再稼働による「悪魔の連鎖」の本当の怖さ[連載5](最終回)

著者: 山崎久隆 やまさきひさたか : たんぽぽ舎、劣化ウラン研究会
タグ: , ,

(たんぽぽ舎4/17地震と原発事故情報【TMM:No1425】よりの転載です。―「ちきゅう座」編集部)

   (アジア記者クラブ通信237号に掲載されたものに一部加筆)

[連載5]■下北半島で起きる悪魔の連鎖 ■東海第二の恐怖の連鎖 ■他の原発では

■下北半島で起きる悪魔の連鎖

 下北半島には重大な放射能災害を引き起こす施設が二つある。東北電力東通原発と日本原燃六ヶ所再処理工場だ。

 このうち東通原発では、今回の東北地方太平洋沖地震により被災しており、非常用ディーゼル発電機が全部止まる事態になった。幸い外部電源が生きていたためメルトダウンを回避できたが、これもまた「幸運」と言うほかはない。

 さて、この原発がメルトダウンを起こしても、同一敷地内には原発はまだ建っていない。実は2号機が計画中で、東電の東通原発が2基建設予定だったが、今のところはこの一基だけ。

 だが、この一基でも十分な原子力災害の「悪魔の連鎖」が起きる。

 六ヶ所再処理工場が東通原発の南約25キロにあるからだ。

 この再処理工場自体も津波と地震で大きな損傷を受ける可能性はあるが、それを回避できたとしても、北に位置する原発でメルトダウンが起きれば、大量の放射能の直撃を受ける。従業員は避難するか止まって死を覚悟の回復作業を行うか迫られるのは同じだ。

 そして、撤退すればもはや冷却システムの維持が出来なくなり、電源が生きていても施設の安全確保が出来なくなるだろう。使用済燃料プール中には日本中の原発から集めた燃料が3000トンも貯蔵されている。4号機の使用済燃料プールの燃料体の約10倍、または100万キロワット級原発の30炉心分だ。その他にも今まで再処理して発生した高レベル放射性廃棄物がタンクに240トン溜まっている。これも冷却システムが停止すれば沸騰を始め、爆発する。その結果、やはり北半球が壊滅的打撃を受ける。そのことは既にドイツが計画していたカルカー再処理工場の破局事故解析で明らかになっている。

ドイツはこの対策を確実に行える見通しが立たなかったため、カルカー再処理工場の建設を中止した。日本は愚かにも強行したわけだ。

 ドイツでは大きな地震は無い。カルカーは内陸なので津波の影響も無い。それにもかかわらずドイツは中止した。日本は海に面して、しかも日本海溝という大規模海溝型地震の発生が確実視されている下北半島で、世界最大級の再処理工場を建ててしまった。今は止まっているが、高レベル廃液が貯蔵され、燃料プールには燃料が入ったままだから、危険性は大して変わらないのだ。

■東海第二の恐怖の連鎖

 茨城県東海村にある東海第二原発も、今では一基のみ建っている。しかし周辺を見渡すと、この区域はまさしく「原子力基地」と言うべき場所である。

 南には東海再処理工場、町の中には三菱原子燃料などの加工工場がたくさんある。東海第二からわずか数キロ圏内には厳重に管理する必要のある核燃料施設が密集している。これらを放置して撤退するなどということになれば、大規模災害を防ぐことは難しいだろう。特に東海再処理工場にある高レベル放射性廃棄物の冷却に失敗すればたちまち六カ所再処理工場と同様の災害を引き起こす施設だ。それは東京まで100キロのところにある。

■他の原発では

 原発で原子炉が一基だけなのは東通と東海第二だけだ。他は全て二基以上あるため、過酷事故発生時には「悪魔の連鎖」の恐怖は避けられない。この対策ができない限り、どの原発であっても運転再開など出来るはずが無いことは明らかだ。強行するというのならば、常に発電所内の全原子炉がメルトダウンすることを前提とした過酷事故対策は必須だ。それがあって、ようやく議論の俎上に乗せられるということだ。今の段階ではそもそも「お話にならない」。

 ストレステスト二次評価では、まずこの点を解明しなければならない。高線量環境の下で従業員が撤退を余儀なくされ、制御不能となって放棄された原発が、どこまで人がコントロールしなくても過酷事故に至らずとどまれるのか。プールにあるだけの水が使用済燃料を冷却し続けられるのは何日間か。再処理工場のプールの水はどの程度持つのか。高レベル廃液が停電状態で何日冷却可能か。そして何時爆発するのか。

 もちろん既に「計算」されているが、これは通常の状態に冷却水があることを前提としている。問題は、4号機の例のように通常の倍の燃料が入った状態で、冷却水の補給が止まるようなケース、つまり「ワーストケース」をどれだけ見るかだ。

 例えば亀裂が入って水漏れを起こすこともあり得るし、水を循環させる配管が破断するケースもある。これらは今までの「過酷事故」シナリオには存在していない。

 ストレステストの二次評価とは、こういうことを見るためにあったはずだ。

 念のために言えば、ストレステストとは「運転再開の是非」を認めるかどうかと言った「試験」ではない。どこまで事態が進行するかを冷静に見極めるためのものだ。一次評価で「想定される地震の1.8倍までは耐えられる」などという「評価」は、本来のストレステストとは無関係だし、それに何の意味も無い。二次評価で行われるはずの「次々に起きる悪魔の連鎖に対して、どこまで対処することが可能か」を見るのが本来の目的だった。運転して良いかどうかは、悪魔の連鎖により重大な影響を受ける範囲の人々が判断する事項である。間違っても首相以下何人かで「政治判断」して良いことなどではない。「日本全国が地元」とした枝野経産大臣の発言は正しい。ところがその舌の根も乾かぬうちに枝野経産大臣を含めて4閣僚で勝手に決めようとしているのだから、言っていることとやっていることが全く逆では無いか。

 ここまで来てもまだ、原発を、再処理工場を、動かしても良いとするならば、それは一体どんな理屈があってのことなのか。私には全く理解が出来ない。

〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 http://www.chikyuza.net/
〔eye1915:120419〕