「2025年政変」を巡って考えること、達成できない「比例代表650万票、得票率10%以上」を掲げる選挙活動は、もう限界に来ている
今年も暮れようとしている。21世紀も四半世紀を過ぎ、20世紀とは異なる時代の様相が垣間見えるようになった。メディア空間で精力的に「戦後80年」特集が組まれているのは、この時代の変貌を捉えようとする各界の動きを反映してのことであろう。その意味で、高市政権の誕生にともなって自公連立政権が崩壊し、自維連立政権が出現するという「2025年政変」は、日本政治の一つの歴史的画期を示すものであるかもしれない。
政変が起こると国民の関心がそこに集中し、渦中のキーパーソンの一挙手一投足に目を奪われる。高市内閣が目下のところ高支持率を維持しているのは、国民の大多数が「2025年政変」の初動効果に気を取られ、それに引き続く本格的な政策展開の変化にまだ気づいていない兆候とも言える。とはいえ、共産党の消長に焦点を当ててきた拙ブログでは、この間の共産の党勢の推移に的をしぼり、2010年代後半から顕著になった党勢後退の原因について資料を基に考えてみたいと思う。
自公連立政権の崩壊と自維連立政権の出現をもたらしたのは、ポピュリズム政党(右派の国民民主党・参政党、左派のれいわなど)の躍進と既成政党の凋落だった。2021年衆院選得票数を基準に2025年参院選と比較すると、与党系は公明7割台、自民6割台、維新5割台に落ち込み、野党系は立憲と共産がともに6割台に落ち込んでいる。これに対して新興政党は、れいわ1.7倍、国民2.9倍、参政(2022年参院選=100)4.1倍の躍進ぶりだった。右派・中道・左派を問わず、旧い体質の既成政党が忌避され、新しい(と見える)新興政党に票が集まったのである。
しかし、同じ野党系でも立憲と共産では得票数の動きが大きく異なる。立憲の得票数が選挙ごとに激しく乱高下するのに対して、共産の得票数は「右肩下がり」に一貫して減っていくのである。その原因は、立憲がその時々のリーダーの体質や方針によって無党派層の支持率が変動するのに対して、共産はリーダーも体質もいっこうに変わらないので若年層や無党派層の支持を獲得できず、高齢者層中心の固定票しか集票できないからである。高齢者層中心の固定票は、高齢者の健康不安や死亡などによって確実に減少していくのだから、この事態を打開しない限り得票数の減少は避けられない。
【過去4回の衆参両院選挙における比例代表得票数の推移】
2021年衆院選 2022年参院選 2024年衆院選 2025年参院選
〇自民 1991万4千票(100)1825万6千票(91)1458万2千票(73) 1280万8千票(64)
〇公明 711万4千票(100) 618万1千票(86) 596万4千票(83) 521万0千票(73)
〇維新 805万0千票(100) 784万5千票(97) 510万5千票(63) 437万5千票(54)
〇立憲 1149万2千票(100) 677万1千票(58)1156万5千票(100) 739万7千票(64)
〇共産 416万6千票(100) 361万8千票(86) 336万2千票(80) 286万7千票(68)
〇れいわ 221万5千票(100) 231万9千票(104)380万5千票(171) 387万9千票(175)
〇国民 259万3千票(100) 315万9千票(89) 617万1千票(238) 762万0千票(293)
〇参政 176万8千票(100)187万0千票(105) 742万5千票(419)
共産が国政選挙において「比例代表650万票、得票率10%以上」の目標を最初に掲げたのは、2007年9月(5中総)のことである。その文面は「『比例を軸に』を貫き、得票は650万票に正面から挑戦します。この目標は『それを実現するまで繰り返し挑戦する目標』とします」という強気のものだった。第25回党大会当時(2010年1月)の現勢は、党員40万6千人、赤旗読者145万4千人を擁していたこともあって、この目標は「実現可能」だと見なされていたのだろう。
「650万票」には届かなかったが、その後の安保法制反対の世論と野党共闘の前進を受けて、2013年参院選515万4千票、9.6%、2014年衆院選606万2千票、11.3%、2016年参院選601万6千票、10.7%と、得票率は「10%以上」を一応クリアするまでになった。これを〝第3の躍進〟と位置づけた第27回党大会(2017年1月)は、①来たる総選挙においては「比例を軸に」を貫き、「全国は一つ」の立場で奮闘し、比例代表で「850万票、15%以上」を目標にたたかう。②全国11のすべての比例ブロックで議席増を実現し、比例代表で第3党を目指す。③野党共闘の努力と一体に、小選挙区での必勝区を攻勢的に設定し、議席の大幅増に挑戦する、との方針を決定した。「850万票、15%以上」という更なる大きな目標の設定は、共産党が提唱する「安保法制廃止の国民連合政府」を実現するために必要な目標だったのである(『前衛』2019年11月臨時増刊号)。
ところが、情勢は一変する。野党共闘を分断して革新勢力の前進を阻むため、2017年衆院選直前に民進が希望に合流する策動が進められ、民進が立憲民主と国民民主に分裂する。新しく生まれた立憲に革新票が集まり、共産の得票数は再び停滞するようになった。それ以降、2017年衆院選440万4千票、7.9%、2019年参院選448万3千票、8.9%、2021年衆院選416万6千票、7.2%と思うように票が伸びない中で、4中総(2021年11月)は、①比例代表の目標は「850万票、15%以上」を堅持しつつも、②今回の参院選では「650万票、10%以上」を必ずやりきる目標とします、とトーンダウンせざるを得なかった(『前衛』2022年11月臨時増刊号)。しかし、得票数・得票率はその後も回復せず、2022年参院選361万8千票、6.8%、2024年衆院選336万2千票、6.1%、2025年参院選286万4千票、4.8%と、現在まで後退一途を続けている(『前衛』2025年11月臨時増刊号)。
共産の得票数・得票率が縮小し続けている最大の原因は、党組織の(超)高齢化に因るものである。第29回党大会(2024年1月)に公表された党員の党歴構成は、「0~9年」17.7%、「10~19年」14.0%、「20~29年」11.0%、「30~39年」8.0%、「40~49年」19.5%、「50年以上」29.8%というものだった。党歴構成と年齢構成とは同じではないが、仮に平均入党年齢を30歳前後とすると、「40代以下」32%、「50代」11%、「60代」8%、「70代以上」49%になる。志位委員長の言葉によれば、「60代以上が多数、50代以下がガクンと落ち込んでいる」というのが実態だから、この推計はさほど間違っていない。60代以上が多数を占める党組織では激しい選挙戦は戦えない。70代以上が半数を占めるような党組織は、年々死亡数が増えて党員数が着実に減っていくことが避けられない。
赤旗訃報欄には毎日、死亡党員の氏名、死亡年齢、入党年月、所属支部などが掲載される。筆者は2017年1月1日以降掲載数を集計しているが、党大会時に公表される死亡者数と比較すると4割弱(38%)となる。最近は掲載数が2千人近くに増えてきているので、第30回党大会(2017年1年)時は1万5700人(年平均5200人)程度になると見込まれる。
赤旗訃報欄掲載数 党大会間死亡者数
〇2017年 1759人
〇2018年 1757人
〇2019年 1741人
計 5257人(掲載率38.0%) 1万3828人(2017年1月~2019年12月、年平均4600人)
〇2020年 1788人
〇2021年 1749人
〇2022年 1946人
〇2023年 1959人
計 7442人(掲載率37.6%) 1万9814人(2020年1月~2023年12月、年平均4950人)
〇2024年 1942人
〇2025年 1980人(推計、掲載率38%)
〇2026年 2050人(同)
計 5950人(同) 1万5700人(推計、2024年1月~2026年12月、年平均5200人)
なお、8年間(2017年1月~2024年12月)の死亡者1万4641人の基本属性は、男女比7:3、死亡年齢は80・90代が3分の2(65%)、入党時期は1970年代以前4分の3(74%)と、戦後高度成長期に大量入党した人たちである。出身地方は関東と近畿で過半数(55%)、東日本・西日本・中部地方が15%ずつを占めている。以下はその概数である。
〇性別 男性1万21人(68.4%)、女性4620人(31.6%)
〇死亡年齢 60代以下1147人(7.8%)、70代3915人(26.7%)、80代5985人(40.9%)、
90代以上3594人(24.5%)
〇入党時期 1950年代以前2302人(15.7%)、1960~70年代8590人(58.7%)、1980~90年代1506人(10.3%)、2000年代以降2243人(15.3%)
〇出身地方 北海道・東北2202人(15.0%)、関東4822人(32.9%)、中部2165人(14.8%)、近畿3309人(22.6%)、中国・四国・九州2143人(14.6%)
次に、「650万票、10%以上」の目標が設定された2010年代以降の党員現勢の推移を見よう(党大会報告)。大会ごとの離党者数の算出は、「前大会党員現勢+入党者数-死亡者数-離党者数=現大会党員現勢」というものである(概数のため、合計は必ず一致しない)。
〇第25回党大会(2010年1月)
40万4千人(2006年1月現勢)+入党者3万4千人-死亡者1万6千人-離党者1万6千人=40万6千人(2010年1月現勢)
〇第26回党大会(2014年1月)
40万6千人(2010年1月現勢)+入党者3万7千人-死亡者1万9千人-離党者11万9千人=30万5千人(2014年1月現勢)
〇第27回党大会(2017年1月)
30万5千人(2014年1月現勢)+入党者2万3千人-死亡者1万3千人-離党者1万5千人=30万人(2017年1月現勢)
〇第28回党大会(2020年1月)
30万人(2017年1月現勢)+入党者(記載なし)-死亡者1万4千人-離党者(不明)=27万人(2020年1月現勢)
〇第29回党大会(2024年1月)
27万人(2020年1月現勢)+入党者1万6千人+死亡者2万人-離党者1万6千人=25万人(2024年1月現勢)
〇第30回党大会(2027年1月、推計)
25万人(2024年1月現勢)+入党者1万1千人(4852人+3千人×2)-死亡者1万6千人(5100人+5200人+5400人)-離党者1万2千人(4000人×3)=23万3千人
第25回から第29回大会に至る14年間の党員増減の内訳は、入党者11万人(+2020年不記載分)、死亡者8万2千人、離党者16万6千人(+2020年不明分)となる。不記載がある第28回大会分を除くと、入党者11万人-死亡者6万8千人-離党者16万6千人=12万4千人減となる。離党者がこれほど多いのは、第26回党大会(2014年1月)で「実態のない党員」が組織的に整理され、11万9千人もの大量の離党者が発生したためである(党大会報告)。これ以降、入党者は大会ごとに3万人台から2万人台へ、2万人台から1万人台へ減少することになった。党規約の厳格化による「実態のない党員」の大量整理は、共産党の閉鎖的イメージを内外に広げ、若年層の党組織への「忌避感」を強める引き金となった。
党組織の高齢化の原因は入党者の減少ばかりではない。公表されてはいないが、大会ごとに入党者の半数近い(最近はほぼ同数の)離党者が出ており、その大半が若年層や中堅層で占められていると推察されるからである。若年層や中堅層の中核世代が離党すれば、党組織の高齢化は否応なく進行する。加えて入党者の過半数が60代以上であり、若年層や中堅層が少ないことも党組織の新陳代謝が進まず、高齢化を加速させる原因となっている。この間、共産は「若い世代のなかでの党づくりが、わが党建設の成否を左右する死活的な課題」だと再三再四強調しながらも、その実、若年層や中堅層が離党していく実態や原因を明らかにしたことがない。まるで「笊(ザル)に水を注ぐ」かのような党員拡大が、性懲りもなく繰り返されているのである。
党員40万人時代に提起された「650万票、10%以上」の目標を、70代以上が半数を占める現在の党組織に課すことはおよそ過酷というものであろう。直近の参院選得票数が300万票を割り、達成率が4割台に落ち込んでいるのは、活動できる党員が3分の1程度に限られているためであり、「身体が動かない」高齢党員が過半数を占めているからである。しかし、選挙総括は「全党的には質量ともに党勢を後退から前進へと転換できておらず、党勢の後退と選挙での後退の悪循環から抜け出すに至っていない」とあるだけで、悪循環から抜け出せない最大の原因が党組織の(超)高齢化にあることには決して言及しない。
なぜ、共産は党組織の「超高齢化」という現実を直視できないのであろうか。それは、党組織の〝若返り〟が今の組織体制では不可能だからである。他党ではすでに実施されている党代表の公選制さえ進まず(最近行われた「れいわ新選組」の代表選挙では高校生が立候補して話題になった)、党組織が閉鎖的で硬直した構造から脱する気配もない。清新溌溂とした若いリーダーが求められているにもかかわらず、高齢化した党指導部のトップが四半世紀余りにわたって君臨し、相も変わらず赤旗紙面を独占して号令を駆け続けている。これに異を唱えようとしても、指導部を交代させるための党員・支持者による直接選挙制度もなければ、それを実現するための自由で開かれた討論の場もない。党員間・党組織間の自由な意見交換や討論が「民主集中制」の党規約の下で厳しく禁止されているからである。このような「手足を縛っておいて泳げ!」と命令されているに等しい党組織に対して、現代の若者世代が近づこうとしないのは蓋し当然ではないか。
「650万票、10%以上」の目標はいまや〝壮大な虚構〟と化している。次期総選挙においても、この目標が取り下げられることはまずないだろう。目標を取り下げたり切り下げたりすれば、「戦う意思を無くした」と指導部が批判されるからである。今や比例代表目標は、硬直した選挙戦術を押し付けて党組織を金縛りにする「足枷」と化している。有権者意識の多様化に対応できる柔軟な選挙戦術が求められている現在、全ての選挙活動を「数値目標」に還元する選挙戦略はもはや時代遅れになっている。共産が国政選挙において後退から脱するためには、まずは数値目標にこだわらない新しい選挙戦術を編み出すほかない。また中長期的には党組織の若返りを図るための〝抜本的な党内改革〟を断行し、旧態依然とした党指導部を交代させなければならない。これがこの1年間、拙ブログを書き続けてきた筆者の偽らざる感想である。
※読者のみなさまには拙い文章を読んでいただき恐縮しています。拙ブログに対しては、毎回のように「老害」「田舎大学の三流学者」「場違いの戯言」といった鋭い批判も寄せられていますが、その一方で共感と激励の言葉も時折届きます。今年も師走になりました。みなさまがよきお年を迎えられることを祈念しております。広原盛明 拝
「リベラル21」2025.12.17より許可を得て転載
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〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 https://chikyuza.net/
〔opinion14570:251217〕













