韓国通信NO764
銀行で労働組合の活動をするとは夢にも思っていなかった。
入社した銀行の組合は分裂していた。ユニオン・ショップで自動的に加入した組合は明らかに会社のための多数組合だった。転職も考えたが将来に夢を託して少数第一組合へ加入、少し辛い選択だった。55歳で退職するまで仕事と組合活動に打ち込んだ。出世をしなかったかわりに多くの素晴らしい友人に恵まれた。
退職後、それまで大きな比重を占めていた組合活動は胡散霧消した。その後の三つの職場は組合活動と無縁だったが、労働運動については関心を持ち続けてきた。
わが国の労働運動が大きく変化したのは90年代後半からだ。驚天動地の首相のメーデー参加。政府と財界の後押しで賃上げが行われる異常事態。4割近い非正規雇用労働……。労働運動への疑問と失望のなか、今、フジテレビ労組が脚光を浴びている。フジテレビで起きた、タレントとの不祥事件が発端となった。
存在感を示した労働組合
迂闊だったが、フジテレビに労働組合があるとは知らなかった。何千人もいる社員のうち、たった80人という組合の人数が物語るように、組合活動はさぞかし苦労が多かったはずだ。労働条件の改善、放送の表現の自由、健全な民主主義の発展を掲げる民放労連(民間放送労働組合連合会)に加盟する同労組が存在感を示して、一躍500名を超す組合となった。
まぎれもなく日本の労働組合史上特筆すべき出来事である。余談だが、私がいた銀行は解雇という脅しをかけて組合加入を阻止しようとした。フジテレビの経営者にとっては腰を抜かすほどの衝撃だったはずだ。
組合は会社の責任、社長、会長を歴任した実力者の日枝久相談役の記者会見への出席を求め経営の刷新を求めた。1月27日から28日未明にかけて開かれた記者会見では、組合の主張に経営者は真摯に対応すると約束せざるを得なかった。
「経営刷新」という名の経営者退陣要求は、政府と財界の庇護にある労働組合では到底考えられないことだ。労働組合が社員の希望の星となった。会見席上に居並ぶ役員たちは二名の役員退陣と「おわび」の連発で火消しを図ったが、このまま視聴者とスポンサーから見放されれば倒産の可能性も否定できない。
民主主義の危機が叫ばれ、なかでも表現の自由と直接かかわる放送への国民の期待が高まるなか、人員削減による休暇の取得、時間外手当など放送現場の不満も多いはずだ。娯楽に特化したテレビ局の政権への過度な忖度まで指摘されるフジテレビが、経営刷新とともに今後どう変わるか注目したい。
困ったときに頼りにされてこそ真の労働組合。少数でも孤塁を守り、期待されて多数組合となって経営の民主化に乗り出したフジテレビ労組から学ぶことは多い。金融再編成の藻屑と消えた銀行のかつての少数組合員、テレビの一視聴者の独り言である。
初出:「リベラル21」2025.01.03より許可を得て転載
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〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 https://chikyuza.net/
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