減反対の一点で緊急の共同を呼びかけるものです。政党・会派、議員個人と「議会定数削減反対」の一点で国会内の共同、また国会の外でも民主主義破壊に反対する広範な世論を結集すること心から呼びかけます。
問題なのは、立憲の野田代表がメディアのインタビューに答えて、「議員定数削減は大賛成。吉村さんが突破口を開いてくれた」と賛意を示しており、公明の斎藤代表は臨時国会で成立させるのは反対だが、「議論自体は反対しない」と述べ、削減するなら「小選挙区20,比例代表30が妥当だ」との述べていることである(赤旗同上)。このように立憲や公明が「絶対反対」を表明していない情勢の下で、共産が提起する「一点共同」が果たして成立する可能性があるのか、またその場合〝反動ブロック〟の一翼と指弾している公明に対して「一点共同」を呼びかけるのか、といった点が明確にされないと「一点共同」は進まない。社民や「沖縄の風」との共同だけでは、自維政権には歯が立たないからである。
私は〝反動ブロック〟の対象を、臨時国会で自維政権の「議員定数削減」に同調する政党・会派に限定し、それ以外は全て「一点共同」を呼びかける対象とすることを提案したい。〝反動ブロック〟に対決する〝新しい国民的・民主的共同〟は「議員定数削減反対」の一点に絞ることが成功への道だと考えるからである。偶然ではあるが、日経新聞「中外時評」(10月22日)にこんな論説が出ていた(要旨)。
――よく知られた逸話がある。1964年7月、毛沢東は後に日本社会党の委員長になる佐々木更三と北京で面会し、次のように語った。「日本軍国主義は中国に大きな利益をもたらし、中国人民に権力を奪取させてくれました」。何を言いたかったのか。1930年代半ば、国民党軍に追い詰められていた毛沢東の共産党は、日中戦争の勃発で九死に一生を得る。抗日を旗印に国民党と手を組む「国共合作」が成立したからだ。日本の敗戦後、共産党は蒋介石が率いる国民党との内戦に勝利し、中華人民共和国の建国にこぎ着けた。
窮地に追い詰められている弱小政党の共産が自維政権に対決しようとすれば、「議員定数削減阻止=抗日戦争」に見立て、国民民主や公明とも「一点共同=国共合作」する以外に方法はない。「自民党政治を根本から変える改革を推進し、極右・排外主義とのたたかいを断固として進めることができるのは、日本共産党を措いて他にない」といった前衛党ばりの大言壮語を続けていれば、共産は他党から孤立して滅んでいくしかない。自らの力量を謙虚に振り返り、それにふさわしい態度と行動を打ち出すことが、この危機を乗り切る唯一の道であることを銘記したい。(つづく)











