再び開け、黄色い雨傘。大きく、美しく。

東京で梅雨空を眺めながらの話しではない。香港民主化運動の代名詞だった雨傘運動。当局の弾圧によって2014年以来、逼塞しているかに見えたが、再び始動の兆し。明日、6月9日には、大規模な市民のデモが計画されているという。

香港の民主化運動とは、中国に対するものである。いうまでもなく、中国の人権状況が深刻である。しかも、この人権後進国が、めざましく経済大国化しつつある。経済大国化は、必然的に軍事大国化と政治大国化を伴う。近隣諸国への負の影響を及ぼしつつある。とりわけ、「一国二制度」の香港の事態が深刻である。

いま、香港政府が「逃亡犯条例(改正案)」(報道によっては「容疑者移送条例」とも)を議会に上程。これが、大きな政治課題となっている。

この法案は、外国で犯罪を犯した者を、当該国の要請あれば引き渡すという内容だが、「中国に批判的な活動家や、中国ビジネスでトラブルに巻き込まれた企業関係者などが引き渡しの対象になりかねない」(日経)、「冤罪で拘束され、中国本土で公平ではない裁判にかけられる」(毎日)との懸念が強まり反対運動は日増しに熱を帯びている。

毎日は「中国政府は、香港人がおとなしく圧力に耐えると思っているのだろう。でもこの条例改正は越えてはならない一線を越えている。ここで香港人の意地を見せなければ、香港は中国に完全にのみ込まれる」という市民の声を伝えている。

9日の市民の大デモの前に、6日弁護士のデモがあった。
以下は香港、容疑者移送条例に反対デモ 弁護士ら黒衣着用し」との表題の共同配信記事。
「香港の弁護士ら法曹関係者は6日、中国本土への容疑者引き渡しを可能にする『逃亡犯条例』改正案に反対するデモを行った。黒い衣服を着用し、条例改正を進める香港政府への強い不満を表明、立法会(議会)で審議中の改正案の見直しを求めた。
 香港メディアによると、1997年の中国への返還以降、法曹関係者による「黒衣デモ」が行われたのは今回で5回目。主催者側によると、過去最多の2500~3千人が参加。弁護士らは香港中心部を政府本部庁舎前まで無言で行進した。
 主催した弁護士の一人は『改正案が可決されれば、香港の法治が取り返しのつかないほど破壊される』と訴えた。」

各紙とも、この件を報じている。朝日によると、「逃亡犯条例」(改正案)は、刑事事件の容疑者を中国本土に引き渡すことを可能にするもので「改正案は香港政府が議会に提案した。司法界では人権侵害も指摘される中国本土への容疑者引き渡しを認めると、香港の司法制度への信頼が揺らぐとの懸念が強い」という。

また、朝日は、「参加者は香港で司法関係者を象徴する黒い服を着て約1時間かけて行進。香港政府本部前で約3分間、無言のまま立ち反対の意思を示した。民主派の重鎮の李柱銘弁護士は『香港政府は中国政府の言いなりになっており、香港は安全な場所でなくなる』と語った。」と報じている。

このデモ、主催者発表で3千人だった。香港の人口は740万人、日本の10分の1よりも遙かに小さい香港での弁護士3000人規模のデモなのだ。「主催者発表」にもせよ、はたして東京で3000人の弁護士デモが組めるだろうか。

香港の法曹制度は、英国の流れを汲む。弁護士は、バリスター(法廷弁護士)とソリシター(事務弁護士)に分業化されている。バリスターの人数は1300人、ソリシターの人数は5000人ほどだという。このうちの約半数が、デモに参加したということになる。たいへんな危機感の表れといわねばならない。

洋の東西を問わず、弁護士の任務とは人権の擁護である。弁護士が自らの職域防衛のためではなく、中国から香港に逃亡してきた政治犯の人権のために立ち上がっている図は立派なものではないか。

3000人の弁護士に続いて「中国に批判的な香港の民主派は9日、30万人規模の大規模な抗議デモを計画している」とも報道されている。「中国政府言いなりの香港政府」と、「人権擁護のために立ち上がる香港市民」の対決の構図。当然のことながら、「中国政府は香港政府への支持を表明しており、対立が激しさを増している」。さもありなん。

一度はやむなく閉じざるを得なかった香港の雨傘。もう一度しっかりと開いてほしい。そして、今度は開き続けてほしいと思う。人権のために、民主主義のために。そして、国際的な友誼と条理のために。
(2019年6月8日)

初出:「澤藤統一郎の憲法日記」2019.6.8より許可を得て転載

http://article9.jp/wordpress/?p=12756

〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 https://chikyuza.net/

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