勝利ではなく―カオス、これが帝国の眼目だ

ウクライナに続くイエメン政変とほぼ同時にリビアからの大 量の避難民が地中海で非業の死を遂げるニュースが続いた。しかし、それがカダフィ政権を壊滅させリビアを混沌の淵に追い落とした米 NATOの軍事侵攻の失敗であり責任であることを問う主流メディアはない。米当局もEU当局も、「人 道的」軍事介入に対して反省の弁を公表した高官はいない。世銀に 勤めたエコノミストで地政学アナリストのペーター・ケーニッヒが、米欧帝国の眼目は国や地域をグチャグチャ(カオス)にすることにこそある、と怒りをぶつけている。拙訳ですが紹介させていただきます。

 

いうまでもなくこのカオス戦略の起源は、イスラエル「建 国」によるパレスチナ民族のカオス化にはじまる。そしてエジプト、ヨルダン、レバノン、イラク、シリアとカオス化と隷属化の戦略は拡大さ れ、永続する戦争の日常化という今日の事態になった。パレスチナ人は、各地の難民キャンプで、ガザと西岸の牢獄で、67年も経つというのに分断され零落したままだ。米欧帝国とイスラエルの維持のために謀られる宣戦布告なきこの永続する戦争に日本も参加するという。コミュニティもファミリーも根こそぎ破壊するネオリベ実験国の優等生としての 日本国が、調子に乗ってつぎはカオス化の実験国にならないともかぎらないことを恐れる。大きなショックドクトリンの「うま味」が待っているからだ。(2015年5月14日記)

 

なお、文中( )内はすべて訳者の挿入、原著者の( )内 挿入はすべて[ ]に表記 した。

 

Chaos – not Victory – is Empire’s Name of the Game

勝利ではなくカオス、これが帝国の眼目だ

 

Url of this article:

http://www.informationclearinghouse.info/article41771.htm

 

By Peter Koenig

ペーター・ケーニッヒ(松元保昭訳)

2015年5月5日

インフォメーション・クリアリング・ハウス(ICH)誌
2015年5月6日

グローバル・リサーチ誌

 

「一度欧米に「解放された」国が再び深くより深くカオスの中に崩れ落ちている。」紛争に落ち込んだ国家のどれ もがそうであった。そこではワシントンおよびその西側同盟と中東の手先たちが戦争―永遠のカオス、悲惨、死―そして屈従を植え付けている。

これこそがまさにポイントだ。ワシントン/NATOの戦略は、戦争や紛争に「勝利する」ことではなく、継続し て―終わりなきカオスをつくり出すことにある。その方法は、①人民、つまり国民とその資源を支配すること。②軍隊―兵士と装備―のための 継続的な必要性を西側に保証すること。米国GDPの50%以上を軍産複合体に関連する産業やサービス部門に依存していることを思い出してほしい。③結局、混沌または カオスにある国は、破産しておりカネが必要だ。―悪名高いIMF,世界銀行、またそれらに結びついた邪悪な開発援助機構と高利貸しからの 「緊縮」マネーという耐え難い条件が付き纏うカネ―とくに彼らの民衆など配慮しない腐敗した指導者によって等しくカネの奴隷にされる。

それが眼目だ―イエメンで、ウクライナで、シリアで、イラクで、スーダンで、中央アフリカで、リビアで…ほか のどこでもいい。誰が誰と戦っているかは重要ではない。ISIS/ISIL/IS/DAISH/DAESH/Al-Qaeda(シリアのイスラム国/レ バントのイスラム国/イスラム国/と もに「イスラム国」のアラビア語頭文字表記ダーイシュ/アル=カーイダ)、そしてリストに追加したい報酬目当ての殺し屋組織が ほかのどんな名前であろうとそれらはまさに問題を混乱させるための符牒である。あるいはBlackwater(ブラックウォーター:汚水またはマラリア)、Xe(クセノフォビア:外国人嫌悪)、Academi(ア カデミー)などを加えた方がいいかもしれないが、ほかに連ねられた名前のすべては容易に判別できないように選ばれたものばかりだ。彼らは シオニスト-アングロ-サクソン帝国の売春婦、最低レベルの売春婦だ。ついで、サウジア ラビア、カタール、バーレーン、他の湾岸諸国のようなエリート売春婦が現われ、当然、英国、フランスが加わる。

オランド大統領はラファール戦闘機24機 の売却でカタールと数十億ユーロの契約にサインしたばかりだ。彼はサウジの新王サルマーンとの会談のため、ラファール機のさらなる売却の ため、現在リヤドに向かっている。―それはいい商売でありでっちあげた敵たちの皆殺しに役立つ。さらに5月5日の湾岸協力会議[GCC]サミットにも参列する。会議の議論の話題は、イエメンを含む地域の「危機」である。その「危機」とは、ワシン トン[またはシオニストの主人]に 代って西側に仕組まれたもので、単により正当な政府を求めているだけの「反逆者たち」に責めを負わせた。

西側同盟の欧米がこのあまりに病的な用語(’crises’ =危 機であるとか‘rebels’=反乱軍、謀反人、抵抗者であるとか)を考案したので、ウィルスのようにわれわれの頭に染み込んで―何を置き去りにしたのか―その言葉の本当の意味が何であるかさえもう分からない。われわれはそれらを繰り返しそれらの言葉を信じる。結局、来る日も 来る日もMSM(主流メディア)がわれわれの腸(はらわた)の中にそれらの言葉を徹底的に叩き込む。生存のため自らの自由のために抑圧的 な体制に抵抗して闘う人々は、「テロリスト」であり「反逆者」というわけだ。―アフリカからの難民、つまりワシントンが負わせた紛争に襲 われた国々からの難民たちが、「よりましな生活」のため地中海を渡ろうとしてすでに4000人以上が非業の死を遂げた。―彼らは都合よく勝手に「移民」と名付けられ多くの場合「不法」という語が加えられる。それによって欧米の良心は罪責から逃れて綺麗ごとで済まされる。移民とは貧しい乞食だ。不法移民は投獄されるべきだ。西側欧米に仕 組まれた政情不安とカオスには、彼らは「移民」の母国で何の関わりも持っていないのだ。恥を知れ、ブラッセル!

カオスに戻ろう―オランド氏は知っている。彼の戦闘機がその主人に仕えて、地域のさらなる荒廃、さらなる死 者、さらなる惨事、さらなる悲惨、さらなる奴隷状態を広げるために利用され―地中海で溺れ死ぬもっと多くの難民―さらに永遠に続くカオス を広げるために利用されるということを。生存の淵に立つ人々―彼らの子どもと家族のため薄皮一枚の生存のためにまさに闘わねばならないと いうのに―彼らの国のため資源のため自由のためにもはや闘うことさえ出来ない人々を生み出すということを。オランド氏はこうしたことを実 によく知っている。これが帝国というものだ。

教えてほしい―兵器、戦闘機、別のタイプの殺人マシーン、これらの兵器が人々の殺害のため国々の破壊のために 現に使われていることを完全によく知っていて国々に売り付けるのは誰なのか―こうした人物は大量殺害者ではないのか?もっとも悪質な戦争 犯罪者ではないのか?

オランド氏は、現に戦争犯罪者であることに加えて、彼は完璧な偽善者である。彼は、結局大きな戦利品のわずか な欠片がどう考えても自分の皿にも落ちるだろう―そして乳と蜜の流れるすがすがしい海でその主人と一緒に泳いでいるかもしれない、などと 考えているのだ。ヴィクトル・ユーゴー、スタンダール、バルザック、デュマのような人々を生み出した彼の偉大な母国の経済が―帝国の他の 手先たちに殺人マシーンを売ることで―保証されるとでも考えているのか? 83%の有権者が彼を軽蔑することなど気にもかけないのか?

 

騒乱、カオス、悲惨を広げること―それがワシントンとその臣下たちの最も得意とするところだ。彼らは戦争に 「勝つ」ことを望んではいない。彼らは永遠のカオス、悲惨、容易に服従する人々を望んでいるのだ。―彼らはそれを完全なスペクトル支配と呼ぶ。

 

【訳注:完全なスペクトル支配full spectrum dominance:ウィリアム・エングダールが提唱した 「新世界秩序における全体主義的民主主義―完全なスペクトル支配」2009 に おける造語で「全方位支配」の意か。】

http://hisheavenlyarmies.com/documents/engdahl-full-spectrum-dominance.pdf

 

米軍とそのビッグブラザー[またはシスター]NATOがどこにもいるはずがない以上、またどこでも見られたくない以上、彼らは殺し屋を雇う。ワシントンが 考案し創り上げ、終わりのないカネの流れで資金提供し、イスラム国、ダーイシュ、アル=カーイダ―主人が満足するようにレパートリーは増え続け―カオスとニセ旗をもたらすため、主人のために戦い、 主人のために殺し―ついには彼ら主人―NATOとペンタゴンのブルドーザー―がやってきて、そもそも主人たちが発生させたそれら傭兵たち を「殲滅する」と信じさせるだろう。しかし主流メディアは真実を伝えようとはしない。

彼らは信じさせる。…世俗的人道主義者のシーア派左派系フーシィー集団とスンニー派がイエメンの権力を巡って 互いに争い合っている、と。…サウジとそのGCC(湾岸協力会議)の取り巻き連中はテロリストの一群からまさにイエメンを解放しているの だ、と。…フーシィー派は[強力なシーア派国家]イ ランに支援されている―先ごろ国連当局によって激しく拒絶された―だからフーシィー派は鎮圧されるべきだ、と…。と同時に、イランにさら に別の責めを負わせようというワシントンにとってはそれ以上の理由がある。いったんフーシィー派が支配され十分な数が皆殺しにされたな ら、前大統領サーレハあるいは彼の後継者ハーディーのように傀儡大統領がちゃんと据え付けられるだろう。ワシントンが意のままに操り続け るように―戦略的港湾アデンに対する無制限のアクセス権を維持するためその国の住民を制圧すること―米石油メジャーガルフのためにも。

 

【訳注:フーシィー派Houtis:フーシィー派勢力は、昨年後半からアル=カーイダとの激しい闘争を経てイエメン北部からサナアに向けて実効支配を拡大し石油会社 や国家諸機関を掌握してきた。今年1月アル=カー イダに資金流用し腐敗した親米政権のハーディー大統領はついに政権を投げ出し、フーシィー派が憲法宣言によって新体制樹立に向かい、同時 に南部アデンの掌握に向かった。するとサウジをはじめアラブ連盟あるいは湾岸協力会議(GCC) 加盟諸国が一斉に「不当なクーデター」と非難し、いったん政権を投げ出しサウジに逃亡しているハーディー大統領の「正統性」を持ち出し て、「正当な政権からの要請」として、「権力の空白に対処」「地域の安定」「対テロ掃討作戦に支障の恐れ」などの理由で軍事介入した。こ のサウジおよび湾岸諸国主導のイエメン空爆「断固たる嵐」作戦には、ヨルダン、スーダン、モロッコ、エジプト、パキスタンも参加して「サ ウジ版有志連合」を形成した。4月には、国連安保理がフーシィー派への(イランの 関与を想定して)武器供与の禁止、兵力撤収や和解に向けた交渉を求める決議を採択した。しかしもっと以前から、米国が国際石油資本のため の戦略的港湾アデンの利用、膨大な石油想定埋蔵量などで、アル=カーイダを利用しながらイエメンに対する軍事介入を継続し地政学的に支配してきた事実を忘れてはならない。この3か 月間の軍事介入で、すでに大多数のイエメン人は生活の糧を失い、基本的な食料品すら確保することができずにいるという。「軍事介入⇒政権 転覆⇒人道危機⇒さらなる軍事介入⇒そしてカオス」というおなじみの構図だ。米CNNはもちろん、BBC,EUROニュースなど欧米各国 の主流メディアは、上記の「信じさせる」構図で一斉にフーシィー派を「武装テロ組織」と決めつけ「イエメンの人道危機」を描き出したこと は記憶に新しい。】

 

ウクライナも同じことだ。ISIS / ISIL/ Daesh, AlQaed(シ リアのイスラム国/レバントのイスラム国/ダー イシュ/アル=カーイダ)、あるいはそんな名前らしい何かがウクライナにもいる のか?そう確かにいる―CIAの指揮下で約6000人の米兵、もちろん訓練士たちがいる。彼らはウクライナの兄弟たちをドンバスでいかに最良最速の方法で殺すか キエフ部隊を訓練する。彼らは、永続するカオスをいかにつくり出すかをキエフ部隊に訓練する。もし兵士の何人かが彼らの兄弟を殺す訓練を 拒否するなら、キエフのナチ政権は彼らを裏切り者として撃つだろう。至近距離で。いとも簡単に。もはや誰も抵抗しないように。

とくに、米軍事「アドヴァイザー」とCIAは、彼らが雇った殺し屋、キエフのナチス、イスラム国/ダーイシュ/ア ル=カーイダの助力で、プーチンを戦争に駆り立てようとしている―ことによると第三次世界大戦。そう、100年も経たないうちに三度目の、潜在的にはヨーロッパを、また世界をも荒廃させうる―戦争。現在のところ、主に プーチン氏の非-対決という賢明な戦略のお蔭で世界はこの大災厄から免れている。

そいうことで、ウクライナの中にイスラム国/ダー イシュ/アル=カーイダがいるかどうかは問題ではない。彼らは帝国が彼らにかく 在れかしと命ずるどんなところにも現われる。それが彼らが報酬をもらっているということだ。それは売春婦がすることだ。とりわけ売春婦、 いい報酬の売春婦がつくり出された。イデオロギーは西側メディアに都合よく利用されるイチジクの葉にすぎない。―だからわれわれみんな が、世界のイスラム教徒はどこかの誰かさんよりもっと悪い悪魔だと信じているかもしれないのだ。彼らは、われわれの自由、われわれの解 放、われわれのデモクラシー、そしてとりわけすべてを自由市場に投げ込むネオリベラルなわれわれの価値観にとって、彼らは深刻で差し迫った危険分子なのだから、西側は彼らイスラム教徒と戦わねばならない。

 

それが究極の目標であるからして、[毒 された]遺伝子組み換え食品で、ドローン(無人機)で、爆弾で、人工的につくられた飢饉で、砲弾の餌食となり、大量に 殺され、市場商品としての人間は無くても済む変形された存在となる。そのため最後に生き残った者たちは、地球のあらゆる地域とその一切の 資源を支配するわずかなエリートに仕えその例外的な人々のライフスタイルを維持する農奴のような存在として―そう、例外的な種族、豪壮で 豪奢な生活をする一群の例外的な人々のために変形され落ちぶれることになるのだ。

現在まだ生きているもっとも残虐な戦争犯罪者の一人であり―ノーベル賞の月桂冠に輝いた―ヘンリー・キッシン ジャーがほぼ50年前に語った悪名高い言葉、彼の未来図を思い起こしてみよう。「食料供給を支配するものが人々を支配する。エ ネルギーを支配するものが全大陸を支配できる。カネを支配するものが世界を支配することができる。」

これらの言葉は、日々本当のように思わせている。だが、たんにわれわれがそれを許す限りにすぎない。われわ れ、人民が、地球上に住むわれわれ99,999%が、それを許す限りにおいてだ。
(以上、翻訳終わり)

〈記事出典コード〉サイトちきゅう座http://www.chikyuza.net/
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