タアン民族解放軍(TNLA)、ミャンマー民族民主同盟軍(MNDAA)、アラカン軍(AA)からなる北部シャン州同胞同盟と、一部の人民防衛軍が参加して推定2万人のレジスタンス戦闘員を動員した「1027作戦」開始から1か月余。反政府勢力が多くのシャン州北東部の軍事政権の基地や支配地域―6つの町と180もの軍基地や前哨基地―を奪取したばかりでなく、カチン州、ラカイン州、ザガイン州とマンダレー管区の上流域にまたがる政権側の基地や町を攻撃・占領し、政府軍を追い詰めつつある。特に軍事政権にとって、金づる(関税)であった中国との国境貿易の戦略的通商路と要衝ムセをタアン民族解放軍(TNLA)に、チンシュエホーをミャンマー民族民主同盟軍(MNDAA)に押さえられたことは大きな打撃となっているであろう。
さらに11月11日、「1027作戦」に呼応して新たに「11・11作戦」を発動、カレンニ軍、カレンニ民族人民解放戦線、カレン二民族防衛軍らが、カヤ―州の州都ロイコーやデモソをめぐって激しい攻防戦を繰り広げている。隣のカチン州では、反乱軍の最強部隊のひとつであるカレン民族同盟の武装部隊が、クーデタ以降徐々に支配地域を広げてきている。
2023年11月15日の軍事政権軍への攻撃後、カヤー州のロイコー大学前でポーズをとるカレンニ民族防衛軍の兵士たち。Credit: KNDF
さらに政府軍と休戦状態にあった西部ラカイン州のアラカン軍(AA)が、11/13に国軍と戦闘状態に入ったと言われている。国軍は戦闘意欲もなく、すでに40もの軍事拠点が落とされたという。ラカイン州に隣接するカチン州では、強力なカチン独立軍KIAが、政府軍の空爆や砲撃による多大な犠牲を出しながらも頑強に抵抗しており、国軍地上部隊は交通路が寸断され、手出しできないでいる。
このように抵抗勢力の攻撃の激化が全国に広がるなか、軍事政権は、国軍の将軍や元将軍とその家族が住む中枢都市ネピドーを防衛するため、4,000人の特殊部隊を含む14,000人の戦闘部隊の増派をおこなったという。すでに内戦の前線は、首都から100キロ余りのところに迫っており、高級軍人とその家族はパニック状態に陥ったとしても不思議ではない。地方の中心都市では、公務員も軍に動員されて、警備の任務に就かされているという。
政府軍捕虜と鹵獲した武器弾薬 RFA
武装勢力の前哨基地から奪取した装甲車 カレン民族解放軍と人民防衛軍合同 イラワジ
ドローン攻撃で、国境貿易の拠点ムセ近郊の国境ゲートで120台の貨物トラックが破壊された (写真:CJ)
さて、本日のテーマは、陥落間近とされる都市のひとつ、麻薬栽培や取引で有名なゴールデン・トライアングル=コ―カン地区に位置するラウカイ市をめぐる話題である。じつは中国との国境地帯のラオスやミャンマー側には悪の華咲くカジノ都市が栄えている。ミャンマーのラウカイ市であり、ラオスの経済特区にあるキングロマン・カジノである。両都市とも、中国資本によって、中国人の観光客をターゲットにしたカジノ施設がある。賭博、麻薬、売春、人身売買で悪名をはせ、最近では日本のオレオレ詐欺に倣い、何千人もの越境してきた中国人による中国向けのサイバー詐欺の拠点としてひんしゅくを買っている。当然ながらミャンマー国軍は、カジノ業者から多額の賄賂を受け取り、犯罪行為を大目に見てきたので、中国側も相当いら立っているという。
2020年、シャン州北部ラウカイの風景。(トライアングル・メディア)
しかし、11/16のイラワジ紙=AFPによれば、カジノのあるラウカイではミャンマー民族民主同盟軍MNDAAの部隊が迫ってくるなか、食料の供給もままならなくなったので、住民たちは大挙して逃げ出し、主に中国国境へ向かっているという。この地ラウカイは、2009年、ミンアウンフライン軍最高司令官が、まだ地域司令官のとき、ミャンマー民族民主同盟軍を追放し、民兵組織「コーカン国境警備隊」を配備したいきさつをもつ。その後、国境を越えてやってくる中国人観光客に、麻薬とギャンブルとセックスの強力なカクテルを売って濡れ手に粟で金を稼ぐ一大拠点にしたのである。しかし近年中国から数千人から1万余の犯罪者が流れ込み、中国向けに違法なサイバー詐欺―偽の投資プラットフォームやその他の策略―を行なう拠点と化していたので、中国政府からも対策をとるように促されていたのである。4階建ての建物「約40棟」が、いまだに詐欺屋敷として使われているらしいという。いかにも中国がらみのスケールの大きな話であり、いかにもミャンマー国軍がらみの腐臭に満ちた話である。しかしそれにしても中国人富裕層の金の使い方の粗さに、本来の資本主義というより寄生性、腐朽性の勝った、投機的な政商資本主義の醜い姿を垣間見るのである。
いかにも背徳的なけばけばしさの目立つ、ラオスのキングロマン・カジノ Global News Asia
<その他のトピックス>
▼民主派の対抗政府である国民統一政府NUGの外相であるジンマーアウン氏が来日して、11/24、日本外国特派員協会で記者会見をおこなった。共同通信によれば、民主派などによる反転攻勢により、「軍政はミャンマーの多くの地域で支配を維持できていない」と主張。軍政への不満が強まっており、警察や軍からの逃亡も相次いでおり、軍事政権について「崩壊はもはや時間の問題だ」として、日本を含む国際社会に支援を求めたという。
NUGの外相ジンマーアウン氏 共同
私は、ミャンマー民主派の不屈の闘いに大いに敬意を表するものであるが、不満がないわけではない。最大の不満 は、反政府勢力の、軍事に比しての政治的なアピール度の低さである。政治的な権力闘争である以上、弱者を売り物にする言い方、例えば、困っているから助けてくれというような言い方は避けるべきであろう。ミャンマー民主派勢力の闘いは、軍事独裁を終わらせることによって、国内の民主化だけでなく、東南アジア域内に平和と安定をもたらすであろう。世界で最も権威主義的で抑圧的な政権を、他国からの援助もえずにほぼ独力で打ち倒し、近代的な民主主義国家を建設する途に就いたとなれば、それは国際社会をも大いに励ますことにもなる。その意味でミャンマーの民主派勢力と連帯し、できうる限りの援助を提供することは国際社会の義務でもあろう。
ミャンマーの反体制政治は、植民地支配の負の遺産を背負っていることもあり、複雑で克服が艱難な課題をいくつも抱えている。民族、宗教、地域の違いで分断されたモザイク国家であることを、軍事独裁政権は大いに利用し長期支配を行なってきた。しかも中国、インド、タイという大国に囲まれ、内政干渉の危険が常に存在する。現在、反攻作戦の口火を切った北部同盟の三勢力は、いずれも中国の影響力が無視できない。その意味で少数民族武装勢力は一筋縄ではいかない。少なからず、かれらは麻薬や宝石や希少資源の採掘,木材盗伐などの違法なビジネスに関わってきた過去がある。連邦制=自治制という課題では一致していても、民主主義的な綱領に必ずしも同調しているわけではない。民族内での家父長制支配の問題もあるであろう。
しかし、今回の反体制勢力の相互に連携した作戦の成功は、2・1クーデタをミャンマーの国家的危機であるとする意識を共有した諸民族の実存的な一致した決意によるものである。この機会を逃せば、ミャンマー国民は向こう半世紀は奴隷の立場に再び貶められるであろう。国民統一政府NUGは、政治の分野で軍事に追いつき追い越さなければならない。そのためにも諸民族の代表による政府綱領とマニフェスト検討の場を常設し、適宜国民に論議の内容を伝えていかなければならない。イギリス植民地時代から二世紀弱に及ぶ愚民化政策を打ち砕くべく、国民に政治・軍事過程への参加を倦まずたゆまず呼びかけなければならない。そして我々日本人は、ミャンマーと特別な関係の歴史をもつ国民として、自国政府のミャンマーに対する外交政策をまずは変えさせる義務を負っているのである。
▼内戦激化に中国反応。11/25よりミャンマーとの国境地帯で人民解放軍が実弾演習を開始した。国境を封鎖して、ラウカイ市などから遁れてくる避難民を越境させない措置をとっている。
また、ロシアに続き、中国の艦船三隻がミャンマーのティラワ港に入港し、すぐ軍事演習を行うとしている。これら陸と海とでの中国軍の動きは、内戦おける民主派勢力の支援に西側諸国が乗り出さないようけん制する動きであろう。
2023年11月27日、ヤンゴンのティラワ港に到着した中国海軍を歓迎するミャンマー海軍の幹部(右)。/ AFPBB News
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 https://chikyuza.net/
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