豪華なシャンデリアが輝く大広間を埋めた約200人の参会者が、「おめでとう」と叫んで一斉に祝杯を挙げた。6月4日夜、東京都豊島区・大塚駅前のホテルベルクラシック東京の4階の大広間。これまで任意団体として活動してきた日本労働者協同組合連合会(日本労協連)がこの日、労働者協同組合法に基づく法人に移行したことを祝うレセプションだった。こうした光景を目にしながら、私は44年前に静岡県熱海市の旅館で開かれた、こぢんまりした働く人々の集まりに思いを馳せていた。
1979年9月。熱海の旅館の薄暗い一室に、全国各地から労働者が集まっていた。約40人はいたろうか。これには、こんな背景があった。
1971年、政府は、それまで政府の直轄事業で行ってきた失業対策事業への新規就労を禁じた。いわば、失対事業の事実上の打ち切りであった。このため、失対事業からあぶれた失業者を前にして、失対労働者の全国組織であった全日本自由労働組合(全日自労)は、自治体の事業を請け負うための「中高年・雇用福祉事業団」を自らつくり、失業者を吸収するという方式を編み出した。職を失った失対労働者が、自ら雇用の確保に乗り出したのだった。自治体の事業を請け負うばかりでなく、自ら事業を創出することにも乗り出した。
こうした事業団をさらに全国に広げようと、各地の中高年・雇用福祉事業団で働く人々が熱海の旅館に集結したわけである。集まったのは36の事業団の代表。彼らは「中高年・、雇用福祉事業団全国協議会」を結成した。
私は当時、全国紙の記者で、労働問題に関心をもっていた。だから、取材目的で熱海の旅館を訪ねた。そして、労働者の議論を聴いていて、労働界に新しい芽が生じつつあるな、と感じた。なぜなら、彼らが創りだした「事業団」は、労働者自身が出資し、経営に参加し、自ら働くという三位一体の企業だったからだ。そんな企業形態・労働形態は、これまで日本にはなかった。
産業革命以来の人類の歴史は大まかに言って、2つの階級による闘いの歴史だ。2つの階級とは、資本家階級と労働者階級だ。産業の発展を支える企業を所有し、運営するのは資本家階級であり、その資本家階級に雇われて働くのが労働者階級で、別な言い方をするならば、企業の主人公は資本家であり、その主人公に使役させられるのが労働者という構図である。かつては「労働者は“賃金奴隷”」という言い方もあった。
それだけに、私は彼らの議論を聴きながら、こう思ったのである。「事業団の活動は、言うならば、労働者が自らを“賃金奴隷”から解放する運動ではないか」と。
中高年・雇用福祉事業団全国協議会は1993年に「日本労働者協同組合連合会」と改称した。事業団を協同組合の一種と位置付けたのである。これは、労働者自身が出資し、経営し、自らも働くという企業形態・労働形態が、すでにイタリアやスペインでは「労働者協同組合」として存在し、成果をあげていることを知ったからだった。
しかし、日本には労働者協同組合は存在しなかった。なぜなら、日本の協同組合制度で法的に認められていたのは゛消費生活協同組合や、農業協同組合、漁業協同組合、労働者共済生活協同組合などだったからだ。したがって、労働者協同組合だと名乗っても、協同組合とは認められず、任意団体に甘んずるしかなかった。これでは事業体として社会的な信用を得られない。
そこで、日本労協連は他団体の協力を得て、労働者協同組合を協同組合として認めてほしいと法制化運動を始めた。日本労協連が世間の人に自分たちの主張を分かってもらうために発行した刊行物はおびただしい量にのぼり、各地で開いた大会・集会・シンポジウムの類いは数え切れないほどだ。厚生省、政党、政治家への働きかけも同様だった。
その結果、ついに労働者協同組合を協同組合と認める「労働者協同組合法」が、2020年12月に国会で成立。超党派の議員立法で全会一致だった。施行されたのは22年10月1日。そして、日本労協連が解散し、労協法に基づく新しい全国組織「日本労働者協同組合連合会」の創立総会を開いたのが、去る6月24日だったのだ。熱海の旅館で、各地の事業団で働く労働者が全国組織を立ち上げてから、実に44年がたっていた。
ただ今、就業者は1万5000、事業高は372億円
新日本労協連によると、同労協連加盟団体は35、事業高は年に372億円、就労者は15,567人。事業内容は子育て関連、介護・福祉関連、建物管理、公共施設運営など。同労協連幹部は語る。「協同労働が法的に認められたことで、労働者協同組合はこれから地域で威力を発揮すると思う。とくに雇用の確保とコミュニティーの活性化といった面でめざましい成果をあげるのではないか」
新労協連の創立記念レセプションでは、後藤茂之・経済再生相(前厚生労働相)、日本生活協同組合連合会会長・土屋敏夫、桝屋敬悟・元公明党衆院議員の各氏らが祝辞を述べた。
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