はじめに
「彼らが最初共産主義者を攻撃したとき」
ナチスが最初共産主義者を攻撃したとき、私は声をあげなかった私は共産主義者ではなかったから社会民主主義者が牢獄に入れられたとき、私は声をあげなかった私は社会民主主義ではなかったから彼らが労働組合員たちを攻撃したとき、私は声をあげなかった私は労働組合員ではなかったからそして、彼らが私を攻撃したとき私のために声をあげる者は、誰一人残っていなかった
マルティン・ニーメラー
共謀罪とは?
共謀・・・二人以上の者が、共同でたくらむこと(広辞苑)
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共謀罪とは、その名のとおり、「たくらみ(話し合い)」自体を犯罪とするもの
近代刑法において、犯罪とは、人の「行為」に対し、刑罰を科すもの
共謀罪は、近代刑法の基本原理と相反する
刑法の大原則
行為責任主義
違法な「行為」を罰すること
→「行為」がないのに罰する
法益侵害
保護法益を守ることが刑事法の目的
→何の法益侵害もない
罪刑法定主義
どんな行為が犯罪なのか、事前に明示する
→どこまでが犯罪なのかわからなくなる
共謀罪法案、廃案の歴史
2003年に最初に国会に法案提出され、その後合計3回提出されたが、いずれも廃案。2009年以降、法案提出の動きはなかった
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2016年8月突然の法案リーク。安倍政権は、2017年3月21日に法案(政府の呼称は「テロ等準備罪」 )を国会に提出した。会期は6月18日まで。今のところ延長はないと思われる。
従来の法案 ⇒ 今回の法案
犯罪主体 団体の活動として⇒組織的犯罪集団の団体の活動として
対象行為 共謀 ⇒ 2人以上で計画、準備行為を行う
対象犯罪 長期4年以上の懲役禁固(676罪)⇒676罪から絞り込み277罪
組織的犯罪準備罪は共謀罪
安倍首相は、「これまでの共謀罪法案とは違う」と言うが・・・・
国会に提出された法案では、「共謀」という言葉が消え、「テロ等準備罪」とされたが・・・
まず、日本の法定刑は幅が広い
長期4年以上の犯罪は対象犯罪は676 過失犯等除いても637?
これを91法律の277罪にしたとしても「五十歩百歩」
要件は厳格となったか?
①組織的犯罪集団
→しかし、定義なし(あらゆる団体が組織的犯罪集団になりうる)
②準備行為を要求している
→しかし、準備行為に限定はなく、あらゆる行為を「準備行為」とみなすことが可能。しかも準備行為を行っていない者も処罰できる。
法案の共謀罪の規定(組織的犯罪処罰法の新設規定)
(組織的な犯罪の共謀)第6条の2の骨格
「次の各号に掲げる罪に当たる行為で、…団体の活動として、当該行為を実行するための組織により行われるものの遂行を二人以上で計画した者は、…準備行為が行われたときは、当該各号に定める刑に処する。ただし、実行に着手する前に自首した者は、その刑を減軽し、又は免除する。
一 死刑又は無期若しくは長期十年を超える懲役若しくは禁錮の刑が定められているもの 五年以下の懲役又は禁錮
二 長期四年以上十年以下の懲役又は禁錮の刑が定められているもの 二年以下の懲役又は禁錮」
組織的犯罪集団
組織的犯罪集団とは、共同の目的が重大な犯罪を実行することにある団体のこと(組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律第2条1項)
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しかし、労働組合・市民団体・政党の目的が、途中で変更されたと認定されることも
予備行為って何?
予備罪は既に刑法に存在
殺人(さ) / 通貨偽造(つ) / 外患(が) / 内乱(な) / 私戦(し)/ 現住建造物等の放火(ほ) / 強盗(ご) / 身代金目的略取誘拐(しろ)
思考 → 共謀 → 予備 → 未遂 → 既遂
刑法44条 「未遂を罰する場合は、各本条で定める」
既遂の処罰が原則。未遂処罰は、特別の規定があるときの例外。
予備罪は、例外の例外。 では、共謀罪は?
予備行為って何?
未遂
刑法第43条(未遂減免)
犯罪の実行に着手してこれを遂げなかった者は、その刑を減軽することができる。ただし、自己の意思により犯罪を中止したときは、その刑を減軽し、又は免除する。実行の着手なくては、未遂罪にならない。
実行の着手
法益侵害の危険発生の現実的危険性の発生するとき
予備行為って何?
「実行の着手に至る前の行為」(一般的定義はない)
何でも入るの? 「共謀を裏付ける客観的行為」
移動するための交通チケット購入
口座からの現金の引き出し
道具の購入
文書の作成
メール・手紙の送付
・・・etc.
共謀罪は条約締結に必要不可欠か?
安倍政権は「共謀罪の創設は、国際社会からの要請」と言うが・・・・
2000年採択のTOC条約(国連組織犯罪防止条約・Convention against Transnational Organized Crime)締結のために、共謀罪が必要か?
しかし・・・
条約34条1項は「自国の国内法の基本原則に従って」必要な措置を講じるよう求めているだけで、4年以上の自由刑を法定刑に該当するすべての罪の共謀罪の処罰を求めているわけではない
なお、条約は、マネーロンダリング対策などが主目的
→テロ対策ではない(そもそも911テロ前の採択)
→条約締結と共謀罪創設とテロ対策は連動していない!
共謀罪がないと、テロを防げないか?
安倍首相は、「テロを防げない」「オリンピックが開催できない」と言うが・・
しかし・・・
①日本は、「爆弾テロ防止条約」や「テロ資金供与防止条約」などの5つの国連条約及びその他の8つの国際条約につき、国内立法を整備して、すべて締結している。
②判例理論としての共謀共同正犯の存在
③殺人等の重大犯罪の準備罪・予備罪の存在
④リオ五輪(ブラジル)は???
→テロ防止と共謀罪は、別個の問題!
共謀罪が成立しうるケース①
職場の忘年会を翌日に控え、いつも付き合いの悪い新入社員Vを2次会まで付き合わせようと、上司X・先輩Yら4人が雑談がてら話していたところで、上司Bが、「一次会で全員ジョッキ10杯をノルマにして、帰れないくらいべろべろになってしまえばいい。飲みたくないといっても、無理にでも飲ませよう」と言い出し、他の者も笑いながら、席順やジョッキカウント係を決めようなどと同調(共謀・計画)
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翌日、当然のようにテンションが下がった状態で、先輩Yが、新人Vの分も含めて5名で二次会の会場を予約(準備行為)
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忘年会は開催されたが、誰もジョッキ10杯など飲むどころか、言い出すこともなく終了、新入社員Vは1次会で帰宅した( (組織的)強要罪不成立)
→組織的強要罪の共謀罪成立
共謀罪が成立しうるケース②
労働組合員X~Wが、翌日の団交の作戦を検討中、Xが高揚して、「もし、社長が要求を呑まないなら、部屋に鍵をかけて、缶詰にしよう!要求を呑むまで、一晩中でも団交してやろう!」と呼びかけ、Yも盛り上がり「そうだ!そうだ!」、Zも頷き、Wは沈黙(共謀・計画)
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翌日、前夜の盛り上がりをすっかり忘れていたZが、予定されていた団交のために、要求書を作成(準備行為)
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予定された18時からの団交では、要求を受け入れてもらえなかったが、特に鍵をかけることもせず、19時には終了((組織的)監禁罪不成立)
→組織的監禁罪の共謀罪成立
共謀罪が成立しうるケース③
米軍基地の建設に反対している市民団体。ついに本格的工事着手が3日後に迫ってきた。メンバーのXYは、今度は工事現場のゲートに座り込んででも、美しい自然を守ろうと話し合った
(共謀・計画)
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翌日、Yはゴザを購入
(準備行為)
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台風のせいで海が荒れ、当面工事は延期になったので
座り込みはしなかった
( (組織的)業務妨害罪不成立)
→ 組織的威力業務妨害罪の共謀罪成立
これらの例は誇張か?
そんなことじゃ逮捕されないんじゃないかな、と思われる方に・・・・
捜査段階では、判断するのは捜査機関。特に警察。
いずれも監禁罪・組織的強要罪違反行為を計画する
「組織的犯罪集団」
仮に、盛り上がった話し合いの内容を実現・実行していれば
「犯罪」
実際には実行に移していない。しかし、話し合いはある。
→共謀罪は、犯罪が実行されていなくても、話し合いだけを取り出して犯罪とするという危険がある!
捜査機関が共謀罪を切望する理由 何故、共謀罪にこだわるのか・・・
広い範囲の人・行為を捜査の対象とすることができる
→これまでは、客観的・公然とした「捜査の端緒」が必要だった
・「罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由」
(刑事訴訟法199条逮捕)
・「犯罪の捜査をするについて必要があるとき」
(同法218条捜索差押)
といった要件を簡単に充足できる
情報収集目的の違法捜査の横行を招く!さらには高度監視社会へ
別府事件では
隠しカメラが設置された別府地区労働福祉会館。カメラの一つは、入り口などが見えるように木の幹(手前左側)の高さ約1.5メートルの所にくくりつけられていたという=大分県別府市で2016年8月3日午前9時7分、大島透撮影
参院選の選挙期間中に設置 人の出入りなど録画
7月10日に投開票された参院選大分選挙区で当選した民進党現職らの支援団体が入居する大分県別府市の建物の敷地内に、同県警別府署員が選挙期間中、隠しカメラを設置し、人の出入りなどを録画していたことが、3日分かった。カメラの設置は無許可で、建造物侵入罪などに該当する可能性があり、県警の捜査手法に批判の声が出るのは必至だ。
県警や関係者によると、隠しカメラが設置されていたのは、別府市南荘園町の別府地区労働福祉会館。連合大分の東部地域協議会や別府地区平和運動センターなどが入居しており、参院選の際には大分選挙区で立候補した民進党現職の足立信也氏(59)や、比例代表に出馬した社民党の吉田忠智党首(60)の支援拠点になっていた。
カメラは参院選公示前の6月18日深夜から敷地内に2台設置され、同会館の玄関と駐車場の出入りを録画していたとみられる。公示翌日の同23日、敷地内で草刈りをしていた別の施設の職員が発見した。1台は敷地内の斜面に、もう1台は木の幹にくくりつけられていたという。
内蔵のSDカードを確認したところ、別府署員がカメラを設置する様子も映っていたため、同会館の関係者が同署に連絡。署幹部が謝罪に訪れ、同24日にカメラを撤去したという。県警によると、カメラを仕掛けたのは別府署刑事課の署員2人。同署が設置を決め、場所も同署で判断したという。設置した署員は「雑草地だったので、(同会館の)管理地だとは思わなかった」と話したという。毎日新聞2016年8月3日10時55分
堀越事件では
国家公務員法違反事件
社会保険庁の年金相談係の堀越さん。衆議院選挙前の時期に、仕事と無関係に、職場から離れた自宅周辺で、休日に、赤旗やビラをポスティングしていた。
偉大な無罪判決!
のべ171名の公安警察官が、29日間連日、多いときは11人体制で、堀越さんを尾行。ビラを配りそうとなると、尾行した警察官の鞄や覆面車両に隠した多くのビデオカメラで盗撮。
監視社会が進行している! 今は戦前とは違うと安心されている方に・・・(治安維持法との類似点)
特定秘密保護法の成立(2013年12月)
盗聴法の拡大、司法取引制度の導入を内容とする改悪刑事訴訟法の成立(2016年5月)
・司法取引による免責を前提とするスパイの潜入・扇動の危険
・盗聴法の拡大による、広く電話・メール等が傍受される危険
・新たな捜査手法の導入
・共謀罪によって、実行に移されなかった話し合いが処罰される危険
→突然、犯罪と言われる危険、自由にモノを言えない危険が広がる!
→現代型監視社会の成立
共謀罪創設に反対する!
およそ現在の日本の法体系において、テロの防止の目的で共謀罪を創設する必要性はない。
→要件が「厳格」になったとしても、反対!
終わりに
「自由と安全」
Those who would give up essential Liberty, to purchase a little temporary Safety, deserve neither Liberty nor Safety.
By Benjamin Franklin
わずかな一時の安全を得るために、かけがえのない自由を
放棄する者は、そのどちらも得られない
- ベンジャミン・フランクリン -
2017年4月15日 作成者 弁護士 澤藤 大河
(2017年4月17日)
初出:「澤藤統一郎の憲法日記」2017.04.17より許可を得て転載
http://article9.jp/wordpress/?p=8461
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 https://chikyuza.net/
〔eye4010:170418〕