都内の公立校では、卒業式や入学式の直前に、全教職員の一人ひとりに対して「国旗に向かって起立し、国歌を斉唱する」よう、文書による職務命令が発せられる。2003年の「10・23通達」以来繰り返されている異様な風景だ。
「職務命令があろうとなかろうと、起立できない」とする教員がいる。「命令なければ起立も斉唱もするが、教育の場にあってはならない命令には従えない」という教員もいる。こうして、毎年起立できないとする教員に、懲戒処分が繰り返され、処分取消の訴訟も繰り返されている。
9月15日の「東京君が代裁判・第4次訴訟判決」では、原告6名についての7件の減給・停職処分が違法な処分として取り消された。都教委は、その内5名・5件の処分については控訴を断念し処分取り消しは確定した。ところが、これで話しは終わらない。なにしろ相手は、執念深い都教委だ。裁判に負けて、司法から「都教委の処分は違法。だから取り消す」と言われても、恥ずかしいとはおもわない。絶対に謝罪も反省もしない。できるいやがらせは最大限やろうという根性。その具体化が、まだ退職せずに在籍している教員にたいする「再処分」である。
再処分とは、減給が重すぎるとして取り消されたから、もう一度同じ「職務命令違反」に対して戒告の処分をし直そうということなのだ。せっかく裁判に勝った教員は、もう一度フルコースで、行政手続と訴訟手続をやり直すことになる。
その行政手続の最初が、バカバカしい2度目の事情聴取となる。本日(11月30日)午前、一人の教員に対する、再処分・事情聴取が行われたが、これに先立ち、日本共産党東京都議会議員団(18名)は、都教委(中井教育長)に対して「『日の丸・君が代』にかかわる再処分を行わず自由闊達な教育を求める申し入れ」を行った。都教委側は江藤人事部長が対応し申し入れ書を受け取ったという。
本日夕刻、たまたま文京区出身の都議を永く務め、このほど勇退された小竹紘子さんの「ご苦労様パーティー」があった。小竹さんは、今回都議改選まで都議会文教委員会委員長を務めた方。今は、小竹さんに代わって、やはり共産党の里吉ゆみさんが文教委員長となっている。
パーティーで里吉さんと言葉を交わした。「君が代裁判の原告団も弁護団も、決してあきらめません。闘い抜く覚悟ですからご支援を」と言ったところ、里吉さんも、「私たちも決してあきらめません。本日もその問題で都教委に党の議員団として申し入れを行いました。明日の赤旗をご覧ください」。打てば響くような、力強いご返答。
その申入書は、日本共産党東京都議会議員団HPで見ることができる。
「日の丸・君が代」にかかわる再処分を行わず自由闊達な教育を求める申し入れ
https://www.jcptogidan.gr.jp/category01/2017/1130_784
その全文が以下のとおり。
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2017年11月30日
東京都教育長 中井 敬三 殿
日本共産党東京都議会議員団
「日の丸・君が代」にかかわる再処分を行わず自由闊達な教育を求める申し入れ
東京地方裁判所は9月15日、教職員が入学式や卒業式で「君が代」斉唱時の起立斉唱を命じた職務命令の拒否を理由とする、懲戒処分の取り消しを求めた裁判の判決を出しました。6名、7件の減給・停職は相当性を基礎づける具体的事情がなく、社会通念上著しく妥当性を欠き、懲戒権の範囲を逸脱・濫用しており違法であるとの判断を示すと同時に、不起立の回数のみを理由とする加重処分を断罪しています。
この間の訴訟では63名、73件にのぼる処分を違法とする判決が出ています。今、教育委員会としてなすべきは、教職員への謝罪と名誉回復・権利回復です。
ところが教育委員会は、5名については控訴を断念し処分取り消しは確定しましたが、1名については控訴しました。処分取り消しが確定した原告からは、中井教育長あてに謝罪を求める申し入れもされていますが、何の回答もしていません。
さらに、処分取り消しが確定した原告のうち、現職の都立高校教員2名について、減額分の給料も支払わないまま事情聴取を行おうとしており、新たに戒告処分という「再処分」をする意図があると推測せざるを得ません。
教育委員会の対応は、国旗に向かって起立し斉唱することなどを命じた職務命令が、思想および良心の自由について間接的な制約となり得ることを認め、自由で闊達な教育のために、すべての関係者の真摯で速やかな努力を求めた最高裁判決にも反し、教育行政としてもふさわしくありません。
よって日本共産党都議団は、以下の4点について申し入れます。
1、今回の東京地裁判決で処分が取り消された教職員に対し、再処分のための事情聴取および再処分を行わないこと。1名の控訴を取り下げること。
2、処分取り消しが確定した5名の原告に謝罪し、直ちに名誉回復・権利回復措置を行うこと。処分が取り消された旨を、都教育委員会ホームページで公表すること。
3、原告らが強く求めている話し合いに応じるとともに、学校現場で自由闊達な教育が実施できるよう、教育行政のあり方を改善すること。
4、10・23通達を撤回し、校長の職務命令、累積加重処分、再発防止研修などの「日の丸・君が代」を強制するための一連のやり方を抜本的に改めること。
以上
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「国旗・国歌(日の丸・君が代)」強制問題は、多面性をもっている。立憲主義にも関わる、国家観・歴史観にも関わる。ナショナリズムの問題でもあり、人権の問題でもある。そして、教育の本質に関わる問題でもある。なによりも、国民の価値感の多様性の保障に関わる問題と思う。別の言い方をすれば、社会の寛容度に関わる問題なのだ。日本共産党が、社会の寛容度を最大限化することにもっとも、熱心であることが興味深い。
今日も、「第4次訴訟」控訴理由書作成のための弁護団会議だった。その中で、一人の弁護士が呟いた。「結局は外的な圧力で集団的な統制を徹底したいというのが、都教委や保守派のホンネなんだ。その統制徹底の姿が、北朝鮮や中国の議会や集会じゃないか。あれを理想だとするのが、都教委であり10・23通達の思想なんだ」。
石原慎太郎や小池百合子、そして自民党も、実は北朝鮮流の一糸乱れぬ集団的統制が大好きで憧れているのではないだろうか。私は、人間をコマと扱うああいう集団統制は、虫酸が走るほど大きらいだ。天皇制日本やその亜流である北朝鮮の集団的統制を許容する世の風潮はまっぴらごめん。だから闘い続けようと思い定めている。
(2017年11月30日・連日更新第1705回)
初出:「澤藤統一郎の憲法日記」2017.11.30より許可を得て転載
http://article9.jp/wordpress/?p=9540
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 https://chikyuza.net/
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