半年以上遅れて先ごろ開かれた中國共産党の第20期3中全会は「一歩進んだ改革」を打ち出したが、対象領域の広さ、項目の多さに比べて、具体性に乏しく、直後にあたかもその第一弾としての内需拡大策のように発表された22日の中国人民銀行(中央銀行)の利下げも0.1%という小幅にとどまり、「泰山鳴動のみ」の感を広めている。
追っかけるように25日、中国共産党の中央規律検査委員会・国家監察委員会が、今年前半にこの両委員会が立件した腐敗件数について、総数40.5万件、処分者総数は33.2万人に上り、その内、地方各省の主要ポスト(省級)および中央官庁の閣僚(部級)が25人などと、比較的珍しい数字を提供してくれたので、私が読んだ限りでの腐敗の一面を報告したい。
腐敗が盛んとは現代中国の常識だが、どのくらい腐敗が「盛ん」かの「腐敗指数」が分からないのでそれを計算してみる。共産党員は全体で約9600万人とされるから、被処分者は党員全体の0.34%である。
まあ大したことはない数字に見える。そうも言えるが、同時に党員が300人いれば半年に1人は腐敗で摘発される勘定だから、300人の部署では10年間に20人が摘発される。そう少ないとも言えない。
党員全体ではこの程度の数としても、偉いさんに限ってみると、様子ががらりと変わる。地方の「省」や「自治区」と言った一級行政区は全部で30、中央官庁は数え方が難しいが約50と見れば、合わせてトップは約80人である。その内25人が摘発されたとなると30%以上が処分されたことになる。しかし、原文は「省部級」だから次席とか次官のクラスまで対象となるので、比率は半分以下に下がる。
トップ以下の幹部の立件数も出ている。役所の局長級幹部は2127人、地方の県の部長級は1.7万人、県の下の郷の科長級は5.6万人、末端の村の党組織のトップ(書記・村委主任)4.7万人などとなっている。
さてそこで、こうして立件された幹部はどんな処分を受けるのか、そこが問題だが、昨日の発表ではまず党内で四段階(原文は「四種形態」)に分かれた「批判・教育と処分」を受けることになる。
まず第一種形態は、本人と規律検査の担当者への自己批判。話し合いの中で批判と教育を行い、「顔を真っ赤にして、汗びっしょり」状態にまでするのが通常の形という。早く目覚めさせて、違反行為の発生、拡大を防ぐ。
第二種形態は、党規約による軽い処分と人事異動で、規律違反処理の大多数がこれである。
第三種形態は、党規約による重い処分と職務の変更などが課され、対象者は比較的少数である。処分には党内の職務の取り消し、党内に留めての観察、あるいは党からの除名など。重大な規律違反があった指導幹部の場合には重大な人事異動を行う。
第四種形態は、ごく少数であるが、重大な規律違反と刑事責任を追及すべき容疑がある場合である。法律違反を犯していれば、刑事責任を追及する場合も少数ながら存在する。
今年上半期においては、この「四種形態」に批判と教育そして処分を受けたものはのべ87.9万人であった。その内、第一種形態はのべ54.2万人で総数の61.6%、第二種がのべ27.1万人で30.8%、第三種がのべ3.1万人で3.5%、そして第4種がのべ3.6万人で、4.1%であった。同時に贈収賄の捜査によると、贈賄で立件された人数は1.2万人、送検されたのはたった1941人であった。
中国の発表でこのような処分の中身まで公けにされるのは珍しい。これで分かったことは腐敗として摘発されても、圧倒的多数はお叱りと軽い処分で放免され、それが総数の90%を越える。そして人事異動や除名といった「罰」を受ける第三種と法的責任を追及される第4種はいずれも3%台ではなはだ少数であることである。
また贈賄で立件された人数は収賄側の人数に比べれば不釣り合いに少ない。このあたりに政治的配慮が感じられるが事実はどうなのか、もうすこし説明が欲しいところである。
これまで腐敗追及でやり玉に挙げられてきたのは、大物官僚で莫大な額を懐に入れていた場合が多く、このような下級官僚の日常的な腐敗の数字が明らかにされたのは珍しい。今後ともこういう方針が継続されるかどうか、注目していきたい。これも「改革」の一環なら、歓迎すべき改革である。腐敗は腐敗する人間が悪いのは当然であるが、これほどまでにそれがはびこるのはまさに体制そのものに原因があるのだから。(240725)
初出:「リベラル21」2024.07.26より許可を得て転載
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