労働者協同組合法が施行へ 制定運動開始から40年余にして実現

 労働者協同組合法が10月1日から施行される。労働者自身が出資、経営参加し、働く事業体を協同組合の一形態として認めようという法律だ。日本の歴史に初めて登場する新しい労働形態、新しい協同組合の形態で、まさに日本社会にとって画期的な出来事である。労働者の間で1970年代に芽生えた、働く者の主体性の確立を目指す運動が、40余年の歳月を経てようやく実現する。
 

労働者自身が出資、運営し、働く事業体
 労働者協同組合法の第1条には、こう書かれている。
 「この法律は、各人が生活との調和を保ちつつその意欲及び能力に応じて就労する機会が必ずしも十分に確保されていない現状等を踏まえ、組合員が出資し、それぞれの意見を反映して組合の事業が行われ、及び組合員自らが事業に従事することを基本原理とする組織に関し、設立、管理その他必要な事項を定めること等により、多様な就労の機会を創出することを促進するとともに、当該組織を通じて地域における多様な需要に応じた事業が行われることを促進し、もって持続可能で活力ある地域社会の実現に資することを目的とする」

 この条文のキーポイントは、労働者協同組合を「組合員が出資し、それぞれの意見を反映して組合の事業が行われ、及び組合員自らが事業に従事することを基本原理とする組織」としている点だろう。ここに、この新しい協同組合の性格が端的に規定されている、と言ってよい。

きっかけは政府による失対事業打ち切り
 こういった性格をもつ協同組合をつくろうという運動の誕生は1970年代に遡る。
 きっかけは、71年に政府が、それまで政府の直轄事業で行ってきた失業対策事業への新規就労を禁止したことだった。いわば、失対事業の事実上の打ち切りだった。
 このため、失対事業からあぶれた失業者を前にして、失対労働者の全国組織であった全日本自由労働組合(全日自労)は、自治体の事業を請け負うための「中高年・雇用福祉事業団」を自らつくり、失業者を吸収するという方式を編み出した。職を失った失対労働者が自ら雇用の確保に乗り出したわけである。自治体の事業を請け負うばかりでなく、自ら事業を創出することにも乗り出した。

 こうした事業団が全国各地につくられ、1979年には「中高年・雇用福祉事業団全国協議会」が結成される。86年には「中高年・雇用福祉事業団(労働者協同組合)全国連合会」に改称する。この名称変えからも分かるように、事業団は自らを協同組合と規定したのだった。協同組合は、株式会社のような営利企業ではなく、非営利団体である。そして、組合員は「1人1票」、つまり平等だ。
 92年には世界の協同組合組織である国際協同組合同盟(ICA)への加盟を認められ、それを受けて、中高年・雇用福祉事業団(労働者協同組合)全国連合会は93年、「日本労働者協同組合(ワーカーズコープ)連合会」と改称する。

 ところが、労協関係者の悩みは、労働者協同組合に関する法律がないことだった。だから、組合を設立しても人格のない社団、すなわち任意団体に留まざるを得ない。これでは、事業を興しても社会的な信用を得られない。官公庁との契約では不利な立場におかれるし、「協同組合」と名乗っても任意団体では軽減税率の対象から外される。

 このため、1980年代半ばから、日本労協連やワーカーズコレクティブ関係者によって、労働者協同組合法制化運動が続けられてきた。運動側の働きかけによって、国会内で「協同組合振興研究議員連盟」が発足、2020年春の通常国会に超党派の議員立法として労働者協同組合法案が提出され、臨時国会中の12月4日に参院本会議で可決され、成立した。

根底に“賃金奴隷”から解放されたいという宿願
 私は1979年から、この運動の取材を続けてきたが、その過程で、「この運動は、労働者による自己解放のための闘いではないか」と思うようになった。
 産業革命以来の人類の歴史は大まかに言って、2つの階級による闘いの歴史だ。2つの階級とは資本家階級と労働者階級である。産業の発展を支える企業を所有し、運営するのは資本家階級であり、その資本家階級に雇われて働くのが労働者階級で、別な言い方をするならば、企業の主人公は資本家であり、その主人公に使役させられるのが労働者という構図だ。かつては「労働者は“賃金奴隷”」という言い方もあった。

 労働者階級はそんな地位に甘んじてきたわけではない。“賃金奴隷”から自己を解放して企業の、ひいては国家の主人公になろうと、団結してさまざまな闘いを展開してきた。その代表的なものが社会主義・共産主義運動だった。つまり、革命を起こし労働者を主人公とする国家を樹立することで自らを解放しようとしたのだった。

 その一方で、それとは別のやり方で企業や地域の主人公になろうという運動に向かった労働者たちが海の向こうにいた。労働者自身が出資、経営し、働くという協同組合をつくり、運営するという行き方を通じて自分たちの宿願を果たそうというわけだ。自らの手による自己解放と、労働者を主体とする自治の確立。こうした運動の世界的に著名なものとしては、1844年に英国・ロッチデールで創設された「ロッチデール公正先駆者組合」、1956年にスペイン北部のモンドラゴンで産声をあげた工業協同組合がある。この2つは、世界の協同組合関係者にとって聖地となった。
 それらに比べれば、日本での運動のスタートはかなり後発だが、労働者協同組合法の施行によっていよいよ待望の第一歩を踏み出したと言える。 

 労協法制化の過程で問題になったのは、組合員に労働基準法、最低賃金法、労働組合法などの労働関連法が適用されるかどうかの問題だったが、結局、適用されることになった。

ただ今、組合員は1万5000、事業高は350億円
 日本労協連によると、同労協連加盟団体は28、それらの団体の2020年度総事業高は350億円、就労者は15,567人。他に高齢者生活協同組合の組合員が46,381人。事業内容は介護・福祉関連、子育て関連、建物管理、公共施設運営、若者・困窮支援、環境緑化関連などだという。

 なお、労協法施行を前にして、日本労協連は9月30日午後3時から、東京・池袋の本部に労協法制定に取り組んだ組合員や国会議員を招いて「労働者協同組合法 施行記念イベント(前日祭)」を開催する。

初出 :「リベラル21」より許可を得て転載http://lib21.blog96.fc2.com/

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