岩田昌征「チトー主義は進歩か退歩か?―労働者自主管理をめぐって」を読みました。歴史家ミロラド・エクメチチ氏が述べていることとして、岩田氏は次の紹介をしています。ムッソリーニ・ファシスト政権は末期に労働者自主管理を採用し、バルカン半島南部のイタリア支配地域にも適用していたが、同地域を解放したチトーは戦後にその管理体制を受け継いだということです。ファシストが採用した体制を引き継ぐのは歴史の退歩であるというのがエクメチチの主張であるというわけです。
19世紀社会思想をかじっている私にすれば、労働者自主管理思想の先駆はたとえばアナキストのプルードンですが、これは退歩でしょうか、邪道でしょうか。エクメチチ氏は、ファシズムが歴史を動かした事実を知らないわけではありません。人間的に、道徳的に善なる行いは進歩で、悪なる行いは退歩という図式を前提にしていては、社会を見とおすことができません。進歩史観は終焉を迎えて久しいのです。
19世紀以来マルクス主義理論は、労働者大衆は資本に搾取され窮乏化すると階級意識に目覚めて民主主義や社会主義の革命に決起すると予測していましたが、現実には、彼らの多くが窮乏化の先にファシズムないしナチズムを選んだのです。それはなぜでしょうか。その問題を思想史的に検討することが私の研究課題「歴史知と多様化史観」です。宣伝しますが、以下の拙著をお読み頂ければ幸いです。
『歴史知と学問論』(社会評論社、2007年)、とくに、第2章「歴史知と多様化史観」、第6章「ファシズム思想に関する歴史知的討究」、第7章「村瀬興雄教授のナチズム研究によせて」。