志位議長が情勢の「おもしろさ」を語れば、党員や支持者はみんな押しなべて「おもしろさ」を感じるのか、党中央が党員の感情まで支配することはできない
月初めになると、毎回同じことを書くのがやり切れない気持ちになる。毎月2日の赤旗には前月分の党勢拡大結果が掲載されるので、何か書かなければならないと思うのだが、それが必ずしも気が晴れるようなことばかりではないからだ。もちろん、その前後には党中央から前向きの総活が出され、常に前進に向かって檄が飛ばされるのが恒例になっている。だから、取り立てて書かなくてもいいのかもしれないし、むしろ「余計なことを書くな!」といった声の方が多いとも聞いている。それでも書かずにいられないのは、党勢拡大が目に見えてやせ細り、このまま沈没していくのを見ていられないからだ。
2025年3月の党勢拡大は、入党申し込み296人、読者拡大では日刊紙878人減、日曜版6876人減、電子版33人増の結果に終わった。2024年1月から12月までの1年間の成果は、入党4852人(月平均404人)、日刊紙6279人減(同523人減)、日曜版3万1446人減(同2620人減)、電子版970人増(同80人増)というもの。今年1月から3月までの成果は、入党683人(月平均227人)、日刊紙1701人減(同567人減)、日曜版1万886人減(同3628人減)、電子版144人増(同48人増)となり、月平均では前年に比べて入党、日刊紙、日曜版のどれをとっても後退が加速している。
2024年1月時点の党勢は、党員25万人、赤旗読者85万人だった。第29回党大会で2025年12月末までに党員27万人、赤旗読者100万人に回復させ、2028年末までに党員35万人、赤旗読者130万人を達成する――という拡大目標が決定された。だが、その後の進展は思わしくなく、党勢は回復どころか後退に次ぐ後退を続けている。党員拡大では毎月2000人の入党者を迎える方針が提起されたものの、現実はその1~2割という有様だ。
この停滞状況を打破すべく、今度は今年1~4月の4カ月で「500万要求対話」(月平均125万人)を実行する方針が4中総で決定された。だが、4月1日時点では成果は74万5000人にとどまり、3カ月で目標の15%しか達成されていない。目標を達成するためには後1カ月で425万5000人という膨大な要求対話をこなさなければならないが、そんなことが可能だとは誰一人思っていないだろう。要するに、党組織の実情を無視した過大な拡大目標が設定され、それを実現するために党中央が下部組織を𠮟咤激励する――といった構図が百年一日の如く繰り返されているのである。
党勢拡大目標は党中央のトップダウンで決定される。国政政党として影響力を行使するには国政選挙において一定の議席数を確保する必要があるため、それが「650万票、10%以上」の得票目標になるのである。選挙活動には人員と資金が不可欠である以上、得票に見合う党員拡大と読者拡大の目標が設定され、期限を定めて目標が追求される。この目標が党組織の実力に相応するものであればまだしも、上から割り当てが降りてくるだけの「とてつもない数字」であれば、支部組織は最初から足がすくむというものである。
となると、最後の手段は精神力で指導するしかなくなり「気合を入れる」ことになる。これが志位議長のいう「燃えるような熱気と活力を全党にみなぎらせる」という中間発言の意味である。3月12日の全国都道府県委員長会議における志位議長の「中間発言」は以下の通りである(赤旗3月14日、要旨)。
――それでは「活動の一大飛躍」をどうつくるか。私は一言でいって、勝利にむけて燃えるような熱気と活力を全党にみなぎらせていく指導と活動をやりぬく、ここにあると思います。まだ全党的にはそうした熱気と活力が十分につくられているとは言えないという認識のうえに、幹部会決議ではこの状況を前向きに打開するために何が必要なのかということを提起しています。
しかし、「気合いを入れる」だけでは効果が薄いことが分かっているためか、今度の要求対話活動では「おもしろさ」を伝え、具体化・実践を励ます新しい方法が打ち出された。
――第二の角度は、要求対話・要求アンケートの取り組みを文字通りの「戦略的大方針」としてすえて、その威力に深い確信をもって本気になって取り組んでいるかという問題であります。この取り組みについては、昨日の幹部会でも、今日の討論でも、足を踏み出して取り組んだところは、どこでも元気になっています。(略)この運動の「おもしろさ」を全党に返す、全党が共有する取り組みがやられているかどうかです。取り組んだところはみんな「おもしろい」となっているわけです。しかし、取り組んでいないところは、「おもしろさ」がわからないわけです。ですから、「おもしろさ」を広げる取り組みがどれだけやられているか。生き生きとやられているか。これは大切な点だと思います。
私はこの「中間発言」の中に何かしら空恐ろしい響きを感じる。まさかと思うが、党中央や党幹部自身が「おもしろさ」を感じることは、党員や支持者の全てが押しなべてそう感じると思っているのではないか――と考えてしまうからである。支部活動が地域課題や住民要求を取り上げ、地域社会の共感が高まる中で党活動を展開する光景は想像できるが、党中央発の要求対話・アンケート活動を実践することが全党的に「おもしろさ」を巻き起こし、党勢拡大につながるというのでは、これは拡大運動や選挙活動の単なる「マニュアル」の1つに過ぎないことになる。「おもしろさ」をどう感じるかということは個人それぞれの自由であって、志位議長が「おもしろさ」を感じるからといって、党員や支持者も押しなべて「おもしろさ」を感じるわけではないからである。党組織はそんな「クローン人間」ばかりではないと思うからだ。
しかし「燃えるような熱気と活力」を常に全身にみなぎらせている志位氏にとっては、そうではないらしい。彼自身が「おもしろさ」を感じれば、それを全党的な拡大運動と選挙活動のマニュアルとして普及することが情勢を大きく変え、選挙に勝利する「戦略的大方針」になると思い込んでいるのである。そこでは、支部活動がそれぞれ創意工夫を凝らしながら選挙活動を繰り広げていくといった発想がまったく念頭になく、「民主集中制」の下で長年にわたって形成されてきた中央集権的思考パターンが、形を変えてあらわれているだけである。
志位議長は「中間発言」の最後をこう締めくくっている。
――この「大運動」には、文字通り党の命運がかかっていると思います。選挙という点でも、党づくりという点でも命運がかかっていると思います。どうしてもこれは「そこそこ頑張った」という取り組みに終わらせるわけにはいかない。本気で目標を総達成する、これがどうしても必要です。そのための突っ込んだ討論、そして討論と一体の実践を重ねて心からよびかけて、発言といたします。
イソップ童話のオオカミ少年の話は三度までだったが、志位議長の「中間発言」はそんなことで済ますわけにはいかないだろう。こんな画一的な要求対話・アンケート活動が失敗に終われば、文字通り「党の命運」がかかることになる。4月初頭の党勢拡大の結果を待つまでもなく、今からでも「大運動」の見直しが必要とされる所以である。(つづく)
初出:「リベラル21」2025.04.08より許可を得て転載
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